【完結】サトリ様と花謡いの巫女の手習い〜奪われ虐げられた私は伝説の巫女様でした〜

日月ゆの

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 紫生との初対面を終えた茜はどこか心が浮足立つのを感じながら、摘んだ花を手に帰路へつく。あの不思議な出会いが胸に残り、足取りが自然と軽くなる。

 裏山の藪を抜けた頃には、空が茜色に染まり、夕暮れの柔らかい光が茜の肩に静かに降り注いでいた。

 里に着いた茜は砂利道を歩き家を目指す。そんな茜の行く手に豪奢な蒔絵が目を引く駕籠かごを認めた。

 この里で駕籠かごに乗るような御方は巫女様のみ。
 茜は条件反射のように端に寄り、花を潰さない様に横によけるとその場に跪いた。

 いつもであれば数分も平身低頭していれば、担ぎ手の掛け声や足あとが去って行くはずなのに、何故か近づいてきている。
 耳の奥に打擲される音が蘇り、茜はひやりと背筋を震わせた。
 茜はその恐怖に押しつぶされるように、額を地面に押し付け、さらに伏した。
 心臓の鼓動は耳をつんざくように激しく、恐ろしく早く響いた。
 それでも近づく不穏な音は去っていかない。
 ついにそのものものしい音は茜の目の前で止まり、人影が差す。
 さぁ、と血の気が引いた。

 ◇◇◇◇

「花はどうやって手に入れたんだよッ?!」
「……っ」

 あの後、茜は里の男衆に捕らえられ、折檻を受ける小さな土蔵へ放り込まれた。

 弁明の言葉も出せない茜はいつものように竹を裂いて作った棒で背中を打たれる。

 ひゅっという鋭く空気を切る音がし、背中に鋭い衝撃が走り、いつもの痛みが茜を襲う。

 抗う意思など持たない茜は嫌というほど足と背中を殴られるのなら、せめて頭を守ろうと痛みを堪えながら蹲る。

 彼らはいくら責め立てようが茜が反論出来ないことなどわかりきっているはずだ。
 それなのに、彼らはただの見せしめのために無駄に時間をかけて茜を痛めつける。
 巫女様に逆らうなどという愚かな行為をするな、と質の悪い戯れのような折檻を続ける。
 
 守るように頭を抱えた腕の隙間から茜は提灯の光が揺れる薄暗い土蔵へ目を凝らして探す。母親や父親がいないか。

 今日の折檻は母や父には知られずに済みそうだ。だったら、いいか。

 ぼろぼろになるまで叩かれ、傷つけられようが殺されることはない。

 いつものように痛みに気を失った茜をご丁寧に母たちの家へ送り返すこの人たちも大変だ。 

 それにどうせ茜の声や気持ちはここの人たちには伝わりっこない。

 心の中で何度も何度も謝罪をしたのにやめてくれなかった。

 だからある日、もうこれ以上謝罪しても何も変わらない、無駄だと、茜は心の中で決意したのだ。
 彼らには、どれほど謝っても届かないことを痛いほど理解したから。
 

 やがて、痛みが蓄積し茜の身体を支配し、意識が遠のきそうそうになる。どこか現実味がなくて、自分が今打たれていることすら曖昧になりかけたとき。
 突然、茜を打つ手がピタっと止まる。打っていた男が焦る声を上げた。
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