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31話・新しい年と新しい出来事の幕開け
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年が明けて、新しい年を迎えた。
別に新年になろうが、それから今までの自分が変わる訳じゃない。それを変えていくのは自分自身だし、変わって行くのにも時間がかる。自宅のベッドで横になりながら、去年の年末の30日を思い出している。
「……」
池に飛び込む前に着ていたシャツで身体を拭いた俺は着替え、下半身がずぶ濡れの東堂を送り、普通に帰宅した。問題は池から出た後だ。青い夜は月を貫くのよ……と言った後の話。
「……」
突如押し倒され、東堂が俺に馬乗りになった時を思い出す。あの日――あの時――俺は凍え死にそうなほどだった。けど、冷たい身体が熱くなった一瞬があったんだ。
(あの時、俺も東堂もノーパンだったよな……まさか……)
あの瞬間の出来事が曖昧な俺は悶々としていた。自分のアレに聞いてみても、東堂の中に辿り着いたのかは答えてくれるわけも無い。これを知るのは東堂だけだ。
「そういや、東堂のパンツもいつのまにか池に沈んだのか見つからずじまいだったな。ま、それはいいか……?」
すると、ウチのインターホンが鳴った。わざわざ元旦から訪ねて来る人間は両親にはいないはず。俺も誰かと元旦に会う予定は無い。唯からは初詣とか色々誘われたけど、全て断った。大晦日と元旦は誰とも会わずにゆっくり心と身体を休めようと思ったからだ。
「総司。お客さんよ。早く出なさい」
「俺に客? まさか唯か――」
母親に呼ばれて玄関に出た。すると、同じマンションに住む風祭が訪ねて来た。
「あけましておめでとう赤井。今年もよろしくな」
「あけましておめでとう……てか、何で来た?」
「コラ総司。風祭さんがわざわざおせち料理を持って来てくれたんだからそんな事は言わないの」
「わかってるよ母さん。わざわざ来たなら上がっていけ。どうせ親父は飲んで寝てるだけだからよ」
最近、唯と違い連絡が無いと思いきや、料理の練習をしていたようだ。だからこの元旦を狙って来たんだろう。ウチの両親が揃ってる日に、同じマンションの住民という理由でさりげなく風祭は俺の母親を味方につけた。親父が起きれば、親父も味方につけるだろう。
(風祭も恐ろしい女になって来てる。問題があるのは唯だけだったが、みんなの本性を見ると誰もが恐ろしい……一学期の風祭が懐かしいぜ)
誠高校でも男キャラの風祭も女キャラになり、ビビってたりムカついていた男達も風祭ファンが増えていた。特に、文化祭のメイド喫茶でのメイド服姿にやられたようだ。
風祭を俺の部屋に通して、ベッドの上に座ってもらう。その風祭は特に何も無い俺の部屋をじっくりと見ていた。
「そんなに見ても何も無いぞ。もうすぐ母親が茶でも持ってくるから待ってくれ」
「私にはお構いなく。でも、赤井の部屋はシンプルだな。必要な物ぐらいしかない。趣味らしい趣味も無いのか?」
「まーな。物を集めるのも興味無いしな。水の中が好き……ぐらいか。だから俺はインストラクターになるとしか考えて無い。大学も行かなくてもいいと思ってるし」
「そうか。確かにインストラクターなら早く働いて実績を作って転職するか、独立するかの方がいいかもな。どこかの会社で社長を……」
と、風祭が言った時に思い浮かんだのは唯だった。どうやら風祭も唯を思い出したようであっ! という顔をしていた。俺達は二人で笑い合う。そして、俺も風祭の隣に座って聞いた。
「どうした風祭? お前がわざわざ元旦から来るなんて何か理由があるんだろ? ただウチにおせちを持って来ただけとは思えない」
「察しがいいな赤井は。実は話しておくかどうか迷ったんだが、やはり話すべきだと思った。事が大きくなってしまう前にな」
「事が大きくなる……?」
どうやら、風祭はかなりマジメな話をするようだ。少し緊張しつつもそれを聞いた。俺に関する重要な話を――。
「赤井、どうやら私は東堂さんの小説を見つけてしまったんだ。ペンネームだが内容からしても東堂さんの小説だと思う」
「東堂の小説を見つけた……?」
風祭は自分のスマホで検索をかけた。そして、隣に座る風祭のスマホを眺めた。女神小説という小説サイトから、そのランキングに飛ぶ。そのランキングにあるトップ10にある7番目の「グレイ」というタイトルを見た時、俺の全身に悪寒が走る。風祭はここで手を止めて話し出した。
「私は年末に浮かれた気分を落とさないように、ネットの恋愛小説を読み漁ってたんだ。そしたらあるサイトの恋愛ランキングの中で「グレイ」というタイトルの小説を見つけた。これが東堂さんの書いている赤井の小説だと思ったんだ。作者名を見てくれ」
