【完結】ラスボスヤンデレ悪役令息(仮)に転生。皆に執着溺愛され過ぎて世界滅亡エンドの危機です

日月ゆの

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兆す15歳→16歳

48.学院訪問ツアーへ行こう 1

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「いやー! 今日はねっ! 良い天気だよっ! 雲の形も空が青いのも素晴らしい! 絶好の学院見学日和だー」
「ラズ様」

 目の前には寮から王立学院まで続く広い1本道。
 等間隔に植えられたきれいに選定された木々。
 まだらに当たる朝日の葉陰はエメラルドグリーン。その色はアッシュの瞳の色を彷彿とさせる。
 足元には道を華やかに彩るよう計算された多色の花が咲き誇っていた。

 あ、あれ。レオと一緒に植えた白とピンクのデルフィニウム! ふふふ、一緒だー。
 うーん。流石に今の季節が見頃な藤はここには咲いていないかなー。

 今回、学院の制服をきっちり着用した僕とエリアスはてくてくご機嫌に歩いています。
 馬車で正門まで乗り付けても良いけど、それだと仰々しいからさ。
 レオたちと待ち合わせている正門までエリアスと歩くことにしたんだ。
 あ、ちなみに、僕はかつらと眼鏡もちゃんとつけているよ。

 あのウインドウの指示を実行するために、お父様に再び例の方法で頼み込み、1日学院見学を取り付けました!
 意外とあっさり了承してくれてさ、とっても不思議だったんだ。
 あっさりというか、前のめりに了承してくれた理由が、この学院の制服姿を見せた時に⸺

「……ラズ様」

 なんともど低いテノールに再び呼ばれた僕は、思考を停止し声の主エリアスへ顔を向ける。

「ん? 大丈夫だよ! エリアスも学生に見えなくも……ぶふ」

 視線を向けた先のあまりの光景に思わず笑いが漏れた。
 エリアスは、濃紺ジャケットとクレストストライプのネクタイが特徴である王立学園の制服を着こなしていた。
 しかし、その上に乗っている端正なお顔が大層不機嫌に歪んでいる。

「……私の制服姿は誰も得しないと思います」
「あ、あー。……エリアスとお揃いの制服を着れて僕は嬉しいよっ」
「……左様ですか」

 僕が顔を覗き込みながら言うと、エリアスは顔を背けた。
 今日は制服姿なのに手袋をしている手で口元を隠しているけど、頬が赤いかも。
 僕は、エリアスの実年齢を知っているから、正直に言うと学生に見れない。
 だが、僕達の横を通り過ぎる他の学生の子は「誰? あのきれいな子?」とコソコソ囁きあっているから大丈夫なはずだ!

 ごほん、とエリアスが気を取り直すように咳払いをする。

「ところでラズ様は何を怖がっておられるのですか?」
「……は?」

 よくわからない。エリアスの言う言葉が脳を上滑りし、理解不能。
 じっと僕の表情を捉える琥珀色は至って冷静だ。
 ご自覚がないかもしれませんが、と前置きをするエリアス。

「母君の形見の懐中時計は壊れておりませんし、ラズ様の上着の右ポケットに現在必ずあります。また、本日の昼食は公爵家の料理人手製の弁当を殿下たちと学院内のサロンで召し上がる予定です。食堂に赴く予定は全くございません」
「う……ん?」
「何度も私に確認されずとも、これは覆りませんし、私が覆させません」

 力強く声に力を込めエリアスはきっぱりと言い切った。
 その表情は真剣そのもので鬼気迫る迫力がある。

 なぜ、バレてしまったのだろう。心臓が嫌な音を立て始める。
 無意識にポケットの中の懐中時計を確かめるように握りしめた。
 懐中時計の金属特有の硬い感触に、ほんの少しだけ心臓が落ち着く。

 ポケットに注がれる視線。
 迫力満点な視線に向け、大丈夫だよ、といつものように口角を引き上げた。

「あ、笑顔で誤魔化そうとされても、ラズ様を知る者は必ずわかります。婚約者候補殿下たちさえ、です」
「な、に言っ」

 笑顔になりかけた口元がヒク、と強ばり動かない。

「ラズ様は最も辛い時こそ、周囲に悟らせないため無理矢理笑いますから。さらに、昨晩はゆっくり休まれていませんよね」

 なにかを言い訳しなければならないのに、ひゅん、と変な息しか漏らせない。
 断定的な物言いするエリアスは真っ直ぐ僕を見続けた。

「ラズ様がそれほど無理をされてまで学院に来た理由は私にはわかりません」

 言いようのない気持ちに襲われ、動けないで固まる僕にエリアスは一歩近づく。

「ですが、私はラズ様のご命令とあれば、この学院の全生徒を処しましょう。あなたが果たしたい、成したいことの憂いはすべて私が取り除きますので、ご安心ください」

 そう言って、エリアスは左胸に手をあて、深々と頭を下げた。
 彼がかしずくように頭を下げると、僕達に周囲の視線がざっと集中する。
 エリアスの指先までも非の打ち所が無い美しい礼に、彼からの絶対的な覚悟が透けてみえる。
 専属従者の場所を選ばない心強い激励。
 最近知った従者の重過ぎる忠誠心に嬉しさで胸がいっぱいになる。

「ありがとう。がんばるよ」

 僕は心から笑みを浮かべ、「物騒なことと、目立つことしないでね」と従者に早速命令した。

 
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