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眠りの森の十字架
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体勢を変えることなく佇むドラゴンの前で、呆然と立ち竦む。織原はここに自分たちを連れて来たであろう人物を珍獣を見るような目で見る。
「大丈夫ですよ。こちらを敵視してはいないみたいだし、散策してても火は吹かれなかったです!」
「言いたいのはそこじゃねぇよ!!」
たまに感じる、噛み合わない感覚。織原はもどかしさに表情が強張る。そんな彼の肩にクラウスが手を置く。
「考えてみなよ、織原くん。これはこれで一番安全な場所じゃないかな?」
一切ドラゴンから視線を外さないクラウスに説得力はない。もう一度ドラゴンを見上げるが、未だに動く気配は感じない。向こうからすると蟻程度の存在なのだろうか。
「で、これからどうする?」
不安げにドラゴンから視線を外したクラウスは雛葵を見る。自然と織原も雛葵を見た。
「そうですね。取り敢えずは方角ですね。そこはクラウスに任せます。後はここを出てからですが、非常に危険です。クラウスと俺は実戦経験が有るので弱音は無しです。織原さんは任務などでサバイバルの経験は?」
聞かれて、輪郭すら捉えることのできなかった昨日の失態に負い目を感じる。
「有るには、あるんだ。だけど、レベルが違いすぎると言うか、全然違う。・・・違いすぎる」
認めざるを得ない実力不足。騎士を相手に引目を感じるのは当然なのだが、片方は後輩であり、年下でもある。この事実が織原のプライドをじわじわと傷つけて来る。
「修行だな!これを乗り越えた時、君は見違える程に強くなっているだろう!」
肩に置いた手で何度も肩を叩きながらクラウスは織原の心情を感じ取った。真の強さに真っ直ぐな姿勢。クラウスは頼もしい後輩として存在してくれている事を嬉しく想った。それと同時に、失われる命であった事に酷く怒りを覚える。
「超えていくさ。騎士団の膿みを残らず排除する為にも、俺は強くならなきゃならない!まず、お前も超えてやるからな!!」
力一杯指を刺された雛葵は驚いていたが、すぐに嬉しそうに笑って見せた。
「やっぱり織原さんはそうでないと!!」
年相応の子供らしい笑顔を向けられると、心苦しい。少々恥ずかしさに視線を斜め上に逸らした。
「?」
雛葵がクビを傾げると、クラウスも一緒にクビを傾げる。
「あー、その。何だろう、もうそろそろさんとか付けんのやめないか?お前、リクはリクって呼び捨てにしてんじゃん?」
もじもじ気味の織原に、クラウスは心の中でニンマリと笑う。目の前の2人の若さを思い出した。
(友情?芽生えちゃう?)
「俺も、ヒナキって呼びたいしよ。」
(キターーー!!)
「はい。どぅ・・・。あ、ヤバいどうしよう。なんか恥ずかしい!クラウス殴らせて!」
「ええーー!?」
少し面白くなってきた織原は雛葵に詰め寄る。
「ヒナキ、あだ名でもいいぞ?」
クラウスが笑って茶化そうとした時、上空でドラゴンの鼻息が聞こえた。3人は真顔に戻る。織原と雛葵がクラウスを見ると、彼はドラゴンの向いている方角に指を指し、速やかに走り去った。
暫く走ると、焼け焦げた岩肌が剥き出しになった場所に出た。織原が上空から見ていた場所だ。無意識に彼は空を見上げると、一つため息を付いた。
「ここは見通しが良いので、出来るだけ早く通り過ぎましょう。」
雛葵が前方から先を促す。その理由は嫌というほど理解できる。二人の後ろを歩きながら、あの瞬間を思い出していた。真っ直ぐに落下する先にはドラゴンが居て、あの大きな瞳で見られていた。
(あの風景を歩も見たのか?)
グリフォンに乗った白騎士の言葉が嫌に頭から離れない。何度も繰り返し思い起こされる。
(俺には雛葵が居たけど、アイツは・・・独りで)
脳内で恐ろしい想像をしていた時、強く腕を掴まれた。クラウスが織原を何かから隠す様に背に匿う。
「やはり、この一帯は彼等の縄張りですね。」
前方には巨大なトカゲが2匹。黒い表皮に頭から尻尾にかけて鮮やかな黄色のラインが入っている。怪しく輝く艶々した姿がトラウマになりそうだ。
「クラウス、もう少し下がって。」
クラウスは織原を連れて飛び退く様に後方へ下がる。
「なっ、雛葵はっ・」
織原の言葉が終わる前に、片方のトカゲの巨体が弾け飛んだ。何が起こったのかわからず、口を開けたままただ見ていた。雛葵は武器も持たずにオオトカゲの分厚い表皮を切り裂いていた。
「はっ、これは何度見ても怖ぇわ」
クラウスがボヤいた言葉に激しく同意する。
「何アイツ・・、滅茶苦茶強ぇじゃねぇか」
瞬きもせず見詰める織原。クラウスは少し複雑な気分になる。2匹とも仕留めた雛葵が振り返る。
「さあ、仲間が来ないうちに移動しましょう。」
素直に従う2人は駆け足で雛葵の後を追った。暫く進むと水の流れる音が聞こえて来る。音の大きさから近くにそれなりの川があることがわかる。
「水は有り難いな。寄って行くよな?」
クラウスの言葉に頷くと速度を緩め、慎重に進み始める。実践経験のある2人は警戒を強めていることがわかる。織原は彼等の様子を観察しつつ、辺りの気配を探る。この辺りもすっかり森の中。あらゆる気配が混じっている。その中でも種類の違う殺気を俊敏に読み分ける手練れは織原にとって命綱の様な存在だった。
「大丈夫そうですね。何か、水を汲んで置けるものがあれば良かったのに。」
「まあ、その内使えそうな物が有ればそれを使うとして、暫くはこの川沿いを進まないか?魚が居れば食糧には持ってこいだ。」
「そうだな。そうしようか。」
本格サバイバルはまだ始まったばかり。澄んだ川の流れを眺めながら一行は先を急いだ。できる事なら少しでも早くこんな場所からはおさらばしたい。雛葵は時折大樹に渡されたナイフを確認している。何の反応も無いのだろう。確認しては直ぐに大切に仕舞い込んでいる。
「水場は危険です。水中からの襲撃にも備えて下さい。」
「お、おう」
今し方まで美しいと感じていたエメラルドグリーンの川のせせらぎも、最早魔獣沼にしか見えなくなってきた。心なしか、視線を感じる気もして来た。
「はは!そんなに構えるな!リラックスリラックス!そんなんじゃ、見えないものまで見えてしまうぞ・・・」
クラウスに心情を読まれた気がして水面から目を逸らすと、大きな音を立てて水しぶきが舞った。俊敏な猫の様に飛び退いてそちらへ向き直る織原。だが、そこにはカラカラと笑うクラウスが居た。
「クラウス!いつか後ろから刺されるぞ。」
「すまんすまん!織原くんがあまりにも硬くなってるから!つい!」
雛葵の冷ややかな視線を受けながらも悪びれる様子もないクラウス。織原は恥ずかしさに耐えながらクラウスを睨みつけた。
「だが、実際大物を狙うならこれが効く事もある。」
「は?」
今度は何もしていないのに水面から叩きつける様な水音が響き渡った。呆気に取られて見た先には、クラウス目掛けて飛びかかる巨大な、・・・魚?
「かかったな!本日のメインディッシュちゃん!」
枝を折って構えると迷いなく怪魚の一点を貫いた。素晴らしい手際で仕留められた獲物は軌道を変えずそのままクラウスを直撃した。
「・・・」
「後先考えてないだけなんです。」
真顔で見つめる織原に雛葵がフォローの様なものを告げる。
「いやいや、酷い目に合ったが、美味い魚が手に入った!量も満足出来そうだ!」
決してめげないクラウスを胸を押さえて織原が見守る。
「川魚特有の泥臭さを何とか出来れば良いのですが。」
「ああ、任せてくれ!サバイバルはお手の物だ!」
慣れているのか、心配する気すらない雛葵にクラウスは未だ自信満々に話す。動揺してはいけないのだと理解した。警戒しろと言うわりに、辺りから聞こえて来る大きめの音すら2人は完全に無視している。鳥が鳴いた。枝を揺らし、羽ばたく音が遠くへ消えて行く。
「何か、居ますね。」
急に呟いた雛葵の言葉に織原は寒気を感じた。何かとは何か。一体どれに反応したのか。疑問の波に襲われながらも、目の前で繰り広げられる愉しげなクッキングに気が散らされた。
「もう、いいや。」
