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第四章 二月十五日 咲視点
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私はゆっくりと目蓋を開けた。清潔感溢れる真っ白な天井が目に飛び込んできた。
「へっ?」
私は素っ頓狂な声を上げて、身体を起こした。続いて真っ白な壁が目に入った。しばらく考えて思い出す。
「あ、そういえば誘拐されたんだった」
すっかり忘れてた。誘拐されたことを忘れるなんてどうかと思うけどね。緊張感の欠片もないや。
「おいおい普通忘れるか。誘拐されたのを」
自分の状況を思い出していると、横から声がした。
「れ、冷流さん」
冷流さんは呆れた表情で私のことを見ていた。
「冷流さんと一緒に寝たから無意識の内に安心して、誘拐された事実を忘れてしまったのかもしれません。そうに違いありません。私の心がその通りと訴えかけてきてますから」
私は必死にしなくてもいい言い訳を冷流さんに対して始める。
「ああ、分かった。そういうことにしておいてやる」
「ありがとうございます」
私はふぅ~、と安堵の息を漏らした。まあ、安堵の息を漏らす必要はないんだけどね。
「そこに朝ごはんあるから食べな。菜紅」
私は冷流さんが指差した方向を見て、驚愕した。何とカップラーメンが空中に浮いていたのである。
「え? 浮いてる? ここにきての超常現象とかいらないよ!」
私は混乱しながら叫んだ。
「……いや、ちゃんとテーブルの上に載ってるんだけどな」
「…………?」
私は頭に疑問符を浮かべながら、ベッドから降りて、カップラーメンに近づいた。
「あ、冷流さんの言うとおりテーブルの上に載ってました。分かりづらいですけど」
真っ白なテーブルだったために壁と床と同化して、そこに何もなく浮いているように見えたのだ。
「確かにな。無駄に白いのが多いんだよな。この部屋」
「でも、昨日探索した時にはテーブルなんてなかったと思いますけど」
「ああ、親父が今朝ここにそのテーブルを運んだんだよ」
「そうですか。できるなら別の色にして欲しかったです。分かりにくいんで」
私はそう言いながらも、真っ白な床に座り込んだ。
「それと親父から菜紅に伝言だ。学校は風邪ってことにして休ますから、と」
「風邪ですか。つまり、私はズル休みしたことになりますね」
「そういうことになるな」
初めてのズル休みだな。恐妖と黄砂せんせーと紫暗さんには会えないけど、冷流さんと過ごせるから別に構わない。
「お湯はポットに入っているから。それも真っ白だから分かりづれえけどな」
手探りでポットを探す。指先にポットが当たった感触がした。ポットを手に取ると、お湯を入れた。
私はカップラーメンをじっと見つめて待った。三分経過した。
「もしかしてお箸も真っ白ですか?」
「ああ、真っ白だ」
お箸はカップラーメンの前に置いてあった。手に取って麺をすする。
「美味しいです」
「喜んでもらえて何よりだ」
ジュルジュル、と麺をすすって、食べ終えた。
「ごちそうさまでした」
私はベッドに戻ろうとして気づいた。冷流さんがにやにやしていることに。
「どうしたんですか? 冷流さんったらにやにやして」
「いや、その何というかだな。離婚してから、親父が仕事している間にしゃべり相手が居なくて暇をもてあましていてな。元ダンナは家で仕事してたからな。こうして菜紅とおしゃべりできて楽しくてついにやにやしまったんだ」
冷流さんはどこか照れくさそうに言った。
「え? 離婚したんですか?」
私は驚いて訪ねた。
「ああ、そうだ。離婚して妖華から、旧姓である柘榴に戻った」
柘榴……恐妖と同じ苗字だ。こんな偶然もあるんだな。
「冷流さん。暇なんで何か娯楽とかありませんか。誘拐した理由は夕方に聞くとして」
「軽いな。別にいいけどな。娯楽か。ゲームならあるぞ」
「ゲームですか。いいですね。どこにあるんですか?」
「隣の部屋にある」
冷流さんは壁を指差した。
「え? 隣に部屋あるんですか?」
私は驚いて壁を見た。
「ああ、隣の部屋に行くぞ。菜紅」
「はい」
☆☆
壁と天井は白いが、隣の部屋ほどではない。畳の部屋で中央にはこたつが置いてある。その正面にテレビ台があり、その上にテレビが鎮座していた。テレビ台の中にゲーム機とソフトが仕舞ってあった。
どれも隣の部屋のように真っ白ではなかった。
「何だか思ったよりも普通ですね」
「まあな」
私と冷流さんはこたつに足を入れた。
冷流さんはテレビ台の中から、ゲーム機とソフトを取り出した。
「どのゲームがいい? 菜紅?」
私はソフトを手に取った。『サタンレジェンド~勇者討伐~』。このタイトルからして、魔王が主人公で勇者が敵かな?
