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三話
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銃? 予想だにしない言葉が出てきたわね。
「銃……ですか」
「そうだ。見るからに使ったことはなさそうだが」
この仕事、銃を使うのかしら? ちょっと危ない仕事? でも、一次試験は受かっちゃったし……。それに
「銃なら、撃ったことありますよ」
「ああ、そう……え?」
「だから、撃ったことありますよ、銃なら」
「ほ、本当なのか? あんたみたいなお嬢さんが?」
「ええ、前に主人のを使わせてもらったことがありますの」
主人は射撃を趣味にしている。生き物を狩るやつじゃないわ。あれは逃げる獣を一方的に撃つのがアンフェアだし、ちょっと趣味が悪い。
あの人がやってるのは、飛んでくるクレーを銃で撃ち落とすあれ。競技にもなってる。夫は結構な頻度で嗜んでいるから、何回かだけ私もそれについて行ったことがある。正直その当時は全然興味もなかったし、退屈だった。でも、今はやっててよかったと思うわ。
「ほお! こりゃ驚いたな。いやあすまないすまない。君が入ってきたときにはてっきり冷やかしかと思ったものだから、適当にあしらって帰そうかと思っていたのだけどね。銃を撃ったことがあるってのなら、話は別だ。即戦力になるかもしれない!」
なんだか、俄然食いつきがよくなったな。でも銃を使えないといけないお仕事って、何なのかしら?
「じゃあ、二次試験っていっても、これで最後だから最終試験だね。始めようか!」
「何をするんですの?」
「まあ、実技試験だよ」
彼は私をもっと奥の部屋に連れて行った。窓のない部屋だから、暗さと湿気で嫌になってしまいそうだけど、ここは我慢しなければ。けれど、この明るくなったり暗くなったりを繰り返すこのオンボロ電灯はいい加減取り換えた方がいいと思う。
部屋の中のさらに間を区切ったガラス板の戸を抜けると、そこには見たことのないようなものが並んでいた。
「あれは的?」
円形の形をした板が奥の方に何枚か置かれていて、その三十メートルくらい手前、私たちの目の前に台が並んでいる。
「おお、大正解!」
「ってことは……」
「そう、最終試験はあの的を銃で撃ちぬいてもらう。その出来で君を雇うかどうか決めるんだ」
そう言って、男の人が渡してきたのは物々しい狙撃銃。こんなの、主人が持ってたのとは全然違うわ!
「こ、これであれを撃つの?」
「そりゃもちろん」
彼は有無を言わせない表情で私を見つめてきた。その視線から逃れるように銃を的に向けて、スコープを覗き込んだのだけど、本当にあたるのかしら?
「さあ、撃ってみな」
「……!」
もうどうにでもなれだ! 撃っちゃえ!
「ズドン!!」
「え?」
「おおお!」
「あたった……?」
スコープから目線を外して顔を上げると、30メートルは離れているだろう先の的の真ん中には穴が開いていて、そこから煙が細々と一筋上がっていた。
「凄いじゃないか! こりゃあんた、相当な手練れだな!」
「え! いやあ……」
こんな銃、生まれて初めて撃ったのだけれど……あたっちゃったわ、本当にあたったんだわ。クレー射撃をやらせてもらったときはあんまりあたらなかったのに。
「これは欲張りたくなっちゃうな。ほら、これも撃ってみてくれ!」
そう言いながら男が今度渡してきたのは拳銃。こんなものなおさら撃ったことないわよ!
「それ!」
彼は部屋の端にあるレバーを引いた。すると並んでいた的たちは不規則に動き出した。
「あれをどうにか撃ってごらん」
また無茶いうわね……。自分で言うのも何だけれど、今的に命中したのは偶々だと思う。それなのに今度は動く的だなんて! まあ、仕方がないからやるだけやってはみるけど。
「ドスン! ドスン! ドスン!!」
「うぇあ!」
思わず変な声が出ちゃった! だけど……まあ大変! 自分でも驚いちゃうわ。
「たまげたなぁ、これは。全弾命中じゃないか! もしかして君は凄腕なのかい?」
「ええ? いやあ、そんなこともないはずだけど」
「謙遜はやめておきな、こんな精度は見たことがないよ。狙撃銃も拳銃も、なんでもござれってこったな」
私、もしかして射撃の才能があっただなんて……。これはちょっと意外だわ。屋敷に引きこもっていては絶対に見つかることのない才能ね。
「じゃあ、君は文句なく採用だ。具体的な勤務のことについて説明させてもらうよ……っとその前に、僕の自己紹介がまだだったな。ケイだ、ケイ・ターナー。どうとでも呼んでくれ。君は?」
「フランシス・ダカールです」
「ほう。じゃあ、あだ名はフランキーだろ?」
「そうですけど……」
確かに友達からはそう呼ばれるけれど、ケイは初対面だっていうのに、馴れ馴れしいわ。
呼び名はともかく、ケイは説明に入った。働ける日はどこかと聞かれたので、全部と答えた。実際暇を持て余している私はいつでも働けるのだし。それを聞いたケイは喜んでいた。
給料は歩合らしい。そもそもお金に困っているわけじゃない私からしてみれば、そこらへんはどうだっていい。世間から見たら相当な変わり者ね。
「初回の仕事は三日後だから、そのときにまた来てくれ」
最後にそう言われて、この日は家に帰った。
「銃……ですか」
「そうだ。見るからに使ったことはなさそうだが」
この仕事、銃を使うのかしら? ちょっと危ない仕事? でも、一次試験は受かっちゃったし……。それに
「銃なら、撃ったことありますよ」
「ああ、そう……え?」
「だから、撃ったことありますよ、銃なら」
「ほ、本当なのか? あんたみたいなお嬢さんが?」
「ええ、前に主人のを使わせてもらったことがありますの」
主人は射撃を趣味にしている。生き物を狩るやつじゃないわ。あれは逃げる獣を一方的に撃つのがアンフェアだし、ちょっと趣味が悪い。
あの人がやってるのは、飛んでくるクレーを銃で撃ち落とすあれ。競技にもなってる。夫は結構な頻度で嗜んでいるから、何回かだけ私もそれについて行ったことがある。正直その当時は全然興味もなかったし、退屈だった。でも、今はやっててよかったと思うわ。
「ほお! こりゃ驚いたな。いやあすまないすまない。君が入ってきたときにはてっきり冷やかしかと思ったものだから、適当にあしらって帰そうかと思っていたのだけどね。銃を撃ったことがあるってのなら、話は別だ。即戦力になるかもしれない!」
なんだか、俄然食いつきがよくなったな。でも銃を使えないといけないお仕事って、何なのかしら?
