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一章

甜言蜜語

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「だって……間違えたら間違えたでペナルティくらいはあるのでしょう? なんとか必死で問題に答えていたのに、その結果がこれじゃあね……だったら、どんな目に遭ってもいいとその時点で覚悟を決めるべきでした……」
「……そんな……そこまで投げやりにならなくても……」
 緑髪の男性がやんわりと宥《なだ》めに入るも──、
「いつもそうなんです……。中途半端なところばかりうまくいって、もっとも肝心なときに限って取り返しのつかないほどのミスをする……。もう、そんな人生に疲れたんですよ……」
「あっ……」
 もっとも胸の奥に秘めておくべき本音が口を突いて出てしまった──その直後のことである。
 ──それがあなたの答えですか。
「えっ……?」
 黙っていられないとばかりにまた例の声が脳内に響いた。怒りというより失望にも近い調子で、まさに受験で全敗したときの家族を彷彿とさせた。死してなおそういうのを聞かされたくないから自ら距離を置こうとしているのに──。頼むからもうそっとしておいてほしい──ほどなくして、抑えていたものが堰を切ったように流れだした。
「よく話してくれましたね……」
「……えっ……?」
 こんな聞くに堪えない世迷言《よまいごと》、後で酒の肴にでもされるのがオチだと思っていたら──、
「大丈夫、そこまで真剣に心情を吐露された方を笑うような者などここにはおりませんから」青髪の男性はこちらの目元をそっと拭って、「とりあえず1週間、ここでゆっくりするといい──お代はちゃんと払ってあるからお気になさらず──」
「……えぇっ……?」
「私たちもしばらくこの宿屋に滞在しているから、何かあったらすぐに呼ぶといい──」
「…………」
 それに続く形で緑髪の男性も優しくつけ加えた。これが薄っぺらい同情・親切心だとしたら、無駄に愛される「魅力ゼロの主人公」にでもなれるのだろうか──そんな皮肉が頭を擡《もた》げていた。
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