他のソフトを手に取る。『ゾンビシミュレーション~殺戮に花束を~』。ゾンビものか。残りのソフトを手に取って見た。
「『サタンレジェンド~勇者討伐~』と『ゾンビシミュレーション~殺戮に花束を~』のゲームがやりたいです。どちらから先にやりましょうか、冷流さん?」
私はゲーム機をテレビにつけ終えた冷流さんに聞いた。
「菜紅はどっちが先にやりたい?」
冷流さんは問い返してきた。
「そうですね。……『ゾンビシミュレーション~殺戮に花束を~』から先にやりましょうか」
私は迷いながらもそう応えた。
「分かった」
冷流さんは頷き、ソフトをゲーム機にセットした。
「じゃ、始めるぞ」
冷流さんはゲーム機の電源を入れた。テレビ画面に大きな文字で『ゾンビシミュレーション~殺戮に花束を~』のタイトルが表示された。
・ストーリー
・対戦
・カスタマイズ
・ショップ
・オプション
次にメニューが表示された。ゾンビものにカスタマイズ? どんなゲームなんだろう。私はワクワクしてきた。
「どんなゲームなのかを説明するぞ、菜紅」
冷流さんが言った。
「はい」
私は冷流さんを見た。
「プレイヤーはゾンビを操って、フィールド内を自由に動き回り人間を殺していく。そういうストーリーだ。ゾンビには体力があって、零になるとゲームオーバー。人間はライフルやらマシンガンやらロケットランチャーなどを使って攻撃してくる」
「武器を使ってくるんですか」
面白そうなゲームだな。
「戦車やら戦闘機に乗って攻撃してくる奴もいる。乗り物に乗って攻撃してくる奴は厄介だ。初期状態のゾンビは弱いからカスタマイズで強くする。カスタマイズはタイプとか大きさとかを決めたり装備をつけたりすることができる。装備はショップで購入できる。強力な装備が売られていてな。装備を購入するにはストーリーで獲得できるゴールドが必要だ。ゴールドは人間が持ってたり、宝箱に入っている。宝箱にはゴールドだけじゃなく装備も入っている」
「カスタマイズですか。いいですね。私はカスタマイズ大好きなんですよ」
最強のゾンビとか作りたいな。
「俺様もだ」
冷流さんは微笑んだ。
「対戦はカスタマイズしたゾンビを使って、次々に出てくるコンピューターを倒していくモードだ。説明はこんなもんかな」
冷流さんはふぅー、と息を吐いた。
「ほら、菜紅」
冷流さんはコントローラーを渡してくれた。
私は十字キーを下に押して、カスタマイズを選んだ。何体かは作られていて、空きのところにカーソルを合わせてAボタンを押した。
人間型、動物型、怪物型と三種類のタイプが表示された。カーソルを合わせて説明を読む。
人間型は攻撃力、防御力、体力、素早さがどれも平均的でバランスのとれたタイプ。
動物型は攻撃力、素早さが高い。防御力は高くなく、体力は少ない。
怪物型は攻撃力、防御力が三種類の中で一番高く体力も多い。素早さは一番低い。
最初だから、バランスの取れた人間型にしょうかな。次は大きさか。小柄、普通、長身の三種類。長身がいいかな。
次は装備だ。どんな装備があるか見ていく。『レーザー砲』やら『堕天使の翼』やら『ガトリング砲』やら『大砲』などがあった。
まずは『レーザー砲』を装備する。ゾンビの右腕の先が蒼い筒と化す。
