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成長期の12才
37. 闇落ちラスボスで『ざまあ』はタスク過多です
しおりを挟む「うわぁああああ」
ばっと目を開けた僕は心のままに叫んだ。
「ど、どうしましった?! ラズさま?!」
扉が音をさせて乱暴に開き、エリアスが秒で飛びこんできた。そう、秒で。
光の加減で虹色に変わるひらひらした衣を幾重にも重ねた天蓋布が僕の目には映る。
あぁ。この趣味の悪い乙女チックな天蓋は、確かに僕のベッドだ。
おじさまに誕生日プレゼントにいただき、寝るだけだけだからと放置しているやつだ。
頭にあたるふんわりとしたベッドの感触。
現実に戻された、と無意識にほっとし、小さく息を吐いた。
全身じっとりと冷や汗で湿り、首筋には汗が滴っている。
汗で濡れた気持ちの悪いパジャマが、少し冷えていた。
長い時間、うなされていたのかもしれないな。
濡れたパジャマが肌に張り付き、不快。
このまま起きてしまって、着替ようかな。
ベッドからゆっくりと起き上がると、視界には静かにベッドの脇に控えるエリアス。
青白い顔をして、せっせと手袋をはめている。
珍しいな。いつもは服装は完璧に着てくるのにさ。
いや、それだけ余裕ないくらい僕の絶叫がよろしくなかったのか。
「エリアス。着替……」
ベッドから降りようと足を動かす。ぽとり、懐中時計が膝から落ちた。
朝日を浴び、黄金色がまばゆい懐中時計。
その秒針は音を立てながら、正確に時を刻み続けている。
どういうことなの。
断罪イベントでは、僕は子供の時に失くしたと言っていた。
現実は、お父様にいただいてから、失うことなく今もしっかりと僕の手の中にある。
心に留めておくのも躊躇う、陽光の揺らめきくらいすぐに忘れてしまいそうな些細な違いだ。
でも、テンプレならば『バタフライ・エフェクト』の効果も期待出来る。
『非常に小さな出来事が、最終的に予想もしていなかったような大きな出来事につながる』というアレ。
『断罪』や『闇落ちラスボス』となる未来は絶対にくるものではないのかな。
これまで神様から『指示』、【報酬】を必死にゲームのようにクリアしていたけど。
神様からのウインドウ指示を続けていれば、悪役令息(仮)『闇落ち』からのラスボスにはならない可能性。
ラスボス未来と一見関係なさそうに見せている、神様のつかみどころの無いキャラ。
ところが、あの時は確かに違った。
僕に問いかけた瞬間、底が知れない瞳に懇願の色を見せた。
なにを神様は僕に願ったのか。
『闇落ちラスボス』に僕をさせたくない、と願ってくれたと思いたい。
神様は、あえて目的が見えづらいように、ワザと複雑に絡み合わせている……のかも。
それに、ウインドウの指示どおり行動しながらのテンプレ断罪後に自力で『ざまあ』は僕には荷が勝ちすぎる。
僕はマルチタスクで器用な質でないから、タスク過多で処理落ちしてしまうよ。
断罪され闇落ちしないために、懐中時計とにらみ合いっこをしながら、うーんと考えてみた。
あ! 断罪されないために、学校に行かなければいいんだ!
そうだよ。そうしたら、あの学院の食堂に足を踏み入れなければ、テンプレ断罪イベントも起こらないしね!
幸いお勉強については、日本の義務教育のおかげで僕は問題ないしさ。
あ、でもこの国では学院を卒業することが、大人への第一歩とされてるんだった。
成人の儀式を受けるのに学院の卒業資格が必要なんだよね。特に貴族は。
じゃあ、公爵家の権力とコネを総動員して、飛び級で早期卒業でもしよう。
あとは『悪役令息(仮)は義弟いじめがちあるある』対策だ。
テンプレだと義弟であるイヴと仲良くするんだけれど、もうすでにとっても仲が良いと自負がある。
一緒のベッドで寝たりもするくらいだ。あとは、一緒にしたことないのはお風呂くらい?
うん。お風呂に入ることで、僕は敵意はありませんと文字通りヌキ身でアピールしよう。
なーんだ。ラスボスにならないようにまだまだ沢山出来ることがあった。
懐中時計を直せたのも、この【時の真実の(Ⅰ)】で未来を教えてくれたのも神様だ。
神様はやっぱり僕がラスボスにならないようにアレをさせているのかも。
いつの間にか無様にカタカタ小刻みに震える懐中時計を持つ手。
未だにあの断罪イベントの悪意に満ちた空気に晒された恐怖が僅かに残っている。
でも、最後に神様のあまりに優しい声。
確かに僕を大事に想ってくれていた声。
寂しくも甘く耳に残る声。
「ラズはきれいだよ。もっと自信を持て。これからも頑張れよ」
頑張るよ。神様。
神様の最後の笑顔を思い出しただけで、なぜだか胸の奥がぐっと締め付けられる。
まさか、これも神様のご利益? なにかを忘れている気が……。
「ラズさまっ!」
「えっ?!」
何故か焦った声と一緒にエリアスのお顔。
無表情の整ったお顔が突然、至近距離にぬっと出現だ。
「何度お呼びしてもお返事がありませんでした。お着替えはされますか?」
あ、珍しく眉尻を下げた表情で覗き込みながら、気遣うような声をだすエリアス。
悪役令息(仮)対策を真剣に考えていたから、心配させてしまった。
あの絶叫を聞いたあとでは、余計にだよね。
大丈夫、ニコとエリアスに笑いかける。
「失礼します」
エリアスが何かに気づき、手を伸ばす。
スローモーションで近づく手の行き先。
刹那
パシンっとエリアスの手を振り払った。
「あ、あの。な、なに?!」
自分でも行動に困惑しながら、無意識に額を守るように両手をあて、問いかけた。
何が起こったのかわからないという表情で、目を丸くするエリアス。
弾かれた手をすっと引っ込め、音も無く素早く跪き、頭を下げた。
「お顔が真っ赤になっていたので、額で熱を測ろうとしました。申し訳ございませんでした!」
エリアスの返答に、自分の行動の意味を自覚しボボボっと沸騰したみたいに、また顔に熱があつまる。
同時に額へ鮮やかに蘇る。
冷たくて、とっても柔らかかった唇の感触。
「あぁあぁあ」
神様に額へキスされた!!
思い出してしまったキスの瞬間と感触のせいで、ぎゅうと心臓がありえないほど引き絞られた。
しかも、額の未だに忘れられない感触に何故か甘さがほのかに加わる。
なんでぇ?
その日、僕は1日中額を押さえて過ごし、イヴやエリアスはじめお父様にもかなり心配された。
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