211 / 211
心の中の小さいおっさん
しおりを挟む
私はベッドに潜り込んだが、なかなか眠れなかった。ベッド横の机の上にある置き時計を見ると、時刻は深夜零時を過ぎていた。心の中を確認すると、小さいおっさんもまだ寝ていないようだった。
私が眠れない原因は小さいおっさんにあった。人見知りの性格が災いして小さいおっさんと仲良くなれずにいた。そのことに悩んでなかなか眠りにつけなかったのだ。もちろん仲良くしたい思いはある。
私たち女性は生まれた時から心の中に小さいおっさんを飼っている。それによって年を経た時におっさん化できるのだ。年を取ると、当然、衰えてくる。それは避けられない。
年を経ると同時に心の中の小さいおっさんと融合しておっさん化することで、衰えを補うことができるのだ。将来的に確実に世話になることを考えると、できるだけ小さいおっさんと仲良くしておきたい。
けれどどうすれば小さいおっさんと仲良くできるのか分からない。おっさん化歴が長いお母さんや祖母に仲良くなる秘訣を聞いてみようか。
考え込んでいると、ふと意識が飛んだ。気が付くと、私はいつの間にか眠り込んでいたようで、時刻は深夜一時を過ぎていた。ふと壁にかけているカレンダーが目に入った。今日の日付に赤い丸がつけてあった。今日は私の誕生日だった。
カレンダーでそのことを思い出した私は小さいおっさんの様子を確認しようとして眩暈を起こしそうになった。
心の中に小さいおっさんはいなかった。どうやら私が寝ている隙に、小さいおっさんは逃げ出したようだった。小さいおっさんが逃げ出すなんて思ってもみなかった。
私が仲良くしなかったから、そのことに小さいおっさんは不満を持ったのだろうか。とにかく小さいおっさんを探そうと私は立ち上がったが、すぐに足を止めた。
小さいおっさんが行きそうな場所に心当たりがなかった。小さいおっさんに関して何も知らないことに気付いた。何が好きで何が嫌いなのかも知らなかった。何で小さいおっさんのことを知ろうとしなかったのかと今更ながら悔やんだ。
私は頭を振ると、家中を隈なく探した。逃げ出したというのは単なる勘違いで、私が寝ている時にはいつも心の中から出て、家の中で過ごしているのかもしれないと思ったのだ。けれど家のどこにも小さいおっさんはいなかった。
私は泣きそうになりながら、ダイニングテーブルの両側に二脚ずつ並んだ木製の椅子の一つに座ってため息をついた。
「何かあった?」
お母さんがお酒を片手に持ち、台所に入ってきた。ダイニングテーブルに近づくと、お母さんは向かい側の椅子に座った。家のあちこちを探して騒がしくしていたから、気になったのかもしれない。お酒は寝室に常備してあったのだろう。
「……小さいおっさんがいなくなったの。どうやら逃げ出したみたいで。私、嫌われているのかな?」
「何だ、そんなことか」
「そんなことって……私は真剣に悩んでいるのに」
「大丈夫。何も悩むことはない。嫌われてなんかいないから安心しな。今日はあんたの誕生日だからさ」
お母さんは優し気な表情を浮かべて私を見つめた後、お酒を美味しそうに飲んだ。私の誕生日だから何だというのか。
「さあ、もう遅いから寝な。起きる頃には悩みなんか吹っ飛んでいるよ」
お母さんに促され、私は寝室に戻ってベッドに潜り込むと、ゆっくりと目を閉じた。
☆☆
窓から朝日が差し込み、私は目を覚ました。枕元には水玉模様の包装紙に包まれた箱が置いてあった。きれいにラッピングされている。心の中を確認してみると、小さいおっさんが寝ていた。
どうやら逃げ出したわけではなかったみたいだった。お母さんが言った通り、悩むことはなかった。
私は体を起こすと、箱を手に取った。これは小さいおっさんが私にプレゼントするために買ったものだろう。お母さんが『今日はあんたの誕生日だからさ』と言っていたし、小さいおっさんも心の中に戻ってきているから、そう考えていいだろう。
今までの誕生日にも枕元にプレゼントが置いてあったが、お母さんが用意したものだと思っていた。けれど、それは私の勘違いかもしれない。今までのプレゼントも小さいおっさんが用意していたのではないか。だからお母さんは『今日はあんたの誕生日だからさ』と言ったんだ。小さいおっさんが私のためにプレゼントを買っていることを知っていたから。
深夜にいなくなったのはその時間帯しか買いに行けなかったからだろう。いつもなら私は朝まで起きないが、今回は悩んでいたこともあって夜中に目が覚めてしまい、逃げ出したと勘違いした。
小さいおっさんは逃げ出したわけではないと分かって安堵し、私は箱を開けてみた。中には私が前から欲しがっていた可愛いデザインの鞄が入っていた。感激のあまり鞄を胸に抱きしめていると、小さいおっさんが目を覚まし、喜ぶ私に気付いて微笑んだ。小さいおっさんと上手くやっていけそうだと私は思った。
――それから数十年の月日が流れ、私は小さいおっさんと融合し、立派なおっさんになった。
私が眠れない原因は小さいおっさんにあった。人見知りの性格が災いして小さいおっさんと仲良くなれずにいた。そのことに悩んでなかなか眠りにつけなかったのだ。もちろん仲良くしたい思いはある。
私たち女性は生まれた時から心の中に小さいおっさんを飼っている。それによって年を経た時におっさん化できるのだ。年を取ると、当然、衰えてくる。それは避けられない。
年を経ると同時に心の中の小さいおっさんと融合しておっさん化することで、衰えを補うことができるのだ。将来的に確実に世話になることを考えると、できるだけ小さいおっさんと仲良くしておきたい。
けれどどうすれば小さいおっさんと仲良くできるのか分からない。おっさん化歴が長いお母さんや祖母に仲良くなる秘訣を聞いてみようか。
