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はじまりの10歳
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しおりを挟むほの暗い宵闇に包まれたどこかの荒廃した街だ……。
今日は月が明るいのか照らされた地面が白んでいる。
砂が風にさらわれ、運ばれていく。周りには積み重なる沢山の瓦礫。
これもかつては大きな建物だったのかな。瓦礫に残る繊細な彫刻には見覚えが。
あれ、この特徴的な装飾は王宮?!
う、嘘だ! さっきまでお茶会をしていたところだよ。
混乱状態の頭を鎮めようと、頭を巡らす。すると、あることに気付いてしまう。
そ、ういえば。人がいない……。
「もう止めてくれ!! 兄さんっ!! このままではガハッ」
「イヴ?! 大丈夫かッ?!」
宵闇と沈黙に浸された空間に声が突然響く。
血塗れた濃紺のローブに身を包む聖女のような衣装の男の子が叫んでいる。
叫んだ途中でゴポリと大量の吐血。
自らの吐血した血でさらにローブを染めていく。
血で染められたローブはどす黒く色を変え、禁忌の色である漆黒みたい。
凄いなあの子の髪色。月明かりに照らされているのに、色が薄まらない腰まで伸びた濃紺の髪。
限りなく黒に近い色だ。
あんなに濃い色の髪色だったら、僕みたいに聖力があるのすら疑われる『色無し』なんて言われないよね。
あ、紫色の瞳ってことは『クレイドル家』の子かな。親戚にいたかな。
あんなに濃い髪色していたら……覚えていそうなのにな。
吐血によりぐらついた彼を支えるように、肩を抱き寄り添う男性。
黄金色の髪と夏空の瞳が僕の婚約者に少し似ているかも。
でも、あんなに愛おしそうに濃紺の彼に眼差しを向けている彼は、あの子なのかな。
今日あった彼は夏空色の瞳の奥は冷え切り、降り注ぐ陽光の温度すら下げてしまうくらいだった。
濃紺の彼と男性はお互いに熱の篭った眼差しを交わしている。そう云う仲なんだろうな。
二人だけの甘い空間を作り出す恋人たちにいたたまれなくなり、そっと視線を外す。
「?!」
人が倒れている。しかも不思議なことに上半身だけだ。
この方も血だらけでもう息は……。
真っ赤な髪色は僕の友人にも似ているかも。
でも、目を閉じているから……わからない。
どうして? なんでこんなことに?
恐い。こんなところにいたくない。皆のもとに早くかえりたい。
ねえ。僕はなんでここにいるの? 僕は何も悪いことしていないよ。なんで、どうして。
なんで僕だけがこんな思いをしないとイケナイの。
いきなり訳のわからないところへ飛ばされ、恐ろしい光景を見せられる。ありえない状況にきりがなく降って湧く疑問、恐怖が頭を埋め尽くしていく。
「うるさーい!!!! 皆居なくなればいい!! 僕だけ!! この世界には僕だけしかいらない!!」
全てを拒絶し、跳ね除ける悲しい叫び。悲しんでいるのに、強がっているような。
深い深い悲しみを怒りに変えることしか出来ない、行き場のない無垢な悲しみに満ちた声。
身体の芯から絶望に染まっているような、慟哭めいた怒りだ。
可哀想。なんでこの声の主はここまで悲しみを、怒りをこの世界に。
「そんな目で見るなっ!! 僕は何も悪いことしていないのに!! なんで、どうして?! なんで僕だけがこんな思いをしないとイケナイの?!」
僕と一緒のことを言っている?
悲痛そうな顔で声の主を睨みつける濃紺と黄金色の寄り添う恋人達の視線に導かれる。
ざあっーと全身の血の気が引いていく。
眼前の信じられない、信じたくない光景に理解する脳すら奪われたように、息も止まる。
暗い夜空に浮かぶ光輝く2つの満ちた月を背負う、聖女のような白色のローブに身を包む人物。
表情までは逆光で見えないけれど。
白のローブを真っ赤に染め、冴え冴えした異様な眼光に輝くピンクの瞳、振り乱す長い髪は眩い月光に色付く白銀色。
⸺あれは……
ピロン!
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