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兆す15歳→16歳
59.藤色へ染まる空に浮かぶ兆し
しおりを挟む「ふぎゃゅっ」
自分の唇から漏れたとは思えない奇声を上げ、僕は衝撃で思わず口元を手で覆った。
肌色成分しかない目の前の光景。
魔物に食べられた多くの少年たちが、べしょべしょの粘液にまみれ全裸の姿だったのだ。
しかも、僕を囲むように地面へ意識を失ったまま倒れている。
完全にR18えろ展開かつ事後。
魔物に食べられ五体満足なのは喜ばしいことだけれど、この惨状は居た堪れない。
地面にぐったりと横たわる彼らや未だに周囲に漂う瘴気に苦しむ他の生徒たち。
「はぁ、はぁ、ラズ?!」
「ラッズ様!」
アッシュとエリアスが僕のもとへ、足取りがよろよろとおぼつかないながらも駆け寄る。
アッシュやエリアスも制服は煤焦げていたり、粘液で溶かされていたりと、いつの間にか満身創痍だ。
未だにドドメ色の瘴気は辺りに濃く満ちている。
彼らは息をするのもの苦しそうに喘いで呼吸をしているくらいだ。
衣服が乱れて鎖骨や鍛えられた腹筋を晒しているアッシュとエリアス。
事後ではないけれど、肌色多め具合もあいまり妙に艶っぽく聞こえてしまう。
魔物を討伐しただけでは、まだR18えろ展開は終わりじゃない。
その事をはっきりとわからせられた。
さて、ここからはラスボスじゃなくて、『聖爵家』嫡男である「ラズ・クレイドル」のお仕事だ。
R18えろ展開の手強さを実感しながら、僕は体の奥底から辛うじて残っている『聖力』を引きずり出した。
純白に変化させた聖力を両手の平に熱を伴うくらい凝縮させた。
そして、僕は藤色へ染まり始めた空に両手を掲げる。
「全年齢へ戻れ」
聖力が手の平から空へ向かい、くるくる螺旋の軌跡を描きながらゆっくり上昇する。
純白光の聖力は段々と輝きが増し、細かな光の粒になって上空で溢れ出した。
真っ白な光の粒は空から次々ひらひらと落ちていく。
藤色の空から、白い花びらが風にそよぎふわふわ舞うように広がっていく純白の聖力のかけら。
満開にしだれ咲く紫藤と可憐に咲くすずらんを思わせる神秘的で美しい光景。
思わず見惚れ言葉を失った。
アッシュやエリアスはじめ皆にも、ほのかに純白へ輝く花びらが見えているみたい。
純白のかけらが自身の体へ触れた途端、雪のように溶けていくさまを目を見開きながら呆然と凝視している。
瘴気が吹き溜まりドドメ色に霞んでいた空気は、白い花びらに弾かれるように浄化されていく。
おかげさまでドドメ色へ霞む僕の視界が真っ白に透き通り晴れていった。
瘴気により地面に伏していた生徒たちは回復し、よろめきながらも立ち上がる。
全裸少年たちの服さえ再生している。
よし。もれなく衣服を皆が乱れなく着用しているな。
これこそがあるべき姿だ。
清く正しく美しい全年齢仕様に戻せたな!
