黒き死神が笑う日

神通百力

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恋による恋のための恋の物語

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龍装どらぐくん。ちょっといいかな」
「何だい。叫怒がるどちゃん」
「海、行かない? 水着を新調したから。見てほしくて」
 身体をもじもじさせながら言った。可愛い奴だな。まったく。
「いいよ。行こう」
「鼻血出てるよ。龍装くん」
「ああ、大丈夫。これは、鼻血じゃない。生命力だ、問題ない」
「問題だよ! 鼻血なんて目じゃないほど大有りだよ! 大丈夫なの、大量に出てるけどリンゴに換算すると一個の半分くらいだよ」
「CMで頭を上下に振ってる某キャラじゃないんだから、リンゴに換算する必要ないと思うけどな」
「うっ。話を戻すけど、死んじゃったりしない?」
「する」
「冗談……だよね?」
「叫怒ちゃん。世の中にはね。知らない方がいいこともたくさんあるんだよ。だから、深く追求しないでくれると助かる」
「知らなくて後悔するより、知って後悔するほうがいいよ! わがままかもしれないけど、私、龍装くんのすべてを知りたいの! 好きだから、愛してるから! 誰にも言わないから私を信じてすべて受け止めるから!」
「それじゃ、言うよ。冗談さ。生命力も死んだりするのも。だから、泣かないで」
「……うん」
 叫怒ちゃんは、突然しゃがみ込み、赤ん坊がするようなハイハイをし始めた。何だ? 暑さで頭がおかしくなったか。
 ハイハイを止めて何かを拾った。昨日、風呂に入る時に脱いでそのままほったからしにしていた汗臭さが染み付いたトランクスだった。
「グス……グス」
 トランクスで涙を拭いた。
 えっと、叫怒ちゃん。用途間違ってるよ。トランクスは、穿くものであって決して涙を拭くための物ではない。涙を拭く物として正しいのはハンカチだと思うよ。確か叫怒ちゃんって常にポケットにハンカチ入れてるはずだけど。ここで使わなくてどこで使うんだろう。お手洗いに言った時だってハンカチを使わずに手を振り回してるだけだし。う~ん、謎だ。直接本人に聞けば言いだけだけど。
「叫怒ちゃん」
「何?」
「ハンカチを使わないのかい?」
「……ハア~」
 ため息をつかれた。何で? 叫怒ちゃんはトランクスを穿き腰に両手を当てた。うん、おかしいよな。穿く必要なんてない。ズボンの上から穿いたからゴム伸びちゃってる。もう穿けないや。雑巾代わりとして使うか。
「分かってないな、龍装くんは。いい? ハンカチというのはね。人の口の中に突っ込み、喋れなくする為に使うんだよ」
 ……それは、誘拐犯の発想だよ。近いうちに誰か誘拐するつもりか? 将来が心配になってきた。いや、ほんと。
「そんなことより、海行こう海」
「そんなことよりって言っていい内容だったか今の?」
「ほら、早く水着に着替えて。私はもう着替えたから」
「早いな。で、トランクス脱がないのか?」
「ん? 脱ぐよ」
 トランクスを足からはずし、投げた。投げないでほしいな。
 引き出しから水に濡れても大丈夫な短パンを取り出し穿いた。
 家を出て、車に乗った。

