【14万PV感謝!!】異世界で配合屋始めたら思いのほか需要がありました! 〜魔物の配合が世界を変える〜

中島菘

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三章 切れ者少女、ゴースに立つ

十七話

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 一旦おさえておいた宿屋に戻った僕と准将だったが、僕は気が気でなかった。子爵の相談というのが一体どういうものなのかが見当もつかないので、全く休むことができなかった。

 そうこうしているうちに山の向こうに日が隠れ始めた。あの山がなければ、もう少し猶予があったのに。日はついに落ちてしまい、部屋の窓辺の影はふっと消えてしまった。

 行きたくはないが、約束を違えるわけにもいかないので僕は部屋を出た。一応今から行くことを隣の部屋にいる准将に伝えようと思い扉越しに話しかけた。

「今から行ってきますね。子爵の屋敷。」

「……」

「准将? 」

「……」

返事はやはり返ってこない。何かあったのか? 不審に思い僕は彼女の部屋の扉を開けた。

 扉の向こう、准将は上裸だった。背筋が凍りつき勢いよく扉を閉めた。が、もう手遅れだろう。

「ごめん、返事が無かったから何かあったのかと思って。」

扉の向こうから准将の声が聞こえてきた。

「いえいえ、気にしませんよ。私の方こそ着替え中で返事が出来ずに申し訳ない。」

よかった。それほどは怒っていないようである。

「それで? 何を伝えようとしたんです? 」

「ああ、いや。今からまた屋敷に行くというだけだよ。」

「そうですか。頑張ってくださいね。せいぜい死罪にならないように。」

駄目だ。やっぱり怒ってた。僕はまた億劫になりながら暗くなった宿の外へと出た。

 宿の外には子爵が馬車を用意してくれていた。ここら辺の夜は特に危ないだろうからという気遣いのようだ。

 馬車は暗い道を器用に進み、あっという間に屋敷に着いてしまった。今に限ってはちっとも嬉しくないけれど。

 屋敷は照明が所々に置かれてあり、全体が淡く幻想的に映し出されていた。今はそれさえ恐ろしい。目の前に開く大扉はさながら地獄の門である。

 昼間の執事がまた案内してくれた。昼間も来ているからおそらく一人でも迷わなかっただろうが、彼がいてくれることが心強い。

 今度は昼間の大部屋ではなく、隣の部屋に案内された。

「こちらでノース様がお待ちです。」

それだけ言うと執事はどこかに行ってしまった。仕方ないので勇気を出して扉をノックすると

「入ってくれ。」

とたしかに子爵の声がした。僕は意を決して扉を開けた。

 部屋は寝室になっていた。見た瞬間僕は卒倒しそうになってしまった。やっぱりこういうことじゃないか。子爵は脇のチェアに腰掛けていた。

「よく来てくれたね、タイセイくん。」

「あの、相談ってのはなんですか? 」

恐る恐る聞いてみた。微かに笑った子爵の顔が怖かった。

「いきなりとは、気が早いな。まあいいだろう。」

子爵はチェアから起き上がり、窓辺に立つと、カゴをいくつか持ってこちらに来た。

「こいつらなんだがね。」

カゴの中には鳥がいた。手のひらに乗るほどの小さな鳥である。一つのカゴに三羽ずつ、合計で九羽いた。

「こいつらはわしが飼っている歌い鳥でな。夜になると歌を歌ってくれるんだ。これがわしの心を毎晩穏やかにしてくれるのだが……」

カゴの中の鳥たちはいずれも元気が無かった。

「この通りなのだよ。毎晩一瞬歌ったかと思えばすぐにやめてみんなそっぽ向いてしまうんだ。」

実際鳥たちは明後日の方向を見ていた。

 子爵はカゴをきれいに並べ直した。

「もうそろそろ時間なんだがね。」

そう言ってると、鳥たちは一斉にこちらを向いた。各々口を開けると、示し合わせたように同時に鳴き声を上げた。

 しかしそれは一瞬だった。鳥たちは子爵が言っていた通り、すぐに歌うのをやめてしまったのである。

「ほらな。こうなってしまうのだよ。どうしてなのかがわからない。獣医に見せてみてもみんないたって健康だというからいよいよ途方に暮れているんだ。」

鳥たちはまた各々違う方向を向いてしまっていた。

「だから相談なんだ。こいつらがまた歌うためにも原因を突き止めて欲しい。報酬は弾ませてもらうよ。」

報酬……それは僕個人に対してということか……

