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第24話『異変』
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俺としては充実の週末を過ごし、月曜日から中間試験を迎えた。
月曜日から木曜日までの四日間。金曜日と土曜日は試験の採点休みとなっている。
月曜日の古典、数学1から始まる試験の日々。
中学のときも、この期間はクラスメイトの口数が恐ろしい程少なくなるが、高校でもそれは変わらないらしい。
前の席の細江も試験直前まで教科書を食い入るように見ていた。他のヤツもノートやこれまでの小テストを見直しながら開始時間を待つ。
才明寺はどうだろうか。
俺は、土曜日の夕方に才明寺宅にかかってきた『ソウマくん』からの電話が気になっていた。あんまり才明寺は良い顔をしていなかったから。
今日登校してきたら、きっと試験直前に何を覚えておけばいいかとか、最後の最後に泣きついてくるような気がしていたから、その時に雑談程度に訊いてみるつもりだった。
だけどこの日の才明寺は静かだった。
恐ろしい程に。
俺が教室に来た時には才明寺は既に登校していて、机に突っ伏していた。
皆が試験に向けて最後の追い込みをしている中、ただ机に突っ伏して微動だにもしない。
昨日夜中まで勉強して寝不足なのかと思ったが、予鈴が鳴り、大森先生がやってくるとのそりと起き上がる。
だけどその表情にこれから始まる試験への焦りはなく、まるで何か別の心配事を抱え込んでいるような、何処か思い詰めた顔だった。
夏休みの運命がかかっているから故の深刻さかと思ったが、どうにもそういうわけじゃあなさそうだ。何かに対して怒っているように見えたから。
古典の試験が終わり、数学1の試験が終わり。
「はい、終わってください」と試験監督をしていた大森先生の声がして、皆が達成あるいは落胆の溜息を漏らす中、才明寺はただ静かだった。
恐らくこの日は一言も言葉を発することなく、ホームルームが終わるとすぐに教室を立ち去った。
あの喧しい彼女が、だ。
一体どうしたというのか。
訝しんでいるのは、俺だけではなかったようで、細江も才明寺の異変を察していた。
彼女が足早に教室を去っていくのを見て「どうしたんだろうな才明寺。今日は静かだった」と声をかけてきた。
「てっきり試験が終わったら、柵木に泣きつくかと思った。全然できなかった!!って」
俺もそう思った。
やっぱり他のヤツの目にも才明寺の異常は明らかだった。
「……そういう細江はどうだったんだ?」
「いやあ、土曜日の勉強会が効いてた。柵木が出る可能性高いって言ってたとこマジで出たな」
「あー、問四な。あそこ授業でめちゃくちゃ丁寧に説明してたから」
「おかげで15点は確実にいけた!」
15点だけかよ。内心がっかりするが、まあ、土曜日にやったところが結構出てたからあそこを覚えてたら今日の古典は大丈夫だろう。
そんな話をしつつも、俺は才明寺の様子が気になった。
でも、今まで『友達付き合い』というのを避けてきた俺に、何かを悩む友達に対してどう接していいのかわからない。それも相手は女子だ。わからないに、更にわからないが積み上がるような気分だ。
「……急いでたのかもしれないし、今は放っておいた方が良いんじゃないか? 才明寺の性格からして、話を聞いて欲しければ自分から来るだろうと思うけど」
俺は自分から動くことができないのを棚に上げてそう自分に言い聞かせるように呟く。それが正論だったのか、細江も「確かに才明寺は聞かなくても話しそうだな」と頷きつつ、通学カバンから英語の教科書を出して俺に向ける。
あっ、やばい。
思わず腰を椅子から浮かせるが、その瞬間、腕を細江に掴まれる。
「まーさーきーくーん」
「やーだー」
「まだ何も言ってないだろ」
「いや明日の試験教科の持ってる時点でわかるわ。今から勉強会だろ」
そう言いながら腕を掴む細江の手を叩き落とす。
細江はすんなり腕を離すが教科書を顔の前に出して「頼むよ、何処か出そうかだけでもさあ」と声のトーンを上げて言う。
いやいやいや、俺も帰って勉強したいんだけど。
そう断ろうかと思ったが、脳裏に大凡一か月前に大森先生に言われた『お節介』という言葉を思い出す。
これはお節介ではないが、こういうやり取りも中学のときに遠くから見たのを思い出す。『友達同士』という様子に羨ましさを感じたのを思い出してしまう。
「……昼飯、何か奢れよ」
俺がそう言うと細江はにっと笑う。
「駅前のバーガーでも良い?」
「いいよ。そこでやるか」
「おっけー」
細江は俺が快諾したと機嫌よく荷物をまとめ始める。俺は才明寺の様子が気になりながらも、もう帰ってしまったアイツに何ができるかはわからず、試験期間中は向こうから話しかけてこない限りは考えないことにした。