次に『堕天使の翼』を装備する。ゾンビの背中から漆黒に染まる翼が四枚生えてくる。羽の一枚一枚が鋭く尖っている。説明には人間や乗り物を切断することも可能と書かれている。
次に『ガトリング砲』を装備する。ゾンビの左腕が一本の銃身と化した。薬室は六個。
最後に『大砲』を装備する。ゾンビの後頭部に装着された。
決定のところにカーソルを合わせてAボタンを押した。
「冷流さん。ゾンビが完成しました」
「いいじゃないか」
冷流さんは頭を撫でてくれる。嬉しいな。
私は十字キーを上に押して、ストーリーを選んだ。
テレビ画面にゲームスタートの文字が表示され、ストーリーが幕を開けた。
ひび割れたビル群が建ち並んでいる。アスファルトには放射線状の亀裂が走っている。車が数台放置されていて、火の手が上がっており、煙が立ち込めていた。
そんなフィールド内を、カスタマイズしたゾンビが動き回る。車の足元に宝箱があるのを発見した。開けてみると二百ゴールドだった。平均金額を知らないから、多いのか少ないのかは分からない。
ズキューン、と音がした。車の窓ガラスに亀裂が走り、音を立てて割れた。斜め後方にライフルを持った人間がいた。
ゾンビを操作し、ライフルを持った人間に『レーザー砲』を向けた。蒼い筒に高密度なエネルギーが凝縮され、蒼色の光線となって放たれた。ライフルを持った人間の上半身が消滅した。下半身だけが残り、ゆっくりと後ろに倒れた。近づいて調べる。百ゴールドが手に入った。
私の操作しているゾンビが、フィールドを暴れ回る。マシンガンを持った人間が数人ほど姿を現す。『ガトリング砲』を向けて、撃ちまくる。脳天が吹っ飛び、脳漿が、骨片が、肉片が飛び散った。
続いてロケットランチャーを持った人間が撃ってきたので、それを避け『大砲』で撃ち返す。爆音が響き、内臓その他諸々が飛び散った。
遠くの方から、戦闘機がやってきて爆弾を投下し始めた。『レーザー砲』を放ち、空中で爆発させる。次々と連鎖を起こし、爆発する。それにより空は爆風に覆われ視界が遮られた。
すぐさまゾンビを操作し、その場から離れる。
今度は何台もの戦車が遠くからやってきて砲撃してきたので、『レーザー砲』を放ち、破壊した。迫りくる砲弾を破壊していくも数に対応しきれず直撃してしまった。それを境に砲弾が次々と直撃し、瞬く間に体力が零になった。
ゲームオーバー
テレビ画面にそう表示された。
「やられてしまいました。残念です。次は『サタンレジェンド~勇者討伐~』をやりましょう」
冷流さんはゲーム機の電源を切った。ソフトを入れ替え、『サタンレジェンド~勇者討伐~』をゲーム機にセットし、電源を入れた。テレビ画面に大きな文字で『サタンレジェンド~勇者討伐~』のタイトルが表示された。
・ストーリー
・オプション
次にメニューが表示された。私はストーリーを選んだ。
セーブデータは三つまで作れるみたいだ。空きのところにカーソルを合わせAボタンを押し、新規データを作る。
名前はナクにした。サキと迷ったが本名にした。
どんなストーリーだろうか。魔王を操作するんだろうなということは何となくタイトルで分かるんだけどね。
☆☆
『魔王ナクよ。よく来てくれた』
『何のようだ。ナイン』
