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旅立ち
しおりを挟む某日。
いつもと変わらない朝。隣には君がいて、まだ夢見心地で寝ている。
賑やかな外の音で目覚めた僕は、流れるようにスマホに手を伸ばし、時間を確認する...。
「おはよー。」
眠そうに目をこすりながら居間に来た君は、大きなあくびをしながら言った。
いつも通り朝食を作り、ダラダラと喋る。
すると、君はふとテレビをつけた。
そこには、夕日が水面に反射し、キラキラと輝いている海の景色が映った。きっとどこかの国の観光VTRなのだろう。
「すごい綺麗、私達もいつか行きたいね!」
そう言った君は、テレビに映る海よりも何倍も輝いた目でこちらを見た。
「なら、旅行の計画でもたてようか。」
僕はそう言うと、君はまるで遠足に行く子供の様に満面の笑みを浮かべた。
|
日は経ち、旅行先のとある国に着いた。
普段の君は落ち着きのある性格だが、そんな君とは打って変わって無邪気で、様々なものを指差し、
「次はあっちに行こうよ!」
と、大はしゃぎだった。
僕は見慣れない君を見て、まだ知らない顔を見れたことに嬉しくなった。
その後も、観光地を巡ったり、おいしい料理を食べたり。今までで一番時間の流れが早く感じた。
|
ついに念願の海に着いた。
それは、テレビで見るよりもはるかに輝いて見えた。君は見惚れるかのように海を見ている。
だが、さっきまでの様子とはまた違う君がそこにはあった。
落ち着いている君、はしゃぐ君、子供のような君。
それとはまた別で。なにか儚く、脆く、そして暖かさが伝わってきた。
僕はそんな君を見ていると、海を見にきたことなんてすっかり忘れていた。
潮風に乗って、君のつけている甘い香水の匂いがふわっと香る。
まるで波のように何度も、何度も僕の鼻の奥を刺激した。
「すごい綺麗だね...。」
君がそう言うまで、とても長い時間が経ったかのように感じた。
そう言った君は、僕の手を強く握って、涙目になりながらこちらを見た。
僕は君が泣いている理由が、綺麗すぎて感動している。としか思えなかった。
でも違った。なぜなら君はこう言ったから。
「私たち、ずっと一緒にいれるよね?」
僕はその言葉の本質がわからないまま大きく頷いた。
|
その言葉の意味がわかったのはその何年か後だった。
君は重い病気を患っていることを僕に秘密にしていたのだ。
僕が知っているこの世界から、君は旅立った。
君は今、空からもう一度あの綺麗な海を見ているのだろうか。
それか、僕もまだ知らない世界を君は見ているのか。
僕は心の底から込み上げてくる言葉をずっと大切にしていた。
「ありがとう。」
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