妖しい空気が霧散したことにほっと胸を撫で下ろした時だった。
「い、色無し?!」
「え?」
「なんでここに?!」
囲む生徒の1人が、僕を指差し驚嘆の声を大きく上げた。
その声にザッと鋭い視線が僕の頭に集まる。
あ。もしかして戦闘の際にかつらが吹っ飛んだのか。
肩に流れる見慣れた白髪を見て理解した。
彼の声を呼び水に、周囲の空気が一変する。
「なぁ。『色無し』のせいじゃないのか?! あんな魔物が出現したのは!」
「あ! こいつめがけて魔物が向かっていくのを見た!」
「じゃあやっぱり、こいつが原因?」
ざわめきが波のように広がり、つられたように口々に飛び交い出す憶測まじりの言葉。
直ぐに敵意を宿した視線を僕に向けだす周りの生徒たち。
「『色無し』のせいならさっさとどっかにいけよ!」
「お前のせいで俺達殺されそうだったんだぞ!」
「化物みたいなのは見た目だけじゃなくて、本当に化物だったんだな」
悪意に満ちた殺伐とした空気に僕は、カタカタ小さく震える唇を噛みしめる。
断罪劇とは違うはずなのに、やっぱり怖くて。
自分に向けられる憎悪の視線から逃げるように、自然と顔が下がる。
すると、不意に肩と背中に大きな手が置かれる。
2つの大きな手から伝わる優しい温もりが、恐怖でつま先まで冷え切っていた体へ染み込んでいく。
「ラズ。顔上げろ」
「そうですよ。ラズ様は全く関係ありません」
2人ともの声が地を這うように低い。
そして、纏う空気が氷点下。
僕のためにこんなにも怒りを顕にしてくれるなんて嬉しい。
彼らからの頼もしい叱咤に、自分を鼓舞し、逸る心臓を感じながらゆっくりと顔を上げた。
「愚かだな」
「同感だ。至聖の聖女様になんたる無礼……。はぁぁ。やっぱり生制服ラズくん可愛いぃ」
「父上。仮面、剥がれていますよ」
「…………ラズ」
突然、尋常でない数の足音とともに、決して大きくはないけど響く声が耳朶を打つ。
かなり見知った声だけれど、ここへ揃うのはありえない人たちだ。
嫌な予感を感じつつ、その美麗かつ高貴な集団が近づいてくるのを呆然と見守る。
僕に罵声を浴びせ興奮していた生徒たちは落ち着き、みるみるうちにお顔が真っ青になっていく。
それもそのはずだ。
聖女しか許されない漆黒のローブをたなびかせたおじさまを先頭に、ピカピカな贅を凝らした衣装に身を包む国王陛下。
陛下は、必死にざかざか足を動かしておじさまを追い抜こうとし、器用に表情はデロデロに緩んでいるけど。
次いで、呆れた表情のレオと眉間にシワが深く刻まれたほぼ魔王状態お父様。
なぜかお父様の後ろには顔色が悪いイヴまで続く。
しかも、聖騎士さまや近衛騎士まで数十人追従しているものだから、かなりの大人数。
な、なにごと?! ゲルマン民族大移動?!
アッシュやエリアスに恐る恐る視線で問う。
彼らもわからないみたいで青白い顔をしながら首を横に勢い良く振る。
やがて、式典でしか見られないであろう、やんごとない身分だらけ集団は僕の目の前で一斉に足を止める。
全員が緊張を漲らせ僕をまっすぐ見つめる中、聖女様であるおじさまは僕へと微笑みかけた。
おじさまのたおやかな微笑みに憐憫を含むような気がして、僕はわからずも、ちくん、と胸が痛む。
これ以上ここにいたくない、と思うほど不気味な静寂と緊張が支配していた。
僕を見据えたまま、ローブを翻しながら1歩前に出た聖女様は流れるように跪く。
それに倣い後ろに控えた全員、陛下さえも同様に膝を折った。
「先刻、創世神様より神託がくだされました。神託により選ばれた今代の聖女様である『ラズ・クレイドル』様を、先代の聖女『ステア・クレイドル』がお迎えに参りました」
「……………」
おじさまの今まで聞いたことがない強張った声が荘厳に響く。
言われた内容を理解できないまま、おじさまは眼差しの力を強めながら言葉を連ねる。
「聖女様には、魔物の討伐および負傷者の完全なる治癒という慈愛にあふれる恩恵を賜り、心から感謝の念に耐えません。また、無礼かつ愚かしい言葉にてお耳を汚してしまい、誠に申し訳ございませんでした!」
そう言い終わるとおじさまは両膝を付き恭しく平伏する。
先ほどと同じように陛下率いる高貴な集団も、地面へ額をこすりつけるか如く音もなく深く頭を垂れた。
神託で聖女に選ばれたと告げられ、国で一番偉いはずの陛下に平伏された。
受け入れたくない事実から逃げるように高級つむじ集団の背後へ目を向ける。
見上げた深い藤色の空には、満ちた2つの月が白銀光に輝くはず。
けど、2つの月のもう1つがドドメ色のおぞましいもやへ侵食され浮かんでいた。
瞬間、全身からざーっと血の気が引いていき、漆黒に包み込まれたように僕はくらりと意識を手放した。
ピコンッ!
『Lv4《ボーナスステージ》をクリアしました!』
『クリア報酬【時の真実(Ⅱ)】を解放、獲得しました!』
『次回も『清く正しく美しいヤンデレ』を目指して頑張りましょう!』
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