「具体的にはどのくらいです? 」

「おいおい、急に元気になるじゃないかタイセイくん。見た目によらず君は俗物のようだね。」

子爵は愉快そうに笑うと、棚から中指ほどの長さの煙草を取り出して火をつけた。

「まあそこはわしも話しておかねばなるまい。原因を究明出来れば……そうだな、二千万イデでどうかね。」

 小鳥のために二千万も払うのかこのおっさんは。にしてもやはり貴族は富豪のようだ。きっと二千万も大して高くはないという感覚なのだろう。

「ええ、それで満足です。期限はいつまでです? 」

「君らがホルンメランに帰るまでで構わないよ。」

子爵はこの話だけをしたかったようで、そのあとは何事もなく帰してくれた。

 帰りにも馬車は用意されていたのはありがたかった。街はすっかり寝静まっており、灯りのついた家は一軒もない。ホテルもまた暗く静かだった。

 中に入ると、ロビーの一角だけほのかに灯りがついていた。灯りのもとに座っていたのは准将だった。

「おかえりなさい。あら、ご無事のようですね。」

「そりゃそうだろう。ひどいじゃないか。」

「ウフフ、冗談ですよ。」

彼女の頬は火照っていた。僕がいない間に酒を飲んだらしい。ほろ酔いの准将は上機嫌だ。しかもいつになく雰囲気が柔らかい。でももうこんな時間なのに、どうしてロビーにいるのだろうか。

「本当は待ってたんですよ、タイセイさん。」

「え、どうして? 」

上目遣いの彼女の瞳にはランプの火が揺れていた。僕は言葉に詰まった。僕が黙っていると、准将は申し訳なさそうに笑った。

「お金、無くなってきちゃいました。」

ああ、そういうことか。息が止まりそうだった。って、

「じゃあなんで酒飲んでるんだよ! 」

「いやあ、確かにお金は無くなってきちゃったんですけどね。当てはあるんですよ当ては。」

いつもの准将なら抜かりはないだろうと思うが、こんな状態だと全く信用ならない。だが彼女が明日になったらわかるというから、ひとまず僕は自分の部屋に戻った。身も心も随分と疲れていたようで、その夜は泥のように眠った。

 翌朝、准将に連れて行かれた先は町の集会所らしい巨大な建物だった。一際大勢のヒャッハーたちが出入りしている。

「ここは何? 」

「ギルドといいます。ゴースはホルンメランと違ってギルド制を採用しています。ホルンメランと違って外に魔物が大量に出ますから、民間人にも討伐や危険な業務をお金を払って行ってもらうというわけです。」

確かに来るときもあの大蛇に遭ったわけだしな。

「それでどうしてここへ? 」

「稼ぐためですよ、路銀がないと帰れませんからね。」

そう言うと准将は勢いよくギルドの中へと入っていってしまった。

 僕は彼女の後ろに隠れるように中は入ったが、意外にも明るい空間だった。大食堂のようになっており、一番奥に受付らしいのがいくつか開かれている。手前に並べられたテーブルにはヒャッハーたちがひしめいていたから相変わらず怖かったのだけれども。

「ええと、受付は……」

「しかし准将。僕たちみたいな余所者が仕事を受けられるのかい? 」

「そこは問題ないですよ。幸い、私もあなたも立場がしっかりしていますから。」

確かに軍人と官吏のペアなのだから不審がられることはないのだろう。少なくともそこら辺にいるヒャッハーたちよりかは。

 僕たちは受付に行ったが、仕事の受注ならば掲示板から依頼を持ってくるようにと受付嬢に言われた。言われた通り受付の脇に置かれてあった掲示板を見てみると、大量の紙が貼り付けられている。准将はそれらの紙を物色し始めた。

「やっぱり魔物討伐が一番報酬が高いですね。……あ! これ見てくださいよ。この前倒した大蛇の討伐依頼ですよ。」

見てみるとたしかにヤツの写真が貼られていた。

「惜しいですね。こっちで仕事受けてから倒したら250万イデだったのに。」

いや、強かったのは強かったのだけれど、それにしても蛇一匹に250万も出るのか! かなりおいしいじゃないか。

 准将はしばらく紙を吟味していたが、そのうち一枚を選び出した。

「今回は当分の路銀さえ稼ぐことができたらそれでいいので、安めのこれにしときましょう。」

彼女が選んだ仕事内容は「バンデットオーク五匹の討伐」。報酬は120万イデだった。
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