177 / 211
健忘症
しおりを挟む
私は机の中に紙が入っていることに気付いた。紙には『秋塚百合、家の場所は学校の裏手、屋根は青色。健忘症で五十分ごとに記憶がリセットされる』と書かれていた。辺りを見回すと、場所は学校のようだった。この紙はいったい誰が書いたのだろうか?
「秋塚、分からないことがあったら何でも言ってくれ」
考え込んでいると、誰かが私に声をかけた。顔を上げると、髪を茶色に染めた端正な顔立ちの少年が立っていた。
「えっと……」
「ああ、俺は夏野健太って言うんだ」
「健太君だね」
忘れないように机の中に入っていた紙に名前をメモしようとしたら、すでに書かれていることに気付いた。私が書いたのだろうか? だとすれば健太君とやらはすでに私に接触していたのかもしれない。少なくとも五十分以上前に。
「健太君、今は何の時間なのかな?」
「今は休み時間だよ。次は音楽だから、そろそろ移動した方がいいな。ちょっと待っててくれ」
健太君はそう言うと、教室を出ようとしていた生徒に声をかけた。いったいどうしたのだろうか? それにしても健太君は親切な男子だと思う。何も覚えていない私に声をかけてくれるのだから。健太君が何回くらい声をかけてくれたのかは分からないが、そのたびに私はどんな感情を抱いたのだろうか?
「おまたせ、それじゃ、移動しようか」
「うん」
私は頷くと椅子から立ち上がり、健太君は歩き出した。すると健太君のポケットから紙が落ちた。私は何気なく紙を拾い、驚愕した。紙には『夏野健太、健忘症で一日ごとに記憶がリセットされる。四列目の一番後ろに座っている秋塚百合も健忘症で五十分ごとに記憶がリセット。家は学校の裏手で屋根は青色』と書かれていた。
「ああ、そっか。私の机の中に入っていた紙は健太君が書いたんだね」
素人目に見ても、この紙と机の中に入っていた紙は明らかに筆跡が同じだった。健太君が生徒に話しかけたのは音楽室の場所を聞くためだったのだろう。
「ああ、そうだよ。改めて音楽室に移動しようか」
「うん、そうだね」
私は健太君の手を握った。健太君は顔を真っ赤にしながらも、音楽室に向かって歩き出した。五十分後には今までの会話も忘れてしまうけど、新鮮な気持ちで健太君に会えるなら、それもいいかもしれない。
――何回も健太君に恋できるということに他ならないのだから。
「秋塚、分からないことがあったら何でも言ってくれ」
考え込んでいると、誰かが私に声をかけた。顔を上げると、髪を茶色に染めた端正な顔立ちの少年が立っていた。
「えっと……」
「ああ、俺は夏野健太って言うんだ」
「健太君だね」
忘れないように机の中に入っていた紙に名前をメモしようとしたら、すでに書かれていることに気付いた。私が書いたのだろうか? だとすれば健太君とやらはすでに私に接触していたのかもしれない。少なくとも五十分以上前に。
「健太君、今は何の時間なのかな?」
「今は休み時間だよ。次は音楽だから、そろそろ移動した方がいいな。ちょっと待っててくれ」
健太君はそう言うと、教室を出ようとしていた生徒に声をかけた。いったいどうしたのだろうか? それにしても健太君は親切な男子だと思う。何も覚えていない私に声をかけてくれるのだから。健太君が何回くらい声をかけてくれたのかは分からないが、そのたびに私はどんな感情を抱いたのだろうか?
「おまたせ、それじゃ、移動しようか」
「うん」
私は頷くと椅子から立ち上がり、健太君は歩き出した。すると健太君のポケットから紙が落ちた。私は何気なく紙を拾い、驚愕した。紙には『夏野健太、健忘症で一日ごとに記憶がリセットされる。四列目の一番後ろに座っている秋塚百合も健忘症で五十分ごとに記憶がリセット。家は学校の裏手で屋根は青色』と書かれていた。
「ああ、そっか。私の机の中に入っていた紙は健太君が書いたんだね」
素人目に見ても、この紙と机の中に入っていた紙は明らかに筆跡が同じだった。健太君が生徒に話しかけたのは音楽室の場所を聞くためだったのだろう。
「ああ、そうだよ。改めて音楽室に移動しようか」
「うん、そうだね」
私は健太君の手を握った。健太君は顔を真っ赤にしながらも、音楽室に向かって歩き出した。五十分後には今までの会話も忘れてしまうけど、新鮮な気持ちで健太君に会えるなら、それもいいかもしれない。
――何回も健太君に恋できるということに他ならないのだから。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
さくらと遥香(ショートストーリー)
youmery
恋愛
「さくらと遥香」46時間TV編で両想いになり、周りには内緒で付き合い始めたさくちゃんとかっきー。
その後のメインストーリーとはあまり関係してこない、単発で読めるショートストーリー集です。
※さくちゃん目線です。
※さくちゃんとかっきーは周りに内緒で付き合っています。メンバーにも事務所にも秘密にしています。
※メインストーリーの長編「さくらと遥香」を未読でも楽しめますが、46時間TV編だけでも読んでからお読みいただくことをおすすめします。
※ショートストーリーはpixivでもほぼ同内容で公開中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる