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10話・修学旅行に向けて
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最悪の二学期の始まりから一月が過ぎていた。中学時代の元カノの西村唯が転校して来て、過去と決別してグレイというキャラを通していた俺は、キャラ崩壊を起こすと思っていた。しかし、予想に反して唯は俺の過去を話す事無く、周囲の人間と上手く付き合っていた。俺も変化したが、唯も変化していたんだ。
だけど気を許す訳にはいかない。十月中旬は箱根への修学旅行だ。そこでリフレッシュして、絆を深めてから年末に文化祭がある。このイベントラッシュで何かが起こる可能性はある。そんな先の不安と戦いつつ、高校生活を送っていた。
(風祭の奴……結局は胸にサラシを巻いて登校してるのか。アイツも好きな男の為とは言え大変だな)
この前のナイトプールで「女」を解放していた風祭は、学校では胸にサラシを巻くのは辞めていなかった。やはり、あれはナイトプール限定のようだった。
西村唯、風祭朱音、東堂真白――二学期になって関係が深まってはいるが、介入し過ぎないようにしていた。グレイを保つのもあるが、今は修学旅行への準備をしないとならない。
そうして修学旅行の班決めが有り、唯は俺と同じ班になった。二学期から来た転校生であるのと、俺と知り合いだったから同じ班にならざるを得ない状況だったんだ。昼休みの中庭で俺達は話している。
「やっぱりお前は俺の班だったか。もう、クラスに溶け込んでるんだからわざわざ一緒にしなくてもいいのにな。あの担任わかって無いぜ」
「確かにわかって無いわ。私は東堂さんはいいけど、あの男女が嫌なのよ。何であの男女は総司の近くにいようとするのかが意味不明。この前の格好もあり得ないし!」
「まぁ、風祭には風祭の目的とかがあるんだから仕方ない。俺は同じマンションだから風祭とは仲は良い。だいたいわかると思うが、風祭は風紀委員をしてるからあまり好かれていない。だいたい空気でわかるよな?」
「私が一番嫌いだけどね。あの女はサッパリしてる風に見せかけて、案外陰湿な行動をしてる」
何かいつもより悪意を感じる発言だから流しておいた。これに乗っかっても唯を嫌いになりそうだからだ。秋も深まり、花壇の花達も冬に向けて変化していく。俺はこれからどう変わるのか……と思いつつ話した。
「修学旅行は別のクラスとも行動は出来る。基本は班行動とは言え、実際は点呼を取る時にいればいいだけだ。だから仲の良い他のクラスと行動する連中も多い。集合場所でしっかりしてくれれば、自由にしていいぞ」
「私が他のクラスの人間とも話しているからって、本当に仲が良いと思うの?」
「隣には勇のクラスもあるだろ。勇も流行に敏感なお前を気に入っているから、色々話してみるのも良いと思うぜ」
「そう言って、人を避けて逃げるのがグレイなのね」
それに答える事無く俺は予鈴を聞いたので立ち去る。すると、駆け足の髪の長い女が俺の方に向かって来た。
「東堂。走ってどうした?」
「……はぁ、はぁ……やっと見つけた二人共。修学旅行前に風紀委員会が動くそうよ。箱根に行く前に風紀チェックをするという話だわ」
『……』
このタイミングでか。と、唯と目を合わせた。東堂さんは、ナイトプール後から東堂と呼ぶようにしていた。あそこで仲良くなった事で東堂さんから言われたんだ。
周囲の人間の反応がどうかはわからない。
これは、修学旅行の同じ班になったからという理由にしておいた。そして、少し先を通り過ぎて行く風祭を見つめる唯は言う。
「ありがとうね東堂さん。私の金髪が気に入らない男女からの挑戦状だわ。受けて立つしか無い」
挑戦状じゃなくて、ただ箱根に行った時に誠高校の風紀を正しておく目的だろうと思ったが黙っていた。予鈴が鳴っている以上、早く教室に戻る必要がある。ガンを飛ばす唯に風祭はイラついているが、今は仕方ないという顔をしていた。そして、長い金髪の毛先をねじりながら歩く唯は言う。
「ねぇ、総司。そういえば箱根のどの旅館に行くんだっけ?」
「確か親父が社員旅行で行った事のある所だったな。幽霊が出るとか、絵空事のような事が起きるとか噂のエソラ旅館とか言う場所だったはず」
「あぁ、あそこね。昔行った事あるよ。エソラ旅館か……楽しめそうだわ」
そう、ペロリと舌を舐めた唯に、俺と東堂は異様な殺気を感じていた。唯は何か新しい目標を定めたようで、スタスタと教室に向かい出す。西から吹く風が俺と東堂の髪を乱し、ふと東堂を見ると青い目を輝かせ言われた。
「西村さんはさ……」
「え?」
「何で終わった関係なのに必死に取り繕おうとしてるの?」
どうやら、東堂は俺と唯が付き合っていたのを知っているようだ。誰に聞かれるかもわからないから、少し焦る。
「付き合っていたのを……知っていたのか?」
「何となくはね。だって確実におかしいじゃない? クールに他人の恋愛相談を掃除していた赤井君が、たった一人の女にあたふたしてるなんて」
「自分では一学期と変わらないつもりだったんだがな。流石の青眼には敵わないか」
「西村さんは次の修学旅行で確実に勝負に来るよ。風祭さんも一人の女として認めて敵と見てるし。赤井君はこれからどうするの?」
「唯は俺とヨリを戻す気があるという事か? でも俺は終わった事を今更……」
ゆっくりと微笑む東堂は、俺の心に刺さる一言を言った。
「彼女には自分といる未来が見えてるからじゃない?」
「俺といる未来が……」
俺は中学時代に唯と別れた。
恋が終わったタイミングで俺は転校する事になり、新しい環境でグレイを演じている。
唯は互いの関係が終わっているのをわかっていて、もう一度恋を取り繕う目的なのか? それとも自分に苦言を呈する駒として自分の世界に置きたいのか――?
そうして、困惑している俺に東堂は言った。
「不潔で綺麗。純粋で汚い。そういうの好きだよ。私はね」
言うなり、ダッシュした。
「東堂? 何で走ってるんだ? ……そうだ! もう予鈴が鳴ってるし! てか、東堂走る前に言ってくれよ!」
「フフフ」
予鈴が鳴っていたのを忘れていたので、二人で教室まで駆けた。
(唯がいると何かが起こる。修学旅行……色々ありそうだ)
そうして、東堂真白・西村唯・風祭朱音との関係が加速してしまう修学旅行の日になった。
だけど気を許す訳にはいかない。十月中旬は箱根への修学旅行だ。そこでリフレッシュして、絆を深めてから年末に文化祭がある。このイベントラッシュで何かが起こる可能性はある。そんな先の不安と戦いつつ、高校生活を送っていた。
(風祭の奴……結局は胸にサラシを巻いて登校してるのか。アイツも好きな男の為とは言え大変だな)
この前のナイトプールで「女」を解放していた風祭は、学校では胸にサラシを巻くのは辞めていなかった。やはり、あれはナイトプール限定のようだった。
西村唯、風祭朱音、東堂真白――二学期になって関係が深まってはいるが、介入し過ぎないようにしていた。グレイを保つのもあるが、今は修学旅行への準備をしないとならない。
そうして修学旅行の班決めが有り、唯は俺と同じ班になった。二学期から来た転校生であるのと、俺と知り合いだったから同じ班にならざるを得ない状況だったんだ。昼休みの中庭で俺達は話している。
「やっぱりお前は俺の班だったか。もう、クラスに溶け込んでるんだからわざわざ一緒にしなくてもいいのにな。あの担任わかって無いぜ」
「確かにわかって無いわ。私は東堂さんはいいけど、あの男女が嫌なのよ。何であの男女は総司の近くにいようとするのかが意味不明。この前の格好もあり得ないし!」
「まぁ、風祭には風祭の目的とかがあるんだから仕方ない。俺は同じマンションだから風祭とは仲は良い。だいたいわかると思うが、風祭は風紀委員をしてるからあまり好かれていない。だいたい空気でわかるよな?」
「私が一番嫌いだけどね。あの女はサッパリしてる風に見せかけて、案外陰湿な行動をしてる」
