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はじまりの10歳
12. 運命の人は美しい《レオン・リューグナーside》3
しおりを挟むラズへの思いを募らせる俺を神様は見捨てなかった。
やはり、俺とラズは運命の相手なんだ!
『明日、お屋敷にご招待したいのですが、ご都合はよろしいですか?』
なぜか敬語の手紙ではあったけれど、内容が重要だ。
ラズの! 家に! 生息地に! 招待された! これは結婚後の部屋の下見だ!!
都合はよくないわけないじゃないか!!
浮かれた俺はその手紙を母上に見せびらかしに、王宮の廊下を駆けた。
途中でこのあと講義予定の講師とすれ違ったが、気のせいだ。
俺はそんなことをしている時間はないのだから。
来ていく服やラズへのプレゼントを選び、そして、舅の威圧に耐える精神修行!
◇◇◇◇
「いらっしゃいませ。公爵邸へ。レオン・リューグナー殿下」
今日も俺のラズが最高に可愛くて美しくて、天使であり妖精だ。
いまかいまかと御者が扉を開ける前に飛び出すのをなんとか踏ん張り耐え、浮ついた足で馬車から降り立つ。
生のラズは可愛い。いい匂いもする。
何百回も頭で反芻したラズの姿よりも、目の前の凛と背筋を伸ばし、優雅に礼をするラズは美しい。
ぽやんとしたラズも可愛いが公爵家令息として、恥じない洗練された所作も最高だ。俺の妻はよくできるな。
そして、ラズは申し訳なさそうに舅の不在を謝罪する。むしろい居なくて安心したぞ。
「本日は天気もよろしいので、先に庭園をご案内しますね」
ラズはなぜか敬語で、俺を庭園に案内する。
道案内するように、たくさんの花や木々の模様をあしらったレンガ道の上を、てとてと一生懸命前を見据え歩くラズの小さな背中。
俺は、その元気になった可愛らしい背中をみながら、どうしてもあの日のように手を繋ぎたかった。
半歩前を歩くラズに追いつくため、大股で1歩踏み出し、何度も焦がれた温もりに手を伸ばす。
そっと掬うように柔らかな手を握れば、あの日の温もりが重ねた手に蘇る。
「レ、レオ?!」
「ラズが離すなって言っただろ?」
「ちっ」
大きなピンクの瞳をさらに見開き驚くラズ。
差し込む陽光にきらきら虹彩が輝き、やっぱり美しい。
頬が勝手にだらしなく緩みそうになり、堪えていると。
美しい瞳が躊躇うように俺をじっと捉えた。どこか切実さを漂わせている。
「あの、さ。会えない時に……、僕のこと考えてくれていた?」
心臓が射抜かれ、爆ぜるかと思った。
考えないときはなかったと断言できる!
美しい瞳や手にある温もり、無邪気な笑顔。時折、可愛らしく俺を求める声。
頭の中は運命の相手であるラズ・クレイドルで埋め尽くされていた。
全てを伝えるための言葉を探す。
その間にも美しい瞳が不安に揺れだし始め、俺は焦り何回もブンブンと大きく首を縦に振った。
はにかみながら、ほっとしたような表情をするラズは、俺をさらに庭園の奥へ奥と案内する。
「あのね! ここで、レオと一緒にお花を植えたいの!」
じゃんっと効果音をさせながら、可愛さダダ漏れのラズが示したのは小さな花壇。
バラのアーチを抜け、数種の花々が美しい花壇を通り抜け、見事な藤棚も素通りし開けた場所。
立派な生け垣に囲まれ、ここだけは先程から感じていた刺してくるような多数の視線も気にならない。
「レオがお花を育てるのが好きって言ってたから、僕も一緒に育ててみたいな……って」
「俺のためなら……無理しなくても……」
嬉しすぎて、うまく言葉にならない。
求めるだけでなく、俺を思いやり、一緒に何かしてくれようと考え、与えてもくれる。
でも、貴族として土をいじるのは、はしたないと言われるから、ラズは無理していないのか。
「えっとね、レオのこともっと知りたいなら、一緒に好きなことしたらわかるかなーって。だから僕のためでもあるの!」
楽しみにしてたよ、と照れながら言うラズが愛しくて、視界がぼやけそうだ。
ラズの歩み寄るような優しさに心がじんと熱く包まれる。とんでもなく心地よい。
「ありがとう。俺も、ラズのことをもっと隅々まで知りたいから、好きなもの教えてくれ」
ラズをもっと知りたい俺は、いつもよりは素直に言葉を口にすることができた。
「ちぃっ!」
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