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怪物現る
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水上勇人は坂水木家の広大な庭でサークルの仲間たちとバーベキューをしていた。サークルの部長――坂水木優菜は美善町一の資産家と言われる坂水木家の御令嬢だ。時刻は正午十二時を少し回ったくらいだった。
坂水木の提案で水上たちはバーベキューを行うことになったのだ。坂水木は御令嬢とは思えないほどの世話好きで、サークルメンバーの中で一番動いている。
水上は金粉が貼られている椅子に腰かけ、肉を頬張りながら、坂水木に視線を向けた。坂水木は率先して肉や野菜を焼いていた。バーベキューコンロを囲むようにして椅子は並べられている。
水上の右隣には千賀崎麻衣が座っていた。千賀崎はサークルの副部長で、水上の恋人でもある。水上と千賀崎は幼なじみで、自然に付き合うようになっていた。
左隣には大野寺祐二が座っている。大野寺はサークル内でムードメーカーの役割を担っていた。ふざけているだけで面白い人物では決してないが、ノリの良さで思わず笑ってしまうのだ。
斜め左には浦野一樹が座っていた。浦野は冷静沈着で口数は少ないが、時折見せる笑顔は爽やかさが感じられる。
水上は肉を食べ終え、紙皿を見ると、空だった。
「水上君、入れてあげましょうか?」
水上の紙皿が空になっていることに気付いた坂水木が声をかけた。坂水木は焼いているばかりで、まだ一口も食べていなかった。そのことを水上は申し訳なく思ったものの、食欲には抗えなかった。
「肉を多めに入れてくれると嬉しい」
「分かりました、肉多めですね」
坂水木は水上の要求に頷き、紙皿を受け取ると、肉を入れ始めた。前屈みの体勢になった拍子に、服の隙間から谷間が見えた。水上の視線は自ずと谷間に注がれる。すると横腹を小突かれた。
「部長は勇人のために肉を入れてるんだよ。なのに谷間を覗くなんてダメじゃないの。バカみたいに谷間を凝視している様には恋人の私ですら引いたよ」
千賀崎は呆れたように肩を沈ませ、水上を見つめていた。怒りの表情を作ってはいたが、さして怒っていないようだった。
「はい、水上君、召し上がれ」
坂水木はニッコリと微笑み、肉がたっぷりと載った紙皿を水上に渡した。水上は紙皿を受け取ると、肉を頬張った。坂水木は大野寺や浦野の紙皿にもたっぷりと肉を載せていた。
肉を味わっていると、突然、庭全体を影が覆った。水上は怪訝に思い、顔をあげた。異形な姿をした怪物が塀を挟んだ道路に立っていた。まるで岩石のような体で、腕が四本もあった。
水上たちは怪物の姿に体が硬直し、その場から動くことができなかった。怪物はしばらくじっとこちらを見つめていたが、ふいに動いた。怪物は右腕を伸ばし、浦野の頭を掴んで持ち上げた。
「た、助けてくれ!」
浦野は恐怖に歪んだ表情を浮かべて叫んだが、水上たちは動けなかった。もちろん助けたいという思いはあった。だが、得体のしれない怪物の登場に心と体が恐怖に支配されて一歩も動くことができなかったのだ。
怪物は不気味な笑みを浮かべたかと思うと、大きく口を開けた。右腕を口元まで持ってくると、手を放した。浦野はあっけなく怪物の口の中へと吸い込まれていった。すぐに骨が砕ける音が聞こえ、水上たちは我に返ったかのように、その場から一目散に逃げだした。
☆☆
「――君たちに見てもらいたい映像がある。今から数十分前に撮影された映像だ」
法堂京弥総理大臣は部屋を見渡した。ここは法堂が所有する別荘の一室だった。部屋には数十名の自衛隊員が集まっていた。別荘に集まってもらったのには理由がある。部屋の時計は正午十二時四十分を示していた。
モニターに数十分前の映像が映し出される。異形な姿をした怪物が人々を襲っている映像だった。自衛隊員たちは驚いたようにモニターを凝視している。『何だ、あの怪物は?』と戸惑ったような声も聞こえてきた。
法堂はモニターを凝視しながら、数十分前のことを思い出す。ここから北に五キロ離れた美善町の町はずれにある研究所で暮らす甥からメールが送られてきたのだ。メールにはモニターが映し出している映像が添付されていた。さらに実験が失敗した旨も記載されていた。メールによると、甥は前総理大臣から極秘裏に兵器を開発するように命じられていたらしく、家族にも言ってはならないと念を押されていたようだった。
だが、そうも言ってはいられない事態が起きた。甥の実験は失敗し、怪物が研究所を破壊して町に逃げ出したらしいのだ。美善町に近い場所にあったから別荘に集まってもらったのだ。
なぜ兵器開発で怪物が生まれたのかは知らないが、こちらからメールを送っても返信がなかった。甥が無事であることを祈るばかりだった。
「――君たちの任務は逃げ遅れた民間人を救い出すことだ」
映像が終了したのと同時に法堂は任務の内容を告げた。
「しかし、相手は異形の怪物。生きては帰って来れないかもしれない。降りたい者は手を上げてくれ。強制はしない」
法堂は自衛隊員たちを見回したが、誰一人として手を上げる者はいなかった。先ほどまでの戸惑いは消え失せ、自衛隊員たちの瞳には任務を全うする覚悟が伴っていた。
