盗賊だけど大剣しか使えません! 〜VRゲームで盗賊になったのに、大剣しか装備することが出来ず絶望していたけど、それはそれで最強だった! 〜

中島菘

文字の大きさ
上 下
4 / 45
一章 アンバランスな盗賊爆誕!

四話 ずっと大剣しか使えないことになりました!

しおりを挟む
 結局あのあと、ちょうどいい時間になっていたので俺は一旦ログアウトした。俺だって仕事をしているし、四六時中ゲームをしているわけにもいかない。

 俺の仕事は小説家だ。今どき流行らないような古めかしい純文学ばかり書いているものだから、はっきりいってあんまり売れてはいない。

 それでもただ純粋に書くことが好きで、それが今のところは許されているから続けている。

 仕事は執筆して、それをメールに添付して送るのがほとんどだから家を出ることもない。それが一層出不精を加速させていき、今ではほとんどの時間を部屋着で過ごしている。

 ……見栄を張った。部屋着じゃない、パジャマだ。

 それにしてもさっきのゲームの中での出来事は不思議だ。バグと言ってしまえばそれまでなのだが、そんなの聞いたことがない。

 「大剣しか使えない盗賊」なんていかにも小説のネタになりそうなものだけど、俺にそれを書くのは無理だ。なんせ俺は純文学の作家だから。



 それから三時間ほどは集中して執筆に取り組めた。話が面白いかどうかは作者の俺にはよく分からないが、とりあえず編集者に送った。

 よし、またあのゲームをしてやろう。今なら時間が経ったし、バグについても何かしら進展があっただろう。俺はまたゲームにログインした。

 ゲームの個人宛のお知らせ欄に新着があった。見てみると、「職業と装備のバグについて」と題。

 ああよかった。ようやく謎すぎる縛りが終わるのだとそのメールを開いた。

「Lotus様
プライムフロンティアをプレイしていただきありがとうございます。運営が確認したところ、あなたには職業で盗賊を選んだにもかかわらず大剣しか装備不可能になってしまうバグが確認されました。」

そうだろう、そうだろう。ようやく解放されそうだ。

「運営としては直ちにこのバグの修正に取り掛かったのですが、どうやらあなたが既に大剣を装備したうえで戦闘を行なったために、修正不可能になってしまいました。」

「な、なんだと!! 」 
 思わず一人で叫んでしまった。しかしなんなんだこれは。そんなのアリかよ。じゃあそれって……

「よってお気の毒ながら、あなたはこれから大剣しか装備することができません。お詫びとして運営より10,000ゴールドをプレゼントさせていただきます。」

いやいや、大剣縛りは10,000ゴールドどころじゃないだろ! しかしどうしたものか。これから俺はこのゲーム内で大剣しか装備することができなくなってしまった。

 まあそれで戦士ならまだいい。しかし俺は盗賊だ! さっきプレイしていたときもめちゃくちゃ敬遠されてしまったし、それほど致命的ということだ。

 しかし、それでおとなしくやめてしまうのも気に食わない。一旦始めたんだ。それに、大剣しか使えないんじゃない。盗賊なのに大剣が使えるんだ。そう思い込むことにした。



 ログインすると、ゲームの中も夕暮れになっていた。西日が頬にじんわりと染み込む感覚もしっかりあるから驚いてしまう。

 広場には昼より多くの人がいた。きっとみんな家に帰ってきたんだろうな。

 人が多くなったおかげで俺はより一層の注目を浴びた。広場には戦士だの魔法使いだの僧侶だの武闘家だの狩人だの、実にバライティーに富んだプレイヤーたちでごった返しているというのに、みんな俺ばかりを見る。
 
 だけどやっぱり誰も俺をパーティーに加えてくれそうではない。当分は一人旅になってしまいそう。

 そうだ、武器屋に行くんだった。一回行ってるから迷うことはない。ただ人混みが厄介だ。ただでさえプレイヤーが多いうえに、その全員が武器を背負っているからそれも邪魔だ。まあ、一番デカい武器持ってる俺に言う権利はないだろうか。

 ようやくたどり着いた武器屋も、今度は賑わっている。中に入ると

「おう、いらっしゃい。」

と、またおじさんが迎えてくれた。

 店の従業員は店主のおじさん一人だ。対して客は、あたりまえだがたくさんいる。

 そんな仕様だから仕方ないのかも知れないけど、プレイヤー一人一人に合わせておじさんが分身するのは気味が悪いので絶対どうにかした方がいい。

 俺担当のおじさんは前来たときと同じ通り武器のリストを提示した。俺はもう観念しているので大剣のリストを開いた。

 運営からお詫びで貰った10,000ゴールドを使えばこの店で買えない武器はない。この店にある大剣でもっとも上等な鉄の大剣を選んだ。

 ステータスが更新された。石の大剣よりも数段威力が高いようだ。ただいま攻撃力は124。大剣はもっとも攻撃力が高いので、このあたりが初心者の最大火力だ。

 上がった攻撃力の反面、防御力の低さが目についた。これは結構な問題だ。このまま進んでいけば、強い魔物の強い攻撃をこの身に受けることになる。そうなったときに防御力が低いと致命的。第一めちゃくちゃ痛い。

 善は急げと、武器屋のすぐ近くの防具屋に入った。中にいたのはおばさん。あっちはおじさんで、こっちはおばさんなのか。もしかして夫婦? 

