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転生しました
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「オサムー!ご飯ー!」
「はーい!!」
農作業を終えて、オサムは家に帰る。
――そう、このオサム・ナカバこそが俺、央修一が転生した姿だ。
異世界転生……。てっきり勇者になって世界を救うのかと期待していたが、なんてことはない。俺は村人に転生していた。だが、村人というのもなかなかにいい。毎日畑を耕し、家畜を世話し、そして寝る。こんなに素晴らしい世界が他にあるのか。少なくとも前世では考えられない。
「フラン、いつも助かるよ。」
「いいえー!オサムだって農作業や家畜の世話をしてくれているじゃない!」
この子はフラン。俺が倒れていたところを助けてくれて、仕事と住む家まで与えてくれた。
フランと暮らすようになって、1年が経とうとしている。
―――あの転生した日、俺は前世とは違う容姿でこの世界に来た。いや、放り出された、と言った方がいいかもしれない。食べ物もない状態で、いつの間にか森にいた。天使から能力を貰ったと言っても、使い方が分からないのではどうしようもない。目の前を何度もウサギや鳥が駆けていったが、空腹の身で捕まえきれるわけもなく。仕方なく足元に生えていたキノコを食べてみると―――毒キノコだった。立っていられなくなり、頬が地面についた。こうして俺は、何もなさないままこの世界を去ろうとしていたわけだが、本当に運よくフランと出会った。
「大変!!大丈夫!?!?」
フランは俺の元に駆け寄ると、解毒のポーションを飲ませてくれた。(後で知ったことだが、この世界のポーションはとても高価で、1本で家が建つのだとか。)そしてフランの必死の看護のおかげで、数日後には俺は歩けるまでに回復していた。俺は孤児で、あの森でさまよっていた、ということと、恩返しがしたいという旨を話した。フランは幼いころに両親を亡くし、一人で農作業をしていたので、良ければ手伝って欲しいと、俺がここに住むことを快諾してくれた。
ある日、フランが俺の職業を聞いてきた。俺は咄嗟に「会社員」と言ってしまったが、この世界に「会社員」という職業はないようだ。ここで、俺がこの世界のことを何一つ知らないのがフランにバレた。フランは「孤児だったんでしょ。なら仕方ないわ。」と、この世界のことを教えてくれた。この世界には魔王がいて、モンスターがいて、勇者がいて、スキルがある。そして、職業とは生まれた時から決まっているものだと教えてくれた。職業は神父の『信託』という能力で分かるらしい。もちろん神父も職業だ。生まれた時から運命が決まっているという、この世界のシステムに嫌悪を抱いたのを覚えている。
次の日、フランに連れられて神父に会いに行った。そして下された、俺の職業は『村人』。フランは、「だ、大丈夫ですよ!そんなに落ち込まないで下さい!私だって『村人』ですよ!この世界の85%は村人でできてるんですから!」と励ましてくれたが、なにが大丈夫なのだろう。転生した先で、村人と宣言されるつらさが君に分かるのか!?!?――と、当時は思っていたが、今では『村人』は天職に思う。
能力の使い方を聞いたが、使う物ではないらしい。自然と、生まれた時から、身体の一部のように使っているのだそうだ。ちなみにフランの能力は〈農業効率上昇(小)〉だ。
能力、使えない物は仕方ない、とスキルについて聞けば、スキルは本を読んだりして学んでいくらしい。稀に、学ばなくとも使える者がいるらしい。ちなみに俺は使えなかった。本はとても高価で、村人には手が出せない。
こういった経緯で、今俺はフランと共に暮らしているわけだ。
「お休み、フラン。明日も頑張ろうな。」
「ええ、おやすみなさい。オサム。」
食事を終え、寝床に入る。
(今日もよく働いたなぁ。明日もがんばろう!)
そうこう思う内に、いつの間にか眠りの底に沈んでいた。
♦♦♦
今日はフランの誕生日だ。農作業の合間に、フランに内緒で育てていた花々を切り取り花束を作る。
「喜んでくれるといいな。」
(前世でもこうして花束を作ったっけ…。)
給料が少なく、姫乃にプレゼント1つ買ってやることが出来なかった。だから俺は、前世でも花を育て、花束を作った。あの時の姫乃の嬉しそうな顔は忘れられない。
フランと姫乃の笑顔を重ね、俺はフランの待つ家へと帰っていった。
――ドアを開く。
そこには、見知らぬ少女がいた。
「ただいま、フラン。その子は誰?」
「あら?オサムの友達じゃないの?この子、『オサムという人を知りませんか』って言って訪ねてきたのだけど。」
少女をじっと見つめる、が、もちろん知らない子だ。この世界に来て、俺はフランと神父、そして神父の補佐の女性としか会っていない。
「悪いけど、人違いじゃないかな、俺は君のこと知らないよ。」
「嘘言わないでよ。オサム。ヒメノだよ。」
―――ヒメノ――ヒメノ………姫乃!?!?
