上 下
28 / 45
五章 ドリーム・リゾートです!

二十八話 南国なのになぜか相棒が不機嫌です!

しおりを挟む
 相変わらず風は暑かったが、こちらは爽やかな海風だった。

「求めてたのはこういうやつだよ! 」

「そうですか? 私は北国くらいがちょうど良かったですけど。」

「そんなこと言わずに、ほら、見てごらんよ! 南国だよ? 」

「まあそうですね、南国ですけど……。」

どうしてか、ミヤビのテンションはあまり高くはなかった。さっきまで川に落ちていたからだろうか? 

 広い海が見える手前は、草原が一面。奥の方には丘がいくつか見えた。三方向に海が見えているから、空までが広がっているように感じる。

 俺は南国よりではあるが、そうでないという中途半端な場所の生まれなので、南国には当たり前にテンションが上がってしまう。

 二人で草原を歩き出した。あたりにはプレイヤーたちもいる。いや、今までよりも、うんと増えていた。

 ここで、ようやく、三経路に分かれていた初心者たちのルートが一つになるのだという。つまり、俺たちが来たウエストエリアの五番地。

 そして、ウエストエリアの七番地と九番地。この三つのルートを進んできたプレイヤーたちが全員ここへと来るのだから、その分だけプレイヤーの数も増えているのだ。

 それだから、モンスターに遭遇する頻度よりも、他のプレイヤーと会う頻度の方が多かった。みんな、毎度のことながら俺たちのことを変な目で見ていくのだけど、それにはもう慣れている。

 マップを広げた。

「町はどこですか? 」

「二つあるんだけど……。」

「二つ? 」

今回のエリアには、町が二つあった。マップ上には、町のマークが東西二つある。東側に一つと西側にもう一つ。どっちがどうとかはわからないので、

「近い方に行きましょうか? 」

「そうだね。」

 俺たちは西の町の方に向かった。道は砂地で、その上を進んでいくと、しばらくして町に到着した。濡れていた俺たちの体も、日差しのお陰ですぐに乾いた。

 町は例に漏れず賑やかだ。

「おお! やっぱり南国だよ! ミヤビ、見てる? 」

「見てますよ。やっぱり北の人からしたら新鮮なんでしょうかね? 」

ん?