織原は警戒心も全て投げ出して怪魚の高層焼きの様なものの出来上がりを待った。その後方の川の対岸の木陰から様子を伺う者がいた。敵意が有るでもなく、食料を狙っている様子も無かった。ただじっと3人を観察していた。雛葵が視線を向けると静かに影へ隠れてしまった。
「ほーら出来たぞ!織原くん!たくさん食べろー!雛葵も肉付けろ!」
大雑把に取り分けた怪魚をこれまた大きな葉っぱに乗せて差し出して来る。雛葵は受け取るとすなおに食べ始めた。織原は受け取ると、意外と間抜け面な怪魚と目が合った。
「頭が良くなるぞ!残すなよ!」
悪意を感じる。恨めしそうにクラウスを一瞥した後、頭を残して平らげた。
「きょーちゃん・・」
「・・・目が合ったんだよ」
何か言いたそうにクラウスが呼ぶが、織原の素直な返答に悶えた。雛葵は気付きながらも見ないふりをして視線を向けた先に、風に揺らめくものが見えた。
「何だろう?こんな場所に布のような・・・」
その言葉に二人もそちらへ目を向ける。陽のあたる場所なのだろうか、木の枝の隙間から白く輝いて揺れる物が見て取れた。
「よし、雛葵も早く食べろ。あそこへ行ってみよう。」
雛葵は最後の塊を無理矢理口に放り込むと、先に立ち上がっている二人の後に続いた。進むにつれ見える角度が変わり、それがひとつではなく、更に見覚えのある物である事に気付く。
「こ、れは・・・」
クラウスはその場に立ち尽くした。確かめるのが怖かった。目の前に広がる光景に、見せられたのは今まで目には見えていなかった現実。白と黒の上着が掛けられた十字に縛られた木は、盛り上がった土に突き立てられていた。無数に立ち並ぶそれらは、3人の心に衝撃を与えた。
「こんなに、か?」
クラウスが零した言葉に、織原も雛葵も返すことが出来なかった。アルトリア学園の制服。それらは既にボロボロに朽ち果てようとするものもあった。その所々に白騎士の隊服が混ざっていた。制服にも隊服にも上着の内側に持ち主の名が刺繍されている。だが、誰も動く事が出来ないまま、立ち尽くして見守った。晴れ渡る空を白い雲が流れるのを見もせずに見送った。クラウスの頬に伝う雫が、静かに地面に落とされた。
「クラウス、俺が確かめて来る。二人はここで休んでいてください。」
雛葵は自分と同じ制服の並へ向かう。織原はそれを無言のまま見送ると、クラウスへと視線を落とした。打ちのめされているのは明らか。出会ってまだ短いが、始めてみる姿だった。
「雛葵は強いのか、それとも、まだわかっていないのか。」
急に呟かれた言葉に織原は驚いた。
「それとも、隊長としての責任から動くことが出来たのか?」
未だ、彼が何を言いたいのか理解出来ていない。
「この辺りの片桐の姓を持つ生徒は犠牲になることが多いだろ?それは孤児院の子供たちだからだ。あいつだって、同じ孤児院で育ったんだ。」
心臓が止まるような感覚だった。そう言えばリクが言っていた。雛葵は戦災孤児であり、施設で育ったのだと。
「クラウス!頼む!あんたを一人にしたくないが、雛葵を一人にもしたくない!辛いのは分かるけど、一緒に来てくれ!」
クラウスが見た雛葵はこちらに背を向けて、上着の刺繍を確認している。戸惑う様子もなく、順番に名前を確認していく。ふと、その手が止まる。だが、何事も無かったようにまた次を確認し始める。クラウスは立ち上がった。織原の肩をポンポン叩くと、いつに無く真剣な瞳をしていた。
「かっこ悪い姿を見せてしまったね。あの子にばかり頑張らせて、何が白騎士なんだろうね、俺は。」
ゆっくりと雛葵の元へ歩き出したクラウスの背を、織原は追った。知りたくないが、知らなければならない事実。ここは墓場だ。
(生存する人間はまだ見ていない。だが、誰かが・・・、人が居るはずだ!)
「悪かった。俺も確認しよう。」
クラウスは雛葵に謝罪すると、白騎士の隊服を確認し始めた。クラウスにとっては知り合いがいる確率が高い。覚えのある名は全て彼を悲しませるだろう。そして、織原もそれに続く。
「・・・、俺も確認する。」
「ありがとうございます・・・」
切なそうに微笑む雛葵は制服から視線を離さなかった。誰かを見つけたのかもしれない。逃げる様に目を逸らし、手近にあった制服を手に取った。無意識に手にしたそれはまだ朽ちてはおらず、形状からクラスに気付いた。
(嘘だろ?俺には覚悟など出来ていないのに・・・)
思いとは裏腹に、織原の手は内側の刺繍を日に当てた。
「っ・・・」
黒く丈の長い制服には『紅坂歩』の文字があった。使用感のある生地がリアルに彼を思い出させた。
「お前には、誰も居なかったよな。」