何かいつもより悪意を感じる発言だから流しておいた。これに乗っかっても唯を嫌いになりそうだからだ。秋も深まり、花壇の花達も冬に向けて変化していく。俺はこれからどう変わるのか……と思いつつ話した。
「修学旅行は別のクラスとも行動は出来る。基本は班行動とは言え、実際は点呼を取る時にいればいいだけだ。だから仲の良い他のクラスと行動する連中も多い。集合場所でしっかりしてくれれば、自由にしていいぞ」
「私が他のクラスの人間とも話しているからって、本当に仲が良いと思うの?」
「隣には勇のクラスもあるだろ。勇も流行に敏感なお前を気に入っているから、色々話してみるのも良いと思うぜ」
「そう言って、人を避けて逃げるのがグレイなのね」
それに答える事無く俺は予鈴を聞いたので立ち去る。すると、駆け足の髪の長い女が俺の方に向かって来た。
「東堂。走ってどうした?」
「……はぁ、はぁ……やっと見つけた二人共。修学旅行前に風紀委員会が動くそうよ。箱根に行く前に風紀チェックをするという話だわ」
『……』
このタイミングでか。と、唯と目を合わせた。東堂さんは、ナイトプール後から東堂と呼ぶようにしていた。あそこで仲良くなった事で東堂さんから言われたんだ。
周囲の人間の反応がどうかはわからない。
これは、修学旅行の同じ班になったからという理由にしておいた。そして、少し先を通り過ぎて行く風祭を見つめる唯は言う。
「ありがとうね東堂さん。私の金髪が気に入らない男女からの挑戦状だわ。受けて立つしか無い」
挑戦状じゃなくて、ただ箱根に行った時に誠高校の風紀を正しておく目的だろうと思ったが黙っていた。予鈴が鳴っている以上、早く教室に戻る必要がある。ガンを飛ばす唯に風祭はイラついているが、今は仕方ないという顔をしていた。そして、長い金髪の毛先をねじりながら歩く唯は言う。
「ねぇ、総司。そういえば箱根のどの旅館に行くんだっけ?」
「確か親父が社員旅行で行った事のある所だったな。幽霊が出るとか、絵空事のような事が起きるとか噂のエソラ旅館とか言う場所だったはず」
「あぁ、あそこね。昔行った事あるよ。エソラ旅館か……楽しめそうだわ」
そう、ペロリと舌を舐めた唯に、俺と東堂は異様な殺気を感じていた。唯は何か新しい目標を定めたようで、スタスタと教室に向かい出す。西から吹く風が俺と東堂の髪を乱し、ふと東堂を見ると青い目を輝かせ言われた。
「西村さんはさ……」
「え?」
「何で終わった関係なのに必死に取り繕おうとしてるの?」
どうやら、東堂は俺と唯が付き合っていたのを知っているようだ。誰に聞かれるかもわからないから、少し焦る。
「付き合っていたのを……知っていたのか?」
「何となくはね。だって確実におかしいじゃない? クールに他人の恋愛相談を掃除していた赤井君が、たった一人の女にあたふたしてるなんて」
「自分では一学期と変わらないつもりだったんだがな。流石の青眼には敵わないか」
「西村さんは次の修学旅行で確実に勝負に来るよ。風祭さんも一人の女として認めて敵と見てるし。赤井君はこれからどうするの?」
「唯は俺とヨリを戻す気があるという事か? でも俺は終わった事を今更……」
ゆっくりと微笑む東堂は、俺の心に刺さる一言を言った。
「彼女には自分といる未来が見えてるからじゃない?」
「俺といる未来が……」
俺は中学時代に唯と別れた。
恋が終わったタイミングで俺は転校する事になり、新しい環境でグレイを演じている。
唯は互いの関係が終わっているのをわかっていて、もう一度恋を取り繕う目的なのか? それとも自分に苦言を呈する駒として自分の世界に置きたいのか――?
そうして、困惑している俺に東堂は言った。
「不潔で綺麗。純粋で汚い。そういうの好きだよ。私はね」
言うなり、ダッシュした。
「東堂? 何で走ってるんだ? ……そうだ! もう予鈴が鳴ってるし! てか、東堂走る前に言ってくれよ!」
「フフフ」
予鈴が鳴っていたのを忘れていたので、二人で教室まで駆けた。
(唯がいると何かが起こる。修学旅行……色々ありそうだ)
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