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おすそ分け
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夫と息子が風呂に入っている間に、私はリビングを掃除することにした。カーペットに掃除機をかけていると、突然、インターホンが鳴った。掃除機を止めてすぐに玄関に向かうと、扉を開けた。
「じゃがいもをたくさんもらったんですけど、良ければどうですか?」
近所に住むママ友が大きめのダンボール箱を持って立っていた。ダンボール箱の隙間からじゃがいもが顔を覗かせている。
「いいんですか? ありがとうございます! 買おうと思ってたところなんですよ」
「そうなんですか? たくさん食べてくださいね」
「ありがとうございます!」
私はもう一度お礼を言い、ダンボール箱を受け取った。ママ友は頭を下げて帰っていった。
ダンボール箱を台所のテーブルに置き、中を開けて私は絶句した。大量のじゃがいもの中に明らかに浮いた存在があった。それは血まみれの腕だった。なぜこんなものがダンボール箱の中に入っているのかが分からなかった。
まさかさっきのママ友は誰かを殺したのだろうか? しかし、なぜわざわざダンボール箱に入れて渡してきたのだろうか? 通報される可能性を考えなかったのか?
あまりのことに理解が追い付かずに唖然としていると、夫と息子が風呂から上がってきた。
「じゃがいもじゃないか。ママ友に貰ったのかい?」
「あっ、じゃがいもだ!」
夫と息子はダンボール箱を覗いたが、平然としていた。血まみれの腕に驚いた様子もなかった。私は夫と息子の平然とした態度に困惑した。どうして血まみれの腕を見ても驚かないんだ? 気付かないはずはないのに。夫と息子の嬉しそうな表情に戸惑っていると、またもインターホンが鳴った。
少し逡巡した後、私は玄関に向かってドアを開けた。別のママ友が両手にダンボール箱を抱えて立っている。
「たまねぎを頂いたので、良ければどうぞ」
「はぁ、ありがとうございます」
私は力ない声でそう答え、ママ友は満足そうに帰っていった。ダンボール箱をテーブルに置き、中を開けて私は血の気が引くのを感じた。大量のたまねぎに混ざってまたも血まみれの腕があった。今のママ友も誰かを殺したというのか? そんなことがありえるのか?
生のたまねぎを食べ始めた夫と息子に恐怖を抱きながら、私は思考を巡らした。二人のママ友はいったい何のために血まみれの腕が入った段ボール箱を渡してきたのだろうか? いつも通りの夫と息子も何か変だ。血まみれの腕なんか見たら普通は驚くだろうに、どうして平気でいられるんだ?
考え込んでいると、またもやインターホンが鳴り響いた。こんな短時間にインターホンが三回も鳴るなんて初めてのことだった。
嫌な予感がしつつも私はドアを開けた。やはり別のママ友がダンボール箱を抱えて立っていた。
「人参を頂いたんですけど、良かったらどうですか?」
「……ありがとうございます」
私は冷や汗をかきながら、ダンボール箱を受け取った。ママ友は帰っていた。
ダンボール箱を台所の床に置き、恐る恐る開けてみた。人参に混ざって血まみれの足が入っていた。腕の次は足だった。自分の身に何が起きているのか分からなかった。あのママ友たちは本当に私が知っている人なのかも確信が持てなかった。
一心不乱にたまねぎを咀嚼し続ける夫と息子に怯えていると、インターホンが鳴った。これで四回目だった。ドアを開けると、別のママ友がダンボール箱を持っていた。
「牛肉を頂いたので、良かったら食べてください」
「……ありがとうございます」
感情の籠らない声で言うと、ママ友はダンボール箱を渡してきた。ダンボール箱を受け取ると、ママ友は頭を下げて帰っていく。
台所に戻ってダンボール箱を開けると、数パックの牛肉の中に血まみれの足があった。二つの腕に、二つの足。これは両腕と両足なのだろうか? 多分、そうなのだろう。腕と足を交互に見ていると、本日五回目のインターホンが鳴り響いた。