「青眼マシロ……東堂のアダ名の青眼に、本名の真白をカタカナにしたというペンネームか。間違い無いだろ。これは東堂真白だ。よく見せてくれ」
「あ、赤井。落ち着いてくれ!」
『痛っ!』
焦ったまま風祭のスマホに触れようとすると、お互いの手から静電気が発生して驚いた。そのまま風祭をベッドに押し倒してしまう。自分の真下にいる風祭に、青い夜の日の東堂を重ねてしまった。早く切り替えないと、性的興奮を風祭にぶつけてしまいそうだ。
「あ……悪いな風祭」
「いや、静電気事故だから仕方ない。でも、私の胸から手を離さないのは事故とは言い切れなくなるぞ?」
「あ……そうだよな」
つい、手の起きやすい場所に風祭の巨乳があったので触れてしまっていた。この乳をどうにかする日が来るのかと思っていると、風祭も赤面している。これはマズイ空気になると思い、手を離そうとすると俺の部屋の扉が開いた。
『あ……』
と俺と風祭と母親が呟いていた。お茶と茶菓子を持って来た母親はベッドの上で正座をする俺達を見て、コホンと咳払いをして言った。
「総司、そういう事は誰もいない時にしなさい。風祭さんも雰囲気に流されてはダメよ?」
「母さん。俺と風祭はそもそも付き合ってない。まだ付き合ってない」
「付き合ってなくても性行為は出来るわよ? してもいいけど同じマンションなんだから、近所の噂にはならないように」
『……はい』
あまり話しても仕方ない内容だから、母親の話は流しておいた。付き合ってはいないけど、いつかセックスはする予定の女だ。流石に今日はしないが。その風祭は俺の隣で申し訳なさそうに言う。
「すまんな赤井。私も元旦からお母さんに変な思いをさせてしまった」
「気にすんな風祭。東堂とはすぐに会いたく無いと思ってたからこれを知れて良かったよ。タイトルからして……危険な内容の気がするからな……」
「年末にデートした時に東堂さんと何かあったのか?」
「別にケンカしたとかは無い。ただ、東堂真白の本性を見て少し怖さを感じたんだ。この小説を読めば東堂真白の奥の奥がわかるだろう」
風祭のスマホを借りるより、自分のスマホで読む方がいいと思い自分のスマホを手にした。そして、風祭の見つけた青眼マシロという作者のグレイという小説を読んだ。一心不乱に読み続けた。
東堂真白という女が描いた「グレイ」という色彩を――。
別に新年になろうが、それから今までの自分が変わる訳じゃない。それを変えていくのは自分自身だし、変わって行くのにも時間がかる。自宅のベッドで横になりながら、去年の年末の30日を思い出している。
「……」
池に飛び込む前に着ていたシャツで身体を拭いた俺は着替え、下半身がずぶ濡れの東堂を送り、普通に帰宅した。問題は池から出た後だ。青い夜は月を貫くのよ……と言った後の話。
「……」
突如押し倒され、東堂が俺に馬乗りになった時を思い出す。あの日――あの時――俺は凍え死にそうなほどだった。けど、冷たい身体が熱くなった一瞬があったんだ。
(あの時、俺も東堂もノーパンだったよな……まさか……)
あの瞬間の出来事が曖昧な俺は悶々としていた。自分のアレに聞いてみても、東堂の中に辿り着いたのかは答えてくれるわけも無い。これを知るのは東堂だけだ。
「そういや、東堂のパンツもいつのまにか池に沈んだのか見つからずじまいだったな。ま、それはいいか……?」
すると、ウチのインターホンが鳴った。わざわざ元旦から訪ねて来る人間は両親にはいないはず。俺も誰かと元旦に会う予定は無い。唯からは初詣とか色々誘われたけど、全て断った。大晦日と元旦は誰とも会わずにゆっくり心と身体を休めようと思ったからだ。
「総司。お客さんよ。早く出なさい」
「俺に客? まさか唯か――」
母親に呼ばれて玄関に出た。すると、同じマンションに住む風祭が訪ねて来た。
「あけましておめでとう赤井。今年もよろしくな」
「あけましておめでとう……てか、何で来た?」
「コラ総司。風祭さんがわざわざおせち料理を持って来てくれたんだからそんな事は言わないの」
「わかってるよ母さん。わざわざ来たなら上がっていけ。どうせ親父は飲んで寝てるだけだからよ」
最近、唯と違い連絡が無いと思いきや、料理の練習をしていたようだ。だからこの元旦を狙って来たんだろう。ウチの両親が揃ってる日に、同じマンションの住民という理由でさりげなく風祭は俺の母親を味方につけた。親父が起きれば、親父も味方につけるだろう。
(風祭も恐ろしい女になって来てる。問題があるのは唯だけだったが、みんなの本性を見ると誰もが恐ろしい……一学期の風祭が懐かしいぜ)