織原の独り言に雛葵が顔を上げた。制服を握り締めたまま、織原は瞳を閉じた。クラウスも何も言わずに空を見た。青く晴れ渡る空は、何も知らずに無垢な色を見せる。ひとつの雲も残さずに、何処かへ流してしまった。
「やはり、知った名前はいくつか見つけることが出来ました。不謹慎ですが、確認できて良かったです。」
墓のある場所からそう離れていない岩陰に細工をして夜を明かす事にした3人は未だに黙っていたが、雛葵がその沈黙を破った。
「ですが、我々の目的は生還する事なので、立ち止まるわけにはいきません。なので、必ず彼らの訃報を報告します。」
雛葵にもたれ掛かり、沈黙するクラウスを見ている。そして、岩にもたれ掛かり、紅坂歩の制服を掴んでいる織原。それぞれにそれぞれが、落ち込んでいる。最近見なかった仲間。任務で死んだクラスメイトの本当の死因。そんな報われない事実に気付いてしまった。やっと口を開いた雛葵も、先に巣立ったはずの兄弟の墓を見た。
「帰るつもり、有りますよね?」
雛葵のその言葉に、2人は物凄い反射で体勢を起こす。
「帰るに決まってんだろうが!!」
クラウス。
「ここで死んだらコイツを見つけた意味も無くなっちまうだろうが!!」
織原。
「だったらほら!まずは腹ごしらえ!あの怪魚食べてから何時間経ったと思ってんだ!」
遂にキレたと言うべきか、雛葵が植物やら木の実やらを巨大な葉っぱに乗せている。
「リスか!!」
クラウスに雛葵の裏拳が炸裂する。織原は紅坂歩の制服を畳むと、木の実に手を伸ばした。クラウスは倒れ込んで悶絶している。
「悪い。やっぱり少しだけ期待してた。まだ歩が生きてるんじゃないかって。自分の命も保証がない状態で何言ってんだよな?わけわかんねぇ・・・」
自嘲気味に謝罪すると赤い実を摘んだまま俯いた。復活したクラウスは雛葵の肩に腕を回し、もう片方の手で織原の頭を撫でた。
「願うのなんて当然だろ?生きてて欲しいんだから。強くなろうぜ!せめて、ここに居る俺たちだけでも守れるくらいにはな。」
織原が顔を上げると心配そうな顔をこちらに向ける雛葵と悲しげに笑うクラウスがこっちを見ていた。織原は自分が一番小さく感じた。ここに来て何度も何度も感じていたことだ。辛い、悲しい、助けて欲しい、もう誰も傷つかないでほしい・・・。
「白騎士ですら、命を落とす場所なんだよな?ここは。」
「・・・そうだな」
「じゃあ、俺が生き延びる確率はもっと低いってこったな!」
「織原さん?!」
「強くなってやるよ!!強くならなきゃ、俺も、そばにいる誰かも殺されちまうなら!こんなにクソみたいな理由で殺されてたまるかよ!!」
織原は大声で怒鳴ると木の実を鷲掴みして一気に口へ放り込んだ。それを見てる2人は驚いて口を開いたまま見詰めていた。
「っ・・・苦い。」
「すいません、熟すと毒になる実なので・・・」
あまりの苦さに冷静さを取り戻した織原に、冷静な情報を投げ付ける雛葵。
「何で何時も毒が着いて回るんだ!!」
「あ、いや、栄養価とか物凄く優秀な実なんですよ!あまり食欲が無いようだったから少量でも栄養のある物をと・・・」
「ごめん、ありがとう。」
物凄い真顔で感謝を述べた織原をクラウスと雛葵は多少不気味に感じた。感情が強いくせに善意に気付くと直ぐに切り替わる。
「あーあ、持ってきちまった。ごめんな、歩。」
織原は紅坂歩の制服を撫でると優しく呟いた。その夜は3人とも少しだけ近付いて眠った。眠れなかったが、近くに温もりがあることに安堵して気が付いたら眠りについていた。
未だ薄暗い早朝に、自分たちとは違う何かの気配を感じた。クラウスが飛び起き、雛葵は織原を背に隠す。岩の隙間からは何も見えない。だが、何かがこちらを伺っていたのは確かだ。まだ近くに気配を感じる。ジリジリと岩の切れ目に近付き、勢いを付けて飛び出した。見えたのはかなり離れた木影に飛び込む人影。クラウスは嫌な汗をかいてその場所を凝視した。
「速過ぎるだろ・・・」
戻って来る気配が無いので、2人のもとへ戻ると、身支度を開始した。
「人影?じゃあ、もしかしてあの墓を作った人なのでは?」
「さあな、かも知れないけど、逃げられたもんは仕方が無い。それに、人では無い可能性もなくは無いだろ?すげぇ速かった!」
「全然気付かなかった」
「まあまあ、少しこの辺りを調べて見ますか?」
「そうだな!こちらだけ正体を知られてるのも良い気がしないしな。良いかな?織原くん。」
「ああ、俺も気になるし。」