主人公喋れるんだ。ゲームの主人公はコミュニケーションを取らないことが多いからね。仲間とどうやって会話の疎通を図っているのか不思議に思っている。
王様は王様じゃなくちゃんとした名前があるんだな。
『勇者がこの世を支配し始めた』
『シキがだと? どうして?』
魔王と勇者は知り合いなのかな。
『役目を果たそうとしているのだろう。魔王と勇者は対立し、魔王は勇者を殺す役目を、勇者は魔王に殺される役目だからな』
そういう世界観なんだ。
『ナインは私にその役目を果たし、シキを殺せというのか?』
『違う。勇者をその役目から救って欲しいんだ。初代勇者が村人を殺戮し初代魔王が抹殺した。そこからこの役目が始まり恒例となっている。この役目は君たちの代で失くすべきだ。もちろんワシも協力する』
王様が一人目の仲間か。役に立つのだろうか。
『そうか。二人だけでは心許ないから魔王軍も連れて行くがいいか? ナイン?』
『ああ、構わない』
魔王ナクは部屋を出た。まだ操作はできないみたいだ。
すぐに魔王ナクは部屋に戻ってきた。
『ファビルとエルムを連れて来た』
二人だけ? 魔王軍少なすぎる。人望ないのかこの魔王。まあ、パーティーは四人だけどね。
『勇者を救いに行こう』
王様は言った。
四人ともその場から動かない。もう操作できるのかな。十字キーを動かして、魔王ナクを操作する。
お城を出てそれから町を出た。
適当にうろつく。魔法使いが現れた。
『魔法使いの攻撃』
相手からか。こちらには魔王がいるし、勝ちは見えている。
『ファイア』
全員に三百のダメージ。ナクは負けた。
「序盤で三百のダメージ? 何このクソゲー」
しまった。冷流さんがいるのに。
「菜紅の言うとおりクソゲーだよな。初っ端から三百ダメージはないよな。タイトルに惹かれて買ったが、クソゲーだとは思わなかった」
冷流さんもクソゲーと思ってるんだ。当然だよね。
☆☆
その後はゲームをやめて、冷流さんとお喋りした。気づけば夕方になっていた。
「夕方になったことだし、菜紅を誘拐した理由を話そう」
私は冷流さんを見つめた。
「へっ?」
私は素っ頓狂な声を上げて、身体を起こした。続いて真っ白な壁が目に入った。しばらく考えて思い出す。
「あ、そういえば誘拐されたんだった」
すっかり忘れてた。誘拐されたことを忘れるなんてどうかと思うけどね。緊張感の欠片もないや。
「おいおい普通忘れるか。誘拐されたのを」
自分の状況を思い出していると、横から声がした。
「れ、冷流さん」
冷流さんは呆れた表情で私のことを見ていた。
「冷流さんと一緒に寝たから無意識の内に安心して、誘拐された事実を忘れてしまったのかもしれません。そうに違いありません。私の心がその通りと訴えかけてきてますから」
私は必死にしなくてもいい言い訳を冷流さんに対して始める。
「ああ、分かった。そういうことにしておいてやる」
「ありがとうございます」
私はふぅ~、と安堵の息を漏らした。まあ、安堵の息を漏らす必要はないんだけどね。
「そこに朝ごはんあるから食べな。菜紅」
私は冷流さんが指差した方向を見て、驚愕した。何とカップラーメンが空中に浮いていたのである。
「え? 浮いてる? ここにきての超常現象とかいらないよ!」
私は混乱しながら叫んだ。