「ミヤビって、もしかして南国の人なの? 」

「ええ、そうですよ。沖縄の出身です。」

ああ。だからあんまりはしゃいでいなかったのか。

 ただ、俺にとっては楽しい雰囲気だ。南国なんて旅行でしか行かないから、今まさに俺は旅行気分なのだ。

「ギルドはどこでしょうか? 」

「ええ! もうギルドに行っちゃうの? 」

俺の旅情虚しく、ミヤビに連れられてギルドに向かった。

 ギルドもギルドで南国仕様。全体的にトロピカルな感じに仕上がっていた。

 そこにいるプレイヤーたちも心ばかし浮ついている。このエリア限定の装備なのだろうか。南国風の格好をしている人たちもチラホラといる。

 ミヤビは近くのテーブルに座った。

「何やりましょうか? クエスト? 」

「え、いきなり? 」

「だって私次行きたいですもん。私だけ実家に帰省したみたいですよ。非日常どころか、ゴリゴリの日常です。」

 ゲームの中なのに、住んでた場所と同じようなところが出てきたら、つまらなくなってしまうというのも、仕方のないことなのか。

 でも、いきなりクエストってのはなあ。せっかく新しいエリアに来てホッとしているのに。

 ミヤビはすでにクエストの掲示板の方まで行ってしまっている。

「それにしても、いくら故郷にそっくりで新鮮じゃないからって、テンション低すぎやしないか? 」

彼女は紙をめくっては見て、クエストを吟味している。

 俺はボーッとして、ミヤビの様子を見ていた。クエストならクエストで、どんなやつを選んでくるのだろう。

 テーブルで頬杖をついていると、見知らぬプレイヤーから話しかけられた。

「君、こんな陽気なエリアに来たっていうのに、どうしてそんなにつまらなそうに座っているんだい? 」

「ああ、こんにちは。あなたは? 」

「おおすまない。俺の名前はリーチ。『アクシズ』ってパーティーのリーダーをやってる。君は? 」

アクシズ! この前のイベントで、俺たちを抑えて一位になっていたパーティーだ。彼らもこっちに来ていたのか。

 というか、よもやこんなところで会うことになろうとは。リーチの装備は標準的な剣使いだった。職業はおそらく戦士。前の砂漠エリアでの最強装備を揃えていた。

 レベルも気になるが、それは知ることができない。

「俺はロータスです。『バグ・バンデット』っていうパーティーにいます。」

「おお! この前のイベントで確か二位につけてたよな? 」

おや、認識されてるのか。

「そうです。俺も一位だった『アクシズ』のことが気になってたんだよ。」

「おお、気にしてもらえるのはありがたいな。実を言うと、俺たちも君らのことが気になってたんだ。」

「俺たちを? どうしてです? 」

「そりゃあ君たちは有名だよ。盗賊なのに、大剣やら杖やらを装備している二人組がいるって。」

ああ、やっぱりそういう話か。

 リーチは時計を見た。

「おっと、すまない。もう行かなければ。また今度話そう。」

「いえいえ、話せてよかった。」

 リーチは去り際、俺の方へ振り返ると、興味深いことを話した。

「そういえば君。そんなにつまらないんだったら、東のリゾートエリアに行ってみたらどうだい? きっと楽しいぞ。」

リゾート……マジか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

運極さんが通る

スウ
ファンタジー
『VRMMO』の技術が詰まったゲームの1次作、『Potential of the story』が発売されて約1年と2ヶ月がたった。 そして、今日、新作『Live Online』が発売された。 主人公は『Live Online』の世界で掲示板を騒がせながら、運に極振りをして、仲間と共に未知なる領域を探索していく。……そして彼女は後に、「災運」と呼ばれる。

最強と言われてたのに蓋を開けたら超難度不遇職

鎌霧
ファンタジー
『To The World Road』 倍率300倍の新作フルダイブ系VRMMOの初回抽選に当たり、意気揚々と休暇を取りβテストの情報を駆使して快適に過ごそうと思っていた。 ……のだが、蓋をひらけば選択した職業は調整入りまくりで超難易度不遇職として立派に転生していた。 しかしそこでキャラ作り直すのは負けた気がするし、不遇だからこそ使うのがゲーマーと言うもの。 意地とプライドと一つまみの反骨精神で私はこのゲームを楽しんでいく。 小説家になろう、カクヨムにも掲載

虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった

ミズノみすぎ
ファンタジー
「黒騎士ゼクード・フォルス。君を竜狩り精鋭部隊【ドラゴンキラー隊】の隊長に任命する」  15歳の春。  念願のS級騎士になった俺は、いきなり国王様からそんな命令を下された。 「隊長とか面倒くさいんですけど」  S級騎士はモテるって聞いたからなったけど、隊長とかそんな重いポジションは…… 「部下は美女揃いだぞ?」 「やらせていただきます!」  こうして俺は仕方なく隊長となった。  渡された部隊名簿を見ると隊員は俺を含めた女騎士3人の計4人構成となっていた。  女騎士二人は17歳。  もう一人の女騎士は19歳(俺の担任の先生)。   「あの……みんな年上なんですが」 「だが美人揃いだぞ?」 「がんばります!」  とは言ったものの。  俺のような若輩者の部下にされて、彼女たちに文句はないのだろうか?  と思っていた翌日の朝。  実家の玄関を部下となる女騎士が叩いてきた! ★のマークがついた話数にはイラストや4コマなどが後書きに記載されています。 ※2023年11月25日に書籍が発売しています!  イラストレーターはiltusa先生です! ※コミカライズも進行中!

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

チートなガチャ運でVRMMO無双する!?~没入型MMO「ラスト・オンライン」

なかの
ファンタジー
「いきなり神の剣が出たんですけど」 僕はチートなガチャ運でVRMMO無双する!? 330万PV(web累計)突破! 超大手ゲームメーカーの超美麗グラフィックな大型RPGの最新作「ラスト・オンライン」 このゲームは、新技術を使った没入型MMO、いわゆるVRMMOだった。 僕は、バイト代をなんとか稼いで、ログインした先でチートのようなガチャ運で無双する!! 著/イラスト なかの

【14万PV感謝!!】異世界で配合屋始めたら思いのほか需要がありました! 〜魔物の配合が世界を変える〜

中島菘
ファンタジー
 電車で刺された男・タイセイは気づけば魔物が人間と共に堂々と道の真ん中を闊歩するような異世界にいた。身分も何もかもない状態になってしまい、途方に暮れる彼だったが、偶然取り組み始めた配合による小魚の新種の作成を始めた。  配合というアイデアは、画期的なアイデアで、ある日彼が転生した大都市ホルンメランの美少女首長がそれに目をつけ、タイセイを呼び出す。  彼女との出会いをきっかけとして、タイセイの異世界生活は大きく動き出しはじめた!   やがてタイセイの数奇な運命は異世界全体を巻き込んでいく……

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

処理中です...