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36話・恋と性欲と愛との未来

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 その日――誠高校から帰宅する放課後の道は人でごった返していた。
 グレイの主人公のモデルであるソウジロウの俺に会いたい全ての人間に対して、俺は笑顔で対応している。基本的に女しか来ないから、高校とは違い少し年齢の幅が広がったという認識で対応していた。ファンレターや、差し入れなどを渡す人間もおり、グレイのソウジロウのモデルである俺はスターとして立ち振る舞っていた。

「ありがとう。ありがとう、ありがとうね。写真? いいよ、いいよ。はい皆、順番を守ってね! 道行く人の邪魔にならないように!」

 写真にもサインにも快く応じる。しっかりと指示をすればちゃんと守ってくれるから安心だ。そうして、エソラ旅館に逃げ出してからの学校生活は問題無く終わった。そう、俺はこの現状を楽しんでいたんだ。





 その金曜日の夜に東堂からLINEでメッセージがあった。先週から現れていた青眼マシロのファンの連中がほぼゼロになっていたという件だ。今書いているグレイも終盤に向かっていて、夏の刊行予定らしい。これで東堂の身の安全が確保されたなら、俺は自由に動く事が出来る。

「やはり出版社が青眼マシロの件について、あまり酷くなると警察沙汰にすると告知したのがデカイな。まだ本も出して無い素人の過剰防衛って意見もあるけど、被害が出てからじゃ遅い。後はグレイの出版まで、俺も俺のやれる掃除をするだけだ」

 現在、グレイを出版しないと東堂が話していた問題は出版に向けて話し合われている。俺が、どうせ書くなら最後まで書いて出版しろと言ったのが大きい。俺の部屋に入って来る金髪の女は腕組みをしながら言った。

「なにスマホ見てニヤニヤしてんのよ。誰から?」

「東堂だよ」

「ふーん。ならその程度のニヤニヤか。風祭ならもっと下がるだろうけど。でも、もう東堂さんも利用される立場だね。私達に」

「言い方が悪いな唯。俺達の利害が一致しているという事だ。これで目的が達成されたなら、ある程度の事は上手くいく。全て成功させてみせるぜ」

「当然ね。私の夢と野望の為にね」

「いや、俺の希望の為にだ」

 二人は微笑んで拳を合わせた。今現在、ユーチューバーでも芸能活動もしていないが、東堂が書いた「グレイ」というネット小説の効果で俺は会いに来る人間がいるほどの人気を誇っていた。普通のアイドル芸能人のような状況にもなっていて、俺はこの全てを今後に活かそうと計画し実行していた。

 このグレイフィーバーと言える状況を利用して、唯の会社を作る為の資金集めをしていたんだ。クラウドファンディングを利用し、グレイのソウジロウとデートツアーなどを企画していた。

「でも、まさか唯も俺と同じ考えだとは思わなかったぜ。流石は欲と金にまみれても満足出来ない女だ」

「当然でしょ。このピンチはチャンスよ。東堂さんに利用されたのを、総司も利用して更に循環させる。それによって産み出されるエネルギーを私が集めて事業にする。その残りカスを風祭が受ける。これで私達四人は全てハッピーになるのよ……痛っ!」

「誰が残りカスだ西村。私はお前の会社に入るかはわからない」

 トイレから戻って来た風祭は唯の脇腹を突いた。二人は軽くもめているが放っておく。このクラウドファンディングシステムをするのは、唯も同じ考えがあったんだ。

 会社をしたい唯。仕事を決めたい俺。ジム関連に興味のある風祭。小説家になりたい東堂。全ての利害は一致している。

 だからこそ、俺はこのグレイファンディングシステムを実行に移した。その肝である小説のグレイも夏に出版される予定だから、夏までに必死にグレイのソウジロウを演じる必要がある。

