サンタクロースの悲劇

神通百力

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サンタクロースの悲劇

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 サンタクロースは大きな袋に大量のプレゼントを詰め込んだ。満杯になったところで袋の口を片手で持ち、肩にかける。
 家の外に出ると、雪が降り積もっていた。クリスマスに相応しい夜だった。
 家からほんの少し離れた辺りで、相棒のトナカイが待機していた。ソリにゆっくりと腰を降ろし、プレゼントが詰まった袋を横に置いた。
 サンタクロースは手綱を掴むと、軽く引っ張った。トナカイは小さな鳴き声をあげると、勢いよく夜空へと飛び立った。

 ☆☆
 
 トナカイがまばらに明かりが灯る街の上空を駆け抜けている間、サンタクロースはソリから街を見下ろし、目的の家を探していた。目的の家はすぐに見つかった。今時珍しく、煙突のある家だった。
 トナカイは家に近付くと、空中で停止した。サンタクロースは袋を肩にかけると、ソリから降りて屋根に立った。
 煙突に体を滑り込ませると、両足を広げ、ブレーキをかけながら、ゆっくりと降りていった。
 サンタクロースは底に着地すると、体を屈めて、リビングと思しき場所に足を踏み入れた。この家の子供は女の子で、人形が欲しいようだった。
 辺りを見回そうとした時、後頭部に衝撃が走った。その衝撃に足下がふらつき、サンタクロースは気絶した。

 
 ☆☆

「……うぅっ」
 サンタクロースは後頭部の痛みで目が覚めた。立ち上がろうとしたが、無理だった。椅子に紐で体を縛り付けられていたからだった。
 状況が理解できずに混乱していたが、気配を感じ、顔を上げた。目の前には斧を持った女の子が立っていた。他にも数人の子供たちがいた。
「き、君はいったい……」
 サンタクロースは震える声で女の子に尋ねた。斧の持ち手の部分が僅かに赤く染まっていた。斧の持ち手の部分で後頭部を殴られたのだろうか、とサンタクロースは身震いした。
「ん? 私はこの家の子供よ。この子たちは私のお友達」
 女の子は満面の笑みで応えた。
「き、君の欲しい物は人形だったね。人形を……いや、プレゼントはすべてあげるから、わ、私を帰してくれないか」
 サンタクロースは恐怖のあまり声が上ずっていた。笑顔で斧を手にする女の子が恐ろしかった。
 女の子はゆっくりと近付いてくる。小さな顔が間近まで迫ってきた。
「プレゼント? そんなのはいらない。私が欲しいのはサンタさん。あなたよ」
 女の子はそう言うと、サンタクロースの瞼を掴んで上に引っ張った。ギョロリと飛び出た眼球を女の子は舐め始めた。瞬く間に眼球は涎でベトベトになった。
「プレゼントにサンタさんが欲しいと書いたら、来てくれないんじゃないかと思って。たいていの女の子が好きそうな人形って書いたの。思惑通り、サンタさんは来てくれた」
 女の子は嬉しそうに語ると、斧を振り上げた。
「ま、待ってくれ! 何をする気だ!」
 サンタクロースは紐を外そうと必死でもがいていたが、窓の外にトナカイがいることに気付いて動きを止めた。
「グゥーグゥー!」
 トナカイは鳴き声をあげながら、窓を突き破って家の中に入ってきた。トナカイは真っ直ぐにサンタクロースの方に向かって走り出した。
「危ない! 逃げろ!」
 サンタクロースは叫んだが、時すでに遅く、数人の子供たちが斧を振り下ろし、トナカイの首を切断した。トナカイの首が大きな音を立てて床に落ち、切断面から血が噴き出した。
「な、何てことを」
「泣いている暇なんてないよ」
「え?」
 女の子は笑顔で斧を振り下ろし、サンタクロースの腹を割いた。パッカリと割れた腹から血が噴き出した。
「ぐぁっ!」
 サンタクロースはあまりの激痛に叫んだ。女の子は斧を床に置くと、サンタクロースの割れたお腹に手を突っ込んだ。
 腸を引きずり出し、思いっきり齧り付いた。サンタクロースは声にならない悲鳴をあげた。
 他の子供たちも女の子に続いてサンタクロースのお腹に手を突っ込み、臓器に齧り付く。
 瞬く間にサンタクロースは女の子たちに体内を食べ尽くされてしまった。意識が遠のき、何度か痙攣した後、サンタクロースは絶命した。

 ☆☆

 女の子たちはサンタクロースの死体を囲むと、手を繋いで円を描くように回り出した。
「サンタさん、最高のクリスマスプレゼントをくれてありがとう」
 女の子は感謝を告げると、楽しそうに歌い始めた。
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