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第43話『遅疑逡巡③-チギシュンジュン-』
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彼女の中で『あんり』が出来上がってから以降、彼女は何度も自分が自分じゃない感覚に襲われた。
鹿嶋美須々としての自分が損なわれていくような違和感。
鹿嶋美須々を切り分けて別の人格を作り上げていくような。
何かおかしいのではないか、そう考えることすらもうできないほど、思考力が鈍っていた。考えるという機能が徐々に衰退していることすらわからなくなっていた。当然この違和感を不審にも思わなくなっている。
いつまでも残っているのは、この活動を始めて、『役』としての自分になりきる全能感だけだった。今なら、何でもできそうだと思えたし、実際失敗を躊躇する思考ももう残っていなかった。
ただ、鹿嶋美須々としての自分は俯瞰的に、それぞれ活動する自分の姿を眺めているだけだった。
彼女の活動は冬を越え、春を迎えていた。
荒瀬川の動向を近くで見ていたが、春になると一層息子を目の敵にしている様子だった。仲間内では息子に対する罵詈雑言を日常的に繰り返し、恥をかかせてやりたいと呪いのように呟いていた。
新学期に入ってすぐのこと、荒瀬川の態度を受けてか彼の仲間が息子にちょっかいをかけ始めた。
はじめは授業で使うレジュメを持ち去ったことだ。
息子が席を離れた僅かな隙にレジュメを持っていく姿を、彼女は『田村八重子』として見ていた。席に戻ってきた息子が周辺を探し回り困った顔をしているのを、荒瀬川の仲間達は見世物のように笑っていた。
その後レジュメを近くのゴミ箱に捨てていたので彼女は慌てて回収したが、どうやって返して良いか悩んだ。
今使っている『田村八重子』として返せば良かったのだが、どうして持っているのか、と聞かれた時の言い訳が思いつかなかった。
それならいっそのこと、匿名で返すが良いかとすぐに思い至る。
彼女は学生課で数枚貰っていたメモ用紙に、筆跡がバレないようにものさしを使いながら文章を書く。
この瞬間彼女の内にあったのは、私が息子を助けなくてはならないという使命感と、それよりも多くの割合で、今、私が息子を助けているのだという高揚感と全能感だった。
それからも息子を守るという使命に彼女は酔っていたのかもしれない。
息子の動向を見守りながら、荒瀬川の言動を監視した。
そして四月も半ばという頃に事件が起こる。
『あんり』として荒瀬川の友人としての地位をそこそこ確率しつつあった彼女だったが、ある夜に授業終わりの飲み会に呼ばれていた。
いつも大抵下らない話をだらだらしているだけの酒の席だが、今回は輪をかけて酷いものだった。
荒瀬川はいつもよりも酒を飲むペースが早くそれに合わせて仲間達も引っ張られるように飲んでいった。二時間程過ぎたとき、荒瀬川がぽつりと言葉を落とす。
「室江に一泡吹かせてえな」
あまりに物騒で強烈な一言だった。
酒を飲んでいる振りを貫いていた彼女だったがあまり言葉に血の気が引く。今までも同じことを何度も言っていたが、今回の言葉は今までのどれよりも熱が篭っていた。
これは本気だ。
彼女が焦っていると、仲間は荒瀬川に「具体的に何すんの」と問う。
すると荒瀬川は据わった目で「胡椒をぶちまけてやろうぜ」と笑う。その言葉を聞いて不思議そうな顔をする仲間達だが、『あんり』だけはその意図を知る。
昔息子は、小学校の低学年の頃に調理実習の最中、粉胡椒を吸引してくしゃみが止まらずそれが咳に変わり喘息へ移行して救急車に担ぎ込まれる事態に発展した。
あの時は学校からの連絡を受けて彼女は大慌てで病院へ向かったのをよく覚えている。
だけどどうしてこの男がそのことを知っているのだ。知らなければ粉胡椒を撒くなんて発想は出てこないはず。
『あんり』が驚愕していると仲間の一人が怪訝そうに「何で胡椒?」と訊く。荒瀬川は酒を煽りながら据わった目で遠くを見る。
「いつだったか……文学部の小金井が誰か知らない女とそんな話をしてるのを聞いたんだ。室江のヤツ、胡椒吸い込むと咳が止まらなくなるらしい」
「へえ、何、アレルギー的な?」
「詳しくは知らねえけど多分そんな感じ」
荒瀬川の話に仲間達は笑う。
何がそんなに面白いのか。最低にも程がある。
「それでいつやる?」
「明日で良くない?」
「明日あれか、学生自治会の連中が自転車撤去やる日だろ?」
