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◆第二章◆
Episode10: 失踪
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「………にい……さん?」
目の前の少女は結良だった。
成長こそしているものの、当時の面影は残っている。
「……結良? どうして」
どうして、上層にいるんだ。
しかも、ここは俺の――いや、正確には俺の義父、如月源蔵の――家の前だ。
「にいさんこそ……どうしてここに?」
それはこちらのセリフだ。
一度腰を落ち着けて話そうということで、結良を連れて中層にある喫茶「天の川」へとやってきた。
中層にいくつかある24時間営業の喫茶店の中でも、一番シックな雰囲気の店だ。
カウンターテーブルは紫檀の天板で、手元を裸電球の申し訳程度の光が照らしている。
適当に注文を済ませると、並んで席に着いた。
「結良、どうして上層にいるんだ」
「にいさんこそ」
「俺の家はあそこだからな。二層の三番地」
「え? そこ、私の家」
「は?」
わけがわからない。錯乱しているのか?
その割には受け答えはしっかりしているのだが……。
ますますわけがわからなくなってくる。
どう話したもんかと考えていると、結良が先手をきった。
「私ね、にいさんが居なくなったあと、如月源蔵って人に引き取られたの」
いや、ちょっと待て。
どうしてここで義父の名前が出てくるんだ?
「それで、最初の五年くらいは社会勉強だって言って中層の学校に通ってたんだよ」
最初の五年……俺はそのころ、家の奥にある部屋で軟禁されつつ上流階級の作法から勉学から、心得のある使用人に徹底的に叩き込まれていた時期だ。
「それでね、五年くらい過ぎた頃に、今度は外に出るなって言われたの。昨日は何年ぶりかに外に出られたんだよ」
五年が過ぎたころ――ちょうど今から五年ほど前に、俺は家の外に出ることを許可され、隆弘と出会った。クロノスに入ったのもその頃だ。
要するに、俺が軟禁されていた時期に結良は外に出ており、五年前からは今度は結良が軟禁状態にあったということになる。
理屈としては通っている――か。
――しかし、あの家、そこまで広かっただろうか……。
確かに部屋自体は相当広い部類だが、十年もの間一度も会わずに生活することなどできるだろうか。
一体どういうカラクリかと思案していると、腰のポーチで携帯電話が鳴った。
フロント建設前――もう二十年以上前に製造された、上流の一部の人間しかもっていない高級嗜好品だ。
電話は、使用人からだった。
「玲二様! いまどこにおられますか!」
「中層の喫茶店だが」
「無事なんですね! すぐに戻ってください」
「どういうことだ」
「ご主人様――源蔵様が行方不明になりました」
「は?」
義父は隠居の身。
以前はクロノスの幹部だった男だが、いまでは歩行に介助が必要な老人だ。
一人で出ていくなど、あり得ない。
釈然としないものを感じながら、ひとまず結良とともに自宅へ急行した。
目の前の少女は結良だった。
成長こそしているものの、当時の面影は残っている。
「……結良? どうして」
どうして、上層にいるんだ。
しかも、ここは俺の――いや、正確には俺の義父、如月源蔵の――家の前だ。
「にいさんこそ……どうしてここに?」
それはこちらのセリフだ。
一度腰を落ち着けて話そうということで、結良を連れて中層にある喫茶「天の川」へとやってきた。
中層にいくつかある24時間営業の喫茶店の中でも、一番シックな雰囲気の店だ。
カウンターテーブルは紫檀の天板で、手元を裸電球の申し訳程度の光が照らしている。
適当に注文を済ませると、並んで席に着いた。
「結良、どうして上層にいるんだ」
「にいさんこそ」
「俺の家はあそこだからな。二層の三番地」
「え? そこ、私の家」
「は?」
わけがわからない。錯乱しているのか?
その割には受け答えはしっかりしているのだが……。
ますますわけがわからなくなってくる。
どう話したもんかと考えていると、結良が先手をきった。
「私ね、にいさんが居なくなったあと、如月源蔵って人に引き取られたの」
いや、ちょっと待て。
どうしてここで義父の名前が出てくるんだ?
「それで、最初の五年くらいは社会勉強だって言って中層の学校に通ってたんだよ」
最初の五年……俺はそのころ、家の奥にある部屋で軟禁されつつ上流階級の作法から勉学から、心得のある使用人に徹底的に叩き込まれていた時期だ。
「それでね、五年くらい過ぎた頃に、今度は外に出るなって言われたの。昨日は何年ぶりかに外に出られたんだよ」
五年が過ぎたころ――ちょうど今から五年ほど前に、俺は家の外に出ることを許可され、隆弘と出会った。クロノスに入ったのもその頃だ。
要するに、俺が軟禁されていた時期に結良は外に出ており、五年前からは今度は結良が軟禁状態にあったということになる。
理屈としては通っている――か。
――しかし、あの家、そこまで広かっただろうか……。
確かに部屋自体は相当広い部類だが、十年もの間一度も会わずに生活することなどできるだろうか。
一体どういうカラクリかと思案していると、腰のポーチで携帯電話が鳴った。
フロント建設前――もう二十年以上前に製造された、上流の一部の人間しかもっていない高級嗜好品だ。
電話は、使用人からだった。
「玲二様! いまどこにおられますか!」
「中層の喫茶店だが」
「無事なんですね! すぐに戻ってください」
「どういうことだ」
「ご主人様――源蔵様が行方不明になりました」
「は?」
義父は隠居の身。
以前はクロノスの幹部だった男だが、いまでは歩行に介助が必要な老人だ。
一人で出ていくなど、あり得ない。
釈然としないものを感じながら、ひとまず結良とともに自宅へ急行した。
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