「……いや、ちゃんとテーブルの上に載ってるんだけどな」
「…………?」
私は頭に疑問符を浮かべながら、ベッドから降りて、カップラーメンに近づいた。
「あ、冷流さんの言うとおりテーブルの上に載ってました。分かりづらいですけど」
真っ白なテーブルだったために壁と床と同化して、そこに何もなく浮いているように見えたのだ。
「確かにな。無駄に白いのが多いんだよな。この部屋」
「でも、昨日探索した時にはテーブルなんてなかったと思いますけど」
「ああ、親父が今朝ここにそのテーブルを運んだんだよ」
「そうですか。できるなら別の色にして欲しかったです。分かりにくいんで」
私はそう言いながらも、真っ白な床に座り込んだ。
「それと親父から菜紅に伝言だ。学校は風邪ってことにして休ますから、と」
「風邪ですか。つまり、私はズル休みしたことになりますね」
「そういうことになるな」
初めてのズル休みだな。恐妖と黄砂せんせーと紫暗さんには会えないけど、冷流さんと過ごせるから別に構わない。
「お湯はポットに入っているから。それも真っ白だから分かりづれえけどな」
手探りでポットを探す。指先にポットが当たった感触がした。ポットを手に取ると、お湯を入れた。
私はカップラーメンをじっと見つめて待った。三分経過した。
「もしかしてお箸も真っ白ですか?」
「ああ、真っ白だ」
お箸はカップラーメンの前に置いてあった。手に取って麺をすする。
「美味しいです」
「喜んでもらえて何よりだ」
ジュルジュル、と麺をすすって、食べ終えた。
「ごちそうさまでした」
私はベッドに戻ろうとして気づいた。冷流さんがにやにやしていることに。
「どうしたんですか? 冷流さんったらにやにやして」
「いや、その何というかだな。離婚してから、親父が仕事している間にしゃべり相手が居なくて暇をもてあましていてな。元ダンナは家で仕事してたからな。こうして菜紅とおしゃべりできて楽しくてついにやにやしまったんだ」
冷流さんはどこか照れくさそうに言った。
「え? 離婚したんですか?」
私は驚いて訪ねた。
「ああ、そうだ。離婚して妖華から、旧姓である柘榴に戻った」
柘榴……恐妖と同じ苗字だ。こんな偶然もあるんだな。
「冷流さん。暇なんで何か娯楽とかありませんか。誘拐した理由は夕方に聞くとして」
「軽いな。別にいいけどな。娯楽か。ゲームならあるぞ」
「ゲームですか。いいですね。どこにあるんですか?」
「隣の部屋にある」
冷流さんは壁を指差した。
「え? 隣に部屋あるんですか?」
私は驚いて壁を見た。
「ああ、隣の部屋に行くぞ。菜紅」
「はい」
☆☆
壁と天井は白いが、隣の部屋ほどではない。畳の部屋で中央にはこたつが置いてある。その正面にテレビ台があり、その上にテレビが鎮座していた。テレビ台の中にゲーム機とソフトが仕舞ってあった。
どれも隣の部屋のように真っ白ではなかった。
「何だか思ったよりも普通ですね」
「まあな」
私と冷流さんはこたつに足を入れた。
冷流さんはテレビ台の中から、ゲーム機とソフトを取り出した。
「どのゲームがいい? 菜紅?」
私はソフトを手に取った。『サタンレジェンド~勇者討伐~』。このタイトルからして、魔王が主人公で勇者が敵かな?