「じゃあ明日は学生自治会の奴らすぐに来ねえな」
「それじゃあ明日の五時間目終わりとか正門近く歩いてるヤツにまとめて胡椒をお見舞いしてやるの」
「いいね!」
「じゃあ帰りに胡椒買わねえとな」
そう言いながら楽しげに笑う男たち。
何を考えているのかと『あんり』は彼らを軽蔑した。
とはいえ、先に計画がわかったのは有り難い。明日は息子に裏門から帰るように伝えればいいのだから。
この計画は成功しない。
彼女の働きで、息子は正門を通らず裏門から帰った。
それでも学内を生徒を巻き込んだ『悪戯』の成功に彼の仲間達は達成感を得ていた。酒が入り、皆、口は軽くなり、胡椒を撒かれた生徒達の様子が如何に滑稽だったかを語りだす。飲み会に呼ばれていた『あんり』も、内心は荒瀬川の失敗を笑いながら話を聞いていた。
そんな時、荒瀬川はグラスを叩きつけるようにテーブルに置く。
そのテーブルにいた全員が、口を閉ざして荒瀬川を見る。
「何がそんなに面白いんだよ」
そう声を低くして呟く荒瀬川。
『あんり』自身、その様子に笑う。だけど、次の瞬間、『あんり』の、いや、彼女の表情から笑みが消える。
「このままじゃあ絶対に済まさない、ぶっ殺してやる」
それが本心なのか、その場の勢いで出た言葉なのかはわからなかった。
だけどその一言は、彼女の精神に多大なる負荷をかけた。
それまで彼女としては徐々に良くなっていると思われていた彼女の精神が一気に歪む。
その後のことは、正直よく覚えていない。
気が付けば彼女は『田村八重子』が着るために用意していたパーカーを羽織り、フードを被った状態で夜の住宅地を歩いていた。
手のひらが痛むのは、つい先程、荒瀬川達と鉄パイプで滅多打ちしてきたからだということはわかった。
彼女は考える。
何故こんなことになったのか。
以前の自分なら絶対にこんなことはしなかった。誰かを傷つけるなんてこと、絶対にできなかったはず。
行動の箍はいつからこんなにも緩んでしまったのか。
何とか考えようとする。
だけど頭の中での精神の分割が進むような感覚に頭が割れそうに痛む。
まるで人格さえも避けていくような感覚。視界までテレビのチャンネルを切り替わるように揺れる。
どうしてこんなことになっている。
彼女は何故と考えるが思考が停止していまい、まるでその代わりと言うようにポケットに入れていた錠剤を何粒か口に入れる。
自分は今何を口に入れたのだろう。
最近気が付けば口に入れているような気がするが。
でもこれを飲んでいると気分が良いのだから、それはきっと『良いもの』なのだ。
だけど、ふと、わかってしまう。
これを飲み始めてから、私は何も考えなくなってしまったのではないか、と。
そんなとき、『彼』が少し前に立っていて、顔を歪めて笑っていた。
その顔を見て、彼女は、ああやっぱりそうだったのか、と消えつつある思考で考えた。
地面にのたうち回る彼女を見て、『彼』は言っていた。
「このまま荒瀬川さんを野放ししてて良いんですか? 彼はきっとまた貴女の御子息を狙うでしょう。御子息を助けられるのは貴女だけなのだから、そうすべきなのです。だって貴女は『鵺』なのだから。いくつもの姿で人々を翻弄し恐れられる妖怪。だからひょーひょーと泣き続けましょう。貴女の前に『源頼政』と『猪早太』がやって来るまで」
『源頼政』と『猪早太』がやって来るまで。
その言葉が妙に耳に残った。
そいつらは自分を止めてくれるのか。もう止まるという選択肢を考えられない自分を。
それはいつ来てくれるのか。
***
彼女は生臭い臭いを吸いながら、彼女は遠くで人の声が聞こてくるのに気が付く目をゆっくりと開ける。
姿を隠すためにやってきたゴミ集積場は相変わらず暗く静かだった。それ故。来訪者の声はよく響いた。
ゴミ収集場の入口近くには街灯があるようであちらから光が見える。
その光を背に、二人の人間がゴミ集積場へやってきた。
見覚えがあるのか、知っている顔なのか。それすら彼女にはわからない。
ただ荒瀬川ではなかったし、彼女の息子でもなかった。
じゃあ、誰なのか。
彼らが『源頼政』と『猪早太』なのか。
彼女はゆっくりと起き上がると、奥で廃材として捨てられていた鉄パイプを手に取る。彼らが彼女の待っていた『源頼政』と『猪早太』だとしても、彼女にはまだやり残したことがある。それだけは覚えていた。荒瀬川の息の根を止めなくては、あいつは息子の害になる。それだけは絶対にあってはならないことだから。
彼女はどうして痛むのかわからない身体に鞭打ち、やってきた彼らを静かに睨みつけた。