「君たちの勇気に感謝する。準備を始めてくれ」
法堂の言葉に自衛隊員たちは頷くと、早速準備に取り掛かった。
坂水木の提案で水上たちはバーベキューを行うことになったのだ。坂水木は御令嬢とは思えないほどの世話好きで、サークルメンバーの中で一番動いている。
水上は金粉が貼られている椅子に腰かけ、肉を頬張りながら、坂水木に視線を向けた。坂水木は率先して肉や野菜を焼いていた。バーベキューコンロを囲むようにして椅子は並べられている。
水上の右隣には千賀崎麻衣が座っていた。千賀崎はサークルの副部長で、水上の恋人でもある。水上と千賀崎は幼なじみで、自然に付き合うようになっていた。
左隣には大野寺祐二が座っている。大野寺はサークル内でムードメーカーの役割を担っていた。ふざけているだけで面白い人物では決してないが、ノリの良さで思わず笑ってしまうのだ。
斜め左には浦野一樹が座っていた。浦野は冷静沈着で口数は少ないが、時折見せる笑顔は爽やかさが感じられる。
水上は肉を食べ終え、紙皿を見ると、空だった。
「水上君、入れてあげましょうか?」
水上の紙皿が空になっていることに気付いた坂水木が声をかけた。坂水木は焼いているばかりで、まだ一口も食べていなかった。そのことを水上は申し訳なく思ったものの、食欲には抗えなかった。
「肉を多めに入れてくれると嬉しい」
「分かりました、肉多めですね」
坂水木は水上の要求に頷き、紙皿を受け取ると、肉を入れ始めた。前屈みの体勢になった拍子に、服の隙間から谷間が見えた。水上の視線は自ずと谷間に注がれる。すると横腹を小突かれた。
「部長は勇人のために肉を入れてるんだよ。なのに谷間を覗くなんてダメじゃないの。バカみたいに谷間を凝視している様には恋人の私ですら引いたよ」
千賀崎は呆れたように肩を沈ませ、水上を見つめていた。怒りの表情を作ってはいたが、さして怒っていないようだった。
「はい、水上君、召し上がれ」
坂水木はニッコリと微笑み、肉がたっぷりと載った紙皿を水上に渡した。水上は紙皿を受け取ると、肉を頬張った。坂水木は大野寺や浦野の紙皿にもたっぷりと肉を載せていた。
肉を味わっていると、突然、庭全体を影が覆った。水上は怪訝に思い、顔をあげた。異形な姿をした怪物が塀を挟んだ道路に立っていた。まるで岩石のような体で、腕が四本もあった。
水上たちは怪物の姿に体が硬直し、その場から動くことができなかった。怪物はしばらくじっとこちらを見つめていたが、ふいに動いた。怪物は右腕を伸ばし、浦野の頭を掴んで持ち上げた。
「た、助けてくれ!」
浦野は恐怖に歪んだ表情を浮かべて叫んだが、水上たちは動けなかった。もちろん助けたいという思いはあった。だが、得体のしれない怪物の登場に心と体が恐怖に支配されて一歩も動くことができなかったのだ。
怪物は不気味な笑みを浮かべたかと思うと、大きく口を開けた。右腕を口元まで持ってくると、手を放した。浦野はあっけなく怪物の口の中へと吸い込まれていった。すぐに骨が砕ける音が聞こえ、水上たちは我に返ったかのように、その場から一目散に逃げだした。
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「――君たちに見てもらいたい映像がある。今から数十分前に撮影された映像だ」
法堂京弥総理大臣は部屋を見渡した。ここは法堂が所有する別荘の一室だった。部屋には数十名の自衛隊員が集まっていた。別荘に集まってもらったのには理由がある。部屋の時計は正午十二時四十分を示していた。
モニターに数十分前の映像が映し出される。異形な姿をした怪物が人々を襲っている映像だった。自衛隊員たちは驚いたようにモニターを凝視している。『何だ、あの怪物は?』と戸惑ったような声も聞こえてきた。
法堂はモニターを凝視しながら、数十分前のことを思い出す。ここから北に五キロ離れた美善町の町はずれにある研究所で暮らす甥からメールが送られてきたのだ。メールにはモニターが映し出している映像が添付されていた。さらに実験が失敗した旨も記載されていた。メールによると、甥は前総理大臣から極秘裏に兵器を開発するように命じられていたらしく、家族にも言ってはならないと念を押されていたようだった。
だが、そうも言ってはいられない事態が起きた。甥の実験は失敗し、怪物が研究所を破壊して町に逃げ出したらしいのだ。美善町に近い場所にあったから別荘に集まってもらったのだ。
なぜ兵器開発で怪物が生まれたのかは知らないが、こちらからメールを送っても返信がなかった。甥が無事であることを祈るばかりだった。
「――君たちの任務は逃げ遅れた民間人を救い出すことだ」
映像が終了したのと同時に法堂は任務の内容を告げた。
「しかし、相手は異形の怪物。生きては帰って来れないかもしれない。降りたい者は手を上げてくれ。強制はしない」
法堂は自衛隊員たちを見回したが、誰一人として手を上げる者はいなかった。先ほどまでの戸惑いは消え失せ、自衛隊員たちの瞳には任務を全うする覚悟が伴っていた。
「君たちの勇気に感謝する。準備を始めてくれ」
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