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5話・快晴中学校での絵空と転校生
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時外絵空が「失敗少女」になる中学一年の夏休みが終わった。失敗少女になり、絵本から飛び出して来た王子と出会った事で自分に自信を付けた絵空は、学校が終わると街に繰り出して事故や事件などから人を救助する「エラーゲット」活動をしていた。
他人の失敗をチャラにした事から発生する魔力を獲得して自分の魔力を上げる事が出来、尚且つ世間からは賞賛される日々を過ごしていた。
快晴中学校のクラス内でも、学年全体でも絵空を見る目は変わっていた。一年一組の窓側の一番後ろが絵空の席である。その斜め前にテニス部エースの武田。武田の後ろの席は近々転校生が来るようで空いている。
「おはよう!」
白の半袖シャツに青のチェック柄のスカート姿の絵空は、リュックサックを背負い元気良く教室に入る。一瞬の間が有り、先にクラスに到着しているクラスメイトも挨拶をする。まだカースト最下位だった絵空について認めて無い人間もいる。
しかし、絵空の一学期とは違う堂々とした態度に周りが気圧されてるのも事実であった。この二学期からの違和感の中で、テニス部の一年エース武田だけは絵空に普通に話しかけている。やや長めの黒髪の武田は軽快に挨拶をしながらクラスに入って来る。
「おはよっす絵空。今日も自信に満ち溢れているな。最近の絵空は教師に指される前に答えるような勝気な所がいい。夏休みに何かあった? もしかして、噂の失敗少女にエラーゲットされたとか?」
「違う、違う。ただネットに頼るんじゃなくて、自分の意思で生きて行こうと思っただけ。失敗少女には……私も会ってみたいかも」
「だよな。失敗少女は快晴市内に出没しているから、会えそうだとも思うんだよ。練習あるから、この快晴中学校の近くに現れると助かるんだけどな~」
「武田君のミスをゲットしてもらうの?」
「おい!」
この光景を、入口側の一番後ろにいる黒宮聖子は気に入らない顔で見つめていた。黒宮は長い黒髪のプライドが高そうな女で、スレンダーで美少女であった。首元にはサクセスガールのサイトロゴである五芒星のペンダントがある。
若い女子に人気である自分の成功を見せ合うサイト「サクセスガール」でグラビア活動をしていて、そのランキング一位にいる。芸能界の仕事をしている黒宮は快晴中学校でもナンバーワンの人気だ。
その黒宮の気に入らない態度に絵空は気付いているが無視していた。二人は同じ小学校でもあり、昔から知ってるだけに話しづらい関係だった。夏休み前はカースト最下位の絵空が、テニス部一年エースの武田と会話してるのが許せないのが目に見えていた。
(今日も黒宮さんの視線が刺さるわ。流石に、サクセスガールの一位様を怒らせるのもどうかと思うけど、私も今までのようにはなりたくないし……武田君の事はあくまで話してるだけと言っても信じてくれないだろうな~)
二学期になってから二週間あまりで、絵空は学年カースト最下位から最上位まで上り詰めたのである。明るい立ち振る舞い、教師への質問、下を向いて歩かないなど一学期の絵空とは別人になっている事に周囲は驚いている。
(夏休みに活動し過ぎた失敗少女という話題が世間を賑わせている。失敗少女にエラーゲットされた影響で別人になったという噂が信じられてるから、もうこのままでいいかな。本当は私が失敗少女なんだけどね!)