 ☆☆

 晴れ渡る青空。海にはもってこいの日だ。渋滞もなくすいすいと進めた。やがて海がある場所に辿り着いた。駐車場に入り、入り口の近くに車を止めた。
 荷物を持って車を出た。人はそんなに多くないようだ。岩場の近くに場所を取った。
「うわ、きれいな海だね」
「ああ、でも叫怒ちゃんの方がきれいだよ」
 内面を除いてね、と心の中で付け足した。
「もう、龍装くんったら」
 デコピンされた。意外に痛いなこれ。ちょっと爪が刺さったし。痛い目に遭うとは思わなかった。そんな展開にはならないだろうと思っていたのに。女の子って分からない。
「泳ごう」
「うん」 
 上を脱ぎ短パン一丁になった。
 叫怒ちゃんも脱いで水着姿にな……。
「叫怒ちゃんそれ何?」
「え? 水着だけど」
 迷彩柄の服に同じく迷彩柄のズボン。人はそれを軍服という。どこの国の戦争に加勢するつもりだ。周りの人驚いてるよ。え? 何サバイバルゲームでも始まんの? って顔してるよ。
「えっと、今からでも遅くないから、水着買いに行こうか」
「何で?」
 と首を後ろに下げた。
 何で後ろ何だろう? 右か左じゃないか? 普通。頭がおかしいんじゃないか? 病院に行った方がいいのでは?
「その格好じゃ泳ぎにくいだろうし」
「そんなことないよ。見てて!」
 突然、海に向かって走り出した。海の一歩手前で片足で砂浜を力強く踏み、ジャンプした。その姿はまるで空を優雅に舞う白鳥のようだった。ザバーンと音がし、水飛沫が舞い上がった。
 泳いでいる。しかも、速い。
「どう? 私の『優雅に舞う速き狩人ラスドルクマインドバウンダー』は」
「中二病だな。叫怒ちゃんは」
「そうかな?」
「龍装と叫怒じゃねえか!」
 と、聞き覚えのある声がした。声のした方を向く。
美狂まぜあか」
「つれない言い方だな。お前の姉上様だぞ」
「何だよ。姉上様って。次、ふざけたら」
「ふざけたら?」
 両手を挙げて滑らかに動かした。
「体中をもみまくる」
「きゃーセクハラやーん」
「急に女の子らしくなった」
「あ? その言い方じゃ、普段は全然女の子らしくないって言ってるみてえじゃねえか!」
「ええ。おっしゃるとおりです」
「ちぇっ。そんなんだから、われしと叫怒にしかもてねえんだよ」
 われしとは、童のわとわれのれと私のしを混ぜ合わせた一人称である。
「何で実の姉にもててんだ俺。近親創刊……あ、字間違えた。近親相姦じゃねえか!」
「創刊してどうすんだよ。『実は両親は幼い頃からずっと一緒で近しい関係だったんだ』と至極どうでもいい内容の記事を組むつもりか」
「いや、そういうわけじゃないけど」
「まったく。龍装が寝てる時にわれしが体中を触りまくり、あえぎ声を出しながら顔中キスして口の中に舌入れてる内容ならまだしも」
「え? そんなことしてたの?」
「全然知らなかった」
「いいな。羨ましいよ。龍装くん」
 うっとりした表情で叫怒ちゃんが言って、チラリとこちらを見て、次に美狂を見つめた。
「え? 俺? 何で?」
「だって、美狂さんに体中を触られたり、キスされるんだよ。これほど、幸せなことってないよ」
「叫怒。ありがとう。嬉しいよ」
「美狂さん」
 叫怒ちゃん。清潔な血ぐらいに顔が真っ赤だよ。
「美狂さん大好きです。愛しています」
「われしもだよ。叫怒」
 輝いてる。輝いてるよこの二人。
「叫怒ちゃん。それって乙女心?」
 俺は、叫怒ちゃんに聞いた。
「そうだよ」
「ふ~ん」
「どうしたの?」
「いや、乙女心って自分を可愛く見せる薄汚い感情だよなって思っただけさ」
「謝れ! 全国の女子に土下座して謝れ!」
「そうだよ龍装くん。ひどいよ。失礼だよ。謝って」
「俺は悪くない! 悪いのはこの口だ。勝手に動いたんだ!」
「言い訳など聞きとうない! 見苦しいぞ」
「くっ。分かったよ。え~全国の女子の皆さん。このたびは失礼極まりない発言をしてしまい、本当に申し訳ございません。悔やんでも悔やみきれません。罰は謹んでお受けいたします」
 頭を砂浜に擦り付け土下座した。周りの人は、神聖なる海で何で土下座してるんだろうと不思議そうな顔をしていたと後で聞いた。
「いいだろう。罰は後のお楽しみということで遊ぼう」
「そうしよ」
「そうだな」
 一体どんな罰を受けるんだろうとワクワクしながら遊んだ。

 ☆☆

 遊び終わり家へ向かっている最中だ。運転席に俺。助手席は誰もいない。空席だ。後部座席に美狂と叫怒ちゃん。あえぎ声を出しながらいちゃついている。車の中で何やってるんだ。気になって運転に集中できん。
『終わった!』
 何が? いちゃつきがかな? ミラーを見るがまだいちゃついている。
「何が終わったんだ?」
「いちゃつきが」
 美狂が答えた。
「まだいちゃついてるように見えるが」
「今のはレストランで言うところの前菜だ。ここからが本番だ」
「……そうなんだ」
 二人は互いの服を剥ぎ取り、生まれたままの姿になった。あ~ここはラブホテルじゃないんだが。車の中なんだが。すれ違う車に乗ってる人が驚き、目を見開く。俺の身にもなってくれ。すげぇ恥ずかしい。
 家に着いた。
 二人が服を着ないまま出ようとしてるので慌てて、
「頼むから服を着てから出てくれ」                
 と、止める。
 二人がやれやれといった感じで服を着て出る。安堵し俺も出る。
 鍵を開け家の中に入る。
「さて、罰を始めようか」
「ああ」
 突如、美狂が俺を押し倒した。キスされた。やわらかくて気持ちいい。
 美狂が顔を上げた。次はどうしようって顔してる。その顔が俺は大好きだ。可愛い凄く可愛い超がつくほどに可愛いとんでもなく可愛い最高に可愛い堪らなく可愛い。美しい顔立ちで人々を狂わせてしまうようにと名付けられた。故に美狂。その名を体現している。俺は両手を上げ胸をももうとしたが、受け止められた。
「あ・と・で」
 可愛く言われた。
「龍装くん」
 叫怒ちゃんに頬を舐められた。ついに俺にも春が来た。叫びながら怒るようにと名付けられたらしいが、怒るときって大抵叫ぶよなと俺は思った。故に叫怒。その名は体現している。
 龍の力が宿る最強の武具を装備できるようにと名付けられた。故に龍装。もちろんその名は体現してない。現実に龍は存在しないし、伝説上の生物だから。親は実在してるとでも思ったのか。だとしたらバカだ。
 右頬を美狂が舐め、左頬を叫怒ちゃんが舐めてる。時々、強い力で頬を吸われる。涎がべったり頬に付着する。
「う、う~ん」
「あ、あうん」
 いやらしいあえぎ声が聞こえ、鼓動がドクンと波打つ。手を左右に伸ばし、美狂と叫怒ちゃんの胸をもんだ。何度も何度ももんだ。
『隣の客は良く柿食う客だ!』
 なぜ、それをチョイスしたのかは分からないが、よくシンクロしたなと思うが、凄く興奮する。本来なら興奮する言葉ではないが、あえぎ声で言ってるためにいやらしい言葉に聞こえ、興奮する。
「龍装、叫怒。続きは明日にしよう」
「うん」
「ああ」

 その夜、俺たちは抱き合いながら寝た。 
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