私の夫は昔愛した彼女を選んだ。さようなら旦那様、私は孤独に耐えられませんので家を出ます

吉乃

文字の大きさ
15 / 55

15.喜びの瞬間

しおりを挟む
穏やかな日々が続き、ルシアの出産の日がついに訪れた。  

暖炉の火が灯された温かい寝室で、ルシアは汗を滲ませながら、新しい命をこの世に迎えた。

「……おめでとうございます、奥様。男の子です。」  

侍女がそっと彼女に赤ん坊を抱かせると、ルシアの瞳から涙が溢れた。  

「この子が……私たちの……。」  

小さな命は、ルシアの胸の上で静かに眠っていた。  
温かくて、愛おしくて、胸がいっぱいになる。  

「ルシア!」  

扉が開き、アレクシスが駆け込んできた。  

戦場でも決して動揺を見せなかった男が、今は信じられないほど慌てた表情をしている。  

「あなた……来てくれたのね。」  

「当然だ。……ルシア、大丈夫か?」  

アレクシスは息を整えながら、彼女の隣に座り、ルシアの手を優しく握った。  

彼の大きくて温かい手が、彼女を優しく包み込む。  

「……ルシア、本当にありがとう。」  

彼の言葉に、ルシアは微笑み、赤ん坊をそっと抱き上げた。  

「あなたも、抱いてみる?」  

アレクシスは一瞬戸惑い、しかし静かに赤ん坊を腕に受け取った。  

戦場で剣を振るう強靭な腕が、今は小さな命を優しく包み込んでいる。  

赤ん坊は彼の胸の中で小さなあくびをし、ゆっくりと目を開けた。  

「……小さいな。」  

アレクシスの声は、いつになく優しい。  

「でも、力強いですね。握力が……こんなにも。」  

赤ん坊は彼の指をぎゅっと握り、まるで「この腕の中が安心できる」とでも言うように、すぐに再び目を閉じた。  

その姿を見つめながら、アレクシスの表情がふと和らぐ。  

「ルシア……この子の名前は?」  

「あなたがつけてくださらない?」  

ルシアが微笑みながら言うと、アレクシスはしばらく考え、赤ん坊の顔を見つめた。  

「……エドワード。強く、誇り高い男になるように。」  

「エドワード……素敵な名前ね。」  

ルシアが微笑むと、赤ん坊が小さく笑ったように見えた。  

「ふふっ……ほら、エドワードも気に入ったみたい。」  

「そうか……。」  

アレクシスは静かに微笑み、そっと赤ん坊の額に口づけた。  

「エドワード、これからはお前を守る。ルシアと共に——私の家族として。」  

---



エドワードが生まれてから、アレクシスとルシアの関係はより深くなっていった。

ある日の午後、アレクシスは書斎で領地の報告書を読んでいた。  
そこへ、小さな声が聞こえてきた。

「アレクシス様、エドワードがあなたを探していたわ。」  

ルシアが笑いながら言うと、エドワードを抱いた乳母が後ろからついてきた。  

「アーアー」  

「エドワード。」  

まだ幼いながらも、エドワードは父親の姿を見つけると、嬉しそうに両手を伸ばした。  

アレクシスは少し驚いた後、すぐに席を立ち、彼を抱き上げた。  

「どうした?」  

エドワードは無邪気に笑いながら、父の頬に小さな手を伸ばした。  

「アウー!」  

「ふっ……どうやら、父上に会いたかったみたいですね。」  

ルシアが微笑みながら言うと、アレクシスも小さく笑った。  

「お前は甘えん坊だな。」  

「ふふ、あなたが大好きだからよ。」  

ルシアが微笑むと、アレクシスは少し照れくさそうにエドワードの頭を撫でた。  

「私も、エドワードのことが大好きだよ。」  

赤ん坊のエドワードは、満足げに父の胸に顔を埋めた。  

そんな二人の姿を見て、ルシアの胸は温かくなった。  

(とても幸せだわ……。)  

「ねえ、アレクシス様。」  

「なんだ?」  

「私たち、本当に幸せね。」  

アレクシスはルシアを見つめ、静かに微笑んだ。  

「……ああ。お前と、エドワードがいる。それだけで十分だ。」  

「私も、あなたとエドワードがいてくれるだけで、幸せよ。」  

アレクシスは何も言わず、ルシアの手を取り、そっと指を絡めた。  

「これからも、一緒に歩んでいこう。」  

「ええ。」  

二人の手が絡まり、小さな家族の絆が、さらに深まる瞬間だった。 





ある夜——。  

エドワードが眠った後、ルシアとアレクシスは庭園を歩いていた。  

夜風が心地よく、二人は自然と手を繋いでいた。  

「あなたと結婚して、本当に良かった。」  

ルシアが微笑むと、アレクシスは静かに彼女を見つめた。  

「ルシア。」  

「なあに?」  

「これからも、私の隣にいてくれるか?」  

彼の言葉に、ルシアは優しく微笑み、彼の腕にそっと寄り添った。  

「もちろんよ。」  

アレクシスは満足げに微笑み、彼女の額に優しく口づけた。  

「ありがとう。」  

夜空の下、二人は変わらぬ愛を確かめ合うように、静かに寄り添っていた。  

しおりを挟む
感想 121

あなたにおすすめの小説

婚約者を想うのをやめました

かぐや
恋愛
女性を侍らしてばかりの婚約者に私は宣言した。 「もうあなたを愛するのをやめますので、どうぞご自由に」 最初は婚約者も頷くが、彼女が自分の側にいることがなくなってから初めて色々なことに気づき始める。 *書籍化しました。応援してくださった読者様、ありがとうございます。

離婚した彼女は死ぬことにした

はるかわ 美穂
恋愛
事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。 もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。 今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、 「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」 返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。 それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。 神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。 大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。

もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません~死に戻った嫌われ令嬢は幸せになりたい~

桜百合
恋愛
旧題:もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません〜死に戻りの人生は別の誰かと〜 ★第18回恋愛小説大賞で大賞を受賞しました。応援・投票してくださり、本当にありがとうございました! 10/24にレジーナブックス様より書籍が発売されました。 現在コミカライズも進行中です。 「もしも人生をやり直せるのなら……もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません」 コルドー公爵夫妻であるフローラとエドガーは、大恋愛の末に結ばれた相思相愛の二人であった。 しかしナターシャという子爵令嬢が現れた途端にエドガーは彼女を愛人として迎え、フローラの方には見向きもしなくなってしまう。 愛を失った人生を悲観したフローラは、ナターシャに毒を飲ませようとするが、逆に自分が毒を盛られて命を落とすことに。 だが死んだはずのフローラが目を覚ますとそこは実家の侯爵家。 どうやらエドガーと知り合う前に死に戻ったらしい。 もう二度とあのような辛い思いはしたくないフローラは、一度目の人生の失敗を生かしてエドガーとの結婚を避けようとする。 ※完結したので感想欄を開けてます(お返事はゆっくりになるかもです…!) 独自の世界観ですので、設定など大目に見ていただけると助かります。 ※誤字脱字報告もありがとうございます! こちらでまとめてのお礼とさせていただきます。

結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください

シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。 国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。 溺愛する女性がいるとの噂も! それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。 それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから! そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー 最後まで書きあがっていますので、随時更新します。 表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】亡くなった人を愛する貴方を、愛し続ける事はできませんでした

凛蓮月@騎士の夫〜発売中です
恋愛
【おかげさまで完全完結致しました。閲覧頂きありがとうございます】 いつか見た、貴方と婚約者の仲睦まじい姿。 婚約者を失い悲しみにくれている貴方と新たに婚約をした私。 貴方は私を愛する事は無いと言ったけれど、私は貴方をお慕いしておりました。 例え貴方が今でも、亡くなった婚約者の女性を愛していても。 私は貴方が生きてさえいれば それで良いと思っていたのです──。 【早速のホトラン入りありがとうございます!】 ※作者の脳内異世界のお話です。 ※小説家になろうにも同時掲載しています。 ※諸事情により感想欄は閉じています。詳しくは近況ボードをご覧下さい。(追記12/31〜1/2迄受付る事に致しました)

私は彼に選ばれなかった令嬢。なら、自分の思う通りに生きますわ

みゅー
恋愛
私の名前はアレクサンドラ・デュカス。 婚約者の座は得たのに、愛されたのは別の令嬢。社交界の噂に翻弄され、命の危険にさらされ絶望の淵で私は前世の記憶を思い出した。 これは、誰かに決められた物語。ならば私は、自分の手で運命を変える。 愛も権力も裏切りも、すべて巻き込み、私は私の道を生きてみせる。 毎日20時30分に投稿

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
【3月中ーー完結!!】 私は、夫にも子供にも選ばれなかった。 二十年の裏切りの果て、その事実だけを抱え、離縁状を置いて家を出た。 そこで待っていたのは、凍てつく絶望――。 けれど同時に、それは残酷な運命の扉がひらく瞬間でもあった。 夫は愛人と共に好きに生きればいい。 今さら「本当に愛していたのは君だ」と縋られても、 死の淵を彷徨った私には、裏切ったあなたを許す力など残っていない。 「でも、子供たちの心だけは、 必ず取り戻す」 妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。 過去を悔い、歪な愛でもいいと手を伸ばした彼女が辿り着いた先。 それは、「歪で、完全な幸福」か、それとも――。 これは、"石"に翻弄された者たちの、狂おしい物語。

処理中です...