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四章 魔法教師
二十二話
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魔王先生、ふざけてつけたあだ名とかじゃなくて見た目まんまだったとは。魔族とは言いつつももっと人間に近い見た目を想像していたから完全に想定外。というか怖すぎる。もうすぐに逃げ帰ってしまいたい。僕が口を開けずにいると、魔王先生の方から話しかけてきた。
「こんにちは。」
普通にしゃべるんかい。あ、いや、さっきも普通に会話してたか。
「あの、ここじゃなんだし上がってください。」
え、入るの? ここでいいよ。でも断れないしな……僕は彼に促されるままに戸の中に入った。
「じゃあ僕はここで。」
案内をしてくれた男性はそれだけ言うと踵をかえしてもと来た道を帰っていってしまった。え、嘘でしょ。僕一人かよ。今現在の僕の唯一の頼みの綱が失われてしまった。
中はごくごく普通の座敷になっていた。少しも魔王要素がないのがかえって気味が悪い。魔王先生は机の周りを片付けると、向こうからマグカップを二つ運んできた。
「粗茶ですが。」
この見た目でお茶出すのかよ。しかもマグカップが結構可愛いじゃないか。
魔王先生も僕も座って落ち着いた。いや、僕は全く落ち着いてはいないのだけれど。ともかく彼は話を再開した。
「さっきも伺いましたが、今日はどのような用件で? 」
「あ、ああ、そうでしたね。」
用件を忘れるところだった。
「先生はこちらで魔法を教えていると伺いましたが。」
「ええ、そうですが。」
彼は何でもないように言った。魔法を教えるのが珍しくないとでも思っているのか。
「魔族の方が人間に魔法を教えるってかなりの異例ですよね。」
「そうなんですか? 」
あ、やっぱり。そりゃこの見た目だったら魔法だって大したことはないだろうが。
「いやはや、余としては全然普通のことなんですがね。」
余!? 初めて見たぞ、その一人称実際に使ってる人。
「余はここで子供たちのための学校を開いているんですがね。元いた別の世界の学校を参考にして授業をしているのですよ。それで魔法も教えているという具合なのです。」
ん? 元の世界? この人もしかして……
「あなた、異世界からお越しで? 」
魔王先生は驚いていた。表情はあまり変わったようには見えなかったけど、声が上ずっていた。
「はて、あなたは信じてくれるのか? 余が別の世界から来たという話を。」
「ええ、僕も同じですから。」
ほほう、異世界からきたのかこの人。だったら仰々しい見た目も説明がつくな。
「そう言えば自己紹介がまだでしたな。余の名前はバーザム・クライ・カタストロフィ。別世界で魔王をしておりました。」
いや、マジで魔王なのかよ。まあ見た目通りだけれども。
「余は志半ばで勇者に退治されてしまい、気づいたときにはこの世界にいました。」
魔王ならこっちの世界を侵略でもし始めそうなものだけれど、一体どうして学校なんか開いているのだろうか。恐る恐る聞いてみた。
「しかし、それじゃどうして学校を? 」
「元々それが余の夢だったのですよ。」
「夢? 」
「本当は元の世界でも教師になりたかった。しかし余は不幸にも魔王の血筋に生まれてしまった。大人になればゆくゆくは魔王にならなければならないというのがルールなのです。だから諦めざるを得なかった……ですがこの世界に来ることができ、余は魔王ではなくなりました。だからかねてからの夢だった、教師になったのですよ。」
なるほど……魔王にも魔王なりの事情があるのだな。にしても世襲でなりたくもない魔王になって、あげく勇者に退治されてしまうというのは、なかなか気の毒な話だ。
「それはそうと、貴方も異世界から? 」
おっと、聞くばかりでこちらも自己紹介を忘れていた。
「そうなんですよ。僕、長谷川大成っていいます。また別の世界から刺し殺されてやってきたんです。先生よりも全然パッとしない殺され方でしたけど。」
「いえいえ、そんなことは。同じ一つの命が消えたことに変わりありません。いや、消えてはいないのでしょうかね。今こうして余たちはこの世界で生きているのですから。」
めちゃくちゃまともなことを言うな、この人。一番魔王が向いてなかったんじゃないのか?