ドアを開けると、別のママ友がダンボール箱を抱えていた。
「しいたけを頂いたので、良かったらどうぞ」
「……ありがとうございます」
私は無表情でお礼を言いダンボール箱を受け取った。ママ友は笑顔で帰っていった。
ダンボール箱を台所の床に置いて開けると、しいたけに混じって血まみれの胴体が入っていた。腕や足の後は胴体か。これはいったい誰の死体なのだろうか? 考え込んでいると、六回目のインターホンが鳴った。
ドアを開けると、別のママ友が今までに比べて小さめのダンボール箱を抱えていた。
「たまごを頂いたんですけど、良ければどうですか?」
「……ありがとうございます」
私はママ友の顔を見ずにお礼を言い、ダンボール箱を受け取った。ママ友は満足そうに帰っていく。
ダンボール箱を台所の床に置いた。中身は予想できた。腕、脚、胴体とくればもう後は一つしかない。ダンボール箱を開けると、思った通り、たまごに混じって血まみれの頭が入っていた。だが、予想外のことがダンボール箱の中にあった。その頭は数年前に殺したはずの姉のものだった。ちゃんと燃やして処分したはずなのに。姉を殺した理由は夫を誘惑したからだった。
呆然としていると、背後からなぜか姉の声が聞こえた。振り返ると、夫と息子が無表情で立っていた。さらに玄関の鍵が開く音が聞こえ、台所にママ友たちが入ってきた。ママ友たちも無表情だった。
『……また会えて嬉しいわ』
夫や息子、ママ友たちは姉の声色を使って喋った。反射的に姉の頭を見た。姉は不気味な笑顔を浮かべていた。夫たちは無表情で私の首を絞めてきた。
首を絞められながら私は思い出した。じゃがいもにたまねぎ、人参、牛肉、しいたけ、たまごは姉が大好きなカレーの材料だということを。一般的なカレーの材料は主にじゃがいもとたまねぎ、人参、牛肉だが、姉はそこにしいたけを加えて最後にたまごをかけるのが好きだった。
「……ふふ、お姉ちゃんは本当にカレーが好きなんだから」
私は美味しそうにカレーを食べる姉の姿を思い出し、自然と笑みが零れた。
不気味な笑顔を浮かべたままの姉に私は微笑み返し、ゆっくりと意識は闇の中に沈んでいった。
「じゃがいもをたくさんもらったんですけど、良ければどうですか?」
近所に住むママ友が大きめのダンボール箱を持って立っていた。ダンボール箱の隙間からじゃがいもが顔を覗かせている。
「いいんですか? ありがとうございます! 買おうと思ってたところなんですよ」
「そうなんですか? たくさん食べてくださいね」
「ありがとうございます!」
私はもう一度お礼を言い、ダンボール箱を受け取った。ママ友は頭を下げて帰っていった。
ダンボール箱を台所のテーブルに置き、中を開けて私は絶句した。大量のじゃがいもの中に明らかに浮いた存在があった。それは血まみれの腕だった。なぜこんなものがダンボール箱の中に入っているのかが分からなかった。
まさかさっきのママ友は誰かを殺したのだろうか? しかし、なぜわざわざダンボール箱に入れて渡してきたのだろうか? 通報される可能性を考えなかったのか?
あまりのことに理解が追い付かずに唖然としていると、夫と息子が風呂から上がってきた。
「じゃがいもじゃないか。ママ友に貰ったのかい?」
「あっ、じゃがいもだ!」
夫と息子はダンボール箱を覗いたが、平然としていた。血まみれの腕に驚いた様子もなかった。私は夫と息子の平然とした態度に困惑した。どうして血まみれの腕を見ても驚かないんだ? 気付かないはずはないのに。夫と息子の嬉しそうな表情に戸惑っていると、またもインターホンが鳴った。
少し逡巡した後、私は玄関に向かってドアを開けた。別のママ友が両手にダンボール箱を抱えて立っている。
「たまねぎを頂いたので、良ければどうぞ」
「はぁ、ありがとうございます」
私は力ない声でそう答え、ママ友は満足そうに帰っていった。ダンボール箱をテーブルに置き、中を開けて私は血の気が引くのを感じた。大量のたまねぎに混ざってまたも血まみれの腕があった。今のママ友も誰かを殺したというのか? そんなことがありえるのか?
