【完結】ラスボスヤンデレ悪役令息(仮)に転生。皆に執着溺愛され過ぎて世界滅亡エンドの危機です

日月ゆの

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成長期の12才 

32. 藤の花言葉は『決して離れない』

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「聖女様お待ちください! ラズは私レオン・リューグナーと婚約をしています!」
「それはしきたりで仕方なくだろ? しかも、君との婚約は保留中だ。レオン・リューグナー婚約者殿下」
「ですが」
「んー。じゃあアッシュ・ブラッドも婚約者として、私から推薦ということにしようかな」

 人の気持ちというのは時を経ると変わるしね、とレオとイヴくんに視線を転じながら呟くおじさま。

 無意識に視線を転じたおじさまの姿に妙に引っかかりを覚えた。

「聖女さま。時が経とうが、変わらないものも」
「レオン・リューグナー殿下? 私は婚約者との信頼関係ってとても大事だと思いますよ。このように」
「…………っ」

 レオが椅子から立ち上がり、おじさまに訴えかける。
 おじさまはそんなレオをいなすように、テーブル上の僕に出されたカップを手で指した。

 鮮やかな琥珀色の美味しそうな紅茶が、手付かずで残されているカップ。

「仕方がないですよね。ラズは王宮で出された紅茶を飲んで倒れたんですから。可哀想に」

 いや。ただ飲むタイミングが無かっただけだからね。おじさま。
 僕が倒れた原因はあの神様のせいだから、この紅茶に罪はない。
 とりあえずこんな大事にしないでほしいな。わざとらしい口調もさ。
 絶対おじさまも、僕がそんな繊細な神経を持ち合わせていないことを知っているはずなのに。
 なぜ、頑なにレオとの婚約・・・・・・にはいいお顔をしないのか。
 最初は『婚約』自体がダメだと考えたけれど、アッシュとの婚約は認めているからさ。

 今からコレを飲み干したら、先程から肌を突き刺すようなぴりぴりした空気は変わるかな。

「さあ、私の宝物。ラズ・クレイドルは、アッシュ・ブラッドとの婚約はどうしたいんだい?」

 そんな僕の考えを打ち砕くように更に緊迫感を高めてくれたおじさま。
 ソファーから身を乗り出し、にっこり笑顔で聞くおじさまは鬼畜だ。

 僕に注がれるみんなの視線。

 もう、心は決まっている。
 アッシュには、もう何も『諦めない』で欲しい。
 僕が今ラスボスにならない諦めないでいれたのはアッシュのおかげ。
 アッシュが唯一、未だに諦めない『夢』を守りたい。
 あんなくだらなく非道な妨害もされることなく叶えてほしい。
 恩返しとは言えない、僕の自己満足。

 ごめんね。アッシュの気持ちを無視する形でしかその夢を応援してあげられなくて。

 戸惑いに揺れるエメラルドグリーンの瞳。
 その向こうの夏空色の瞳は今にも泣きそうに曇りだしている。あのときのようだ。

 なぜだかその夏空色を見るのが苦しくて。
 胸の苦しさが上がって来たみたいに、喉が詰まる。
 縋るような眼差しに、自然と顔が俯いていく。
 後ろめたさで逃げたみたいだ。

 目の前の大きな節くれだった手を見つめ、なんとか強張る唇を動かす。

「ぼくは……」
「あの! おじさまが推薦しようが、あのお養父様の許可が降りないのではないですか?!」

 イブくんが腕にぎゅうっと絡み付き、答えをねじ伏せるように必死に言いつのる。
 あはは、と至極愉し気に声を上げて笑い出すおじさま。
 何かを理解したようにうん、うんと頷き、「まさかイヴもなのかぁ」、と笑んだまま漏らした。

「イヴ? 忘れないでくれ。俺はジェスター教で唯一の聖女であるステア・クレイドルだよ。俺の言葉はそれだけの意味を持つんだ」

 どこぞの王家が勝手に決めたくだらないしきたりなんかよりもね、とおじさまはソファーにゆっくりと身を沈める。
 そして、芝居がかった仕草で見せつけるように人差し指と親指で自分の服の生地を摘んだ。

 聖女しか着用が許されない黒色のローブを。

「じゃあっ! 本人の意思は? 本人が拒否しても、聖女の発言が優先される強制力があるんですか?」

 イヴくんの当然の疑問に言葉を返さず、おじさまは悠然と唇に笑みを象る。

 それは、紛れもなくジェスター教聖女様『ステア・クレイドル』の微笑み。

 にこやかな笑顔だけで、皆が意味を悟り、空気が重くなる。

 彼に圧倒された僕達をみやり、聖女さまは微笑みを深くし続けた。

「自身の伴侶を選ぶ時さえも有効だよ」

 クレイドルの象徴である、藤の花のようにたおやかで優美な微笑みが怖い。

 今、最も思い出したくないことが頭を掠めた。
 おじさまの奥さまって、筋骨隆々のすっごい大きな方で子爵家の三男さんだったな。
 公爵令息のおじさまとは家柄の釣り合いが全くとれないのに、結婚可能な理由がコレか。
 とっても深い愛は人生の道筋まで変えてしまうってことなんだね。

 凄いな。羨ましいかも。
 そこまで誰かを愛することが出来たなら……

 すると、ゾゾッと背筋に悪寒が走る。

「あはははっ! じゃあ僕は必ず聖女さまになりますっ!」
「い、イヴくん?!」
「ねぇ、ラズも応援してくれますよね?」

 気づくとイブくんが顔同士が触れそうなほど近くにいた。
 彼は手を伸ばすと、僕の頬へするりと手を滑らせる。

 ぎらり、と鋭く重い光が篭もる、宝石のように美しい本紫色の瞳の最奥。
 顔に浮かんだ無邪気な微笑みとは、とてもちぐはぐな印象だ。

 さらに、顔も背けるのは許さないよう頬の手に固定され、声色はどこか強いる響きを含む。

「うん。頑張って。イヴく」

 唇を親指でスリッとやわくなぞられ。

 唇にびり、と走る甘いしびれ。

「イヴ、と」

 へにょりと整った眉尻を下げ、寂しげな表情でねだるように小首を傾げたイヴくん。
 ほのかに掠れた声のせいもあって、とても色っぽい。

 誘われるようにさっき感じた甘い感覚が唇に蘇る。

 見てはいけないものを、見てしまったような気まずさせいで、甘くしびれる唇がぎこちなく呼ぶ。
 

「イ、ヴ」
「はい! 愛していますラズ!」

 本紫の瞳をキラキラさせ、嬉しそうにはにかんだイヴは、僕に抱き着いた。

「あははっは! では、今代の聖女である私からは、ラズ・クレイドルの婚約者候補にアッシュ・ブラッドを推薦。ラズ・クレイドルが成人する歳に、婚約者を選ぶようクレイドル家当主に進言しよう」

 おじさまの至極愉し気な笑い声が部屋中響く。

 沈み込みそうなほど重苦しい静寂の中、聖女さまの無情な宣告。

 これから僕はラスボスにならないようにするだけでなく、婚約者も選ばないといけないみたいです。
 
 アッシュとは婚約者のじゃ無かったの?おじさま?!
 
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