本筋に戻った。
「それで、先生は子どもに魔法を教えたというわけですか? 」
「ええ、ほんとに初級ですがね。冬でもほんのり暖かくなるってくらいの火属性魔法です。」
「人間に魔法が使えるってのがそもそも僕には驚きなのですけれどね。」
「それは余も驚きました。この世界の人々には魔力があったのですよ。」
魔力? またお誂えむきな。
「どうしてそんなことが分かったんです? 」
「異常に身体能力が高い人がいたからですよ。」
身体能力が高い……確かにアイラなりピオーネなり、かなり身体能力は高いな。そういえば兵士くんでさえ巨大な魔物と向かい合っていられるくらいの身体能力があったしな。
でも身体能力と魔力に何の関係があるというのか。
「魔力を身体に持っている人は、その魔力の分だけ体が影響を受けて強化されるのです。だから、人間にしては異常に運動神経が良かったり体が丈夫だったりする人を見かけて、もしやとは思ったのですが。ビンゴでしたね。」
魔法がある世界ではそれが常識なのだろうか。
この人が子どもに魔法を教えて使えるようにしたのであるなら、僕がするべきことは一つだ。この人をホルンメランに連れて行き、アイラと引き合わせる。
「先生、せっかくだからもっとたくさんの人に教えてみませんか? 」
「はて、それはどういう……」
「ホルンメランに来て頂きたい。ホルンメランならばもっと沢山の人があなたのもとに集まるでしょうから。」
魔王先生はちょっとの間黙っていた。考えてはお茶を啜りを何回か繰り返しているので、結構悩んでいるよう。
しばらくしてから彼はマグカップを置いた。
「にしても、余のような者が突然都市内に行っても問題ないのでしょうか? 」
「大丈夫ですよ。僕も似たようなものですから。」
実際魔王先生は、この集落にも馴染めている。幸いにもこの世界の人間は異種族に対してかなり理解があるようだから、ホルンメランのど真ん中に先生を連れて行っても全く問題はあるまい。
「では、行くだけ行ってみようかな。」
「おお、よかったよかった。ではさっそく……っと、今日はもう遅いから明日ホルンメランに向かいましょう! 」
さっきまで怖がっていたくせに、我ながら調子がいいとは思うが、これが仕事なんだから仕方がない。僕は魔王先生と一旦別れ、この夜は集落の空き家のうちの一軒を貸してもらって宿泊した。
翌朝、日が出てすぐに僕は先生を迎えに行った。思い返せばかなり非常識とも思うが、魔王先生はとうに起きていたので問題はなかった。
「では行きましょうか。」
集落の入り口には馬車が変わらず停めてある。車夫も馬たちも、親切な住民のお世話になっていたようである。
すでにいつでも出発できる状態と車夫が言うので、早速乗り込んだ。体格がかなり大きい魔王先生はかなり窮屈そうだったが。
馬車は勢いよく走り出した。馬たちもしっかり休養がとれたらしい。
魔王先生はふと口を開いた。
「あの、時間はどのくらいかかります? 」
「ええと、五時間くらいですかね。あれ、五時間で通じます? 」
「ええ分かりますよ。この世界、不思議なことに一年の長さは元いた世界と違うくせに一日の長さは全くおなじなんですよね。お察しするところ、タイセイさんのいた世界も同じようになっていると思うのですが。」
「全くその通りですよ。ははは。」
本当に不思議な話だ。科学的に言えば、星の公転周期が違うのに自転周期は同じということ。まあ前と同じ二十四時間が使えるから便利ではあるのだけれど。
「それにしても、五時間というのは流石に遠いですね。」
魔王先生がぼそりと呟いた。まあこんなに窮屈なまま五時間はキツイだろうな。しかしだからといってどうすればよいのやら。
「あの、ホルンメラン都市内に行くのですよね。」
「ええ、そうですけど、それがどうかしたのですか? 」
「馬車一つくらいなら軽く飛べそうですね。」
そういうと、魔王先生は乗っている馬車に何やら呪文を唱え出した。何を言っているのかは全く聞き取ることが出来なかったが、先生の手を中心にして紫の魔法陣が現れた。