鹿嶋美須々としての自分が損なわれていくような違和感。
鹿嶋美須々を切り分けて別の人格を作り上げていくような。
何かおかしいのではないか、そう考えることすらもうできないほど、思考力が鈍っていた。考えるという機能が徐々に衰退していることすらわからなくなっていた。当然この違和感を不審にも思わなくなっている。
いつまでも残っているのは、この活動を始めて、『役』としての自分になりきる全能感だけだった。今なら、何でもできそうだと思えたし、実際失敗を躊躇する思考ももう残っていなかった。
ただ、鹿嶋美須々としての自分は俯瞰的に、それぞれ活動する自分の姿を眺めているだけだった。
彼女の活動は冬を越え、春を迎えていた。
荒瀬川の動向を近くで見ていたが、春になると一層息子を目の敵にしている様子だった。仲間内では息子に対する罵詈雑言を日常的に繰り返し、恥をかかせてやりたいと呪いのように呟いていた。
新学期に入ってすぐのこと、荒瀬川の態度を受けてか彼の仲間が息子にちょっかいをかけ始めた。
はじめは授業で使うレジュメを持ち去ったことだ。
息子が席を離れた僅かな隙にレジュメを持っていく姿を、彼女は『田村八重子』として見ていた。席に戻ってきた息子が周辺を探し回り困った顔をしているのを、荒瀬川の仲間達は見世物のように笑っていた。
その後レジュメを近くのゴミ箱に捨てていたので彼女は慌てて回収したが、どうやって返して良いか悩んだ。
今使っている『田村八重子』として返せば良かったのだが、どうして持っているのか、と聞かれた時の言い訳が思いつかなかった。
それならいっそのこと、匿名で返すが良いかとすぐに思い至る。
彼女は学生課で数枚貰っていたメモ用紙に、筆跡がバレないようにものさしを使いながら文章を書く。
この瞬間彼女の内にあったのは、私が息子を助けなくてはならないという使命感と、それよりも多くの割合で、今、私が息子を助けているのだという高揚感と全能感だった。
それからも息子を守るという使命に彼女は酔っていたのかもしれない。
息子の動向を見守りながら、荒瀬川の言動を監視した。
そして四月も半ばという頃に事件が起こる。
『あんり』として荒瀬川の友人としての地位をそこそこ確率しつつあった彼女だったが、ある夜に授業終わりの飲み会に呼ばれていた。
いつも大抵下らない話をだらだらしているだけの酒の席だが、今回は輪をかけて酷いものだった。
荒瀬川はいつもよりも酒を飲むペースが早くそれに合わせて仲間達も引っ張られるように飲んでいった。二時間程過ぎたとき、荒瀬川がぽつりと言葉を落とす。
「室江に一泡吹かせてえな」
あまりに物騒で強烈な一言だった。
酒を飲んでいる振りを貫いていた彼女だったがあまり言葉に血の気が引く。今までも同じことを何度も言っていたが、今回の言葉は今までのどれよりも熱が篭っていた。
これは本気だ。
彼女が焦っていると、仲間は荒瀬川に「具体的に何すんの」と問う。
すると荒瀬川は据わった目で「胡椒をぶちまけてやろうぜ」と笑う。その言葉を聞いて不思議そうな顔をする仲間達だが、『あんり』だけはその意図を知る。
昔息子は、小学校の低学年の頃に調理実習の最中、粉胡椒を吸引してくしゃみが止まらずそれが咳に変わり喘息へ移行して救急車に担ぎ込まれる事態に発展した。
あの時は学校からの連絡を受けて彼女は大慌てで病院へ向かったのをよく覚えている。
だけどどうしてこの男がそのことを知っているのだ。知らなければ粉胡椒を撒くなんて発想は出てこないはず。
『あんり』が驚愕していると仲間の一人が怪訝そうに「何で胡椒?」と訊く。荒瀬川は酒を煽りながら据わった目で遠くを見る。
「いつだったか……文学部の小金井が誰か知らない女とそんな話をしてるのを聞いたんだ。室江のヤツ、胡椒吸い込むと咳が止まらなくなるらしい」
「へえ、何、アレルギー的な?」
「詳しくは知らねえけど多分そんな感じ」
荒瀬川の話に仲間達は笑う。
何がそんなに面白いのか。最低にも程がある。
「それでいつやる?」
「明日で良くない?」
「明日あれか、学生自治会の連中が自転車撤去やる日だろ?」
「じゃあ明日は学生自治会の奴らすぐに来ねえな」
「それじゃあ明日の五時間目終わりとか正門近く歩いてるヤツにまとめて胡椒をお見舞いしてやるの」
「いいね!」
「じゃあ帰りに胡椒買わねえとな」
そう言いながら楽しげに笑う男たち。
何を考えているのかと『あんり』は彼らを軽蔑した。
とはいえ、先に計画がわかったのは有り難い。明日は息子に裏門から帰るように伝えればいいのだから。