「姫乃!?!?姫乃なのか!?」
「そーだよ!さっきから言ってるじゃん!」
「どうしてこの世界に!?」
「どうしてって……もちろん、〈愛の天使〉ハニエル様のおかげよ!あの天使様は、私たちの愛の強さに関心なさって転生させてくれたのよ!」
「え……」
(ハニエルはそんなこと一言も……)
「それよりも、ねぇ。修一?あの人は誰?」
姫乃がフランを指さす。
「あぁ!この人は、俺が死にかけていたところを助けてくれた、命の恩人のフランだ。」
「そんな……命の恩人だなんて……」
「事実じゃないか!」
「そう……フランさんね。ありがとう。修一を救ってくれて。」
姫乃は納得したように言葉を返す。
「オサム、私にも紹介して。」
すかさずフランが尋ねる。
「この子は、姫乃だよ。昔の知り合いなんだ。」
「知り合い……?」
姫乃がポツリと言った言葉は、誰にも聞かれることがなかった。
姫乃はにっこりと、笑みを浮かべて問う。
「修一、ところで、その手の中にある花束は何?」
「わっ!」
急いで隠すが、既に時遅し。フランにばっちり見られていた。
「あーあ。もう少し隠しておきたかったんだがな……。――はい、フラン。お誕生日おめでとう!」
「え!?私に!?……嬉しい……ありがとう……!」
フランが受け取ろうと手を伸ばしたその時、突如花束が燃え上がった。
「!?」
突然の出来事で、思考が追い付かない。フランもあっけにとられている。
そして――数秒もたたないうちにフランが倒れる。
「フラン!?!?」
フランを抱き起す。抱き起したフランの身体の下には血が海のように溜まっている――
「なにが――!!」
「修一がいけないのよ?」
姫乃の声が降りかかる。
「修一が、私に初めて、私だけの花束をくれたからこそ、花束は価値を持ったの。2つ目の花束は必要ない。」
「だからって、こんなこと――!」
「修一?」
姫乃が怖い程のにこやかな笑みで尋ねる。
「私たち、恋人だよね?世界が変わったんだから、別れないでいいんだよね?」
「そうだな。」
「そうよね!」
今までにないくらい、姫乃は嬉しそうだ。
「修一ならそう言ってくれると思ってた!聞いて!私ね、職業は『賢者』なの!!賢者ってだけで、王様も、勇者だって欲しがるのよ!だからお金のことは心配いらないし――」
「――けど、気が変わった。姫乃、俺は……人殺しのお前を、恋人だとは思わない。」
「は……?」
「何故俺じゃないんだ!どうしてフランを傷つけたんだ!俺たちとは関係のない善良な人を……どうして巻き込んだんだ!!」
姫乃に冷徹な言葉を浴びせ、俺はフランの止血を始める。
「フラン!しっかりしろ!今医者を――」
「なんで?どうして?どうして私の気持ちが修一に伝わらないのかなぁ?前世だって修一が死んだ後に追うように死んであげたんだよぉ?あの世で修一がさみしいだろうって思って――」
姫乃が行き場のない怒りを吐き出す。
そんな怒りも、必死の修一の耳には入らない。
微かに息をするフランが口を開く。
「オサム……短い――1年くらいかな――だったけど、とても感謝してるの。私ね、両親がいなくなってから、ずっと一人で生きてきた。とても……とてもさみしかった。」
フランの目から一筋の涙。
「でもね、オサムが来てからは、毎日が楽しかった。農作業して、馬や鶏の世話をして……いつものことなのに、オサムがいるとすっごい楽しかった。」
「もうしゃべるな!絶対に助かる!」
必死に傷口を抑える。抑えても、抑えても、指と指のすきまから血がこぼれていく――
「ううん。」
フランが首を振る。
「自分のことくらいわかるわよ。最後に、言っておきたいことがあるの――」
「最後だなんて……やめてくれ……」
姫乃の動きがぴたりと止まる。
「――人違いね。こんな奴修一じゃないわ。修一の名を語るなんて……!許せないわ!!」
「死ねッ!!」
「貴方に出会えてよかった。ありがとう。」
フランの声と姫乃の声が重なった瞬間、俺の意識は再び暗闇へと放り込まれた。
「はーい!!」
農作業を終えて、オサムは家に帰る。
――そう、このオサム・ナカバこそが俺、央修一が転生した姿だ。
異世界転生……。てっきり勇者になって世界を救うのかと期待していたが、なんてことはない。俺は村人に転生していた。だが、村人というのもなかなかにいい。毎日畑を耕し、家畜を世話し、そして寝る。こんなに素晴らしい世界が他にあるのか。少なくとも前世では考えられない。