するとどうだろう。馬車が浮かびだしたのだ。
「おっと! これは? 」
「飛翔魔法ですよ。これならホルンメランまでひとっ飛びですから。」
馬車は凄まじい速度で飛び始めてしまった。
「こんにちは。」
普通にしゃべるんかい。あ、いや、さっきも普通に会話してたか。
「あの、ここじゃなんだし上がってください。」
え、入るの? ここでいいよ。でも断れないしな……僕は彼に促されるままに戸の中に入った。
「じゃあ僕はここで。」
案内をしてくれた男性はそれだけ言うと踵をかえしてもと来た道を帰っていってしまった。え、嘘でしょ。僕一人かよ。今現在の僕の唯一の頼みの綱が失われてしまった。
中はごくごく普通の座敷になっていた。少しも魔王要素がないのがかえって気味が悪い。魔王先生は机の周りを片付けると、向こうからマグカップを二つ運んできた。
「粗茶ですが。」
この見た目でお茶出すのかよ。しかもマグカップが結構可愛いじゃないか。
魔王先生も僕も座って落ち着いた。いや、僕は全く落ち着いてはいないのだけれど。ともかく彼は話を再開した。
「さっきも伺いましたが、今日はどのような用件で? 」
「あ、ああ、そうでしたね。」
用件を忘れるところだった。
「先生はこちらで魔法を教えていると伺いましたが。」
「ええ、そうですが。」
彼は何でもないように言った。魔法を教えるのが珍しくないとでも思っているのか。
「魔族の方が人間に魔法を教えるってかなりの異例ですよね。」
「そうなんですか? 」
あ、やっぱり。そりゃこの見た目だったら魔法だって大したことはないだろうが。
「いやはや、余としては全然普通のことなんですがね。」
余!? 初めて見たぞ、その一人称実際に使ってる人。
「余はここで子供たちのための学校を開いているんですがね。元いた別の世界の学校を参考にして授業をしているのですよ。それで魔法も教えているという具合なのです。」
ん? 元の世界? この人もしかして……
「あなた、異世界からお越しで? 」
魔王先生は驚いていた。表情はあまり変わったようには見えなかったけど、声が上ずっていた。
「はて、あなたは信じてくれるのか? 余が別の世界から来たという話を。」
「ええ、僕も同じですから。」
ほほう、異世界からきたのかこの人。だったら仰々しい見た目も説明がつくな。
「そう言えば自己紹介がまだでしたな。余の名前はバーザム・クライ・カタストロフィ。別世界で魔王をしておりました。」
いや、マジで魔王なのかよ。まあ見た目通りだけれども。
「余は志半ばで勇者に退治されてしまい、気づいたときにはこの世界にいました。」
魔王ならこっちの世界を侵略でもし始めそうなものだけれど、一体どうして学校なんか開いているのだろうか。恐る恐る聞いてみた。
「しかし、それじゃどうして学校を? 」
「元々それが余の夢だったのですよ。」
「夢? 」
「本当は元の世界でも教師になりたかった。しかし余は不幸にも魔王の血筋に生まれてしまった。大人になればゆくゆくは魔王にならなければならないというのがルールなのです。だから諦めざるを得なかった……ですがこの世界に来ることができ、余は魔王ではなくなりました。だからかねてからの夢だった、教師になったのですよ。」
なるほど……魔王にも魔王なりの事情があるのだな。にしても世襲でなりたくもない魔王になって、あげく勇者に退治されてしまうというのは、なかなか気の毒な話だ。
「それはそうと、貴方も異世界から? 」
おっと、聞くばかりでこちらも自己紹介を忘れていた。
「そうなんですよ。僕、長谷川大成っていいます。また別の世界から刺し殺されてやってきたんです。先生よりも全然パッとしない殺され方でしたけど。」
「いえいえ、そんなことは。同じ一つの命が消えたことに変わりありません。いや、消えてはいないのでしょうかね。今こうして余たちはこの世界で生きているのですから。」
めちゃくちゃまともなことを言うな、この人。一番魔王が向いてなかったんじゃないのか?