誠高校でも男キャラの風祭も女キャラになり、ビビってたりムカついていた男達も風祭ファンが増えていた。特に、文化祭のメイド喫茶でのメイド服姿にやられたようだ。
風祭を俺の部屋に通して、ベッドの上に座ってもらう。その風祭は特に何も無い俺の部屋をじっくりと見ていた。
「そんなに見ても何も無いぞ。もうすぐ母親が茶でも持ってくるから待ってくれ」
「私にはお構いなく。でも、赤井の部屋はシンプルだな。必要な物ぐらいしかない。趣味らしい趣味も無いのか?」
「まーな。物を集めるのも興味無いしな。水の中が好き……ぐらいか。だから俺はインストラクターになるとしか考えて無い。大学も行かなくてもいいと思ってるし」
「そうか。確かにインストラクターなら早く働いて実績を作って転職するか、独立するかの方がいいかもな。どこかの会社で社長を……」
と、風祭が言った時に思い浮かんだのは唯だった。どうやら風祭も唯を思い出したようであっ! という顔をしていた。俺達は二人で笑い合う。そして、俺も風祭の隣に座って聞いた。
「どうした風祭? お前がわざわざ元旦から来るなんて何か理由があるんだろ? ただウチにおせちを持って来ただけとは思えない」
「察しがいいな赤井は。実は話しておくかどうか迷ったんだが、やはり話すべきだと思った。事が大きくなってしまう前にな」
「事が大きくなる……?」
どうやら、風祭はかなりマジメな話をするようだ。少し緊張しつつもそれを聞いた。俺に関する重要な話を――。
「赤井、どうやら私は東堂さんの小説を見つけてしまったんだ。ペンネームだが内容からしても東堂さんの小説だと思う」
「東堂の小説を見つけた……?」
風祭は自分のスマホで検索をかけた。そして、隣に座る風祭のスマホを眺めた。女神小説という小説サイトから、そのランキングに飛ぶ。そのランキングにあるトップ10にある7番目の「グレイ」というタイトルを見た時、俺の全身に悪寒が走る。風祭はここで手を止めて話し出した。
「私は年末に浮かれた気分を落とさないように、ネットの恋愛小説を読み漁ってたんだ。そしたらあるサイトの恋愛ランキングの中で「グレイ」というタイトルの小説を見つけた。これが東堂さんの書いている赤井の小説だと思ったんだ。作者名を見てくれ」
「青眼マシロ……東堂のアダ名の青眼に、本名の真白をカタカナにしたというペンネームか。間違い無いだろ。これは東堂真白だ。よく見せてくれ」
「あ、赤井。落ち着いてくれ!」
『痛っ!』
焦ったまま風祭のスマホに触れようとすると、お互いの手から静電気が発生して驚いた。そのまま風祭をベッドに押し倒してしまう。自分の真下にいる風祭に、青い夜の日の東堂を重ねてしまった。早く切り替えないと、性的興奮を風祭にぶつけてしまいそうだ。
「あ……悪いな風祭」
「いや、静電気事故だから仕方ない。でも、私の胸から手を離さないのは事故とは言い切れなくなるぞ?」
「あ……そうだよな」
つい、手の起きやすい場所に風祭の巨乳があったので触れてしまっていた。この乳をどうにかする日が来るのかと思っていると、風祭も赤面している。これはマズイ空気になると思い、手を離そうとすると俺の部屋の扉が開いた。
『あ……』
と俺と風祭と母親が呟いていた。お茶と茶菓子を持って来た母親はベッドの上で正座をする俺達を見て、コホンと咳払いをして言った。
「総司、そういう事は誰もいない時にしなさい。風祭さんも雰囲気に流されてはダメよ?」
「母さん。俺と風祭はそもそも付き合ってない。まだ付き合ってない」
「付き合ってなくても性行為は出来るわよ? してもいいけど同じマンションなんだから、近所の噂にはならないように」
『……はい』
あまり話しても仕方ない内容だから、母親の話は流しておいた。付き合ってはいないけど、いつかセックスはする予定の女だ。流石に今日はしないが。その風祭は俺の隣で申し訳なさそうに言う。
「すまんな赤井。私も元旦からお母さんに変な思いをさせてしまった」
「気にすんな風祭。東堂とはすぐに会いたく無いと思ってたからこれを知れて良かったよ。タイトルからして……危険な内容の気がするからな……」
「年末にデートした時に東堂さんと何かあったのか?」
「別にケンカしたとかは無い。ただ、東堂真白の本性を見て少し怖さを感じたんだ。この小説を読めば東堂真白の奥の奥がわかるだろう」
風祭のスマホを借りるより、自分のスマホで読む方がいいと思い自分のスマホを手にした。そして、風祭の見つけた青眼マシロという作者のグレイという小説を読んだ。一心不乱に読み続けた。
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