「じゃあ、決定ですね!食べられそうなものがあったら集めるのも忘れずに!」
「「了解!」」
身支度を済ませると少し警戒して岩陰から出た。辺りには何の気配も感じなかった。少し辺りを見てみると、雛葵が何かを見つけた。
「見て下さい、誰かの足跡です!草ごと抉るほど強く踏まれています。もしかしなくても、ただものじゃ無いかもですね。」
「ああ、この脚力で逃げられたなら追付けねぇわ」
「うちのクラスに何人かダッシュの時土を抉る奴いるけど、此処まではならなかったなぁ。」
それぞれ、少し考えた後、進むことにした。
「まあ、まずは相手が逃げた方へ行ってみよう!こっちの木影に入った。」
立ち入ると木漏れ日で柔らかく明るい場所だった。まだ早朝ではあるが、心地よい暖かさを感じた。
「まあ、吸血鬼とかでは無い筈だ!明るくなってたし!だよな!?」
「どうでしょう?だけど、吸血鬼だったなら墓は作ってくれませんよね?」
突然、前方から音がした。木から飛び降りたのだろう。目の前に姿を現した。
「・・は?」
声を漏らしたのは雛葵。目の前に立つ人物に驚いているのだ。
「久しぶりね、雛葵。」
そこには栗色の長い髪を靡かせる背の低い少女が立っていた。
「大丈夫ですよ。こちらを敵視してはいないみたいだし、散策してても火は吹かれなかったです!」
「言いたいのはそこじゃねぇよ!!」
たまに感じる、噛み合わない感覚。織原はもどかしさに表情が強張る。そんな彼の肩にクラウスが手を置く。
「考えてみなよ、織原くん。これはこれで一番安全な場所じゃないかな?」
一切ドラゴンから視線を外さないクラウスに説得力はない。もう一度ドラゴンを見上げるが、未だに動く気配は感じない。向こうからすると蟻程度の存在なのだろうか。
「で、これからどうする?」
不安げにドラゴンから視線を外したクラウスは雛葵を見る。自然と織原も雛葵を見た。
「そうですね。取り敢えずは方角ですね。そこはクラウスに任せます。後はここを出てからですが、非常に危険です。クラウスと俺は実戦経験が有るので弱音は無しです。織原さんは任務などでサバイバルの経験は?」
聞かれて、輪郭すら捉えることのできなかった昨日の失態に負い目を感じる。
「有るには、あるんだ。だけど、レベルが違いすぎると言うか、全然違う。・・・違いすぎる」
認めざるを得ない実力不足。騎士を相手に引目を感じるのは当然なのだが、片方は後輩であり、年下でもある。この事実が織原のプライドをじわじわと傷つけて来る。
「修行だな!これを乗り越えた時、君は見違える程に強くなっているだろう!」
肩に置いた手で何度も肩を叩きながらクラウスは織原の心情を感じ取った。真の強さに真っ直ぐな姿勢。クラウスは頼もしい後輩として存在してくれている事を嬉しく想った。それと同時に、失われる命であった事に酷く怒りを覚える。
「超えていくさ。騎士団の膿みを残らず排除する為にも、俺は強くならなきゃならない!まず、お前も超えてやるからな!!」
力一杯指を刺された雛葵は驚いていたが、すぐに嬉しそうに笑って見せた。
「やっぱり織原さんはそうでないと!!」
年相応の子供らしい笑顔を向けられると、心苦しい。少々恥ずかしさに視線を斜め上に逸らした。
「?」
雛葵がクビを傾げると、クラウスも一緒にクビを傾げる。
「あー、その。何だろう、もうそろそろさんとか付けんのやめないか?お前、リクはリクって呼び捨てにしてんじゃん?」
もじもじ気味の織原に、クラウスは心の中でニンマリと笑う。目の前の2人の若さを思い出した。
(友情?芽生えちゃう?)
「俺も、ヒナキって呼びたいしよ。」
(キターーー!!)
「はい。どぅ・・・。あ、ヤバいどうしよう。なんか恥ずかしい!クラウス殴らせて!」
「ええーー!?」
少し面白くなってきた織原は雛葵に詰め寄る。
「ヒナキ、あだ名でもいいぞ?」
クラウスが笑って茶化そうとした時、上空でドラゴンの鼻息が聞こえた。3人は真顔に戻る。織原と雛葵がクラウスを見ると、彼はドラゴンの向いている方角に指を指し、速やかに走り去った。
暫く走ると、焼け焦げた岩肌が剥き出しになった場所に出た。織原が上空から見ていた場所だ。無意識に彼は空を見上げると、一つため息を付いた。
「ここは見通しが良いので、出来るだけ早く通り過ぎましょう。」
雛葵が前方から先を促す。その理由は嫌というほど理解できる。二人の後ろを歩きながら、あの瞬間を思い出していた。真っ直ぐに落下する先にはドラゴンが居て、あの大きな瞳で見られていた。
(あの風景を歩も見たのか?)