月曜日から木曜日までの四日間。金曜日と土曜日は試験の採点休みとなっている。
月曜日の古典、数学1から始まる試験の日々。
中学のときも、この期間はクラスメイトの口数が恐ろしい程少なくなるが、高校でもそれは変わらないらしい。
前の席の細江も試験直前まで教科書を食い入るように見ていた。他のヤツもノートやこれまでの小テストを見直しながら開始時間を待つ。
才明寺はどうだろうか。
俺は、土曜日の夕方に才明寺宅にかかってきた『ソウマくん』からの電話が気になっていた。あんまり才明寺は良い顔をしていなかったから。
今日登校してきたら、きっと試験直前に何を覚えておけばいいかとか、最後の最後に泣きついてくるような気がしていたから、その時に雑談程度に訊いてみるつもりだった。
だけどこの日の才明寺は静かだった。
恐ろしい程に。
俺が教室に来た時には才明寺は既に登校していて、机に突っ伏していた。
皆が試験に向けて最後の追い込みをしている中、ただ机に突っ伏して微動だにもしない。
昨日夜中まで勉強して寝不足なのかと思ったが、予鈴が鳴り、大森先生がやってくるとのそりと起き上がる。
だけどその表情にこれから始まる試験への焦りはなく、まるで何か別の心配事を抱え込んでいるような、何処か思い詰めた顔だった。
夏休みの運命がかかっているから故の深刻さかと思ったが、どうにもそういうわけじゃあなさそうだ。何かに対して怒っているように見えたから。
古典の試験が終わり、数学1の試験が終わり。
「はい、終わってください」と試験監督をしていた大森先生の声がして、皆が達成あるいは落胆の溜息を漏らす中、才明寺はただ静かだった。
恐らくこの日は一言も言葉を発することなく、ホームルームが終わるとすぐに教室を立ち去った。
あの喧しい彼女が、だ。
一体どうしたというのか。
訝しんでいるのは、俺だけではなかったようで、細江も才明寺の異変を察していた。
彼女が足早に教室を去っていくのを見て「どうしたんだろうな才明寺。今日は静かだった」と声をかけてきた。
「てっきり試験が終わったら、柵木に泣きつくかと思った。全然できなかった!!って」
俺もそう思った。
やっぱり他のヤツの目にも才明寺の異常は明らかだった。
「……そういう細江はどうだったんだ?」
「いやあ、土曜日の勉強会が効いてた。柵木が出る可能性高いって言ってたとこマジで出たな」
「あー、問四な。あそこ授業でめちゃくちゃ丁寧に説明してたから」
「おかげで15点は確実にいけた!」
15点だけかよ。内心がっかりするが、まあ、土曜日にやったところが結構出てたからあそこを覚えてたら今日の古典は大丈夫だろう。
そんな話をしつつも、俺は才明寺の様子が気になった。
でも、今まで『友達付き合い』というのを避けてきた俺に、何かを悩む友達に対してどう接していいのかわからない。それも相手は女子だ。わからないに、更にわからないが積み上がるような気分だ。
「……急いでたのかもしれないし、今は放っておいた方が良いんじゃないか? 才明寺の性格からして、話を聞いて欲しければ自分から来るだろうと思うけど」
俺は自分から動くことができないのを棚に上げてそう自分に言い聞かせるように呟く。それが正論だったのか、細江も「確かに才明寺は聞かなくても話しそうだな」と頷きつつ、通学カバンから英語の教科書を出して俺に向ける。
あっ、やばい。
思わず腰を椅子から浮かせるが、その瞬間、腕を細江に掴まれる。
「まーさーきーくーん」
「やーだー」
「まだ何も言ってないだろ」
「いや明日の試験教科の持ってる時点でわかるわ。今から勉強会だろ」
そう言いながら腕を掴む細江の手を叩き落とす。
細江はすんなり腕を離すが教科書を顔の前に出して「頼むよ、何処か出そうかだけでもさあ」と声のトーンを上げて言う。
いやいやいや、俺も帰って勉強したいんだけど。
そう断ろうかと思ったが、脳裏に大凡一か月前に大森先生に言われた『お節介』という言葉を思い出す。
これはお節介ではないが、こういうやり取りも中学のときに遠くから見たのを思い出す。『友達同士』という様子に羨ましさを感じたのを思い出してしまう。
「……昼飯、何か奢れよ」
俺がそう言うと細江はにっと笑う。
「駅前のバーガーでも良い?」
「いいよ。そこでやるか」
「おっけー」
細江は俺が快諾したと機嫌よく荷物をまとめ始める。俺は才明寺の様子が気になりながらも、もう帰ってしまったアイツに何ができるかはわからず、試験期間中は向こうから話しかけてこない限りは考えないことにした。
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