「フラン、いつも助かるよ。」
「いいえー!オサムだって農作業や家畜の世話をしてくれているじゃない!」
この子はフラン。俺が倒れていたところを助けてくれて、仕事と住む家まで与えてくれた。
フランと暮らすようになって、1年が経とうとしている。
―――あの転生した日、俺は前世とは違う容姿でこの世界に来た。いや、放り出された、と言った方がいいかもしれない。食べ物もない状態で、いつの間にか森にいた。天使から能力を貰ったと言っても、使い方が分からないのではどうしようもない。目の前を何度もウサギや鳥が駆けていったが、空腹の身で捕まえきれるわけもなく。仕方なく足元に生えていたキノコを食べてみると―――毒キノコだった。立っていられなくなり、頬が地面についた。こうして俺は、何もなさないままこの世界を去ろうとしていたわけだが、本当に運よくフランと出会った。
「大変!!大丈夫!?!?」
フランは俺の元に駆け寄ると、解毒のポーションを飲ませてくれた。(後で知ったことだが、この世界のポーションはとても高価で、1本で家が建つのだとか。)そしてフランの必死の看護のおかげで、数日後には俺は歩けるまでに回復していた。俺は孤児で、あの森でさまよっていた、ということと、恩返しがしたいという旨を話した。フランは幼いころに両親を亡くし、一人で農作業をしていたので、良ければ手伝って欲しいと、俺がここに住むことを快諾してくれた。
ある日、フランが俺の職業を聞いてきた。俺は咄嗟に「会社員」と言ってしまったが、この世界に「会社員」という職業はないようだ。ここで、俺がこの世界のことを何一つ知らないのがフランにバレた。フランは「孤児だったんでしょ。なら仕方ないわ。」と、この世界のことを教えてくれた。この世界には魔王がいて、モンスターがいて、勇者がいて、スキルがある。そして、職業とは生まれた時から決まっているものだと教えてくれた。職業は神父の『信託』という能力で分かるらしい。もちろん神父も職業だ。生まれた時から運命が決まっているという、この世界のシステムに嫌悪を抱いたのを覚えている。
次の日、フランに連れられて神父に会いに行った。そして下された、俺の職業は『村人』。フランは、「だ、大丈夫ですよ!そんなに落ち込まないで下さい!私だって『村人』ですよ!この世界の85%は村人でできてるんですから!」と励ましてくれたが、なにが大丈夫なのだろう。転生した先で、村人と宣言されるつらさが君に分かるのか!?!?――と、当時は思っていたが、今では『村人』は天職に思う。
能力の使い方を聞いたが、使う物ではないらしい。自然と、生まれた時から、身体の一部のように使っているのだそうだ。ちなみにフランの能力は〈農業効率上昇(小)〉だ。
能力、使えない物は仕方ない、とスキルについて聞けば、スキルは本を読んだりして学んでいくらしい。稀に、学ばなくとも使える者がいるらしい。ちなみに俺は使えなかった。本はとても高価で、村人には手が出せない。
こういった経緯で、今俺はフランと共に暮らしているわけだ。
「お休み、フラン。明日も頑張ろうな。」
「ええ、おやすみなさい。オサム。」
食事を終え、寝床に入る。
(今日もよく働いたなぁ。明日もがんばろう!)
そうこう思う内に、いつの間にか眠りの底に沈んでいた。
♦♦♦
今日はフランの誕生日だ。農作業の合間に、フランに内緒で育てていた花々を切り取り花束を作る。
「喜んでくれるといいな。」
(前世でもこうして花束を作ったっけ…。)
給料が少なく、姫乃にプレゼント1つ買ってやることが出来なかった。だから俺は、前世でも花を育て、花束を作った。あの時の姫乃の嬉しそうな顔は忘れられない。
フランと姫乃の笑顔を重ね、俺はフランの待つ家へと帰っていった。
――ドアを開く。
そこには、見知らぬ少女がいた。
「ただいま、フラン。その子は誰?」
「あら?オサムの友達じゃないの?この子、『オサムという人を知りませんか』って言って訪ねてきたのだけど。」
少女をじっと見つめる、が、もちろん知らない子だ。この世界に来て、俺はフランと神父、そして神父の補佐の女性としか会っていない。
「悪いけど、人違いじゃないかな、俺は君のこと知らないよ。」
「嘘言わないでよ。オサム。ヒメノだよ。」
―――ヒメノ――ヒメノ………姫乃!?!?
