盗賊だけど大剣しか使えません! 〜VRゲームで盗賊になったのに、大剣しか装備することが出来ず絶望していたけど、それはそれで最強だった! 〜

中島菘

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四章 W5・砂漠エリアです!

二十五話 蛇の杖です!

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 男性は、剣か杖かの選択を求めてきた。キングコブラの討伐報酬として貰えるようだ。

「これは迷う必要ないよな。」

「そうですよ。晴れて私も装備を新調できるってもんです。」

ミヤビは杖を選択した。剣を選んだところで、二人とも装備することができない。ミヤビが装備できる杖を選ぶのは当たり前だ。

 男性は奥から例のように大きい袋を持ってきた。

「こちらが特別報酬『ファラオロッド』でございます。」

袋はミヤビに手渡された。

 ギルドのテーブルにつくやいなや、ミヤビは袋を開けた。大剣よりは袋が小さかったので、すぐに杖は見えた。

「ほお、これは……。」

中から現れたのは、黒い杖。上端に金と黒のコブラがあしらわれていた。艶でピカピカに黒光っている。コブラの眼が紅く光っているのも、よく目立つ。

「カッコいいじゃないか! 」

「そうですよね! 」

ミヤビはご満悦で、新しい杖を抱えていた。



 翌日、昼下がりに俺たちはまた集合した。やんわりと眠くなってくる頃合いだが、ゲームを始めると目はすっかり覚めてしまった。

 ミヤビはやる気満々。

「早く外に行きましょう! 試し打ちですよ! 試し打ち! 」

杖の試し打ちって言ったって、俺たち魔法使えねえじゃないか。

 ミヤビは肩に杖をかけたまま、ギルドを出てしまった。一人で行かせるのもどうかと思うので、俺も彼女の後を追う。

 砂漠の外まで走ると、ミヤビは何度か素振りをした。空気を切る音がブンブンと鳴っている。

「フン! フン! 」

砂も舞っている。

 ミヤビは肩で風を切りながらそこら辺を歩き始めた。

「ロータスさん! はやくしないと置いて行っちゃいますよ? 」

「待ってくれよ。どうしてそんなにテンション高いんだよ? 」

「そりゃもう! 新しい武器なんだから、テンション上がるに決まっているでしょう! ロータスさんの武器だってすごい威力だったんだから、私のこの杖にも期待が持てますよ! 」

杖なのだから、物理的な威力はそんなに無いと思うのだが……。

 歩くと、そう経たないうちに敵と遭遇した。相手がどんなに強かろうとも、出てきて戦わなければならない敵モンスターたちは不憫だ。

「さあて、敵はよりによってこいつらですか。」

目の前に飛び出してきたのは、鉄サソリたちだった。

 鉄サソリたちは全部で八匹いた。昨日といい、一気に沢山の敵と遭遇するようになった。

 このゲーム、レベルによって現れる敵の数が変化するようだ。俺たちはすでにレベル25と22。このエリア内ではどのモンスターにも苦戦しないレベル。

 それだから、一度に遭遇する敵の数もそれなりに多くなっているのだ。

「さあ、試運転ですよ! 」

ミヤビは大きく杖を振りかぶった。

 彼女は手当たり次第杖をフルスイング。もちろんクリティカルの判定。

 しかし、ダメージ量はイマイチパッとしなかった。

「あれ? どういうことでしょうか。」

確かに前よりは威力は高かった。けれどそれも少しだけ、鉄サソリには貫通しなかった。

 鉄サソリはまだピンピンしている。

「ちょっとー! なんかガッカリなんですけど! どうしてそんなに強くないんですか? この杖。」

 当たり前っちゃ当たり前の話だ。だって杖だもの。そもそもぶん殴る用途で作られてはいない。

「振りかざしてみれば何か起きるんじゃない? 」

「ああ、そうですよね。この前のファイアロッドみたいに。」

ミヤビは杖を振りかざした。

 するとどうだろう。コブラが大口を開けて、中から紫の塊を吐き出した。

 塊は最初の鉄サソリに直撃した。

「グゴォォ! 」

鉄サソリの体はみるみるうちに溶け落ちてしまった。

「うお! 危ないな! 」

あんなに硬かった鉄サソリが泥のようになってしまった。

 どうやら、「ファラオロッド」が吐き出した紫の塊は、毒である。それも、かなりの強酸だ。

 鉄でできている鉄サソリも酸には勝てない。

「それっ! 」

またミヤビは杖を振りかざす。紫の塊がまた一つ飛び出て、二体目の鉄サソリを溶かしてしまった。

 ミヤビは勢いづいた。

「これ、いいですね! あんなに手こずっていたサソリたちがどんどん倒れて行きますよ! 」

八匹いた鉄サソリは、瞬く間に全滅してしまった。

 敵を倒せたのは良かったのだが……。

「シュゥゥゥゥ。」

ところどころで煙が立っていた。砂まで溶けてしまって、煙が立ち昇っているのだ。

 俺の「デザートストーム」もそうだが、ミヤビの杖も相当はた迷惑な代物だ。強いのはいいのだが。

 偶然居合わせた他のプレイヤーたちも唖然としていた。みんな驚いて、俺たちには近寄ってこない。ただでさえ他のプレイヤーたちからは避けられ気味の俺たちなのに、これでは一層人が近づいてきてくれなくなってしまう。

 ミヤビは満足したらしく、杖を背中にさした。

「さあ、気が済んだので町に戻りましょうか。ロータスさんのときみたいに特別指定が乱入してきても困りますし。」

彼女の言う通り、長居は無用だ。予期せぬような特別指定のモンスターに絡まれたくないのもあるが、何より周りの視線が痛い。

 俺は意気揚々のミヤビを連れて、そそくさと町に帰った。
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