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第四十話『釣られたオトコ』
しおりを挟む八月二日(月)
大変です、事件です。
誰にどう伝えればいいのかわからないけど、報告書をここに記します。
私は今日、なんというか、信じられない経験をしました。
なぜ、というか誰に対して、敬語なのだろうか?
たぶん、これは神様への問いかけで、私の祈りだからだ。
どこから話せばいいのかがわからないので、いつものように、思いついた順に、できる限りあったことを端的に書く。
いやもう、めんどくさいので、結論から言ってしまおう。
私は今日、トランに告白をされてしまった。
あの、ファンの大勢いる、モテ男で、イケメンで、スタイル抜群で、運動部の、いや学校全体の花形である、ハングリーボール部のレギュラー選手である、あの、トラン・デ・イラレンにだ。混乱して「あの」を連発してしまった。自慢しているのか? 私は。
「キミのことが気になったきっかけはね、あの日のキミの告白だよ」
トランは俯きぎみに、恥ずかしそうに顔を赤らめて、緊張して細くなった声で、そう言った。
彼のあんな姿を見たのは初めてだった。
彼も普通の男子なんだなと、初めて親近感をもった。
ところで、私の告白というと、あれだ。
先月した。うん、私は確かに……トランに告白? うんまぁ、したな。あれは、告白だな。
自分の気持ちを確かめるためという身勝手な理由で、なんかムニャムニャと好き勝手なことを彼に伝えたんだった。
でも、自分の気持ちを伝えはしたけど、好きだとは伝えていない。
好きだったと、伝えただけだ。
過去に彼を好きだと思っていたのは事実。でもあれは彼の表面的な人気や外見に憧れていただけ。
その醜い軽薄な気持ちを整理するために、告白……、告白だったっけ? いや、うん、告白を、したのだった。
しかし我ながら、なんというアホなマネを……!
後悔してもしかたないし、あれは私にとっては必要な、前を向いて人生を歩んでいくための通過儀礼だったのだから、理解してもらえないだろうけど、あのときの私は、ああするしかなかったのだ。
たしかにあのとき気がかりだったのは、トランに心の傷を与えていないかという点だった。
でもこれも、与えていないといいなというよりは、どーせ屁とも思っていないのだろうなと、軽く考えてしまっていたかもしれない。
だから、もう、告白したことをスッカリ忘れていたのだ。
私ごときに彼を揺さぶるような影響力はないと、高を括っていた。
バカだ……、私の考えが浅薄だった。
あんな奇妙な告白、されたほうの身になれという話だ。
モテ男と言ったって、トランも私と同じ高校生なのに。
自分に置き換えて考えてみる能力が、欠落していたと言わざるを得ない。
私がもしタイプでもない知らない人に突然告白されたとしたら、やっぱり悩む。それがどんなに変な告白だったとしても、相手が真剣なら、きっと悩む。
だって人間だもの。
トランを無感情な機械のように考えていたのだとしたら、私は最低だ。
彼はムキムキで頑丈そうな身体をしているが、心は筋トレでは鍛えられない。
トランは今日、こうも言っていた。
「凄いと思ったよ。あんなに素直に、カッコつけずに、まっすぐに自分の気持ちを伝えるなんて、なかなかできないよ。ボクは初めて見た。感動したよ」
ホメてくれているのだろうけど、私にはピンとこなかった。
だってあれは、私にとっては独白に近い、懺悔のようなものだったから。
そしてなんと、トランはこう続けたのだ。
「キミ、バンドをやってるんだろ? こないだのライブ、ウチのチーム内でも凄い評判でさ、ボクも動画を観たよ。素敵だった」
え、動画なんてあるの? と、私はしかめっ面になった。
そんなの初耳だ。
どのくらい視聴されて、どんな評価をされているのだろう?
サブたちはそれを、知っているのか?
「キミのことが気になっているときに、あんなカッコイイものを見せられたらさ、なんというか、やっぱり、好きになっちゃうよね、キミのこと」
……なんだと?
──つづく。
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