クロスドツインズ

💙藍棺織海⚰️アイカンオリミ🫒

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二公演目――弟たちのセレナーデ

一曲目:ウィリアム・セイラー

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「アーティー大丈夫? 疲れてない?」

「……大丈夫。間に合ってよかった」

 そう言いながら躓いたアーティーを支えて、キャンディ屋の横にあった階段に座らせる。ネオンサインの位置を調整してたおばさんは無表情でオレたちをチラッと見たけど、特に何も言わずに店へ戻って電気を点けた。

「結構歩いたね。二時間ぐらい? 寮を出たときはまだ明るかったのに」

「ぼくに合わせてゆっくり歩いてもらったから……ほんとは半分ぐらいの時間で来れる、はず」

「だとしても結構遠いよ? こんなとこまで毎月来てたの?」

 ロウアーマンハッタンも大概ビルだらけだけど、此処はタイムズスクエアに近いだけあってどこもかしこもギラギラしてる。うちに来てよって着飾りすぎて、逆に埋もれてるとこばかり。演劇やミュージカル用の劇場に映画館――あっ、あのアヒルのカートゥーン新作できたんだ、いいなあ。サイン狂だってさ――まあとにかく、どこからどう見てもショービジネスの街って感じ。この辺りに住んでるんでもない限り、こどもだけで来るような場所じゃない。

「ううん、いつもはもっと近いとこだけど……せっかくビリーが来てくれるんなら、お気に入りのとこがいいかなって」

「アーティーぃぃ~!」

 ほにゃって笑ったアーティーをぎゅううって抱きしめたくなったけど、抑えてちょっと控えめにきゅっと包み込む。海色の優しい目が幕を閉じた。

「それで、どのへんにあるの? そのお気に入りのエンターテイメントホール」

「そこの通りの突き当たり。女の人のおっきい看板あるとこ」

「あーあれ? 青のドレス着た。あの人が歌うの?」

「……多分。でも時々違う人が混ざったりもするから分かんない」

「ふうん。聴いてみてのお楽しみ、か!」

 十字路の向かい側。めかしこんだ紳士淑女が看板の下に吸い込まれてく。通りの時計はもうすぐで短針が八をさすところ。そろそろ開演の時間ってところかな。裏手に忍び込むならそのあと。突き当たりってことは、周り込めさえすれば通行人の目が届かなくなる。問題があるとすれば。

「ねえ、あそこの裏手側ってさ、裏口のドアとかある?」

「うん、あるよ。出演者用」

「やっぱり? じゃあさ、いるよね」

「……警備員? そうだね。でもドアの中だから、開かない限りは見られない、はず。時々寝てるし」

 それならドアの死角にいれば大丈夫かな。公演中は開くこともほぼないだろうし。なあんだ、意外と簡単に聴けちゃうもんなんだな……なんて、余裕ぶった矢先だった。

『乞食野郎は帰りやがれ!!』

 目の前を走る車のクラクションにも負けない大ボリュームの怒声。次の瞬間、宙を舞う男の人。呆然と立ち止まる通行人。その視線の先に、べちゃって効果音がつきそうな姿勢で男の人が落っこちた。当然時を止めたままの群衆を掻き分けて、ホールの横道へノシノシ歩いてく黒くて大きな背中。

「……へっ? 今の、え?」

「あ、あれが警備員のアロさん」

「今のが!?」 

 前言撤回! 俄然心配になってきた。あんな人に投げられたらタダじゃ済まない。それなりにちゃんと食べてそうな大人の男だってあのザマだ。毎日お腹と背中がくっつきそうなオレたちなんかひしゃげるに決まってる。ましてやアーティーなんて。

「そろそろ開演時間だね。行こうか」

「行くの!? そんな、確かに行きたいとは言ったけどそこまで命削らなくても……」

「大丈夫。ビリーには怪我ひとつさせないよ。チャーリーに怒られちゃう」

「いやオレがっていうか!」

 右半身を傾けて、アーティーはよたよたと歩いてく。追いかけるのは容易いけど、その意思は止められそうになかった。

「嬉しいなあ。やっとビリーに紹介できる」

 青いドレスとネオンサイン、響きだすトランペット。心躍らせるはずのそれらが、今のオレには処刑の合図にしか思えなかった。
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