他のソフトを手に取る。『ゾンビシミュレーション~殺戮に花束を~』。ゾンビものか。残りのソフトを手に取って見た。
「『サタンレジェンド~勇者討伐~』と『ゾンビシミュレーション~殺戮に花束を~』のゲームがやりたいです。どちらから先にやりましょうか、冷流さん?」
私はゲーム機をテレビにつけ終えた冷流さんに聞いた。
「菜紅はどっちが先にやりたい?」
冷流さんは問い返してきた。
「そうですね。……『ゾンビシミュレーション~殺戮に花束を~』から先にやりましょうか」
私は迷いながらもそう応えた。
「分かった」
冷流さんは頷き、ソフトをゲーム機にセットした。
「じゃ、始めるぞ」
冷流さんはゲーム機の電源を入れた。テレビ画面に大きな文字で『ゾンビシミュレーション~殺戮に花束を~』のタイトルが表示された。
・ストーリー
・対戦
・カスタマイズ
・ショップ
・オプション
次にメニューが表示された。ゾンビものにカスタマイズ? どんなゲームなんだろう。私はワクワクしてきた。
「どんなゲームなのかを説明するぞ、菜紅」
冷流さんが言った。
「はい」
私は冷流さんを見た。
「プレイヤーはゾンビを操って、フィールド内を自由に動き回り人間を殺していく。そういうストーリーだ。ゾンビには体力があって、零になるとゲームオーバー。人間はライフルやらマシンガンやらロケットランチャーなどを使って攻撃してくる」
「武器を使ってくるんですか」
面白そうなゲームだな。
「戦車やら戦闘機に乗って攻撃してくる奴もいる。乗り物に乗って攻撃してくる奴は厄介だ。初期状態のゾンビは弱いからカスタマイズで強くする。カスタマイズはタイプとか大きさとかを決めたり装備をつけたりすることができる。装備はショップで購入できる。強力な装備が売られていてな。装備を購入するにはストーリーで獲得できるゴールドが必要だ。ゴールドは人間が持ってたり、宝箱に入っている。宝箱にはゴールドだけじゃなく装備も入っている」
「カスタマイズですか。いいですね。私はカスタマイズ大好きなんですよ」
最強のゾンビとか作りたいな。
「俺様もだ」
冷流さんは微笑んだ。
「対戦はカスタマイズしたゾンビを使って、次々に出てくるコンピューターを倒していくモードだ。説明はこんなもんかな」
冷流さんはふぅー、と息を吐いた。
「ほら、菜紅」
冷流さんはコントローラーを渡してくれた。
私は十字キーを下に押して、カスタマイズを選んだ。何体かは作られていて、空きのところにカーソルを合わせてAボタンを押した。
人間型、動物型、怪物型と三種類のタイプが表示された。カーソルを合わせて説明を読む。
人間型は攻撃力、防御力、体力、素早さがどれも平均的でバランスのとれたタイプ。
動物型は攻撃力、素早さが高い。防御力は高くなく、体力は少ない。
怪物型は攻撃力、防御力が三種類の中で一番高く体力も多い。素早さは一番低い。
最初だから、バランスの取れた人間型にしょうかな。次は大きさか。小柄、普通、長身の三種類。長身がいいかな。
次は装備だ。どんな装備があるか見ていく。『レーザー砲』やら『堕天使の翼』やら『ガトリング砲』やら『大砲』などがあった。
まずは『レーザー砲』を装備する。ゾンビの右腕の先が蒼い筒と化す。
次に『堕天使の翼』を装備する。ゾンビの背中から漆黒に染まる翼が四枚生えてくる。羽の一枚一枚が鋭く尖っている。説明には人間や乗り物を切断することも可能と書かれている。
次に『ガトリング砲』を装備する。ゾンビの左腕が一本の銃身と化した。薬室は六個。
最後に『大砲』を装備する。ゾンビの後頭部に装着された。
決定のところにカーソルを合わせてAボタンを押した。
「冷流さん。ゾンビが完成しました」
「いいじゃないか」
冷流さんは頭を撫でてくれる。嬉しいな。
私は十字キーを上に押して、ストーリーを選んだ。
テレビ画面にゲームスタートの文字が表示され、ストーリーが幕を開けた。
ひび割れたビル群が建ち並んでいる。アスファルトには放射線状の亀裂が走っている。車が数台放置されていて、火の手が上がっており、煙が立ち込めていた。
そんなフィールド内を、カスタマイズしたゾンビが動き回る。車の足元に宝箱があるのを発見した。開けてみると二百ゴールドだった。平均金額を知らないから、多いのか少ないのかは分からない。
ズキューン、と音がした。車の窓ガラスに亀裂が走り、音を立てて割れた。斜め後方にライフルを持った人間がいた。