本筋に戻った。
「それで、先生は子どもに魔法を教えたというわけですか? 」
「ええ、ほんとに初級ですがね。冬でもほんのり暖かくなるってくらいの火属性魔法です。」
「人間に魔法が使えるってのがそもそも僕には驚きなのですけれどね。」
「それは余も驚きました。この世界の人々には魔力があったのですよ。」
魔力? またお誂えむきな。
「どうしてそんなことが分かったんです? 」
「異常に身体能力が高い人がいたからですよ。」
身体能力が高い……確かにアイラなりピオーネなり、かなり身体能力は高いな。そういえば兵士くんでさえ巨大な魔物と向かい合っていられるくらいの身体能力があったしな。
でも身体能力と魔力に何の関係があるというのか。
「魔力を身体に持っている人は、その魔力の分だけ体が影響を受けて強化されるのです。だから、人間にしては異常に運動神経が良かったり体が丈夫だったりする人を見かけて、もしやとは思ったのですが。ビンゴでしたね。」
魔法がある世界ではそれが常識なのだろうか。
この人が子どもに魔法を教えて使えるようにしたのであるなら、僕がするべきことは一つだ。この人をホルンメランに連れて行き、アイラと引き合わせる。
「先生、せっかくだからもっとたくさんの人に教えてみませんか? 」
「はて、それはどういう……」
「ホルンメランに来て頂きたい。ホルンメランならばもっと沢山の人があなたのもとに集まるでしょうから。」
魔王先生はちょっとの間黙っていた。考えてはお茶を啜りを何回か繰り返しているので、結構悩んでいるよう。
しばらくしてから彼はマグカップを置いた。
「にしても、余のような者が突然都市内に行っても問題ないのでしょうか? 」
「大丈夫ですよ。僕も似たようなものですから。」
実際魔王先生は、この集落にも馴染めている。幸いにもこの世界の人間は異種族に対してかなり理解があるようだから、ホルンメランのど真ん中に先生を連れて行っても全く問題はあるまい。
「では、行くだけ行ってみようかな。」
「おお、よかったよかった。ではさっそく……っと、今日はもう遅いから明日ホルンメランに向かいましょう! 」
さっきまで怖がっていたくせに、我ながら調子がいいとは思うが、これが仕事なんだから仕方がない。僕は魔王先生と一旦別れ、この夜は集落の空き家のうちの一軒を貸してもらって宿泊した。
翌朝、日が出てすぐに僕は先生を迎えに行った。思い返せばかなり非常識とも思うが、魔王先生はとうに起きていたので問題はなかった。
「では行きましょうか。」
集落の入り口には馬車が変わらず停めてある。車夫も馬たちも、親切な住民のお世話になっていたようである。
すでにいつでも出発できる状態と車夫が言うので、早速乗り込んだ。体格がかなり大きい魔王先生はかなり窮屈そうだったが。
馬車は勢いよく走り出した。馬たちもしっかり休養がとれたらしい。
魔王先生はふと口を開いた。
「あの、時間はどのくらいかかります? 」
「ええと、五時間くらいですかね。あれ、五時間で通じます? 」
「ええ分かりますよ。この世界、不思議なことに一年の長さは元いた世界と違うくせに一日の長さは全くおなじなんですよね。お察しするところ、タイセイさんのいた世界も同じようになっていると思うのですが。」
「全くその通りですよ。ははは。」
本当に不思議な話だ。科学的に言えば、星の公転周期が違うのに自転周期は同じということ。まあ前と同じ二十四時間が使えるから便利ではあるのだけれど。
「それにしても、五時間というのは流石に遠いですね。」
魔王先生がぼそりと呟いた。まあこんなに窮屈なまま五時間はキツイだろうな。しかしだからといってどうすればよいのやら。
「あの、ホルンメラン都市内に行くのですよね。」
「ええ、そうですけど、それがどうかしたのですか? 」
「馬車一つくらいなら軽く飛べそうですね。」
そういうと、魔王先生は乗っている馬車に何やら呪文を唱え出した。何を言っているのかは全く聞き取ることが出来なかったが、先生の手を中心にして紫の魔法陣が現れた。
するとどうだろう。馬車が浮かびだしたのだ。
「おっと! これは? 」
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