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第三話『五人目』
しおりを挟むけたたましい、目覚まし時計のような呼鈴の音が部屋の空気を揺らす。
散らかった室内には、使い古され、あちこちからワタの出ているソファがあり、その上には男が寝転がっていた。
緊急事態のようなベル音がしばらく鳴り続け、ようやく止まる。
ソファの背もたれ側に顔を向け、くたびれたクッションを頭の上にのせることで窓から部屋へと射し込む陽光を防いでいるその男は、まるで騒音が聴こえていないかのように無反応だった。
再び、心臓の弱い者ならショック死しそうな轟音の呼鈴が鳴らされる。
──5秒、10秒、15秒。
どうやらこの呼鈴は、ボタンを押している間ずっと鳴り続ける仕組みらしい。
20秒をこえても、壁や床の微震に触れる皮膚がくすぐったくなるほどの激音は、いつまでも鳴り続けた。
「ふがっ!」
男が寝返りをうつ。頭にのせていたクッションが床に落ちる。
わざとスタイリングしたのかと疑いたくなるほどに全毛髪がもれなく跳ねた男の顔には、アイマスクがつけられていた。夜更しの癖があるのか日光が苦手なのか、それともただ単にだらしないだけなのか、音に反応して仰向いた後も身体を起こすつもりはなさそうだった。
諦めたように呼鈴が鳴り止む。
静かになって数秒で、満足そうに、男の鼻息が寝息へと変じていく。
三度、火災警報器のような音の、ここまでくると、その騒音が災害のようだが、呼鈴が鳴らされる。
「んがぁッ!」
寝ていたアイマスクの男が、不機嫌そうに吼えた。
拷問のように休んでは鳴るベルに、腹を立てている様子だった。
ソファの上で横になったまま、音を掻き消そうとするかのように腕を振る。
纏い付く蠅を払う、牛の尻尾のような動き。
振り回した腕の勢いで身体が転がり、男はソファから床に落下した。
ゴトゴトンと、頭や肩や膝などの硬い骨が、フローリングを鈍く鳴らす。
「んなぁ! らぁ!」
ソファの前に置かれたテーブルは埃だらけで、書物や食器が山と積まれており、なにか飲食物をこぼしたと見える汚れが、埃と混じって複雑な模様を描いていた。その、屋外にぽんと置いてあれば誰もが粗大ゴミと間違えそうなテーブルの下で、ソファから落ちた男が何事か、不機嫌そうに怒鳴った。
まだ、三度目のベルは鳴り止まない。
これだけ騒音が続けばいい加減、近所迷惑なレベルだと、普通の住人であれば、というのはつまり、多少の常識と社会性のある人間であればという意味であるが、心配しそうなものだった。
ところが男は近所迷惑については、露ほども気にしていなかった。
信じられない話だが、この殺人的な爆音を発する呼鈴は、このアパートの全室に標準装備されていた。
迷惑と言うなら、全店子が住み始めたときからずっと、自室のベルを鳴らされるたびに迷惑しているので、この件で近隣の住人に苦情を言うのは、筋違いと言うかお互い様であり、よほどの真夜中でない限りは誰も文句など言わない。幸い今は、真っ昼間である。
呼鈴は、ずっと鳴り続けている。
ソファテーブルの下で、ドタンバタンと暴れる音がした。
ゴツンと、なにかが激突する音とともにテーブルが激しく揺れ、上に重ねられていた古雑誌の山が崩れ、テーブルの下にバラバラと落下した。
何冊かは、男の頭や顔のある辺りに落ちた。食器類は跳ねて音をたてただけで、無事だった。
「んだよぉ、もぉう」
ようやく人語がましい音が、男の口からもれる。
テーブルとソファの間から、ピョコリとそのボサボサ頭がのぞく。
乱暴にアイマスクを剥ぎ取って、テーブルの上に放る。
むくんで腫れた瞼が半分しか開かず、せっかく開いた半分側も目ヤニに覆われてなにも見えないため、ゴシゴシと拳で目玉を擦ったその男は、コリィだった。