生のたまねぎを食べ始めた夫と息子に恐怖を抱きながら、私は思考を巡らした。二人のママ友はいったい何のために血まみれの腕が入った段ボール箱を渡してきたのだろうか? いつも通りの夫と息子も何か変だ。血まみれの腕なんか見たら普通は驚くだろうに、どうして平気でいられるんだ?
考え込んでいると、またもやインターホンが鳴り響いた。こんな短時間にインターホンが三回も鳴るなんて初めてのことだった。
嫌な予感がしつつも私はドアを開けた。やはり別のママ友がダンボール箱を抱えて立っていた。
「人参を頂いたんですけど、良かったらどうですか?」
「……ありがとうございます」
私は冷や汗をかきながら、ダンボール箱を受け取った。ママ友は帰っていた。
ダンボール箱を台所の床に置き、恐る恐る開けてみた。人参に混ざって血まみれの足が入っていた。腕の次は足だった。自分の身に何が起きているのか分からなかった。あのママ友たちは本当に私が知っている人なのかも確信が持てなかった。
一心不乱にたまねぎを咀嚼し続ける夫と息子に怯えていると、インターホンが鳴った。これで四回目だった。ドアを開けると、別のママ友がダンボール箱を持っていた。
「牛肉を頂いたので、良かったら食べてください」
「……ありがとうございます」
感情の籠らない声で言うと、ママ友はダンボール箱を渡してきた。ダンボール箱を受け取ると、ママ友は頭を下げて帰っていく。
台所に戻ってダンボール箱を開けると、数パックの牛肉の中に血まみれの足があった。二つの腕に、二つの足。これは両腕と両足なのだろうか? 多分、そうなのだろう。腕と足を交互に見ていると、本日五回目のインターホンが鳴り響いた。
ドアを開けると、別のママ友がダンボール箱を抱えていた。
「しいたけを頂いたので、良かったらどうぞ」
「……ありがとうございます」
私は無表情でお礼を言いダンボール箱を受け取った。ママ友は笑顔で帰っていった。
ダンボール箱を台所の床に置いて開けると、しいたけに混じって血まみれの胴体が入っていた。腕や足の後は胴体か。これはいったい誰の死体なのだろうか? 考え込んでいると、六回目のインターホンが鳴った。
ドアを開けると、別のママ友が今までに比べて小さめのダンボール箱を抱えていた。
「たまごを頂いたんですけど、良ければどうですか?」
「……ありがとうございます」
私はママ友の顔を見ずにお礼を言い、ダンボール箱を受け取った。ママ友は満足そうに帰っていく。
ダンボール箱を台所の床に置いた。中身は予想できた。腕、脚、胴体とくればもう後は一つしかない。ダンボール箱を開けると、思った通り、たまごに混じって血まみれの頭が入っていた。だが、予想外のことがダンボール箱の中にあった。その頭は数年前に殺したはずの姉のものだった。ちゃんと燃やして処分したはずなのに。姉を殺した理由は夫を誘惑したからだった。
呆然としていると、背後からなぜか姉の声が聞こえた。振り返ると、夫と息子が無表情で立っていた。さらに玄関の鍵が開く音が聞こえ、台所にママ友たちが入ってきた。ママ友たちも無表情だった。
『……また会えて嬉しいわ』
夫や息子、ママ友たちは姉の声色を使って喋った。反射的に姉の頭を見た。姉は不気味な笑顔を浮かべていた。夫たちは無表情で私の首を絞めてきた。
首を絞められながら私は思い出した。じゃがいもにたまねぎ、人参、牛肉、しいたけ、たまごは姉が大好きなカレーの材料だということを。一般的なカレーの材料は主にじゃがいもとたまねぎ、人参、牛肉だが、姉はそこにしいたけを加えて最後にたまごをかけるのが好きだった。
「……ふふ、お姉ちゃんは本当にカレーが好きなんだから」
私は美味しそうにカレーを食べる姉の姿を思い出し、自然と笑みが零れた。
不気味な笑顔を浮かべたままの姉に私は微笑み返し、ゆっくりと意識は闇の中に沈んでいった。
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