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成長期の12才 

34. 深まる夜 

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「こらーっ! 子供はおいたしちゃだめだろ? はぁ。まじであせったわ……」

 ぱちぱち目を開けたら、目の前には艷やかな黒髪がゆるく乱れたイケメンのお兄さん。
 形の良い涼し気な目元をびっしり埋めるように漆黒のまつげが囲む。
 鼻筋やお顔の輪郭も芸術品のように完璧だ。
 モデルさんでもいいくらいに背も高いし、足も長くてスタイルも良い。
 でも、服装が上下ジャージなのが惜しい。もったいない。
 日本で流行ったダウナー系イケメンさんかな。

 でもこの微妙に残念な感じは既視感がある。

 あ、もしかしてこの人。

「神様?」
「そーですよ。こーんな夜遅くに、ラズくんは何していたのかな?」

 僕の両頬をすらっとした指でむにむにリズミカルに摘まみながら、ジト目で見つめる神様。
 冷たい指にびっくりするけど、痛くはないから手加減してくれている。
 なんで神様はそんなに機嫌がよろしくないの。

「実験してたんだよ。スキルを使って『聖力』で時間を巻き戻せるかってさ」
「…………気付いたのか」

 わかりやすく息を呑んだ神様。
 僕の立てた仮説は大正解だったようだ。

 両頬の手をどけた神様は、低く唸りながら、髪をがしがしかき混ぜた。
 自分を落ち着かせるように、大きなため息を吐く。

 ギイ、と僕が座っていたベッドが軋み、神様が横に腰かける。

 神様が腰掛けた瞬間、僕は神様の背中に腕を伸ばす。
 背中でかろうじて、指同士を重ね合わせることができた。
 やった! 僕も体が大きくなって、背中まで手が回るようになったよ!
 嬉しさでぎゅうぎゅう腕に力を込めていく。

「ら、らずさーん。ど、どうしたぁ?」

 声が上ずる神様は、恐る恐る僕の背中に手を置く。
 ぎこちなさすぎだ。

「あのねっ! 僕は神様のせいで(ハグの)気持ちよさを知っちゃったから、変な癖ができたの。だから責任取って」
「はぁッ?!」
「ハグを神様としたかったの!」
「あー。そういうことネ。おじさん犯罪かましたかと思って焦ったわ」

 しばらくぎゅうぎゅう神様にくっついていたら、体が冷たくなってきた。
 ちらりと神様を見上げると、ん? と優しく微笑むイケメンさんのお顔だ。

「なぁ、ラズ。いつ頃だ?」

 何をと聞かなくてもわかる。『聖力』や『聖魔法』の本当の効果のことだ。
『聖力』または『聖魔法』は傷や怪我を治すんじゃない。
 モノも直せるのも、もちろん。この魔法による効果の一部分にしか過ぎない。

 先程、懐中時計が直る過程で起こった現象が証拠だ。

 秒針が時を戻すように反時計回りに回りだしたことで確信を得た。

『時を戻す魔法』だってことに。

 小石が跡形もなくなったのは、モノが出来る前まで時を戻せば、消失するよね。

 簡単な理屈だ。

 まさかあんなチートな力とは思っていなかった。

「あのね、普通のラノベとかの治癒って病気も癒せるでしょ。でもこの世界の『聖魔法』って怪我だけ。
 しかも、不思議なことに今の傷だけでなく、古傷も一緒にきれいにする。
 でも、生まれつきのホクロやアザは残ったり、再現するからおかしいな、と疑問が浮かんでね。
 治癒の経験をたくさん重ねて、検証したら、元と全く同じものを再生していることに気付いたのは最近だよ」
「で、なんでそこから……」
「今日、スキルを使って治療したら破れたり、血で汚れた服もきれいになったからさ。
 モノにも有効ならと思って、懐中時計を直したんだ。それで⸺」

 懐中時計の実験と小石の実験のお話をしたら、顔が真っ青になった神様がふらふら脱力した。
 僕の肩に頭を埋めている。

「まさかモノ自体が消失するまで時を戻せるなんて思わなかったよ。あの力があれば」
「世界を滅ぼせる、だろ?」

 今度は僕があからさまに息を呑む番だった。
 まさか、神様がこの可能性を肯定するなんて、思っても見なかったから。

 未来の僕がラスボス・・・・になれる力
 僕がこの世界を滅ぼすことができる力

「ラズはどうする?」

 神様が静かに何気なく問いかけた。
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