【完結】ラスボスヤンデレ悪役令息(仮)に転生。皆に執着溺愛され過ぎて世界滅亡エンドの危機です

日月ゆの

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最後の18歳

61.最後の始まり

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 目が覚めたら全く知らない部屋だ。
 陽射しが入り込み明るいから、辛うじて昼間だというのはわかる。

 絢爛豪華なこの部屋の天井はとても高く、見つめているだけで真上へ吸い込まれてしまいそう。
 静か過ぎるからか、自分の身体がべっとりと嫌な汗で湿っていることに安心してしまう。

 ああ。僕はまだ生きている。

 その事を理解した途端、急に身体の節々に軋みというのか違和感を感じた。
 試しに指先を曲げてみようと力を入れると、情けないほど頼りなくピク、と指先が動く。
 砂嵐がざーっと通り過ぎるように、ノイズ混じりの音が耳へ入り込んだ。

「ラズ様?! あ、あ」

 至近距離にエリアスのお顔だ。たぶん。
 だって、顔中べしょべしょで知らない人みたいな表情をしているの。
 知り合いのお顔が見え、知らない場所にいる不安が僅かに和らいだ。

「目覚め、られたんですね?!」
「……う……ん」

 聞かれても、見たままだしさ。
 加えて、喉がガサガサし、枯れ葉を踏み潰したみたいなしゃがれ声しか出ない。

「……起こせ。エル」
「?!」
「……エル? 早くしろ」

 必死に声を出して伝えたのに、エリアスの琥珀色が揺れただけ。
 時が止まったように動きを止めたエリアス。

 訝しげに名前を再度呼ぶけど、彼の形の良い唇は震え、噛み締められるだけだ。
 常日ごろ、従者として完璧な彼がこれほど取り乱すのは珍しい。
 俄に信じ難いものを見たような反応だ。

 ⸺あぁ。の僕の言い方では無かったね。

「ねえ、エリアス。起こしてよ。あと、喉が痛いからお水を飲みたいな」
「……ッかしこまりました」

 言い直すと、エリアスは勢い良くガバッと頭を下げる。
 すぐさま僕の背中に腕を差し入れ、体を軽々起してくれた。
 背中にクッションを置かれ、ヘッドボードに寄りかかる。

 エリアスは、僕の顔をまじまじと見つめる。
 ふと目が合うと、なぜか再び顔を歪ませ勢い良く頭を下げた。

 そして、慌てて水差しからコップに水を入れ、渡すエリアスだ。
 彼の手があからさまに震えているから、コップの液面へ波紋を浮かばせる。

 それだけ、心配させてしまっていたということかな。
 申し訳無さで胸が痛む、なのに彼からの優しさが伝わり嬉しい。
 強張った喉をその水で潤し、ほっと一息つきながら、染み渡る優しさに頬を緩ませた。

「ありがとう。あとでお茶も淹れてよ」
「お茶は」
「エリアスのいつものをちょうだい」
「ッお茶の準備と、お目覚めになったことを聖女様に知らせて参ります!」

 そう言い残すと、エリアスは背を向け部屋から音もなく素早く出ていった。

 背を向く間際、彼の唇がかすかに動くのを見てしまった。

 ⸺前の記憶が、と。

 拾えた言葉はそれだけ。
 まさかエリアスもそう・・なのかな。
 僕はさっき知ったばかりなのにね。
 しかし、なぜの僕に眩しいものを見たような表情を浮かべ、懐かしそうに目を細めたのか。
 前の僕は、エリアスにとってそんな表情を浮かべてもらえる良い主人では無かったと思うんだ。
 最期には、人として最低なあんな命令もしたしさ。

 じゃあ、僕の読み間違いかな。
 いきなりいつもと違う口調で話し掛けられ、『記憶喪失』を疑っただけなのかも。

 本当は記憶を取り戻した・・・・・んだけどね。

 起きた時には、最初から覚えていたみたいに違和感無く前の記憶が戻っていた。
 【時の真実(Ⅱ)】の報酬ということなのか。

 ふう、と自分を落ち着かせるために深呼吸を繰り返す。

 なんとも不思議な気分だ。

 僕はずっと『ラズ・クレイドル』だったんだ。

 闇落ちラスボスになった後、『日本』に転生し、巻き戻って今に至る。
 あのウインドウの指示については全く不明だけど、新しく解放されたスキルが【贖罪】とはわかりやすい。

 ⸺僕が巻き戻った意味は【贖罪】だ。

 でも、神様は僕になにをさせたいんだ。神様の心の内がまったく読めない。
 わざわざ神託を降し、僕を聖女に選んだこともそうだ。
 あんなに慈愛溢れた顔をしたくせに『色無し』の僕を聖女に選ぶなんて、皮肉が効きすぎだ。
 無理矢理布教するヲタみたいな、惜しみない熱が迸る厄介な圧だよね。
 神様のド性癖が『白髪』なのを確信したけど。
 くそう。悔しいけど、自分が『白髪』で、見た目だけでも好かれて嬉しいと思ってしまう。

 「……神様」

 ⸺しんみりしていてもしょうがないよね。

 
 暗い気持ちを頭から追い出すように、頭をプルプル数回横に振る。
 力が入らない手でペチペチ、と両頬を叩き、気持ちを切り替える。

 ひとまず、冷静になった頭で、現状把握のためにも今いる部屋内をぐるりと見渡す。

 壁一面を埋める、天井まで続く大きな格子窓。
 広い部屋の床や高い天井など隅々まで美麗な細工が施されている。
 それに、僕が寝ていた、4~5人の大人が楽に横になれるくらいの巨大なベッド。

 王宮で倒れた時に運ばれたお部屋よりも比べようもないくらい豪奢だ。
 知るのが恐いくらい、煌びやか過ぎるお部屋。

 まずは、ここはどこなんだろうか。

 とりあえずこの恐ろしいお部屋や神託の件をおじさまに確認し、あとは……

 ドアからノック音がし、エリアスが戻ったのかと思い「入って良いよ」と返事をした。


 でも、エリアスを従え入って来た人物が、大事そうに持って来たものを視界へ映した瞬間。

「くそったれ」

 腹の底からこみ上げる自分では度し難い憤りと困惑に、呻くように口の中で悪態をついた。

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