「まぁ、このグレイファンディングシステムは成功確定だ。後は、これを否定する面倒な集団が現れないかどうかだ。二人共、誠高校の女子とかとケンカするなよ?」

『しないよ!』

「シンクロしたな。なら大丈夫そうだ」

 今回起きた、俺と東堂の個人情報や写真をネットに上げている生徒が多く存在した問題は、誠高校全体でも取り上げられた。最近、誠高校付近に現れていた見知らぬ人間達に俺が囲まれたりしている話を聞いて、俺に対する哀れみを感じている生徒も多数現れている。

 二学期から俺を独占していた唯と東堂と風祭は陰で女子達から嫌われていたが、今回の事件がキッカケでその感情に変化が現れていた。
 怪我の功名というヤツかも知れない。

 仲良くやってそうな俺達にも、かなりの隙があるのもわかった。そして、俺が誰とも付き合っていない事を知る女子達は、俺の特別視する三人の女達とも仲良くやっていた。たとえ嫌われていても、何の問題の無いぐらいメンタルが強い唯は言った。

「これだけの問題が解決した訳だし、私達三人の解決もしてよね? 現時点での彼女でもいいじゃん。三人で迷ってるより、まずは付き合ってみた方がいいんじゃない?」

「そうだな。お前のアドバイスには感謝するよ。俺もそれを考えていたんだ。東堂が来たらそれを発表する」

 え……という顔の風祭は、一人話について行けずに困惑していた。というより、暴走している。

「待てよ赤井。それを発表したら……この関係も終わってしまうのか? 私は赤井が好きだが、このムカつく西村も好きだった。それに東堂さんも色々ヤバイと思っていたが、やはり東堂さんも好きだ。これでバラバラになるのは嫌だ!」

「おいおい風祭。今のは――」

「おい男女。何がバラバラになるのよ? 総司が誰と付き合っても、それは総司の意思よ。尊重するのが大事。それに、私達が今更離れられるの? 風祭は総司と共に私の会社で働く社員なのよ。ここで離れられたら戦力ダウンよ。そして! 私なら今回選ばれなくても最後に選ばれてみせる。それだけよ」

 その金髪の女の自信満々の発言に、風祭は揺らいでいた気持ちを立て直した。そして唯を抱き締めていた。

「まさか西村がそこまで考えていたとはな。確かにそうだ。私は赤井を諦めない。そして西村ともずっと友達だ」

「キモっ! 総司助けて! 男女がキモい!」

「原因はお前の言葉だろ。愛されて幸せだな唯」

 しばらく二人の二度と見られないかもしれない光景を眺めていた。そうして、俺は落ち着いた風祭にもう一度説明する。

「さっきの話は今の、現時点での彼女だ。それに漏れても今後にチャンスはあるかも知れない。だから唯の言う通り、俺の気持ちを変える事が出来る気持ちを持つのが大事だ」

「私は選ばれなくても、赤井の子を産む覚悟はある」

 ヤバっ! と俺は思った。
 たとえ選ばなくても、風祭を抱く約束はしてしまっているからだ。そこに唯はツッコミを入れた。

「暴走し過ぎよ男女。まだ私達は高校生なんだからゴムはしなさいよ。総司は絶対にゴムをしてセックスする事。いいわね?」

「当たり前だろ。つか、セックスとかデカイ声で言うなよ……」

 この話がややこしくなりそうなタイミングで、インターホンが聞こえた。遅れて来た東堂が俺の部屋に到着する。そして、三人の女に今後の話をした。

「ここにいる三人には感謝してる。最高の仲間だと思う……でも、誰かを選ばないとならない。ずっと皆を待たせるのも問題がある」

『……』

「今の俺の気持ちはバレンタインに出すよ。バレンタインに、俺の彼女を発表する」

 今の気持ちはバレンタインに答えを出すという答えを出した。今現在の気持ちを、俺はバレンタインに発表するんだ。恋と性欲と愛の三人の女の一人を、バレンタインに発表する事になった。
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