【完結】ラスボスヤンデレ悪役令息(仮)に転生。皆に執着溺愛され過ぎて世界滅亡エンドの危機です

日月ゆの

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成長期の12才 

27. 騎士団さんとクレイドル聖爵家

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「本日は、この部屋に入院している患者を治療していただきたいです」

 薬師さまに案内されたお部屋は、『軽症』の患者さんが入院しているお部屋。
 ずらーっと30台ほどベッドが両端に並んでいる。
 ベッドは今は満杯みたいだ。
 各ベッドに包帯を頭、腕などに巻いた騎士様が横になっている。
 薬師さまが彼らの傍らに献身的に寄り添い、食事をだしたり、薬を飲ませている。

 いつみてもお忙しそうな薬師さまたち。
 30人の患者に対して薬師さまは片手で足りる人数のみ。

 僕達が治癒することで患者さんがへれば、薬師さまの負担も軽くなるから頑張るぞっ!

 僕は気合を入れて案内された患者さんのもとへ。
 ぞろぞろ歩く僕達が珍しいのか、患者さんや薬師さまの居心地の良くない視線を集めながら向かう。

 こちらの方です、と案内された患者さんは、屈強な体の騎士様。
 ガウンのような前合わせの病衣越しにでもわかるハリのある胸筋や、左袖から覗く上腕の筋肉が立派。
 しかし、右の袖はぺちゃんこで、右肩に黒いもやもやが覆っている。
 もやから透ける未だに血の滲む肩に巻かれた包帯。

 血の錆びた鉄のような臭いと、体液のツンとくる独特な刺激臭が近づく度に増し、鼻につく。

 後ろで、レオとイヴくんの息を呑む気配。
 声を出さないだけ上出来だけど、大変よろしくない反応だよ。
 イヴくんたちの表情はみえないが、彼らを律するように僕は口元に笑みを浮かべ、穏やかな声をだす。

「こんにちは。僕はラズ・クレイドルです。本日は治療にきました」

 例のお父様の重い懐中時計を印籠のように手に持ち自己紹介。
 ヴェールを被る不審者を、訝しげに見つめる瞳が大きく見開かれる。

「へっ?! 聖爵家様? うちの子よりもこんなに小さい子が治してくれるのか……」
「はい。今日は、僕の可愛い弟もみているので、頑張ります!」
「ははっ。うちの子みたいなこと言うんだな。うちもな、双子の兄弟がいて仲が良くて……、ほら!」

 示されたのはサイドボードに置かれた写真立て。
 騎士さまとお顔がうり二つな双子の男の子を、幸せいっぱいの笑顔で抱っこしている、かつての彼。
 大切そうに、男の子を一人ずつ腕で抱えている。

 上腕三頭筋が逞しい両腕で。

「もう8歳なのにすぐに抱っこしろってうるさくてな!」
「ふふっ、お父さん大好きなんですね。息子さん」

 衝撃的な事実。息子さん8歳。
 さっき、息子さんより小さいとかいわれたよ?
 気にしない。『聖魔法』は集中力と精神安定していないと上手く発動できないからね。

「そうなんだよ……。今は2人一緒に抱っこは難しいか」

 騎士様は右肩を見つめ、悔しそうにぎこちなく唇を歪める。

「また、抱っこできますよ。僕がその腕、必ず治します」

 静かに言い切った僕は、失礼します、と声を掛け右肩にそっと両手を置く。
 僕は触れなくてもできるけど、普通・・は直接触れて治癒するから、イヴくんの手前ね。

治癒ヒール

 呪文もゆっくり一応唱える。
 本当はもうちょっと長くゴニョゴニョ唱えるけど。
『聖魔法』の聖力を編み上げるように複雑に構築するために必要なんだけど、僕は恥ずかしいし、必要無いからこれだけ。

 患者さんの心の準備を促すために。

 僕の両手から聖力が放出され、黒いもやもやが白銀の光に包まれ、右肩が眩しく発光する。

 瞬く間に袖がみるみる膨らみ、逞しい腕が出現する。

「え?」

 とてもびっくりした様子で目を見開く騎士様。無事再生した腕はほんわり温かい。
 写真に映る元々の彼の腕と全く同じ。特徴的な痣さえも。

 騎士様は信じられないと言わんばかりにぱちぱち瞬きを繰り返す。次第にぽろぽろ涙を流し、笑い出す。

「はははっ! これで2人とも一緒に抱っこできる!」

 新しい涙で頬を濡らしながら、騎士様は噛みしめるように、確かめるように、治った腕の指を1本ずつ折り曲げる。

 良かった。これで彼の些細な日常を治すことができた。

 僕たち『クレイドル聖爵家』の人間が『聖魔法』を習う際に必ず言われることがある。
『私達は患者の些細な日常、未来を守るために治す。つまり、その患者の体だけでなく、心も治し、救うためには半端な技術は許されない』
 持って生まれた『聖力』を磨くことで、彼らを救い、癒やすことを誇りに思っているからこそ。
 とーっても修行が厳しいんだよ。

「しばらく痛みが残ることがあるので、無理せず痛み止めを使用してください。皆さん使っていますので」

 お大事にしてください、と言い添える。

 いくら腕が再生しようが、脳には受けた精神的な衝撃と痛みは残っている。
 もう傷はないのに、脳が錯覚を起こし、再生前に感じていた痛みが生じる。
 逆幻肢痛みたいなことが起きるから、騎士様の健全な精神でも混乱し、不眠や情緒不安定になりやすくなるんだ。
 それが原因で魔物との戦闘がトラウマになり、現場から去らざるを得ない騎士様も多い。

 最近は、痛み止めで上手にこの症状を軽減し、現場復帰を促している。
 もともと皆さん精鋭の騎士様ばかりで、魔物討伐の貴重な戦力だからね。
 でも、騎士様って我慢強い人たちが多いから。
 こうやって「皆さん使っている」ということで、痛み止めを使用するハードルを下げている。

「ありがとうございました! 必ず、また騎士としてご恩返しいたします! 聖爵家の小さな聖女さま!」
「こちらこそ。いつもありがとうございます」

 よくわからないけど、何故か薬師さまも泣きながらぱちぱち大げさに拍手している。
 レオもイヴくんも謎に感じ入ったように、うなずきながら小さく拍手をしていたけど、まだ1人目の患者さんだ。
 それに『クレイドル聖爵家』と騎士団さんはこうやって未熟な僕達の修行を受け入れてもらったり、持ちつ持たれつの対等の関係だ。

 そこまで感謝されることもないのに。

 恥ずかしい僕はそのままそそくさと会釈を返し、薬師さまを急かして次の患者さんのもとへ。
    
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