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0章:プロローグ

2.霧島レイナ

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 階段を上った先にある木製の扉の下からは、明るい光が漏れ出していた。
 この中に誰かいるのは間違いないらしい。
 一方的に電話で呼び出してきただけの相手に会う。
 それだけだというのにドアノブに触れた掌には汗が染みて、不自然な程に心拍数が上がっていく。
 もしかするとこの瞬間、僕はこれから先のことを予知していたのかもしれない。
 僕は一つ大きく深呼吸をしてから無意味な程に力を入れて手を回し、運命の間へと続く扉を開いた。


◇◇◇

 
 お世辞にも居心地が良いとは言えないボロボロのソファの上で、およそ学生服に似つかわしくない分厚い表紙の本を捲り続けていた。
 階下で何が起こるか分かっているから、耳栓用のイヤホンを挿して携帯で音楽を聴く用意周到っぷり。
 もうすぐ終わるという所で視界の隅にある影が動くのが見えたので、スッと本から顔を上げると、そこには評判通りの可愛い顔をした男が立っていた。
 相手を待たせるのは呼び出した手前申し訳ないが、どうせなら最後まで読んでしまいたい。

わりい、一分待って」

「あ、はい」

 何か言いたそうにしたのは察したが、許可を貰ったのを良いことに最後まで文章を読み飛ばす。
 とりあえず最後まで目を通したアタシは読書用の眼鏡を外してから、読み終えた満足感と共に男に向かって感謝した。

「ふぅ。サンキューな、丁度最後の所だったからさ」

「いえ、どういたしまして」

「で、お前が噂のプリンセスお姫様?」

 アタシの言葉を聞いた瞬間に、男は眉間に皺を寄せて露骨に不快感を示した。

「それ嫌いなんで止めてもらえますか」

「悪い悪い、男にプリンセスはないよな。けど」

「けど?」

「滅茶苦茶合ってるのに、勿体ないよ。男で可愛いなんて今のご時世逆に武器になるっしょ」

 白く透き通った美しい肌に、サラサラの黒髪。
 女装すれば間違いなく売れる。なんなら世に居る大半の女性を敵に回すレベルで可愛い。

「あ、ありがとう……?いや、でも……」

 別に狙って言ったわけじゃないんだけど、アタシの言葉に戸惑っているらしい男は、正直な所有難い。
 
 まだアタシの最後の策が残ってるからね。
 
 アタシは膝から二十センチ以上短いスカートの中身がギリギリ見えない角度で、わざとらしく足を組み替えた。
 すると男は顔を動かさずに目線だけがスッと下に向き、数秒後に何事も無かったかのように戻ってきた。
 
 うん、大変分かり易くてよろしい。

「えっと、僕を呼び出したのは君で良いんだよね?」

「君ってのもアレだな、霧島レイナ。レイナで良いよ。返事はイエスで」

「僕は藤堂ユウト、ユウトでいいです」

 名前を聞いた時、名前だけは男っぽい。って思ったことは心の中に留めておく。

「オッケー、ユウト。それで呼んだのはアタシだけど、別にお前と喧嘩したいっていうわけじゃないんだよね」

「その割にたくさん襲われたんだけど」

「あー、悪い。喧嘩っつーかお前の噂を聞いて挑戦してみたかっただけなんだよね。アタシがここでタイマン張るつもりは無いってこと」

 全員で八十六人居たはずのヤンキー崩れ相手に無傷の人間とサシでやり合う程、アタシは馬鹿な人間じゃない。元からアタシが闘うつもりなんて無いし。

「ふーん、でもレイナって強いよね?」

「どっからどう見ても一般的な女子学生だと思うんですけど?」

 自分の制服を眺めてから、クイっと白いシャツを引っ張ってアピールする。
 下の連中よりも強い自信はあるけど、アタシは人間辞めてないんで。

「そっか」

 ちょっとシュンとしているユウトの姿が子犬のように可愛らしくて、なんだか罪悪感が湧いてくる。

「ユウトがアタシをボコりたいって言うなら、受け入れるけど」

「いや別にそういうわけでも……」
 
 ここで是非!とか言われるとマジで困るんだけど、反応が童貞っぽいし予想通り拒否してくれて助かった。
 これで提案ができる。

「なら、ご褒美とかはどうだ?」

「ご褒美?」

「そ、こういうヤツ」

 さて、最後の勝負と行きますか。
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