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第一章

第三話 奇跡の子

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 パリヴェーラの講堂に1年生が集められていた。巨大なモニターには『タッグマッチトーナメント』の文字。
 その聞き慣れない言葉に皆ざわめいていた。
 ユーリも例に漏れず、聞き慣れない言葉に首を傾げる。彼の場合はざわめき合う相手がいないだけなのだが…。

「みなさーん! 今から説明することをよーく聞いてくださいねー!」

 エミリアが小さな身体に注目が向くよう、手を振りながらタッグマッチトーナメントについての説明を始める。
・開催は今から2週間後
・参加は1年全員
・2人組を作り実践形式で戦う
・上位10組は2年の上位10組と戦うことができる
 重要な事柄は以上の4点。
 2年生までは基礎、3年生から実践形式が主になっていくパリヴェーラにおいて、このタイミングでの実戦形式のトーナメントは異例だった。

「パーティでの練習も大切ですが、みなさんこれから2週間はペアの練習を頑張ってくださいね! ちなみに、成績優秀者には学園長からのご褒美がもらえちゃいます」

 ナタリアがそう締めると、講堂は一気に喧騒に包まれた。
 一斉にペアとなる相手を探し始めたのだ。ほとんどの学生がパーティに所属しているが、パーティは5人で組むものであり、1人溢れてしまう。
 この機会にパーティ以外のメンバーとも親交を深めて欲しい。そんな教師陣の狙いもあった。

 しかし、ペアだろうとパーティだろうと、ユーリには関係ない。どうせ組む相手がいないのだ。全体の人数が偶数であればあるいは、というところではあるが。

「……ん?」

 周りがペア探しに躍起になっている中。担任であるエミリアに、トーナメントを辞退できないか聞きに行こうか。そう考えていたユーリの眼に、1人の少女が映る。
 女性にしては高い身長に長い四肢。ポニーテールの栗色の髪。整った顔立ちに影を浮かべ、彼女は所在なさげに立ち尽くしていた。
 ユーリの眼に留まったのは可愛かったからか、ぼっちのシンパシーを感じたからか。何にせよ、ユーリは少女から眼が離せなくなっていた。

「っ!?」

 視線に気付いたのか、振り向きユーリと眼が合った少女の身体がびくっと跳ねる。

「……」
「……」

 2人とも眼が合ったまま硬直し。しばし時が流れる。

「え、あ……ごめん!」
「こ、こちらこそ!」
「…ぷっ、ははははは!」
「ふふふっ」

 謎の謝罪合戦が始まり訳の分からなさに2人とも思わず笑ってしまう。どうやら、2人ともコミュニケーション能力に問題があるようだ。

「俺はユーリ・グリフィン」
「あなたがユーリなのね。私はファルニカ。ファルニカ・ハルニーよ」
「あっ、君が…!」

 どうやら、お互いに名前だけは知っている様子。

「私達、変な意味で有名人だものね」
「本当、変な意味でなぁ。奇跡の子なんて呼ばれて、大変だろ?」
「うん…色々ね。でも、ユーリ君も大変でしょう?」
「そうだけどさ、ファルニカさんは才能があるじゃないか」

 ユーリが有名な理由は単純。特異体質のせいだ。足手まといや役立たずなど、散々な噂が立っている。
 一方、ファルニカが有名な理由はユーリと全く異なる。ファルニカは、『奇跡の子』と呼ばれる程の才能の持ち主だ。
 通常、魔術師は1つの属性にしか適性を持たない。しかし、ごく稀に2つの属性に適性を持つ魔術師が存在する。その魔術師はツインタイプと呼ばれ、1万人に1人程度と言われている。
 しかし、ファルニカはツインタイプではない。3つの属性に適性を持っているのだ。しかもファルニカの両親はマナを持たない一般人。田舎の小さな村で産まれた少女の名は、瞬く間に王国中を駆けた。

 ユーリは才能があるとファルニカを褒めたつもりだったのだが、ファルニカは浮かない表情を浮かべる。

「ううん。私にね、才能なんてないんだよ」
「え?」
「あっ、才能はあるのかな。でも、全然使いこなせなくて、みんなの期待に応えられなくてさ。なーんにも上手くいかないんだ」

 そう言って、ファルニカは笑う。だが、この笑いが本心でないことくらいユーリにも分かる。
 才能に恵まれない自分もさることながら、才能に恵まれていても色々大変なのか。ユーリは自らの体質を恨んでばかりいたことを後悔する。

「ごめんね。変なこと話しちゃって」
「いや、こちらこそ、ごめん。何か力になれれば良いんだけど、俺じゃな…」

 ユーリは教会で育ったこともあり、困った人を放っておけない。ファルニカのことは何とか助けてあげたいが、できることが何もない。
 お手上げと言わんばかりに頬をかくユーリ。
 しかし、ファルニカはここぞとばかりにユーリの手を取った。

「じゃあさ! 私とトーナメントに出ようよ!」
「はぁ!?」
「ダメ? もしかして、組む相手決まってた?」
「いや、そうじゃないけどさ」
「じゃあ、決まり!」

 ピョンピョンと跳ねて喜ぶファルニカの勢いに押され、ユーリは後ずさる。
 いいのか? 相手は奇跡の子だぞ? 俺なんかが組んでいいのか?
 心の奥底に、必死にやめておけと抵抗している何かがいる。ファルニカと出場して、足を引っ張って。今度こそ学園にいられなくなるのではないか。そうなれば、ナラの元にどんな顔をして帰れば良いのだろうか。
 受けてはいけない。
 ユーリはそう判断する。

「ふ、ファルニカさんのパーティとも一回話した方が…」
「私パーティ抜けちゃった」
「えぇ……」

 ユーリは困惑した。ファルニカは奇跡の子と呼ばれる才能に加え、外見も非常に整っている。まさか、パーティに所属していないとは思わなかった。
 そうか、だからさっき困ったように立ち尽くしてたのか。
 ユーリの中で合点がいく。

「何か、息苦しくてさ。でも、ユーリ君となら頑張れる気がする!」

 眼をキラキラと輝かせ、ユーリを見つめるファルニカ。
 ユーリの背中は冷や汗が止まらなくなっていた。

「あっ、もしかして、イヤ…だったかな?」

 ユーリ困っていることに気付いたのか、ファルニカの顔が曇り、大きな瞳を潤ませる。

「そんなことない…。出ようか、トーナメント」

 ついユーリがそう答えてしまうのも、無理はないことだった。
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