グリフォンに乗った白騎士の言葉が嫌に頭から離れない。何度も繰り返し思い起こされる。
(俺には雛葵が居たけど、アイツは・・・独りで)
脳内で恐ろしい想像をしていた時、強く腕を掴まれた。クラウスが織原を何かから隠す様に背に匿う。
「やはり、この一帯は彼等の縄張りですね。」
前方には巨大なトカゲが2匹。黒い表皮に頭から尻尾にかけて鮮やかな黄色のラインが入っている。怪しく輝く艶々した姿がトラウマになりそうだ。
「クラウス、もう少し下がって。」
クラウスは織原を連れて飛び退く様に後方へ下がる。
「なっ、雛葵はっ・」
織原の言葉が終わる前に、片方のトカゲの巨体が弾け飛んだ。何が起こったのかわからず、口を開けたままただ見ていた。雛葵は武器も持たずにオオトカゲの分厚い表皮を切り裂いていた。
「はっ、これは何度見ても怖ぇわ」
クラウスがボヤいた言葉に激しく同意する。
「何アイツ・・、滅茶苦茶強ぇじゃねぇか」
瞬きもせず見詰める織原。クラウスは少し複雑な気分になる。2匹とも仕留めた雛葵が振り返る。
「さあ、仲間が来ないうちに移動しましょう。」
素直に従う2人は駆け足で雛葵の後を追った。暫く進むと水の流れる音が聞こえて来る。音の大きさから近くにそれなりの川があることがわかる。
「水は有り難いな。寄って行くよな?」
クラウスの言葉に頷くと速度を緩め、慎重に進み始める。実践経験のある2人は警戒を強めていることがわかる。織原は彼等の様子を観察しつつ、辺りの気配を探る。この辺りもすっかり森の中。あらゆる気配が混じっている。その中でも種類の違う殺気を俊敏に読み分ける手練れは織原にとって命綱の様な存在だった。
「大丈夫そうですね。何か、水を汲んで置けるものがあれば良かったのに。」
「まあ、その内使えそうな物が有ればそれを使うとして、暫くはこの川沿いを進まないか?魚が居れば食糧には持ってこいだ。」
「そうだな。そうしようか。」
本格サバイバルはまだ始まったばかり。澄んだ川の流れを眺めながら一行は先を急いだ。できる事なら少しでも早くこんな場所からはおさらばしたい。雛葵は時折大樹に渡されたナイフを確認している。何の反応も無いのだろう。確認しては直ぐに大切に仕舞い込んでいる。
「水場は危険です。水中からの襲撃にも備えて下さい。」
「お、おう」
今し方まで美しいと感じていたエメラルドグリーンの川のせせらぎも、最早魔獣沼にしか見えなくなってきた。心なしか、視線を感じる気もして来た。
「はは!そんなに構えるな!リラックスリラックス!そんなんじゃ、見えないものまで見えてしまうぞ・・・」
クラウスに心情を読まれた気がして水面から目を逸らすと、大きな音を立てて水しぶきが舞った。俊敏な猫の様に飛び退いてそちらへ向き直る織原。だが、そこにはカラカラと笑うクラウスが居た。
「クラウス!いつか後ろから刺されるぞ。」
「すまんすまん!織原くんがあまりにも硬くなってるから!つい!」
雛葵の冷ややかな視線を受けながらも悪びれる様子もないクラウス。織原は恥ずかしさに耐えながらクラウスを睨みつけた。
「だが、実際大物を狙うならこれが効く事もある。」
「は?」
今度は何もしていないのに水面から叩きつける様な水音が響き渡った。呆気に取られて見た先には、クラウス目掛けて飛びかかる巨大な、・・・魚?
「かかったな!本日のメインディッシュちゃん!」
枝を折って構えると迷いなく怪魚の一点を貫いた。素晴らしい手際で仕留められた獲物は軌道を変えずそのままクラウスを直撃した。
「・・・」
「後先考えてないだけなんです。」
真顔で見つめる織原に雛葵がフォローの様なものを告げる。
「いやいや、酷い目に合ったが、美味い魚が手に入った!量も満足出来そうだ!」
決してめげないクラウスを胸を押さえて織原が見守る。
「川魚特有の泥臭さを何とか出来れば良いのですが。」
「ああ、任せてくれ!サバイバルはお手の物だ!」
慣れているのか、心配する気すらない雛葵にクラウスは未だ自信満々に話す。動揺してはいけないのだと理解した。警戒しろと言うわりに、辺りから聞こえて来る大きめの音すら2人は完全に無視している。鳥が鳴いた。枝を揺らし、羽ばたく音が遠くへ消えて行く。
「何か、居ますね。」
急に呟いた雛葵の言葉に織原は寒気を感じた。何かとは何か。一体どれに反応したのか。疑問の波に襲われながらも、目の前で繰り広げられる愉しげなクッキングに気が散らされた。
「もう、いいや。」
織原は警戒心も全て投げ出して怪魚の高層焼きの様なものの出来上がりを待った。その後方の川の対岸の木陰から様子を伺う者がいた。敵意が有るでもなく、食料を狙っている様子も無かった。ただじっと3人を観察していた。雛葵が視線を向けると静かに影へ隠れてしまった。
「ほーら出来たぞ!織原くん!たくさん食べろー!雛葵も肉付けろ!」
大雑把に取り分けた怪魚をこれまた大きな葉っぱに乗せて差し出して来る。雛葵は受け取るとすなおに食べ始めた。織原は受け取ると、意外と間抜け面な怪魚と目が合った。
「頭が良くなるぞ!残すなよ!」
悪意を感じる。恨めしそうにクラウスを一瞥した後、頭を残して平らげた。
「きょーちゃん・・」
「・・・目が合ったんだよ」
何か言いたそうにクラウスが呼ぶが、織原の素直な返答に悶えた。雛葵は気付きながらも見ないふりをして視線を向けた先に、風に揺らめくものが見えた。
「何だろう?こんな場所に布のような・・・」
その言葉に二人もそちらへ目を向ける。陽のあたる場所なのだろうか、木の枝の隙間から白く輝いて揺れる物が見て取れた。
「よし、雛葵も早く食べろ。あそこへ行ってみよう。」
雛葵は最後の塊を無理矢理口に放り込むと、先に立ち上がっている二人の後に続いた。進むにつれ見える角度が変わり、それがひとつではなく、更に見覚えのある物である事に気付く。
「こ、れは・・・」
クラウスはその場に立ち尽くした。確かめるのが怖かった。目の前に広がる光景に、見せられたのは今まで目には見えていなかった現実。白と黒の上着が掛けられた十字に縛られた木は、盛り上がった土に突き立てられていた。無数に立ち並ぶそれらは、3人の心に衝撃を与えた。
「こんなに、か?」
クラウスが零した言葉に、織原も雛葵も返すことが出来なかった。アルトリア学園の制服。それらは既にボロボロに朽ち果てようとするものもあった。その所々に白騎士の隊服が混ざっていた。制服にも隊服にも上着の内側に持ち主の名が刺繍されている。だが、誰も動く事が出来ないまま、立ち尽くして見守った。晴れ渡る空を白い雲が流れるのを見もせずに見送った。クラウスの頬に伝う雫が、静かに地面に落とされた。
「クラウス、俺が確かめて来る。二人はここで休んでいてください。」
雛葵は自分と同じ制服の並へ向かう。織原はそれを無言のまま見送ると、クラウスへと視線を落とした。打ちのめされているのは明らか。出会ってまだ短いが、始めてみる姿だった。
「雛葵は強いのか、それとも、まだわかっていないのか。」
急に呟かれた言葉に織原は驚いた。
「それとも、隊長としての責任から動くことが出来たのか?」
未だ、彼が何を言いたいのか理解出来ていない。
「この辺りの片桐の姓を持つ生徒は犠牲になることが多いだろ?それは孤児院の子供たちだからだ。あいつだって、同じ孤児院で育ったんだ。」
心臓が止まるような感覚だった。そう言えばリクが言っていた。雛葵は戦災孤児であり、施設で育ったのだと。
「クラウス!頼む!あんたを一人にしたくないが、雛葵を一人にもしたくない!辛いのは分かるけど、一緒に来てくれ!」
クラウスが見た雛葵はこちらに背を向けて、上着の刺繍を確認している。戸惑う様子もなく、順番に名前を確認していく。ふと、その手が止まる。だが、何事も無かったようにまた次を確認し始める。クラウスは立ち上がった。織原の肩をポンポン叩くと、いつに無く真剣な瞳をしていた。
「かっこ悪い姿を見せてしまったね。あの子にばかり頑張らせて、何が白騎士なんだろうね、俺は。」
ゆっくりと雛葵の元へ歩き出したクラウスの背を、織原は追った。知りたくないが、知らなければならない事実。ここは墓場だ。
(生存する人間はまだ見ていない。だが、誰かが・・・、人が居るはずだ!)
「悪かった。俺も確認しよう。」
クラウスは雛葵に謝罪すると、白騎士の隊服を確認し始めた。クラウスにとっては知り合いがいる確率が高い。覚えのある名は全て彼を悲しませるだろう。そして、織原もそれに続く。
「・・・、俺も確認する。」
「ありがとうございます・・・」
切なそうに微笑む雛葵は制服から視線を離さなかった。誰かを見つけたのかもしれない。逃げる様に目を逸らし、手近にあった制服を手に取った。無意識に手にしたそれはまだ朽ちてはおらず、形状からクラスに気付いた。
(嘘だろ?俺には覚悟など出来ていないのに・・・)
思いとは裏腹に、織原の手は内側の刺繍を日に当てた。
「っ・・・」
黒く丈の長い制服には『紅坂歩』の文字があった。使用感のある生地がリアルに彼を思い出させた。
「お前には、誰も居なかったよな。」
織原の独り言に雛葵が顔を上げた。制服を握り締めたまま、織原は瞳を閉じた。クラウスも何も言わずに空を見た。青く晴れ渡る空は、何も知らずに無垢な色を見せる。ひとつの雲も残さずに、何処かへ流してしまった。
「やはり、知った名前はいくつか見つけることが出来ました。不謹慎ですが、確認できて良かったです。」
墓のある場所からそう離れていない岩陰に細工をして夜を明かす事にした3人は未だに黙っていたが、雛葵がその沈黙を破った。
「ですが、我々の目的は生還する事なので、立ち止まるわけにはいきません。なので、必ず彼らの訃報を報告します。」
雛葵にもたれ掛かり、沈黙するクラウスを見ている。そして、岩にもたれ掛かり、紅坂歩の制服を掴んでいる織原。それぞれにそれぞれが、落ち込んでいる。最近見なかった仲間。任務で死んだクラスメイトの本当の死因。そんな報われない事実に気付いてしまった。やっと口を開いた雛葵も、先に巣立ったはずの兄弟の墓を見た。
