108 / 211
早弁
しおりを挟む
「健くん! なんで早弁するの!」
私は前列で堂々と早弁する健くんに怒鳴った。後列で早弁するのならまだしも、前列で早弁するなんて私を舐めているとしか思えない。美味しそうに食べているのが余計に腹が立つ。
「俺は早弁なんてしていない。授業中にお腹が減ったから食べているだけだ」
「それを早弁だと言っているんでしょうが!」
私は教卓を叩いて怒鳴りつける。健くんは呆れたように私を見つめて食事を再開する。食べないでと私は思ったが、言ったところでどうせ聞き入れはしないだろう。何よりまるで私が悪いみたいな表情をしていることに苛立った。
「先生の言うとおり、早弁なんてしちゃダメだよ!」
「……美智香さんも早弁してるでしょ?」
美智香さんの口元にはご飯粒がついているし、手には弁当を持っている。よくもまあそれで早弁なんてしちゃダメと言えるものだ。優等生ぶるならせめて弁当は持たないでほしい。
「ひどい! 生徒を……もぐもぐ……疑うなんて! 生徒を……もぐもぐ……美味しい……信じるのが先生じゃないんですか!」
「食べながら言われても説得力ないんだけど。途中で美味しいって言ってるし」
「おかっつぁん! それは言わない約束なんてしてないじゃない!」
「誰がおかっつぁんよ。それに約束してないんだから、別に言ったっていいでしょ!」
私は呆れ果てつつも、美智香さんの目をジッと見つめた。美智香さんはわざとらしく目尻に涙を浮かべ、食べる手を止めようとはしなかった。
もちろん私だって生徒を信じたい気持ちはある。だが、目の前で早弁されたら信じるも何もない。早弁しているのは事実なのだから。それに授業中に早弁する事の方がひどい。そんなに私の授業はつまらないのだろうか。
「女子を泣かすとはな。あんたは教師の風上にも置けないな」
健くんは肩をすくめると、カバンからカニを取り出し、殻を剥き始めた。
私はあまりの出来事に驚き、ズルリと鼻水が出てしまった。生徒は示し合わせたかのように、死んだ魚のような目で私の鼻水をジッと見てくる。途轍もなく恥ずかしい。下着を見られるよりも恥ずかしいかもしれない。こんなに鼻水を見られた経験なんてないから。
「……まさかカバンからカニが出てくるなんて思いもしなかったわ。殻を剥くのは面倒くさくないの?」
私は何事もなかったかのように続けた。ここで鼻水を拭いたら負けな気がする。誰と勝負してんるだって話だけど、拭くつもりはまったくない。
健くんと美智香さんに感化されたのか、次々に早弁をする者が現れ始めた。ウチのクラスは問題児だらけだ。こうなった以上、もう早弁を止めることはできない。
私は盛大にため息を吐き、教卓の中に置いていたおにぎりを頬張った。
「……うまっ!」
『先生も早弁してんじゃん!』
流れに乗っかったら生徒にキレられた。
私は前列で堂々と早弁する健くんに怒鳴った。後列で早弁するのならまだしも、前列で早弁するなんて私を舐めているとしか思えない。美味しそうに食べているのが余計に腹が立つ。
「俺は早弁なんてしていない。授業中にお腹が減ったから食べているだけだ」
「それを早弁だと言っているんでしょうが!」
私は教卓を叩いて怒鳴りつける。健くんは呆れたように私を見つめて食事を再開する。食べないでと私は思ったが、言ったところでどうせ聞き入れはしないだろう。何よりまるで私が悪いみたいな表情をしていることに苛立った。
「先生の言うとおり、早弁なんてしちゃダメだよ!」
「……美智香さんも早弁してるでしょ?」
美智香さんの口元にはご飯粒がついているし、手には弁当を持っている。よくもまあそれで早弁なんてしちゃダメと言えるものだ。優等生ぶるならせめて弁当は持たないでほしい。
「ひどい! 生徒を……もぐもぐ……疑うなんて! 生徒を……もぐもぐ……美味しい……信じるのが先生じゃないんですか!」
「食べながら言われても説得力ないんだけど。途中で美味しいって言ってるし」
「おかっつぁん! それは言わない約束なんてしてないじゃない!」
「誰がおかっつぁんよ。それに約束してないんだから、別に言ったっていいでしょ!」
私は呆れ果てつつも、美智香さんの目をジッと見つめた。美智香さんはわざとらしく目尻に涙を浮かべ、食べる手を止めようとはしなかった。
もちろん私だって生徒を信じたい気持ちはある。だが、目の前で早弁されたら信じるも何もない。早弁しているのは事実なのだから。それに授業中に早弁する事の方がひどい。そんなに私の授業はつまらないのだろうか。
「女子を泣かすとはな。あんたは教師の風上にも置けないな」
健くんは肩をすくめると、カバンからカニを取り出し、殻を剥き始めた。
私はあまりの出来事に驚き、ズルリと鼻水が出てしまった。生徒は示し合わせたかのように、死んだ魚のような目で私の鼻水をジッと見てくる。途轍もなく恥ずかしい。下着を見られるよりも恥ずかしいかもしれない。こんなに鼻水を見られた経験なんてないから。
「……まさかカバンからカニが出てくるなんて思いもしなかったわ。殻を剥くのは面倒くさくないの?」
私は何事もなかったかのように続けた。ここで鼻水を拭いたら負けな気がする。誰と勝負してんるだって話だけど、拭くつもりはまったくない。
健くんと美智香さんに感化されたのか、次々に早弁をする者が現れ始めた。ウチのクラスは問題児だらけだ。こうなった以上、もう早弁を止めることはできない。
私は盛大にため息を吐き、教卓の中に置いていたおにぎりを頬張った。
「……うまっ!」
『先生も早弁してんじゃん!』
流れに乗っかったら生徒にキレられた。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/essay.png?id=5ada788558fa89228aea)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/horror.png?id=d742d2f035dd0b8efefe)
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
シニカルな話はいかが
小木田十(おぎたみつる)
現代文学
皮肉の効いた、ブラックな笑いのショートショート集を、お楽しみあれ。 /小木田十(おぎたみつる) フリーライター。映画ノベライズ『ALWAIS 続・三丁目の夕日 完全ノベライズ版』『小説 土竜の唄』『小説 土竜の唄 チャイニーズマフィア編』『闇金ウシジマくん』などを担当。2023年、掌編『限界集落の引きこもり』で第4回引きこもり文学大賞 三席入選。2024年、掌編『鳥もつ煮』で山梨日日新聞新春文芸 一席入選(元旦紙面に掲載)。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる