鳥籠の花嫁~夫の留守を待つ私は、愛される日を信じていました

吉乃

文字の大きさ
54 / 91

家族の温もり

しおりを挟む
廊下を進み、ふたりは子どもたちのいる小広間へと向かった。
扉を開けると、そこにはティモシオとリヴェルが、侍女たちに囲まれながら遊んでいる姿があった。

ティモシオが最初に気づいた。
ぱっと顔を上げ、大きな瞳を輝かせる。

「お母様! そして……父上!」

ティモシオは勢いよく駆け寄ってきた。
その後ろを、まだ少しぎこちない足取りでリヴェルも追いかけてくる。

カタリーナは、しゃがんで腕を広げた。
ティモシオもリヴェルも、迷うことなく飛び込んできた。

王都から戻った母にようやく会えた喜びが、ふたりの小さな体から溢れ出していた。

「おかえりなさい、お母さま!」
「おかえりなさい……」

ティモシオの声には喜びが、リヴェルの声にはほんの少し照れたような響きが混じっていた。

レオナルドは一歩だけ遅れて膝をつき、ふたりの子どもたちにそっと手を伸ばした。
ティモシオが真っ直ぐにその手を取り、リヴェルも小さな手でぎゅっと掴む。

その温もりに、胸の奥がじんと熱くなる。
ただ、黙ってふたりをそっと抱き寄せた。

ティモシオは、父の手をしっかりと握りながら、顔を上げた。

小さな胸の中には、言葉にできないほどの安堵と嬉しさが広がっていた。
長い間、父と母が揃う光景を夢見ていた。
いま、この瞬間だけは、何も心配しなくていいのだと、幼いながらに感じていた。

「こうして、またみんな一緒になれて嬉しいよ。」

その無邪気な言葉に、レオナルドの胸が静かに熱くなる。

レオナルドは微笑み、黙ってティモシオとリヴェルをさらにそっと抱き寄せた。

カタリーナは、子どもたちを包み込むように見つめながら、小さく微笑んだ。
心の中に広がるものは、まだ痛みを伴うものだった。
けれど、確かに温かなものでもあった。

小さな再会。
それは、ほんのかすかな一歩にすぎないかもしれない。

けれどその一歩が、やがて未来へ続く道になると──カタリーナは信じたかった。

「今日は特別な日だな。」

レオナルドが、子どもたちの頭を優しく撫でながらぽつりと呟いた。

ティモシオがぱっと顔を輝かせる。
「だったら、みんなでお祝いしようよ!」

リヴェルも小さな手をぱたぱたと振りながら、賛同するように声を上げた。

カタリーナは少し驚きながらも、ふっと笑った。
「ええ、そうね……。ささやかでも、家族で祝えるなら。」

侍女たちも微笑みながら支度に動き始める。

「お坊ちゃまたち、こんなに嬉しそうなお顔……本当に良かったわ。」
「ええ、お母様もきっとご安心なさっているでしょうね。」
「久しぶりに、屋敷に笑い声が満ちて……なんだか、胸が温かくなりますわ。」