「帰るつもり、有りますよね?」
雛葵のその言葉に、2人は物凄い反射で体勢を起こす。
「帰るに決まってんだろうが!!」
クラウス。
「ここで死んだらコイツを見つけた意味も無くなっちまうだろうが!!」
織原。
「だったらほら!まずは腹ごしらえ!あの怪魚食べてから何時間経ったと思ってんだ!」
遂にキレたと言うべきか、雛葵が植物やら木の実やらを巨大な葉っぱに乗せている。
「リスか!!」
クラウスに雛葵の裏拳が炸裂する。織原は紅坂歩の制服を畳むと、木の実に手を伸ばした。クラウスは倒れ込んで悶絶している。
「悪い。やっぱり少しだけ期待してた。まだ歩が生きてるんじゃないかって。自分の命も保証がない状態で何言ってんだよな?わけわかんねぇ・・・」
自嘲気味に謝罪すると赤い実を摘んだまま俯いた。復活したクラウスは雛葵の肩に腕を回し、もう片方の手で織原の頭を撫でた。
「願うのなんて当然だろ?生きてて欲しいんだから。強くなろうぜ!せめて、ここに居る俺たちだけでも守れるくらいにはな。」
織原が顔を上げると心配そうな顔をこちらに向ける雛葵と悲しげに笑うクラウスがこっちを見ていた。織原は自分が一番小さく感じた。ここに来て何度も何度も感じていたことだ。辛い、悲しい、助けて欲しい、もう誰も傷つかないでほしい・・・。
「白騎士ですら、命を落とす場所なんだよな?ここは。」
「・・・そうだな」
「じゃあ、俺が生き延びる確率はもっと低いってこったな!」
「織原さん?!」
「強くなってやるよ!!強くならなきゃ、俺も、そばにいる誰かも殺されちまうなら!こんなにクソみたいな理由で殺されてたまるかよ!!」
織原は大声で怒鳴ると木の実を鷲掴みして一気に口へ放り込んだ。それを見てる2人は驚いて口を開いたまま見詰めていた。
「っ・・・苦い。」
「すいません、熟すと毒になる実なので・・・」
あまりの苦さに冷静さを取り戻した織原に、冷静な情報を投げ付ける雛葵。
「何で何時も毒が着いて回るんだ!!」
「あ、いや、栄養価とか物凄く優秀な実なんですよ!あまり食欲が無いようだったから少量でも栄養のある物をと・・・」
「ごめん、ありがとう。」
物凄い真顔で感謝を述べた織原をクラウスと雛葵は多少不気味に感じた。感情が強いくせに善意に気付くと直ぐに切り替わる。
「あーあ、持ってきちまった。ごめんな、歩。」
織原は紅坂歩の制服を撫でると優しく呟いた。その夜は3人とも少しだけ近付いて眠った。眠れなかったが、近くに温もりがあることに安堵して気が付いたら眠りについていた。
未だ薄暗い早朝に、自分たちとは違う何かの気配を感じた。クラウスが飛び起き、雛葵は織原を背に隠す。岩の隙間からは何も見えない。だが、何かがこちらを伺っていたのは確かだ。まだ近くに気配を感じる。ジリジリと岩の切れ目に近付き、勢いを付けて飛び出した。見えたのはかなり離れた木影に飛び込む人影。クラウスは嫌な汗をかいてその場所を凝視した。
「速過ぎるだろ・・・」
戻って来る気配が無いので、2人のもとへ戻ると、身支度を開始した。
「人影?じゃあ、もしかしてあの墓を作った人なのでは?」
「さあな、かも知れないけど、逃げられたもんは仕方が無い。それに、人では無い可能性もなくは無いだろ?すげぇ速かった!」
「全然気付かなかった」
「まあまあ、少しこの辺りを調べて見ますか?」
「そうだな!こちらだけ正体を知られてるのも良い気がしないしな。良いかな?織原くん。」
「ああ、俺も気になるし。」
「じゃあ、決定ですね!食べられそうなものがあったら集めるのも忘れずに!」
「「了解!」」
身支度を済ませると少し警戒して岩陰から出た。辺りには何の気配も感じなかった。少し辺りを見てみると、雛葵が何かを見つけた。
「見て下さい、誰かの足跡です!草ごと抉るほど強く踏まれています。もしかしなくても、ただものじゃ無いかもですね。」
「ああ、この脚力で逃げられたなら追付けねぇわ」
「うちのクラスに何人かダッシュの時土を抉る奴いるけど、此処まではならなかったなぁ。」
それぞれ、少し考えた後、進むことにした。
「まあ、まずは相手が逃げた方へ行ってみよう!こっちの木影に入った。」
立ち入ると木漏れ日で柔らかく明るい場所だった。まだ早朝ではあるが、心地よい暖かさを感じた。
「まあ、吸血鬼とかでは無い筈だ!明るくなってたし!だよな!?」
「どうでしょう?だけど、吸血鬼だったなら墓は作ってくれませんよね?」
突然、前方から音がした。木から飛び降りたのだろう。目の前に姿を現した。
「・・は?」
声を漏らしたのは雛葵。目の前に立つ人物に驚いているのだ。
「久しぶりね、雛葵。」
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