この計画は成功しない。
彼女の働きで、息子は正門を通らず裏門から帰った。
それでも学内を生徒を巻き込んだ『悪戯』の成功に彼の仲間達は達成感を得ていた。酒が入り、皆、口は軽くなり、胡椒を撒かれた生徒達の様子が如何に滑稽だったかを語りだす。飲み会に呼ばれていた『あんり』も、内心は荒瀬川の失敗を笑いながら話を聞いていた。
そんな時、荒瀬川はグラスを叩きつけるようにテーブルに置く。
そのテーブルにいた全員が、口を閉ざして荒瀬川を見る。
「何がそんなに面白いんだよ」
そう声を低くして呟く荒瀬川。
『あんり』自身、その様子に笑う。だけど、次の瞬間、『あんり』の、いや、彼女の表情から笑みが消える。
「このままじゃあ絶対に済まさない、ぶっ殺してやる」
それが本心なのか、その場の勢いで出た言葉なのかはわからなかった。
だけどその一言は、彼女の精神に多大なる負荷をかけた。
それまで彼女としては徐々に良くなっていると思われていた彼女の精神が一気に歪む。
その後のことは、正直よく覚えていない。
気が付けば彼女は『田村八重子』が着るために用意していたパーカーを羽織り、フードを被った状態で夜の住宅地を歩いていた。
手のひらが痛むのは、つい先程、荒瀬川達と鉄パイプで滅多打ちしてきたからだということはわかった。
彼女は考える。
何故こんなことになったのか。
以前の自分なら絶対にこんなことはしなかった。誰かを傷つけるなんてこと、絶対にできなかったはず。
行動の箍はいつからこんなにも緩んでしまったのか。
何とか考えようとする。
だけど頭の中での精神の分割が進むような感覚に頭が割れそうに痛む。
まるで人格さえも避けていくような感覚。視界までテレビのチャンネルを切り替わるように揺れる。
どうしてこんなことになっている。
彼女は何故と考えるが思考が停止していまい、まるでその代わりと言うようにポケットに入れていた錠剤を何粒か口に入れる。
自分は今何を口に入れたのだろう。
最近気が付けば口に入れているような気がするが。
でもこれを飲んでいると気分が良いのだから、それはきっと『良いもの』なのだ。
だけど、ふと、わかってしまう。
これを飲み始めてから、私は何も考えなくなってしまったのではないか、と。
そんなとき、『彼』が少し前に立っていて、顔を歪めて笑っていた。
その顔を見て、彼女は、ああやっぱりそうだったのか、と消えつつある思考で考えた。
地面にのたうち回る彼女を見て、『彼』は言っていた。
「このまま荒瀬川さんを野放ししてて良いんですか? 彼はきっとまた貴女の御子息を狙うでしょう。御子息を助けられるのは貴女だけなのだから、そうすべきなのです。だって貴女は『鵺』なのだから。いくつもの姿で人々を翻弄し恐れられる妖怪。だからひょーひょーと泣き続けましょう。貴女の前に『源頼政』と『猪早太』がやって来るまで」
『源頼政』と『猪早太』がやって来るまで。
その言葉が妙に耳に残った。
そいつらは自分を止めてくれるのか。もう止まるという選択肢を考えられない自分を。
それはいつ来てくれるのか。
***
彼女は生臭い臭いを吸いながら、彼女は遠くで人の声が聞こてくるのに気が付く目をゆっくりと開ける。
姿を隠すためにやってきたゴミ集積場は相変わらず暗く静かだった。それ故。来訪者の声はよく響いた。
ゴミ収集場の入口近くには街灯があるようであちらから光が見える。
その光を背に、二人の人間がゴミ集積場へやってきた。
見覚えがあるのか、知っている顔なのか。それすら彼女にはわからない。
ただ荒瀬川ではなかったし、彼女の息子でもなかった。
じゃあ、誰なのか。
彼らが『源頼政』と『猪早太』なのか。
彼女はゆっくりと起き上がると、奥で廃材として捨てられていた鉄パイプを手に取る。彼らが彼女の待っていた『源頼政』と『猪早太』だとしても、彼女にはまだやり残したことがある。それだけは覚えていた。荒瀬川の息の根を止めなくては、あいつは息子の害になる。それだけは絶対にあってはならないことだから。
彼女はどうして痛むのかわからない身体に鞭打ち、やってきた彼らを静かに睨みつけた。
0
ここまで読んでいただきありがとうございます。
一応シリーズ一本目ですので、その内二本目を書き始められればと思っております。
一応シリーズ一本目ですので、その内二本目を書き始められればと思っております。
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