そんな小さな囁きが、紅茶と菓子を用意する手のあいだに交わされていた。

テーブルには、あたたかい紅茶と、焼きたての菓子が並べられた。
窓から差し込む秋の陽光が、まるで家族を祝福するかのように、柔らかく部屋を満たしていった。

ティモシオが、もう一口菓子を頬張りながらふと顔を上げた。

「ねえ、お父様。これからは、もっと一緒にいてくれるの?」

その無邪気な問いに、室内の空気がわずかに揺れた。
カタリーナもそっと手を止め、レオナルドを見つめた。

レオナルドはカップを置き、まっすぐにティモシオとリヴェルを見た。
そして、静かに、はっきりと頷いた。

「……ああ。もう、どこにも行かない。」

それは、過去を悔やむ言葉ではなく、これからを約束する誓いだった。

ティモシオの顔がぱっと輝き、リヴェルも嬉しそうに身を乗り出す。

カタリーナは静かに目を伏せ、そしてそっと微笑んだ。
過ぎたことは消せない。痛みもすぐには癒えない。

けれど今、この場所に、小さな希望が確かに芽吹いている。
それだけは、誰にも否定できない事実だった。

それはほんのひとときの、ささやかな団らん。

確かに、失われた時間を少しずつ取り戻していく、最初の一歩だった。

ティモシオは小さな手でカップを持ち、得意げにカタリーナに微笑んだ。
「お母様、今日のお祝いは、ぼくが乾杯の音頭を取ってもいい?」

カタリーナは驚き、そして微笑んだ。
「ええ、もちろんよ。」

ティモシオは背筋をぴんと伸ばして、ぎこちなくも一生懸命に言った。

「これから……家族みんな、仲良くいられますように!」

小さな声だったが、確かに心のこもった宣言だった。

リヴェルも真似をしてカップを高く掲げる。

レオナルドは胸の奥が熱くなりながら、静かにカップを合わせた。

カタリーナもまた、小さな笑みを浮かべながら、子どもたちのカップにそっと自分のカップを重ねた。

小さな音が、静かな祝福の鐘のように、部屋の中に広がった。

カタリーナはカップをそっと置きながら、子どもたちの笑顔を見つめた。

この光景こそ、私がかつて夢見たものだった。
結婚して家族を持つなら、こんなふうに、温かい笑顔に囲まれた日々を築きたいと、ずっと願っていた。

それがどれほど遠くに思えた日々が続いたことか。
それでも、今ここに確かにある。

心の奥に、まだ完全に癒えない痛みはある。
だが、この子たちのためなら、何度でも希望を抱ける。
そんな静かな誓いが胸に芽生えていた。

レオナルドもまた、そっと子どもたちの姿に目を細めた。
自分が壊しかけた家族の絆を、今度こそ守り抜きたい。
言葉にできない想いが、静かに彼の中に満ちていく。

互いに交わす視線は、まだぎこちない。
けれど、そこには確かに新しい絆の種が、静かに根付こうとしていた。

しおりを挟む
感想 86

あなたにおすすめの小説

離婚した彼女は死ぬことにした

はるかわ 美穂
恋愛
事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。 もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。 今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、 「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」 返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。 それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。 神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。 大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。

年に一度の旦那様

五十嵐
恋愛
愛人が二人もいるノアへ嫁いだレイチェルは、領地の外れにある小さな邸に追いやられるも幸せな毎日を過ごしていた。ところが、それがそろそろ夫であるノアの思惑で潰えようとして… しかし、ぞんざいな扱いをしてきたノアと夫婦になることを避けたいレイチェルは執事であるロイの力を借りてそれを回避しようと…

「10歳の頃の想いなど熱病と同じ」と婚約者は言いました──さようなら【完結保証】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王太子フリードリヒの婚約者として、幼い頃から王妃教育を受けてきたアメリア・エレファウント公爵令嬢。 誰もが羨む未来を約束された彼女の世界は、ある日突然1人の少女の登場によって揺らぎ始める。 無邪気な笑顔で距離を(意図的に)間違える編入生ベルティーユは、男爵の庶子で平民出身。 ベルティーユに出会ってから、悪い方へ変わっていくフリードリヒ。 「ベルが可哀想だろ」「たかがダンスくらい」と話が通じない。 アメリアの積み上げてきた7年の努力と誇りが崩れていく。 そしてフリードリヒを見限り、婚約解消を口にするが話は進まず、学園の卒業パーティーで断罪されてしまう……?! ⚠️ 本作は AI の生成した文章を一部に使っています

もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません~死に戻った嫌われ令嬢は幸せになりたい~

桜百合
恋愛
旧題:もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません〜死に戻りの人生は別の誰かと〜 ★第18回恋愛小説大賞で大賞を受賞しました。応援・投票してくださり、本当にありがとうございました! 10/24にレジーナブックス様より書籍が発売されました。 現在コミカライズも進行中です。 「もしも人生をやり直せるのなら……もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません」 コルドー公爵夫妻であるフローラとエドガーは、大恋愛の末に結ばれた相思相愛の二人であった。 しかしナターシャという子爵令嬢が現れた途端にエドガーは彼女を愛人として迎え、フローラの方には見向きもしなくなってしまう。 愛を失った人生を悲観したフローラは、ナターシャに毒を飲ませようとするが、逆に自分が毒を盛られて命を落とすことに。 だが死んだはずのフローラが目を覚ますとそこは実家の侯爵家。 どうやらエドガーと知り合う前に死に戻ったらしい。 もう二度とあのような辛い思いはしたくないフローラは、一度目の人生の失敗を生かしてエドガーとの結婚を避けようとする。 ※完結したので感想欄を開けてます(お返事はゆっくりになるかもです…!) 独自の世界観ですので、設定など大目に見ていただけると助かります。 ※誤字脱字報告もありがとうございます! こちらでまとめてのお礼とさせていただきます。

私たちの離婚幸福論

桔梗
恋愛
ヴェルディア帝国の皇后として、順風満帆な人生を歩んでいたルシェル。 しかし、彼女の平穏な日々は、ノアの突然の記憶喪失によって崩れ去る。 彼はルシェルとの記憶だけを失い、代わりに”愛する女性”としてイザベルを迎え入れたのだった。 信じていた愛が消え、冷たく突き放されるルシェル。 だがそこに、隣国アンダルシア王国の皇太子ゼノンが現れ、驚くべき提案を持ちかける。 それは救済か、あるいは—— 真実を覆う闇の中、ルシェルの新たな運命が幕を開ける。

【完結】旦那は堂々と不倫行為をするようになったのですが離婚もさせてくれないので、王子とお父様を味方につけました

よどら文鳥
恋愛
 ルーンブレイス国の国家予算に匹敵するほどの資産を持つハイマーネ家のソフィア令嬢は、サーヴィン=アウトロ男爵と恋愛結婚をした。  ソフィアは幸せな人生を送っていけると思っていたのだが、とある日サーヴィンの不倫行為が発覚した。それも一度や二度ではなかった。  ソフィアの気持ちは既に冷めていたため離婚を切り出すも、サーヴィンは立場を理由に認めようとしない。  更にサーヴィンは第二夫妻候補としてラランカという愛人を連れてくる。  再度離婚を申し立てようとするが、ソフィアの財閥と金だけを理由にして一向に離婚を認めようとしなかった。  ソフィアは家から飛び出しピンチになるが、救世主が現れる。  後に全ての成り行きを話し、ロミオ=ルーンブレイス第一王子を味方につけ、更にソフィアの父をも味方につけた。  ソフィアが想定していなかったほどの制裁が始まる。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
【3月中ーー完結!!】 私は、夫にも子供にも選ばれなかった。 二十年の裏切りの果て、その事実だけを抱え、離縁状を置いて家を出た。 そこで待っていたのは、凍てつく絶望――。 けれど同時に、それは残酷な運命の扉がひらく瞬間でもあった。 夫は愛人と共に好きに生きればいい。 今さら「本当に愛していたのは君だ」と縋られても、 死の淵を彷徨った私には、裏切ったあなたを許す力など残っていない。 「でも、子供たちの心だけは、 必ず取り戻す」 妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。 過去を悔い、歪な愛でもいいと手を伸ばした彼女が辿り着いた先。 それは、「歪で、完全な幸福」か、それとも――。 これは、"石"に翻弄された者たちの、狂おしい物語。

【完結】この胸が痛むのは

Mimi
恋愛
「アグネス嬢なら」 彼がそう言ったので。 私は縁組をお受けすることにしました。 そのひとは、亡くなった姉の恋人だった方でした。 亡き姉クラリスと婚約間近だった第三王子アシュフォード殿下。 殿下と出会ったのは私が先でしたのに。 幼い私をきっかけに、顔を合わせた姉に殿下は恋をしたのです…… 姉が亡くなって7年。 政略婚を拒否したい王弟アシュフォードが 『彼女なら結婚してもいい』と、指名したのが最愛のひとクラリスの妹アグネスだった。 亡くなった恋人と同い年になり、彼女の面影をまとうアグネスに、アシュフォードは……  ***** サイドストーリー 『この胸に抱えたものは』全13話も公開しています。 こちらの結末ネタバレを含んだ内容です。 読了後にお立ち寄りいただけましたら、幸いです * 他サイトで公開しています。 どうぞよろしくお願い致します。

処理中です...