【完結】ラスボスヤンデレ悪役令息(仮)に転生。皆に執着溺愛され過ぎて世界滅亡エンドの危機です

日月ゆの

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はじまりの10歳

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 皆も手慣れたのか集合が速くなってきた手口で取り囲まれた。そして、恒例のお部屋でのお茶に誘われた。今日は料理長がお誘い当番だったみたいです。
 ナイスなアシストをするエリアスは新しく手に入れた茶葉の銘柄を説明してくれる。うんうんと熱心にお話を聞いていたはずなのに、いつの間にかお部屋の目の前まで抱っこで移動させられていました。
 流石に僕も、自分のお部屋の扉前ではたと気づく。
 もうこのままでは、お屋敷の皆の優しさに一生閉じ込められ続けてしまう、と。

 だから、僕は意を決してある作戦を決行した。
 テーブルには料理長が作ってくれた特製チョコクッキーやケーキが所狭しと並ぶ。
 このクッキーたちの持つ力を信じて、僕はやりきります。
 ソファーに腰掛ける僕は、エリアスと二人きりになったところで、手招きで彼を近くに呼び寄せる。

「エリアス。あーん」
「へぇあっ! ら、ら……ず、ぁんん!」

 エリアスはクッキーと僕のお顔を目で往復すると、真っ赤なお顔で裏返った声を上げる。僕は、タイミングよくその開いたお口にさっとクッキーを入れた。
 よし。エリアスに賄賂を渡したよ。作戦成功だ。
 何故か変なお声を上げたけど、これは黙っておいたほうがいいよね。
 クールなエリアスのイメージが崩れちゃう。

「ん゛ん゛。ラズ様の触れたクッキー大変美味しゅうございました」

 目を閉じ堪能するように、ゆっくりもぐもぐ咀嚼したクッキーをごくんと飲み込むエリアス。
 気を取り直すように彼は咳払いをした。
 その隙に僕はエリアスのズボンをひしっと掴み、お願いって気持ちを込めてじっと見上げる。

「エリアス! クッキー食べたなら、僕に協力してっ!」
「ぐぅっ!」
 
 何故かエリアスは何かを我慢するようなお声を苦しげに上げ、胸を押さえる。
 それでも僕は諦めないで、ぎゅっとズボンにシワが寄るほど握り、エリアスのお顔を上目遣いで見つめ続けた。
 エリアスの頬が淡く染まり、息が苦しそうなのはなぜなんだろう。

「はぁ、はぁ、協力と……は?」
「あのね、レオをこのお家に招待したいの。だから、お父様を説得するお手伝いを⸺」
「いけませんっ! あの王子はラズ様を危険に晒したんですよ?! 公爵様も大変心を痛めておられて、それをさらになんて……」
 
 彼にしては金切り声とも言える大きな声で、僕の言葉を無礼にも遮り、顔を歪め視線を落とした。
 いつも礼儀正しいエリアスが、だ。とっても珍しい。
 それほどまでに、レオをクレイドル家としても、エリアスとしても警戒しているということはなんだよねえ。

 でもさ、僕は将来ラスボスになって皆を危険に晒したくもない。
『清く正しく美しいヤンデレ』になるためには、レオという婚約者が必要。
  
 また、現実的にあのウインドウの指示に従わないと、王宮のときと同じことが起きる。
 どうあってもあの苦しみは回避したいから、早く婚約者のレオに会わなければならないのだ。
 僕はエリアスのズボンから手を離し、ソファーに身を沈めながら、足を組む。
 できるだけエリアスの主人として、尊大な態度に見えるようにした。

「だから、僕はレオをこのお屋敷に招待するんだよ。ねぇ、エリアス。君たちがあの時みたいに守ってくれるでしょ?」

 僕は、使用人の皆やこの僕にとっても影を落とす事件を引き合いに出す。
 同時に5歳の時にこの公爵邸内で起きた事件が頭をよぎる。
 発狂した使用人にインク壺を頭に投げつけられた。
 ただそれだけ。
 別に体を大きく傷つけられた訳でもない。

 使用人はあのコスプレ神様を崇め奉るジェスター教の熱心な信者だった。

 黒に準ずる青い髪を持つクレイドル家に僕みたいな『色無し』が混じったのは許せなかったらしい。
 インク壺のインクの色はご丁寧に黒色で。
 
 でも、僕の白髪はそのべっとりと髪にまとわり付く濃いインクの黒にも染まらず。
 神聖な黒さえ弾き返し、白いまま。
 その白髪を指差した使用人は、怒りに満ちた顔をみるみる恐怖に染め上げた。
 使用人には白いままの髪が大層恐ろしかったらしい。
 お屋敷の皆が使用人の悲鳴を聞きつけ、発覚。事件はそこで収束した。
 
 エリアスの足元から掬い上げるように視線をゆっくり滑らし、答えを促すように「ね?」と首をこてり傾げた。
 
「……はい」

 僕の態度が変わったことを察知したエリアスは、不承不承ともとれる低い声で返事をした。
 それとも彼もあの時の事を思い出したのかも。ごめんね。エリアスは悪くないんだよ。
 かくれんぼと称して僕が勝手に一人になったのが悪いんだ。
 まさか普段接することがない新入りの下級メイドさんと廊下ですれ違おうとしただけなのに。彼女が突然激昂し、エプロンのポケットから取り出したインク壺を投げつけた。
 彼女が僕にそんな剥き出しの悪意を抱いていたことなんて、仕えている屋敷の主人の息子に危害を加えるなんて。
 エリアスのように心から僕達へ仕えていてくれる使用人さんには理解できないよ。
 だから、もうそんなに自分を責めないでほしい。君は決してケガが出来ないクレイドルの僕を毎日懸命に護ってくれていた。そして、今も。

「大丈夫だよっ! レオは優しいし、絵本の王子様みたいにキラキラしていてかっこいいんだ!」

 自分で作り出した空気だけど、この重苦しい空気を切り替えるためにも、レオの良いところをエリアスに目一杯アピールした。
 レオのイメージが良くなればお屋敷の皆も賛成してくれるよね!
 お父様もきっとレオの良いところをお話ししたら、許可してくれるかも!

「ラズ様。それ、ご当主さまに言ったらあの愚かな王子は公爵邸に来れなくなります。絶対言わないでくださいね」
 
 何故だかエリアスはすっごい怖いお顔で何度も念押ししてきた。

 なんで?

 
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