「じゃあ、二次試験っていっても、これで最後だから最終試験だね。始めようか!」
「何をするんですの?」
「まあ、実技試験だよ」
彼は私をもっと奥の部屋に連れて行った。窓のない部屋だから、暗さと湿気で嫌になってしまいそうだけど、ここは我慢しなければ。けれど、この明るくなったり暗くなったりを繰り返すこのオンボロ電灯はいい加減取り換えた方がいいと思う。
部屋の中のさらに間を区切ったガラス板の戸を抜けると、そこには見たことのないようなものが並んでいた。
「あれは的?」
円形の形をした板が奥の方に何枚か置かれていて、その三十メートルくらい手前、私たちの目の前に台が並んでいる。
「おお、大正解!」
「ってことは……」
「そう、最終試験はあの的を銃で撃ちぬいてもらう。その出来で君を雇うかどうか決めるんだ」
そう言って、男の人が渡してきたのは物々しい狙撃銃。こんなの、主人が持ってたのとは全然違うわ!
「こ、これであれを撃つの?」
「そりゃもちろん」
彼は有無を言わせない表情で私を見つめてきた。その視線から逃れるように銃を的に向けて、スコープを覗き込んだのだけど、本当にあたるのかしら?
「さあ、撃ってみな」
「……!」
もうどうにでもなれだ! 撃っちゃえ!
「ズドン!!」
「え?」
「おおお!」
「あたった……?」
スコープから目線を外して顔を上げると、30メートルは離れているだろう先の的の真ん中には穴が開いていて、そこから煙が細々と一筋上がっていた。
「凄いじゃないか! こりゃあんた、相当な手練れだな!」
「え! いやあ……」
こんな銃、生まれて初めて撃ったのだけれど……あたっちゃったわ、本当にあたったんだわ。クレー射撃をやらせてもらったときはあんまりあたらなかったのに。
「これは欲張りたくなっちゃうな。ほら、これも撃ってみてくれ!」
そう言いながら男が今度渡してきたのは拳銃。こんなものなおさら撃ったことないわよ!
「それ!」
彼は部屋の端にあるレバーを引いた。すると並んでいた的たちは不規則に動き出した。
「あれをどうにか撃ってごらん」
また無茶いうわね……。自分で言うのも何だけれど、今的に命中したのは偶々だと思う。それなのに今度は動く的だなんて! まあ、仕方がないからやるだけやってはみるけど。
「ドスン! ドスン! ドスン!!」
「うぇあ!」
思わず変な声が出ちゃった! だけど……まあ大変! 自分でも驚いちゃうわ。
「たまげたなぁ、これは。全弾命中じゃないか! もしかして君は凄腕なのかい?」
「ええ? いやあ、そんなこともないはずだけど」
「謙遜はやめておきな、こんな精度は見たことがないよ。狙撃銃も拳銃も、なんでもござれってこったな」
私、もしかして射撃の才能があっただなんて……。これはちょっと意外だわ。屋敷に引きこもっていては絶対に見つかることのない才能ね。
「じゃあ、君は文句なく採用だ。具体的な勤務のことについて説明させてもらうよ……っとその前に、僕の自己紹介がまだだったな。ケイだ、ケイ・ターナー。どうとでも呼んでくれ。君は?」
「フランシス・ダカールです」
「ほう。じゃあ、あだ名はフランキーだろ?」
「そうですけど……」
確かに友達からはそう呼ばれるけれど、ケイは初対面だっていうのに、馴れ馴れしいわ。
呼び名はともかく、ケイは説明に入った。働ける日はどこかと聞かれたので、全部と答えた。実際暇を持て余している私はいつでも働けるのだし。それを聞いたケイは喜んでいた。
給料は歩合らしい。そもそもお金に困っているわけじゃない私からしてみれば、そこらへんはどうだっていい。世間から見たら相当な変わり者ね。
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最後にそう言われて、この日は家に帰った。
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