ゾンビを操作し、ライフルを持った人間に『レーザー砲』を向けた。蒼い筒に高密度なエネルギーが凝縮され、蒼色の光線となって放たれた。ライフルを持った人間の上半身が消滅した。下半身だけが残り、ゆっくりと後ろに倒れた。近づいて調べる。百ゴールドが手に入った。
私の操作しているゾンビが、フィールドを暴れ回る。マシンガンを持った人間が数人ほど姿を現す。『ガトリング砲』を向けて、撃ちまくる。脳天が吹っ飛び、脳漿が、骨片が、肉片が飛び散った。
続いてロケットランチャーを持った人間が撃ってきたので、それを避け『大砲』で撃ち返す。爆音が響き、内臓その他諸々が飛び散った。
遠くの方から、戦闘機がやってきて爆弾を投下し始めた。『レーザー砲』を放ち、空中で爆発させる。次々と連鎖を起こし、爆発する。それにより空は爆風に覆われ視界が遮られた。
すぐさまゾンビを操作し、その場から離れる。
今度は何台もの戦車が遠くからやってきて砲撃してきたので、『レーザー砲』を放ち、破壊した。迫りくる砲弾を破壊していくも数に対応しきれず直撃してしまった。それを境に砲弾が次々と直撃し、瞬く間に体力が零になった。
ゲームオーバー
テレビ画面にそう表示された。
「やられてしまいました。残念です。次は『サタンレジェンド~勇者討伐~』をやりましょう」
冷流さんはゲーム機の電源を切った。ソフトを入れ替え、『サタンレジェンド~勇者討伐~』をゲーム機にセットし、電源を入れた。テレビ画面に大きな文字で『サタンレジェンド~勇者討伐~』のタイトルが表示された。
・ストーリー
・オプション
次にメニューが表示された。私はストーリーを選んだ。
セーブデータは三つまで作れるみたいだ。空きのところにカーソルを合わせAボタンを押し、新規データを作る。
名前はナクにした。サキと迷ったが本名にした。
どんなストーリーだろうか。魔王を操作するんだろうなということは何となくタイトルで分かるんだけどね。
☆☆
『魔王ナクよ。よく来てくれた』
『何のようだ。ナイン』
主人公喋れるんだ。ゲームの主人公はコミュニケーションを取らないことが多いからね。仲間とどうやって会話の疎通を図っているのか不思議に思っている。
王様は王様じゃなくちゃんとした名前があるんだな。
『勇者がこの世を支配し始めた』
『シキがだと? どうして?』
魔王と勇者は知り合いなのかな。
『役目を果たそうとしているのだろう。魔王と勇者は対立し、魔王は勇者を殺す役目を、勇者は魔王に殺される役目だからな』
そういう世界観なんだ。
『ナインは私にその役目を果たし、シキを殺せというのか?』
『違う。勇者をその役目から救って欲しいんだ。初代勇者が村人を殺戮し初代魔王が抹殺した。そこからこの役目が始まり恒例となっている。この役目は君たちの代で失くすべきだ。もちろんワシも協力する』
王様が一人目の仲間か。役に立つのだろうか。
『そうか。二人だけでは心許ないから魔王軍も連れて行くがいいか? ナイン?』
『ああ、構わない』
魔王ナクは部屋を出た。まだ操作はできないみたいだ。
すぐに魔王ナクは部屋に戻ってきた。
『ファビルとエルムを連れて来た』
二人だけ? 魔王軍少なすぎる。人望ないのかこの魔王。まあ、パーティーは四人だけどね。
『勇者を救いに行こう』
王様は言った。
四人ともその場から動かない。もう操作できるのかな。十字キーを動かして、魔王ナクを操作する。
お城を出てそれから町を出た。
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『魔法使いの攻撃』
相手からか。こちらには魔王がいるし、勝ちは見えている。
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「序盤で三百のダメージ? 何このクソゲー」
しまった。冷流さんがいるのに。
「菜紅の言うとおりクソゲーだよな。初っ端から三百ダメージはないよな。タイトルに惹かれて買ったが、クソゲーだとは思わなかった」
冷流さんもクソゲーと思ってるんだ。当然だよね。
☆☆
その後はゲームをやめて、冷流さんとお喋りした。気づけば夕方になっていた。
「夕方になったことだし、菜紅を誘拐した理由を話そう」
私は冷流さんを見つめた。
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