アイマスクを外したその顔は、鼻柱と左頬が酷く腫れあがり、どす黒く変色していて、一見すると誰だかわからないほどだった。
瞼も頬も膨らんでいるので、左目はほぼ閉じてしまっている。
まだ、呼鈴は鳴り続けていた。
痰の絡んだ汚らしい咳をしながら、コリィがソファに手をついて立ち上がる。
部屋の出口へと向かう一歩目が、ソファテーブルにガツンと当たる。
テーブルが斜めになり、上に置かれていたウイスキーの瓶と、薄汚れたグラスが倒れた。
「あ痛ァッ!」
顔を顰め、裸足の小指を両手で押さえてソファの上にひっくり返る。
ソファに寝転がった途端に動きが止まり、また睡魔に負けそうになるが、ベルが鳴り止まないのでノロノロとまた立ち上がり、居間の出口へと足を引きずった。
この強烈な寝ぼけかたには、朝方まで飲んでいた酒の影響もあるようだった。
顔のケガには治療した様子はなく、痛み止め代わりに飲酒したものと思われる。
短く刈り込まれた白髪まじりのブロンドがボサボサなのは、何日も風呂に入っていないために、天然の整髪料のようになった頭皮の脂が、ソファに押し付けられた方向に調髪しているだけだった。
頭髪だけでなく、無精髭だらけの顔も、皮脂でねばついていた。
垢だらけのワイシャツの両袖を捲る。
袖のボタンはずっと前に取れて、なくしたままだった。
両手の甲と、両肘、両前腕にも、擦り傷や打ち身のあとがある。
傷だけでなく土汚れも、服や皮膚に昨日の拉致事件の痕跡をのこしていた。
その汚れたワイシャツの首にネクタイは巻かれておらず、胸のボタンも、上からいくつかはずっと前に紛失したままだった。
だらしない、不潔な、社会不適合者。
一見して誰もがそういった印象をうけるであろうコリィのこの姿は、実は昔の、新聞記者時代からあまり変わっていなかった。
臭いや汚れを気にしていたら、ホームレスや重度の麻薬中毒者には取材などできない。
記者以前は編集部にいたこともあったが、その頃もずっと風呂に入れないような日が多かったので、不潔という感覚は当時からとっくに麻痺していた。
月給取りの頃と現在とを比べての外見的な差は、カタギに見えない顔つきくらいのもので、それも見る人が見なければ、すれ違ったくらいでは一般人には区別などつかないだろう。
コリィはカタギとは言えないが、裏稼業というわけでもなかった。
カタギだと言い切れない最大の理由は、彼のメシのタネにはお上に申告できないような案件が多く、納税がまともにできないという点が大きかった。
払わないわけにもいかないので、裏稼業専門の税理士に世話になっている。
コリィの仕事じたいは法を犯すものではないが、その程度のグレーなことには、いくつも手を染めていた。
カタギとも言えず、ヤクザとも言えない、どっちつかずの風来坊。
〈ただのコリィ〉という通り名は、彼のこんな中途半端な生き様を揶揄してのものでもあった。
彼の職種は〈接続屋〉と呼ばれている。
情報屋の一種だが、情報を売って御飯を食ってはいない。
情報を得る手段は持っているが、それは人捜しの手段としてつかうためだった。
簡単に言えば、『顔繋ぎ』の専門家である。
表仕事で言えば、仲介業者、人材派遣、人材紹介、職業斡旋などに近い。
この稼業は信用第一なので、コリィの信条として、お上の仕事は受けないことにしていた。
情報をよこせと警察関係者に凄まれても、毎度、知らぬ存ぜぬで通している。
宣伝もできず、領収書もきれない、裏稼業相手の日陰仕事。
まさか自分がそんな人間になるとは夢にも思っていなかったが、新聞記者時代に得た人脈のおかげというか、頼まれては一人紹介し、銭を得て、噂を聞いた誰かにまた同じことをしては銭を得るという日々を繰り返すうちに、気付けばこの世界にゲソをつけていた。
勤め人には簡単に稼げない、あぶく銭の味を覚えてしまったのだ。
真面目に働くのがバカバカしくなり、金に価値を感じなくなった。
楽になったとは思っていない。
危険な目にもあうし、交渉は毎回、命懸けだ。
だがこんな世界にいると、自分自身にも価値を感じなくなってくるので、これがお似合いだと、いつしか芯まで〈ただのコリィ〉に染まっていった。
人生に甲斐などない。
目標、目的、夢、安定。
全てを、くだらねぇの一言で片付けるようになった。
主義だの社会だの、全部嘘っぱちのインチキだと。
思い込むというより、社会という舞台を飾る書割の裏側の薄っぺらさを嫌というほどに見せつけられ、その余りのショボさに心底辟易してしまったのだった。
コリィは頭をボリボリと掻きながら居間を出て、暗く狭い廊下を行く。
数歩で玄関だが、ダンボールなどで散らかっているために、まっすぐ進めない。
これだけしつこく呼ぶ訪問者は急ぎの用なのだろうが、コリィは相手の事情など歯牙にもかけなかった。
「あいよぉ」と、玄関に向けて、のんびりとした声をかける。
気の抜けたその返事にあわせて、呼鈴の騒音が止まった。
フラフラとした足取りで、玄関の鍵をあける。
ネジが緩んでグラグラするドアノブを回して扉を開けると、コリィの腹くらいの背丈の幼顔の少女が、外の通路に立っていた。
コリィの身長が、彼の曖昧な記憶によると八~十年くらい前に受けた健康診断の時点で、百七十五センチメートルかそこらだったので、ドアの外に立つこの少女の身長は恐らく、百十センチメートルくらいか。
扉を開けた途端、挑むような彼女の視線とコリィの眠たそうな眼がぶつかった。
互いに無言で、相手を観察する。
黙ったまま、コリィはドアを閉めた。
何事もなかったかのように施錠し、踵をかえす。
大欠伸をして「ううん」と背中の筋をのばしながら、居間へと戻った。
さっきまで寝ていた長いソファに、ドスンと体重を預ける。
テーブルに投げ出されていたアイマスクを手に取り、また装着する。
アナログの電池式壁掛時計がカチリと正午をさすと、それが合図か許可でもあるかのように、背を丸めてソファに横になった。
座面と背もたれの隙間に顔を埋めるようにして陽光から視覚を隠すように護る、いつもの睡眠姿勢。
するとすぐに、部屋を揺らすほどのあの轟音、鐘を連続で打ち鳴らすタイプの、『死人も2秒で目覚めます』というコマーシャルで有名な、といってもそのCMは日々言葉狩りに勤しむ一部の視聴者からの執拗なクレームにより、あっという間に宣伝文句を変えさせられたのだったが、その最強を標榜する目ざまし時計をさらにパワーアップしたような呼鈴の音が、部屋中を傲慢に蹂躙した。
くるりと寝転がったまま身体を仰向け、チラリとアイマスクをずらす。
玄関のほうを睨むだけで、起き上がろうともしない。
だがそれでは、この災害のような呼鈴は止まない。
それは経験済みなので、コリィは嘆息とともにテーブルの上に手をのばした。
灰皿から、比較的長い吸い殻を探し、クシャクシャのタバコを指先で整えて口にくわえ、マッチを擦る。
吸い殻は灰で汚れていたが、気にしていないようだった。
弾くようにしてマッチの火を消し、灰皿へと放る。
のろのろと起き上がり、紫煙を纏いながら立ち上がる。
ペタンペタンとペンギンのようにやる気なく歩き、ため息とともにタバコの煙を吐き出して、玄関へと戻る。
今度は鍵には触れず、玄関に寄りかかってタバコを指でつまんだ。
「誰に用だ?」
ボサボサ頭を玄関の覗き窓の辺りに凭れかけさせて訊く。
寝起き、深酒、タバコなど、どれが原因か不明だが、コリィの声は掠れていた。
少し間をおいて、玄関の外から答えが聴こえた。
「ゴー・キラー」
少女の声。
身長のとおり、声もまだ幼い。
コリィの表情が失われ、動きが止まる。
ドアに凭れさせていた頭をもたげ、眉を寄せる。
素早く解錠し、扉を細く開ける。
時間が巻き戻されたかのように、さっきと同じ角度、同じ表情で、二人の視線が交差する。
青い瞳の、美しい少女だった。
頬や二の腕などの柔い部分はふっくらと丸いが、とにかく細い。
ぺったんこのウエスト。
折れてしまいそうな手足や首。
そんなサイズのものが市販されているのかと驚くほどに、その体型にぴったりの真っ黒なライダースジャケットを身に着けていた。
擦り切れて膝頭がのぞいているスリムジーンズも同様で、この体型にピッタリなものを市販しても、他に客はいないだろうと言いたくなる細さである。
黄金の糸のようなブロンドは、とてもコリィと同じ人種とは思えない、透明感のある輝きで、ひっつめてポニーテールに纏められている。
白く透き通った小さなオデコは、シリコンよりもスベスベだった。
幼さと若さの中間のような、メキメキとのびる若木のような生命感。
先月で三十八になったコリィとは、細胞の、いや遺伝子の汚れかたが違った。
成長しきっていない未発達の身体からは、澄んだ乳の匂いがしてきそうだった。
少女はさっきの一言からずっと無言だったが、コリィはドアを閉じなかった。
「オマエ今、なんて言った?」
掠れたままの怒ったような声で、コリィが訊く。そこいらの少女なら泣き出してしまいそうな強い口調、厳しい声音だったが、少女は平然と応じた。
「ゴー・キラーを捜してほしいのよ」
なんだこのガキは。
コリィはどう答えていいのかわからず、舌打ちをして扉を開け放った。
「入れ」
辺りを警戒して命令する。
こんな少女を部屋に連れ込んでいるところを見られたら、通報されてしまうかもしれない。
面倒事は、御免だった。
扉を支えるコリィの腕の下を潜り、するりと舞うように少女が玄関へと入る。
視線や気配は感じない。
一応、そこらのドアの覗き穴に影ができていないかと、しばらく様子を見たが、問題なさそうだった。
そっと、音のしないように錆びた鉄の扉を閉める。
薄暗い玄関で背後を振り向くと、少女は廊下の先の居間の入口に立っていた。
逆光に映えるそのスラリとしたモデルのような全身は、こんな薄汚い背景をも、まるで誂えた背景セットのように感じさせた。
「ふん、臭い部屋ね」
言葉とは裏腹に鼻を押さえるでも顔を顰めるでもなく、腰に手を当てて観察するように居間を見渡している。
ここはコリィの住居兼、個人事務所だった。
接客スペースを確保するために、ベッドは置いていない。
ベッド代わりの長いソファの対面に、テーブルを挟んで、一人がけ用のソファが二脚、並べて置いてある。コリィはそれを指さした。
「そっちが客用だ」
客用の割には、奥の一脚には洗濯物が積まれていた。
少女は生意気な仕草でため息をつく。
だが文句も言わずに、黙って言われたソファに腰掛けた。
ゆったりと身を沈め、肘かけに両手をのせて顎を聳やかし、優雅に脚を組む。
余計な説明をさせずに話し合いの態勢になった少女に、コリィは好感をもった。
ガキを相手に話すことなどないが、あれなら大人と同じように話しても理解できそうだと判じる。
コリィも対面の長いソファに腰かけ、タバコを灰皿で揉み消した。
少女は見下すような目付きのまま、コリィを値踏みするように見ている。
コリィは浅く座って身を乗り出し、少女を正面から観察した。
会った記憶はない。存在に華があるので既視感を刺激されるが、やはり知らない顔だと判じた。
芸能人かとも思ったが、雑誌やテレビ、映画でも観た記憶はない。
「──で?」
コリィが口火をきる。
まずは説明しろという意味だった。
仕事の話をできる相手かどうか、それで決めようと考えていた。
傲岸な態度のまま、少女が口を開く。
「ゴー・キラーは、知ってるのよね?」
コリィは答えない。
その意味が伝わらない相手なら、追い出すまでだ。
少女がまた生意気な仕草で肩をくいと上げ、続ける。
「ゴー・キラーが〈豹男〉と〈岩山男〉を殺した、あれマフィアの仕事よね? あれもあなたの仕業だと聞いたけど、ほんとなの?」
その花弁みたいな唇から発されたのは、また質問だった。
コリィは答えなかったが、右の眉がピクリと反応してしまう。
「あなた、嘘がつけないのね」
桃色の唇を柔らかく湾曲し、微笑を咲かせる。
コリィは心の揺れを見抜かれたことに驚き、「ふむ」と息をもらした。
「お願い、どうしても必要なの」
組んでいた足を機敏な動きで戻し、身を乗り出すと、少女はコリィの手の甲に、すべすべとキメの細かな両掌を重ねた。
まだ小さいその爪は整えられ、マニキュアまで塗られていた。
コリィは黙ったまま、己の手に触れる小さな体温に視線を落とす。
しっとりとしたその感触には、力がこめられていた。
なにを伝えたいにしろ、本気だと、少なくともそう思わせたいのだという心情が伝わってくる。
「お願い」
少女が同じ懇願を繰り返す。
潤んだ声と瞳も、コリィの手に重ねられた両手と同じ効果だった。
大人びた交渉をするガキだなと呆れる。
会ったこともない異性の大人に、甘えるように頼るタマには見えない。
自分が美しい少女であることを知っているのだ。
子供で女性で、相手の嗜好にもよるが、自分が魅力的な外見をもっていることも重々承知して、利用している。
相手の男が幼児性愛者でなくとも、『父性』と呼ばれる保護本能は利用できる。
男性がそう感じる生き物だということも、わかったうえでやっている。
可憐に見える。
無欲に見える。
弱く、困って見える。
──が、本当にそうならここにはいないはず。
コリィは腹のうちで嗤った。
なら、さっきまでの態度はなんなんだよ、と。
交渉人以外の男なら、ちょっと前の数秒間のことなどは忘れてしまい、騙されることもあるのかもしれないが、コリィには通用しない。玄関からこのソファに座るまでに見せた行動に、少女の本性である肝の太さが表れてしまっていた。
コリィは自分の手に重ねられた少女の掌を握り、ぽいと棄てるように放った。
「俺には君がなにを言っているのかわからない。悪戯はやめて家に帰れ」
本気だった。
これ以上、小芝居を続けるつもりなら、この部屋からも放り出す。
「私はローラ。あなた、私を知ってるんでしょ? ねぇ〈ただのコリィ〉?」
少女の声が太くなり、コリィの両目が大きく見開かれる。
「オマエ、まさか、ローラ・ロールシャッハか?」
呼吸が乱れ、憧れと緊張で、コリィは硬直した。
少女が静かに頷く。
中央情報局の暗号名では、『ブレイン・ハッカー』と呼称される、政府子飼いの暗殺者計画の都市伝説があった。
コリィも噂だけは、何度も耳にした。
世界最大級の富豪ロールシャッハ家の、消えた少女の伝説も。
あまりにも漫画的すぎて、ただの噂だと思っていた。
実在したのかよ。
口もとが、勝手に震えた。
なぜこんな、生きた伝説が、俺の部屋に?
この噂を利用できるのは裏社会の者だけであり、少女の姿と立ち居振る舞いから滲み出る品格には、その悪臭は微塵もない。
ただの勘だが、間違いなく本物だった。
「〈チョウチョ〉が、ゴー・キラーになんの用だ?」
そうだ、少女の言うとおり、コリィはゴー・キラーをしっている。
ゴー・キラーもチョウチョと同格の、実在する都市伝説だった。
「殺すのよ」
少女の形をしたヒーローが、黒い美声で即答した。
──つづく。
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