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はじまりの10歳

23. お友達は騎士さま(仮) 2

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 青々と茂る葉っぱの隙間から降り注ぐ陽射しは柔らかい。
 時折、若葉を渡る風をはらみ揺れる髪。

「ここってすっごい癒やされるー。良いところだよね」
「あぁ。どの角度もとっても可愛い、横顔が見放題だからな」
「横顔?」
「あ、いや、あっ! 俺も、騎士になれることになったんだ! 聖騎士になら、なっても良いってさ」
「えっ?! よかったね! ずっと頑張ってたもんねアッシュは!」

 よかったー!
 アッシュ曰く、両親達が大神官を家門から輩出することを誇り、「騎士」という職業自体を見下している。
 大神官にならずに「騎士」を目指すのを両親に反対されていたそうだ。
 神殿所属の『聖騎士』さま限定なのが、お互いの妥協点なのかな。

 まぁ、職業で人を見下すなんて、ありえないよね。

 それに、騎士団が命がけで魔物を討伐してくれているから、僕らはこの王都で魔物の脅威に怯えることなく平穏に暮らしていける。
 のほほんと暮らしていけるのは、彼らがひたむきに職務をまっとうしてくれているからだ。

 また、聖女さまであるおじさまやお父様も討伐に『治癒者』として同行することもある。
 いずれ僕も『クレイドル家当主』として行くことになるよね。
 だから、騎士さまや騎士団のお話はいっぱい聞いていた。
 死傷者が続出する魔物との過酷な戦闘であろうと、勇敢に立ち向かう騎士さまは男として憧れる。

「ラズ・クレイドル公爵令息」

 いきなりアッシュが真剣な表情で僕に向き直る。
 僕の手を恭しく取り、手を引かれ立たされた。

 真剣なアッシュに、突然捕まえられた手に、縫い止められ動けない。
 意図が不明すぎて、ぱちぱち瞬きを繰り返し、その手やアッシュを交互に見返す。

 すると、アッシュは流れるように地面に跪き、大きなゴツゴツした手の中に左手を納めたまま僕を見上げる。
 見上げる深緑の瞳は決意を宿らせた色を深め、ギラッと光り。唇がゆっくりと動き出した。

「俺は、あなたと何があろうと生死をともにし、隣にいます。生涯をかけあなたを護る剣となり、この命、全てを捧げることを誓います。」

 自分自身にも誓うように、迷いも無く、言葉を一つずつ大切に、真剣に紡ぐアッシュ。
 言い終わった瞬間、アッシュは手の甲に唇を寄せる。
 強張った唇は触れる直前で止まり、吐息が肌を擽り、離れていった。

 ……突然のなに? えっ? えっと、これって絵本とかで読んだ騎士さまの誓いだよね。
 騎士になれるようになったから、嬉しすぎて練習?
 あ、あー。なにか返したほうがよいよね。

 アッシュの意志を表すように透き通り、真っ直ぐ僕を見つめるエメラルドグリーンに輝く瞳。

「……ありがとう。僕の騎士さま」

 気付いたら、絵本でみたお姫さまのセリフを僕は返していた。瞳の力強さに呑まれたように。

 嬉しかったんだ。
 たとえ練習であろうと、ずっと一緒にいて、護ってくれるなんていってもらえてさ。
 将来ラスボスになるかもしれないような僕。
 でも、君みたいな優しくてかっこいい騎士さまがついていてくれるなら、大丈夫な気がする。

「君がずっと隣にいてくれるなんてとっても心強いよ。これからもよろしくね。僕の大事な騎士さま。アッシュ・ブラッド」

 これは僕の心からの言葉。

 ねぇ、僕からも誓うよ。
 君たちを絶対にあんな目に合わせないように、僕はこれからなんだってしよう。
 そう、心の中で付け足した。

 アッシュは僕の言葉を受けると、真っ赤なお顔で硬直していた。
 やっと動き出し始めたら、興奮した裏返った声をあげる。

「ら、らず?! それって!! プロ」

 なんだかその様子がいつも落ち着いているアッシュにしては珍しくて、つい笑いが漏れる。

「あははっ! お友達として、僕もアッシュに負けないくらい『聖力』の修行や勉強を頑張るね!」

 ん? アッシュが、何故か脱力したようにへなへなと地べたに座り込んでしまった。
 なんかぶつぶつお空を見ながら呟いている。

 笑っちゃったのがショックだったのかな、と心配していると。
 いつの間にか側に来ていたエリアスに、未だに繋がれたアッシュの手を引き剥がされる。
 もう帰る時間になってしまっていたらしく、そのまま様子のおかしいアッシュを慌ただしく置いていくことに。

 今日もなんだか濃い1日だったな。
 神様のちょっと癖のあるチュートリアルやアッシュとの騎士ごっこ。
 でも、アッシュにもらった優しい実直な誓いが、まだ僕の心に残って熱い。
 この熱を失うことがないように、努力家の彼に負けないくらい僕も頑張っていこう。
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