盗賊だけど大剣しか使えません! 〜VRゲームで盗賊になったのに、大剣しか装備することが出来ず絶望していたけど、それはそれで最強だった! 〜

中島菘

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五章 ドリーム・リゾートです!

二十七話 南国・W4です!

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 予想通り、オアシスには休むためにやってきていた沢山のオイルタンクがいた。

「大量じゃないですか! 全部合わせて何リットルになりますかね? 」

こいつらを一網打尽にすれば、一気に条件を達成できるくらいには集まっている。

 こんなときに、一匹たりとも逃さないための全体攻撃だ。

「俺がやるよ。」

「今日はえらく積極的ですよね。」

「早く砂漠から抜けたいからね。」

ミヤビは俺の後ろに下がった。

 俺はどのオイルタンクを狙うでもなく、地面を大剣で叩きつけた。

『グラウンドクラッシュ』! 

すると、異変が起きた。

 発生したのは衝撃波だけではなかったのだ。前方に竜巻が生まれて、オイルタンクたちを巻き込み始めてしまった。

 「おいおい! これじゃあ油まで吹き飛ばしちまうんじゃないか? 」

ラクダまみれの竜巻はグルグル回転しながらオアシスの中を駆け巡っていく。

 ミヤビは遠くから竜巻を眺めている。

「ちゃんとダメージは入ってるっぽいですよ。」

彼女の言う通りだ。竜巻の中のラクダの数はどんどん減っていってる。竜巻の中で倒れているのだ。

 オアシスのそこらじゅうに油が落ち始めた。ドロップアイテムだからゆっくり降ってくるのだが、それをミヤビがタルを抱えながら走り回って回収していく。

 彼女が運動神経抜群で助かった。一つも漏らすことなく回収できている。

「ロータスさん! タル一杯になりました! 」

あれ、もう一杯? そんな重いものどうやって持ち上げてるんだと見てみると、リアカーごと走り回っていた。

「すごいな、どうやってやってるんだそれ。」

タルには綺麗にオイルが満ち満ちている。


 蓋をしたタルを慎重に持ち帰ってから、ギルドに提出した。

「おめでとうございます。これで次のウエストエリア四番地への進出が可能となります。」

「よかった、やっとだよ。」

「早く砂から逃れたいですよ。」

 少し休みたくもあったけど、このまま一度座っちゃうと、立ち上がりたくなくなってしまうと思うので、俺たちはすぐにギルドを出た。

 次に向かうW4は北西の方だ。

「W4には海があるみたいですよ。」

「本当かい? 結構楽しみだな。」

現実でも、海にはしばらく行っていない。嫌いなわけではなく、むしろ好きなくらいなのだが、行く機会がなかった。

 砂漠の西側は、あまり用事がないので、行かなかったが、来てみると案外涼しい。

「次のエリアが近づいてる感じがしますよね。」

「ああよかった。本当によかったよ。」

ここが嫌いなわけじゃないが、しばらくは来なくていい。


 エリア境界での手続きを今度はしっかりやっていく。前みたいな失敗は恥ずかしいから。

 今回のエリア境界は渓谷になっていた。深い深い谷の上に吊り橋が架かっている。その下には川も流れていた。橋の向こうからがW4だ。

 俺は橋を渡ろうとすると、服の袖を引っ張られた。振り返ると、引っ張っていたのはミヤビ。

「どうしたの? 」

「あの……言いにくいんですが……。」

「言ってみなよ。」

「私、高いところは苦手なのです。」

 高所恐怖症なのか。あれ、でもそういえば……。

「ミヤビ、サンドディザスターに飛ばされて宙を舞ってたじゃん。」

「一瞬ならいいんですよ。でもこういうのはダメです。」

「仕方ないな。」

俺はミヤビをおぶった。

 ミヤビはずっと目を瞑っていた。

「早く渡っちゃってください! 」

「分かったよ! 分かったから! 」

ずっと背中でモジモジしている。

 このままだと暴れ出してしまいそうなので、俺はさっさと橋の上を進んだ。

 しかし、残念ながら吊り橋はひどく揺れる。

「ひゃ! 」

揺れるたびにミヤビは声を上げる。

 さっさと渡り切ってしまった方がいいと思い、俺は橋の上を駆け出した。

「ギシッ! ギシッ! 」

板が鳴った。

「ぎゃあああ! 揺れてる! 揺れてる! 」

「もうちょいだから! 頑張って! 」

あと少しで向こう側にたどり着く……

 はずだった。

「バキッ! 」

「あれ? 」

俺の踏んだ橋板が折れてしまったのだ! 

「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」

俺たちは霞むような深い下の川に落ちてしまった。

 

 ぐるぐる目を回しながら流されて、気づけば岸に打ち上げられていた。丸い石が積み上がったところに流れ着いたので、頬がちょっと痛い。

 ミヤビも起き上がっていた。

「どこなんでしょうね? 」

「下流に流されちゃったみたい。」

俺たちは立ち上がって歩き始めた。とにかく自分たちが今どこにいるのかを知らなければならない。

 しばらく歩くと、伸びた葦の向こうにに登っていける小径を見つけた。

「あそこ! 花が咲いています! 」

小道の脇には、真っ赤な花が咲き並んでいる。 

 砂漠には花は咲いていなかった。

「ここ、対岸みたいだね。」

「ああよかった! じゃあ結果オーライですね! 」

「オーライではないと思うが……。」

小径は細く、花の香りはするけれど、ひどく通りづらい。

 這い出るように小径を抜けると、一転爽やかな風が吹いた。横のミヤビの髪もサラサラと解けざまに光った。

 ミヤビは元気になった。

「ロータスさん! 見てくださいよ! 」

彼女の指差す先には弾けるような緑に花。それと澄んだ空。遠くには、淡く光る海が見えた。
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