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兆す15歳→16歳
40.地獄は案外簡単に収束する
しおりを挟む「イヴさま。床に散らばった髪の毛も使用されますか?」
「そうだね。とりあえず拾っておいて。せっかく切ったんなら最大限有効利用しようか」
場にそぐわない、イヴとエリアスの平然とした事務的な会話。
テキパキとエリアスが他の使用人に指示を出す。部屋に入室した使用人の顔色が悪い。
使用人たちが時折僕に視線を送るが、取り乱している僕はそれどころではない。
いつの間にか床に散らばる毛や僕の体に纏わりついた毛すら、エリアスが風魔法で瞬時に集めてしまった。
イヴなんて全く気にせず。
指先までスキがない仕草で、お茶を飲みながら書類に再び視線を滑らせている。
彼が顔を動かす度に、肩先で揺れる歪な切り口になってしまった濃紺の美しい髪の毛。
「イヴ!めっ!」
「へっ?!ラズ?!」
やっと状況を理解した僕は衝動のままにイヴに広くなってしまった肩に抱きつく。
髪の毛に手をかざし、自分の聖力をイヴの聖力の色である『濃紺』へ瞬時に変化させながら流した。
光り出した濃紺の髪。
瞬く間に、背中一杯に溢れるように艷やかな髪の毛が広がった。
「えっ?!なんで治せるの?!」
イヴは元通りになった髪の毛を信じられないとばかりに触れた。
キラキラ艶めいた濃紺色の髪の毛は鏡のようにきれい。僕は美しい髪の毛を指で梳く。
言葉足らずな僕は、せっかちな弟にこんなきれいな宝物を切らせてしまった。
小さい頃から大切にしていたこの髪を。
「イヴ。僕はやりたい事があって、敢えて学院に行かないの。色無しなのは、ほんの一部の理由。わかった?」
「うっ、はい。やりたいこと?」
「うん。最近魔物の動きが活発でしょ。街中の治療院にさえ怪我人が溢れているくらい」
「ま、まさか?」
「学院に行かない代わりに、僕は街中の治療院に奉仕活動に行きたいんだ。もうお父様の許可も出てる」
やっぱりラズは天使では?、とぼんやり呟くイヴ。
大袈裟過ぎる弟に苦笑いで背中をぽん叩き、ソファーに腰掛けようと立ち上がる。
「ラズ……、なぜ治せたんだ?」
疑問の声を上げたアッシュに立てた人差し指を唇にそっと当て、しー、とする。
アッシュが何故かお顔を真っ赤にして、鼻をおさえた。
【聖女のカケラ】スキルで聖力の色を変化させ、クレイドルの人間まで癒せるようになったのは秘密だ。
今は自由自在に色を変化させ、聖力の色にも特性があることを実証実験中。
聖力の質に関しても、同様だ。
このスキルを高める為にも、僕は奉仕活動に行きたいんだ。
清く正しく美しく、ある為に。
呆然とする皆に、学院に行かない間の僕がしたい事を説明することに。
なにが引っかかったか不明な3人は、エリアスと奉仕活動に行くという点が特に気になるようだった。
「ラズ様とご当主様たっての希望で私が選ばれました」と珍しくドヤ顔のエリアスが言い放ったことも原因だ。
謎に不信感を募らせた婚約者候補とイヴ。
そっと耳打ちしてきたレオが言った言葉が本当に良くわからない。
「ラズも護身用のナイフは肌見離さず持っているよな?身近に敵はいるからね」
王族としての心構えだろうか。耳打ちした時の声が凄まじい気迫が込められていたよ。
表情はいつものきらきら王子様スマイルなのに。
それだけ市井は危険ってことなのかもな。
レオは公務で国内の色々な場所を見て回っているから、治安の悪さも詳しいだろうしね。
心配症の婚約者候補の優しさに、ほっこりしているうちにお茶会はお開きになった。
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