「姫乃!?!?姫乃なのか!?」
「そーだよ!さっきから言ってるじゃん!」
「どうしてこの世界に!?」
「どうしてって……もちろん、〈愛の天使〉ハニエル様のおかげよ!あの天使様は、私たちの愛の強さに関心なさって転生させてくれたのよ!」
「え……」
(ハニエルはそんなこと一言も……)
「それよりも、ねぇ。修一?あの人は誰?」
姫乃がフランを指さす。
「あぁ!この人は、俺が死にかけていたところを助けてくれた、命の恩人のフランだ。」
「そんな……命の恩人だなんて……」
「事実じゃないか!」
「そう……フランさんね。ありがとう。修一を救ってくれて。」
姫乃は納得したように言葉を返す。
「オサム、私にも紹介して。」
すかさずフランが尋ねる。
「この子は、姫乃だよ。昔の知り合いなんだ。」
「知り合い……?」
姫乃がポツリと言った言葉は、誰にも聞かれることがなかった。
姫乃はにっこりと、笑みを浮かべて問う。
「修一、ところで、その手の中にある花束は何?」
「わっ!」
急いで隠すが、既に時遅し。フランにばっちり見られていた。
「あーあ。もう少し隠しておきたかったんだがな……。――はい、フラン。お誕生日おめでとう!」
「え!?私に!?……嬉しい……ありがとう……!」
フランが受け取ろうと手を伸ばしたその時、突如花束が燃え上がった。
「!?」
突然の出来事で、思考が追い付かない。フランもあっけにとられている。
そして――数秒もたたないうちにフランが倒れる。
「フラン!?!?」
フランを抱き起す。抱き起したフランの身体の下には血が海のように溜まっている――
「なにが――!!」
「修一がいけないのよ?」
姫乃の声が降りかかる。
「修一が、私に初めて、私だけの花束をくれたからこそ、花束は価値を持ったの。2つ目の花束は必要ない。」
「だからって、こんなこと――!」
「修一?」
姫乃が怖い程のにこやかな笑みで尋ねる。
「私たち、恋人だよね?世界が変わったんだから、別れないでいいんだよね?」
「そうだな。」
「そうよね!」
今までにないくらい、姫乃は嬉しそうだ。
「修一ならそう言ってくれると思ってた!聞いて!私ね、職業は『賢者』なの!!賢者ってだけで、王様も、勇者だって欲しがるのよ!だからお金のことは心配いらないし――」
「――けど、気が変わった。姫乃、俺は……人殺しのお前を、恋人だとは思わない。」
「は……?」
「何故俺じゃないんだ!どうしてフランを傷つけたんだ!俺たちとは関係のない善良な人を……どうして巻き込んだんだ!!」
姫乃に冷徹な言葉を浴びせ、俺はフランの止血を始める。
「フラン!しっかりしろ!今医者を――」
「なんで?どうして?どうして私の気持ちが修一に伝わらないのかなぁ?前世だって修一が死んだ後に追うように死んであげたんだよぉ?あの世で修一がさみしいだろうって思って――」
姫乃が行き場のない怒りを吐き出す。
そんな怒りも、必死の修一の耳には入らない。
微かに息をするフランが口を開く。
「オサム……短い――1年くらいかな――だったけど、とても感謝してるの。私ね、両親がいなくなってから、ずっと一人で生きてきた。とても……とてもさみしかった。」
フランの目から一筋の涙。
「でもね、オサムが来てからは、毎日が楽しかった。農作業して、馬や鶏の世話をして……いつものことなのに、オサムがいるとすっごい楽しかった。」
「もうしゃべるな!絶対に助かる!」
必死に傷口を抑える。抑えても、抑えても、指と指のすきまから血がこぼれていく――
「ううん。」
フランが首を振る。
「自分のことくらいわかるわよ。最後に、言っておきたいことがあるの――」
「最後だなんて……やめてくれ……」
姫乃の動きがぴたりと止まる。
「――人違いね。こんな奴修一じゃないわ。修一の名を語るなんて……!許せないわ!!」
「死ねッ!!」
「貴方に出会えてよかった。ありがとう。」
フランの声と姫乃の声が重なった瞬間、俺の意識は再び暗闇へと放り込まれた。
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