 「あら、いらっしゃい。」

と迎えられて防具のリストを提示された。

 そのリストを見たときに俺は青ざめてしまった。ああ、そうだった、おれは盗賊だ。硬い鎧なんて装備出来ないんだ!!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

Free Emblem On-line

ユキさん
ファンタジー
今の世の中、ゲームと言えばVRゲームが主流であり人々は数多のVRゲームに魅了されていく。そんなVRゲームの中で待望されていたタイトルがβテストを経て、ついに発売されたのだった。 VRMMO『Free Emblem Online』 通称『F.E.O』 自由過ぎることが売りのこのゲームを、「あんちゃんも気に入ると思うよ~。だから…ね? 一緒にやろうぜぃ♪」とのことで、βテスターの妹より一式を渡される。妹より渡された『F.E.O』、仕事もあるが…、「折角だし、やってみるとしようか。」圧倒的な世界に驚きながらも、MMO初心者である男が自由気ままに『F.E.O』を楽しむ。 ソロでユニークモンスターを討伐、武器防具やアイテムも他の追随を許さない、それでいてPCよりもNPCと仲が良い変わり者。 そんな強面悪党顔の初心者が冒険や生産においてその名を轟かし、本人の知らぬ間に世界を引っ張る存在となっていく。 なろうにも投稿してあります。だいぶ前の未完ですがね。

VRゲームでも身体は動かしたくない。

姫野 佑
SF
多種多様な武器やスキル、様々な【称号】が存在するが職業という概念が存在しない<Imperial Of Egg>。 古き良きPCゲームとして稼働していた<Imperial Of Egg>もいよいよ完全没入型VRMMO化されることになった。 身体をなるべく動かしたくないと考えている岡田智恵理は<Imperial Of Egg>がVRゲームになるという発表を聞いて気落ちしていた。 しかしゲーム内の親友との会話で落ち着きを取り戻し、<Imperial Of Egg>にログインする。 当作品は小説家になろう様で連載しております。 章が完結次第、一日一話投稿致します。

【完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。

鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。 鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。 まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。

沢山寝たい少女のVRMMORPG〜武器と防具は枕とパジャマ?!〜

雪雪ノ雪
ファンタジー
世界初のフルダイブ型のVRゲーム『Second World Online』通称SWO。 剣と魔法の世界で冒険をするVRMMORPGだ。 このゲームの1番の特徴は『ゲーム内での3時間は現実世界の1時間である』というもの。 これを知った少女、明日香 睡月(あすか すいげつ)は 「このゲームをやれば沢山寝れる!!」 と言いこのゲームを始める。 ゲームを始めてすぐ、ある問題点に気づく。 「お金がないと、宿に泊まれない!!ベットで寝れない!!....敷布団でもいいけど」 何とかお金を稼ぐ方法を考えた明日香がとった行動は 「そうだ!!寝ながら戦えばお金も経験値も入って一石三鳥!!」 武器は枕で防具はパジャマ!!少女のVRMMORPGの旅が今始まる!! ..........寝ながら。

神速の冒険者〜ステータス素早さ全振りで無双する〜

FREE
ファンタジー
Glavo kaj Magio 通称、【GKM】 これは日本が初めて開発したフルダイブ型のVRMMORPGだ。 世界最大規模の世界、正確な動作、どれを取ってもトップレベルのゲームである。 その中でも圧倒的人気な理由がステータスを自分で決めれるところだ。 この物語の主人公[速水 光]は陸上部のエースだったが車との交通事故により引退を余儀なくされる。 その時このゲームと出会い、ステータスがモノを言うこの世界で【素早さ】に全てのポイントを使うことを決心する…

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

【完結】VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました

鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。 だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。 チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。 2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。 そこから怒涛の快進撃で最強になりました。 鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。 ※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。 その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。

【14万PV感謝!!】異世界で配合屋始めたら思いのほか需要がありました! 〜魔物の配合が世界を変える〜

中島菘
ファンタジー
 電車で刺された男・タイセイは気づけば魔物が人間と共に堂々と道の真ん中を闊歩するような異世界にいた。身分も何もかもない状態になってしまい、途方に暮れる彼だったが、偶然取り組み始めた配合による小魚の新種の作成を始めた。  配合というアイデアは、画期的なアイデアで、ある日彼が転生した大都市ホルンメランの美少女首長がそれに目をつけ、タイセイを呼び出す。  彼女との出会いをきっかけとして、タイセイの異世界生活は大きく動き出しはじめた!   やがてタイセイの数奇な運命は異世界全体を巻き込んでいく……

処理中です...