考え込んでいると、ふと意識が飛んだ。気が付くと、私はいつの間にか眠り込んでいたようで、時刻は深夜一時を過ぎていた。ふと壁にかけているカレンダーが目に入った。今日の日付に赤い丸がつけてあった。今日は私の誕生日だった。
カレンダーでそのことを思い出した私は小さいおっさんの様子を確認しようとして眩暈を起こしそうになった。
心の中に小さいおっさんはいなかった。どうやら私が寝ている隙に、小さいおっさんは逃げ出したようだった。小さいおっさんが逃げ出すなんて思ってもみなかった。
私が仲良くしなかったから、そのことに小さいおっさんは不満を持ったのだろうか。とにかく小さいおっさんを探そうと私は立ち上がったが、すぐに足を止めた。
小さいおっさんが行きそうな場所に心当たりがなかった。小さいおっさんに関して何も知らないことに気付いた。何が好きで何が嫌いなのかも知らなかった。何で小さいおっさんのことを知ろうとしなかったのかと今更ながら悔やんだ。
私は頭を振ると、家中を隈なく探した。逃げ出したというのは単なる勘違いで、私が寝ている時にはいつも心の中から出て、家の中で過ごしているのかもしれないと思ったのだ。けれど家のどこにも小さいおっさんはいなかった。
私は泣きそうになりながら、ダイニングテーブルの両側に二脚ずつ並んだ木製の椅子の一つに座ってため息をついた。
「何かあった?」
お母さんがお酒を片手に持ち、台所に入ってきた。ダイニングテーブルに近づくと、お母さんは向かい側の椅子に座った。家のあちこちを探して騒がしくしていたから、気になったのかもしれない。お酒は寝室に常備してあったのだろう。
「……小さいおっさんがいなくなったの。どうやら逃げ出したみたいで。私、嫌われているのかな?」
「何だ、そんなことか」
「そんなことって……私は真剣に悩んでいるのに」
「大丈夫。何も悩むことはない。嫌われてなんかいないから安心しな。今日はあんたの誕生日だからさ」
お母さんは優し気な表情を浮かべて私を見つめた後、お酒を美味しそうに飲んだ。私の誕生日だから何だというのか。
「さあ、もう遅いから寝な。起きる頃には悩みなんか吹っ飛んでいるよ」
お母さんに促され、私は寝室に戻ってベッドに潜り込むと、ゆっくりと目を閉じた。
☆☆
窓から朝日が差し込み、私は目を覚ました。枕元には水玉模様の包装紙に包まれた箱が置いてあった。きれいにラッピングされている。心の中を確認してみると、小さいおっさんが寝ていた。
どうやら逃げ出したわけではなかったみたいだった。お母さんが言った通り、悩むことはなかった。
私は体を起こすと、箱を手に取った。これは小さいおっさんが私にプレゼントするために買ったものだろう。お母さんが『今日はあんたの誕生日だからさ』と言っていたし、小さいおっさんも心の中に戻ってきているから、そう考えていいだろう。
今までの誕生日にも枕元にプレゼントが置いてあったが、お母さんが用意したものだと思っていた。けれど、それは私の勘違いかもしれない。今までのプレゼントも小さいおっさんが用意していたのではないか。だからお母さんは『今日はあんたの誕生日だからさ』と言ったんだ。小さいおっさんが私のためにプレゼントを買っていることを知っていたから。
深夜にいなくなったのはその時間帯しか買いに行けなかったからだろう。いつもなら私は朝まで起きないが、今回は悩んでいたこともあって夜中に目が覚めてしまい、逃げ出したと勘違いした。
小さいおっさんは逃げ出したわけではないと分かって安堵し、私は箱を開けてみた。中には私が前から欲しがっていた可愛いデザインの鞄が入っていた。感激のあまり鞄を胸に抱きしめていると、小さいおっさんが目を覚まし、喜ぶ私に気付いて微笑んだ。小さいおっさんと上手くやっていけそうだと私は思った。
――それから数十年の月日が流れ、私は小さいおっさんと融合し、立派なおっさんになった。
0
お気に入りに追加
2
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
保健室の秘密...
とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。
吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。
吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。
僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。
そんな吉田さんには、ある噂があった。
「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」
それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。
今日の授業は保健体育
にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり)
僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。
その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。
ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。
お尻たたき収容所レポート
鞭尻
大衆娯楽
最低でも月に一度はお尻を叩かれないといけない「お尻たたき収容所」。
「お尻たたきのある生活」を望んで収容生となった紗良は、収容生活をレポートする記者としてお尻たたき願望と不安に揺れ動く日々を送る。
ぎりぎりあるかもしれない(?)日常系スパンキング小説です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる