上 下
18 / 42

## 18 お便秘クジラの食道探検

しおりを挟む
「ガルディアナ・マレアの腹の中に、操っている黒幕が居るように見える」

俺の言葉に、一同は驚きの声を上げた。

「お腹の中……?そんな馬鹿な……」

ハルは目を丸くしている。ルナも信じられないといった様子で俺を見つめた。

「だから船を出してあの腹の中に入って、黒幕を倒せば……」

「ご主人様……そんなこと、できるんですか……?」

「術師の黒幕が中に居るということは、あの腹の中は人間が生存可能な環境になってるということだ。やってみる価値はあると思う」

俺は提案した。イザベラは腕を組み、考え込むような表情をした。

「確かに、可能性としてはゼロではないわね。でも、危険じゃないの? 最悪、みんなクジラの餌よ」

フローラも心配そうに言った。

「ご主人……本当に大丈夫ですか……? 怖いです……」

「大丈夫だ。俺の『分析』スキルで危険は回避できるはずだ」

俺は自信満々に言った。ルナは不安そうに眉をひそめた。

「でも……もし、何かあったら……」

「大丈夫だよ、ルナ」

俺はルナの頭を優しく撫でる。

傍らでハルは決意を固めたように言った。

「私も行きます。『分析』様と共に、ガルディアナ・マレアを救い出しましょう」

「陛下!?」

侍女長が驚きの声を上げた。

「しかし、陛下が危険な目に遭うなど……」

「ガルディアナ・マレアは我が国の守護聖獣。それが操られて問題を起こしているというのなら、私には責任を持って対処する義務があります」

ハルは毅然とした態度で言った。ルナも負けじと前に出た。

「私も行きます!ご主人様を一人で行かせるわけにはいきません!」

「ルナ……」

俺はルナの決意に胸を打たれた。

「私も行きます!ご主人を守るのが私の役目ですから」

フローラも力強く言った。

「イザベラとヒナギクはここに残って、結界の維持をお願いしたい。万が一、ガルディアナ・マレアがまた暴れ出した場合、結界がなければ宮殿が危険だ」

「そうね。私達は結界の維持に専念しましょう」

イザベラは頷いた。

「陛下だけを行かせるのは不本意ですが……。仕方ありませんね。その代わり、近衛兵を何人か付けましょう。船を動かす人間も必要です」

ヒナギクも渋々とではあるが頷く。

結局、俺、ルナ、フローラ、ハル、それに近衛兵と船乗りが数名の、合わせて20名ほどのメンバーで、クジラの元へと乗り込むことになった。

「ご主人様、見てください!クジラさん、なんだかとっても弱ってるみたい……」

小型帆船がガルディアナ・マレアの巨体に近づくにつれ、ルナの言葉通り、その異様なまでの大人しさが際立ってきた。あれだけの大潮を起こし、宮殿を襲っていた獰猛さとはまるで別物だ。深く閉ざされた巨大な眼は虚ろで、時折かすかに上がる潮吹きも弱々しい。

「確かに、まるで病人みたいですね。呪いをかけられて、自分の意思とは関係なく暴れさせられてるせいで、相当体力を消耗してるのかも……」

フローラの言葉に、ルナは悲しげな表情で頷いた。

「かわいそうに……早く助けてあげたいです……」

ガルディアナ・マレアの口は固く閉じられている。どうすれば中に入れるのかと皆が思案していると、ハルが口を開いた。

「ガルディアナ・マレアは、本来はとても温厚な聖獣です。もし私たちに敵意がないことを理解してくれれば、きっと口を開けてくれるはずです」

ハルは船首に立ち、ガルディアナ・マレアに向かって語りかけた。

「おお、ガルディアナ・マレアよ。我々はあなたを救うために来たのです。どうか、我々をあなたの体内へと導いてください」

ハルの祈りが通じたのか、ガルディアナ・マレアはゆっくりと口を開けた。その口は巨大な洞窟のように大きく、容易に船が入れるほどの大きさだった。

「さあ、行きましょう!」

ハルが先陣を切って船をクジラの口の中へと進ませる。ルナ、フローラ、近衛兵、船乗りたちも後に続いた。

ガルディアナ・マレアの口の中は、生臭い潮の匂いと、得体の知れない粘液で満ちていた。船が進むにつれて、周囲は徐々に暗くなっていき、ついには完全な暗闇に包まれた。船乗りが松明で辺りを照らすと、そこはまるで巨大な洞窟の内部のようだった。壁面には、まだ消化されてない魚や海藻などがこびりついており、不気味な光景が広がっている。

「うわぁ……なんだか気持ち悪いですね……」

ルナは顔をしかめた。フローラも同意するように頷いた。

「確かに、あまり気持ちの良い場所ではありませんね……」

ハルは気丈に振る舞っていたが、やはり少し不安そうな様子だった。

「まあ、生き物の内臓の中だしな……。まだ食道ってところか?」

しばらく進むと、行く手を阻むように、小型の魚系モンスターの群れが現れた。

「敵襲です!」

近衛兵が叫んだ。

種族:フィッシャーマン
Lv:8
HP:500/500
MP:50/50
力:88
魔力:62
精神力:35
スキル:水魔法Lv5
特殊能力:噛み付き、粘液

「私が行きます!」

フローラは大きなスコップを手に、船から飛び降りた。

「フローラ!」

俺が声をかけようとした時には、既に彼女はモンスターの群れの中に飛び込んでいた。フローラはスコップを軽々と振り回し、次々とモンスターを倒していく。その姿は、まるで戦場の女神のようだった。

「すごい……フローラさん、本当に強いんですね……。私も加勢したい所なのですが、私が行ったらかえって足手まといになってしまいそうです」

ハルは感嘆の声を上げた。ルナもフローラの戦いぶりを食い入るように見つめていた。

俺はフローラの戦いぶりを見ながら、ある疑問が浮かんだ。一通りの雑魚を倒し終えて前線から戻って来たフローラに声をかける。

「なあ、フローラ。君は剣士なのに、どうしてその剣を抜かないんだ?」

俺はフローラの腰に下げられた剣を指差した。フローラはニヤリと笑って答えた。

「私のこのスコップは、森の妖精族に伝わる聖なるアーティファクトだから、剣よりもずっと攻撃力が高いんです」

フローラは誇らしげにスコップを掲げた。

「聖なるアーティファクト……? へえ、すごいスコップなんだね。ちょっと触らせてもらってもいい?」

俺は何気なく手を伸ばしたが、フローラはものすごい勢いでスコップを俺の手から遠ざける。

「だ、ダメです!これは妖精族しか扱えない聖なる道具なんです!たとえご主人でも、触らせるわけにはいきません!」

フローラは慌ててスコップを背中に隠した。

「ご、ごめん」

俺は苦笑しながら謝った。

「でも、そんなすごいスコップがあるなら、剣要らなくない?」

「いえ、このスコップは打撃武器なので、斬撃が必要な相手には効果が薄いんです。例えば、分厚い脂肪に覆われたモンスターや、スライム系のモンスターには、斬撃の方が有効ですよね。そういうモンスターを相手にする為には、剣も必要なんです」

フローラは真剣な表情で説明した。

「ああ、なるほど」

俺は納得した。

次に現れたのはぷるぷるスライムの集団だった。彼らは体をプルプルと震わせながら、こちらに迫ってくる。

種族:ぷるぷるスライム
Lv:12
HP:800/800
MP:70/70
力:10
魔力:100
精神力:55
スキル:水魔法Lv5
特殊能力:粘液、打撃耐性◎

「ぷるぷるスライムは打撃が効きにくい相手です。気を付けてください!」

ハルが警告する。

「お任せください!」



フローラは再びスコップを構えた。そしてぷるぷるスライムの群れへと勢いよく突撃し、あっという間に全てのスライムを殴り倒して帰って来た。

「え、なんで剣使わないの?」

「相手の打撃耐性の高さを考慮しても、その辺の古道具屋で買ったなまくらの中古の剣の斬撃よりは、妖精族のアーティファクトであるこのスコップの打撃の方が与えられるダメージが大きいと判断しました」

フローラは冷静に説明する。

「やっぱり剣要らないじゃん……」

「いえ、世の中には打撃が完全無効のモンスターというのも意外と居るのです。そういう敵にはたとえ我が一族の秘宝といえどダメージが通りませんので、その為には斬撃武器を備える必要があるんです」

フローラは真剣な表情で説明した。

その直後、フローラの言葉がフラグになったかのように打撃完全無効のモンスター『ぬるぬるマスター』が現れた。

種族:ぬるぬるマスター
Lv:20
HP:2000/2000
MP:300/300
力:150
魔力:150
精神力:150
スキル:水魔法Lv6
特殊能力:粘液、触手、打撃完全無効

巨大なナメクジのような姿で、体をぬるぬると動かしながら襲いかかってくる。

「ぬるぬるマスターは、あらゆる打撃攻撃を無効化します!打撃以外の攻撃で対応してください!」

ハルが指示を出した。

「了解です!」

フローラは腰に下げていた庭師道具のバッグから剪定用の小さなハサミを取り出した。

「え、なんでハサミ?剣は?」

俺は呆然とした。

「このハサミはアーティファクトとまでは行きませんが私が庭師として最高の仕事をする為に購入した最高級品で抜群の切れ味を誇ります。その辺の古道具屋で買ったなまくらの中古の剣とは比べ物になりません」

フローラは自信満々に言った。

「やっぱり剣いらないじゃん……」

俺はため息をついた。フローラの戦闘スタイルは、俺の常識をはるかに超えていた。

フローラは小さなハサミを器用に操り、ぬるぬるマスターの弱点である目を正確に突き刺した。ぬるぬるマスターは悲鳴を上げ、消滅した。

「ふう……なんとか倒せました」フローラはホッとしたように息を吐いた。

俺は、フローラの戦いぶりを見ながら、改めて彼女の分析データを確認した。

名前:フローラ
身長:153cm
体重:43kg
スリーサイズ:B79 W56 H81
スキル:剣術Lv4、園芸Lv7、結界Lv3、魔物知識Lv5
特殊能力:植物操作、自然回復促進

(剣術って、なんなんだろうな……?)

俺は首を傾げた。フローラの戦闘スタイルは、まだまだ謎が多い。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!

やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり 目覚めると20歳無職だった主人公。 転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。 ”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。 これではまともな生活ができない。 ――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう! こうして彼の転生生活が幕を開けた。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

処理中です...