黒き死神が笑う日

神通百力

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代償

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「お前は俺を裏切った。絶対に許さない」
「ご、ごめんなさい」
 美代みよは目尻に涙を浮かべて謝ってきた。許してとばかりに俺に抱きついてくる。
「謝れば許されると思っているのか? 俺にプロポーズしておいて、お前は若い男と浮気したんだ。その代償は重いぞ」
 俺は美代を突き放し、画鋲を隙間なく並べた椅子に座らせた。美代は苦痛に歪んだ表情を浮かべて椅子から立ち上がろうとしたが、無理矢理抑えつけた。尻に小さな穴が空いただろうな。
「い、痛いよ。お願いだからやめて」
 美代の言葉を無視し、漬物石を太ももに載せる。画鋲の根元まで尻に食い込ませようとあらかじめ買っておいた。美代は悲鳴を上げ、俺をギロリと睨み付けてくる。
 なぜ美代は俺を睨みつけるのだろうか? 俺はただ浮気の代償を与えているに過ぎない。俺は何も悪いことはしていないのだから、睨み付けられる筋合いはない。
「俺を睨みつけるとはいい度胸だな。お前の反抗的な態度には腹が立つな」
 俺は美代の首を絞めたが、数秒ほどで手を放した。美代が息を整えたのを確認し、また首を絞めた。今度も数秒ほどで手を放した。首を絞め続けたら、殺してしまう可能性がある。その事態を避けるために、数秒ほどで手を放している。息を整えさせているのもそのためだ。
 首を絞めては放す行為を繰り返していると、チョロチョロと音がした。音がした方向を見てみる。床がびっしょりと濡れていた。どうやら失禁したようだ。
 俺は美代のズボンを脱がし、床を拭いてもう一度穿かせた。わざわざ雑巾を取りに行くのが面倒だからな。
「びちゃびちゃで気持ち悪い」
 美代はまたもや俺を睨みつけてきたが、すぐに顔を真っ赤にして俯いた。怒っているのか、照れているのかが分からない。どちらにしろ俺を睨みつけたことには変わりない。
 俺はポケットからライターとタバコを取り出した。ライターに火を灯し、タバコに火を点けた。
 美代の瞼を上に引っ張り、タバコを左目に押し付けた。
「あ、熱い! や、やめて!」
 美代は叫ぶが、構わずにタバコをグッと押し付けた後、鼻に差し込んだ。それから新しいタバコに火を点け、右目にも押し付けた。
「あぁあああああ、何も見えない! 真っ暗だよ!」
 タバコを押し付けたからか、美代は失明してしまったようだ。
「お前一人では日常生活に支障をきたすだろう。だが、安心するがいい。もう浮気しないと誓ってくれれば、俺がお前の目になってやる」
「……私は目が見えなくなったんだよ? この状態で浮気できるとでも?」
 美代は声を震わせていた。体も震えているが、漬物石の重さに耐えかねているだけかもしれない。
「誓うのか? それとも誓わないのか? 誓わないのなら、俺はもうお前に何もしない」
「そ、それは困る! 私だけではどうにもならない。生きていけない。浮気しないと誓うから、私の目になって! 私の世話をして!」
 美代の言葉を信じ、太ももから漬物石をどかせて床に座らせた。尻に刺さっている画鋲もすべて取ってやる。
「ああ、お前の目になろう。おじいちゃんおばあちゃんになってもお前の世話をしてやるよ」
 俺は美代を抱きしめ、キスをした。
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