周囲の反応が面白いので、絵空はこのままでいる事にした。テニス部一年エースの武田との会話も楽しいし、黒宮が何かして来たら来たでいいとも思っていた。
そうして、そんな気の強い絵空の前に、赤い髪の王子のような見た目の転校生が現れたのである。その王子の首元には王冠のネックレスが輝いていて、高貴な人物を思わせる風格があった。
「赤井王子です。ヨロシク!」
その王子風のイケメン具合にクラスの女子は興奮し、男子は劣等感に苛まれた。興奮の炎と嫉妬の炎が渦巻くクラス内で、ただ一人冷静に絵空は考えていた。
(おいー! 一体何を考えて転校生してるの……王子が学校に来たら面倒な事になりそうだよ! もうなってるけど。あぁ、とりあえず昼休みに集合かけないと)
王子の席はテニス部の武田の後ろの席になった。つまり、窓側の一番後ろにいる絵空の右隣である。すぐに武田は反応していた。
「カッコいい赤髪だな王子君。俺はテニス部の武田だ。よろしく。そんで、窓側の茶髪のセミロングの女の子が二学期に覚醒した絵空だ」
「ヨロシクね武田君。そして、隣の君もね」
「武田ブラジャー!」
「……」
武田はネタに走りクラスの笑いを取る。とりあえず絵空は頷いていた。あまり反応するとボロが出そうでもあったからだ。そうして、昼休みになった。
(急がば回れ! 急がば回れ!)
昼休みになり、リュックサックを背負う絵空はダッシュで廊下を駆け抜けて行く。それに反応するように王子も駆けた。クラスメイトの女子はすでにいなくなった王子にポカン……としている。
その二人は、学校の屋上にいた。誰もいない屋上で絵空と王子は壁に寄りかかって座っている。日陰ではあるが、夏の日差しが強くて暑いので屋上には人は来ない。リュックからお昼のお弁当を取り出した。そこには成人男性の弁当箱二つ分があった。
「……疲れた。とりあえず王子が私について来た事は褒めてあげる。だけど何故、転校生としてここに来てるの?」
「それは失敗少女の王子だからだよ。やはり学校への転校生というのは手続きに手間取ってね。ようやく転校生として快晴中学校に来れた」
「王子……だからか。まぁ、いいか。とりあえず王子はお昼どうするの?」
「僕は食べる必要は無い身体だから大丈夫だよ。食べても味を感じられるけど、無理して食べる必要も無い」
「なら私は遠慮なく食べます。血を飲みます」
「トマトジュースじゃないか……それに、弁当箱一つに二合分のご飯がある。もう一つは唐揚げとか野菜炒めとか魚とかのおかず類。家でも思ってたけど、絵空の家族は良く食べる割に痩せてるよね」
「ん? だって失敗少女になるとパワー使うし。家族はたくさん食べてるけど、私は普通だよ」
「絵空が大食いなのは失敗少女になる前からでしょ?」
「む! 細かい事はいいの!」
プンプンしながら絵空はお弁当を食べてトマトジュースを飲む。そして、王子は自分の前の席になる武田について話す。
「ねぇ、絵空。もう武田君の事は吹っ切れたの?」
「うん。吹っ切れた。失敗少女になってから、みんなが言うように私は前向きになれたのかも知れない。夏休み前の私と今の私は違う。もう、私は武田君は好きじゃ無いよ」
「キッパリ言い切ったね。血も出ないほどの鮮やかさだ」
「血が出てもトマトジュースで補充するから。それに、私は恋に恋してただけだった。テニス部一年エースというイケメンを美化し過ぎてる面もあった。自分が特殊な存在になって見ると、世の中が平たく見えたの。どんな人でも、悩みもあれば苦しみもある。そして、失敗もね」
「……まさかここまで変わるとは。まるで悟りを開いてるね絵空は。それに、その顔は他に好きな人でもいるのかな?」
「それは内緒」
あまりにも変わった絵空に武田も興味が出ているのを感じて王子はこの話をした。しかし、最後の質問だけは答えてはくれなかった。青空の流れる雲を見つめながら王子は言う。
「武田君は絵空に興味があると思うよ。わざわざ紹介までしてくれたからね。どうするの? 好きだと言われたら?」
「武田君は失敗少女には興味があるけど、私にはそこまで興味は無いよ。一学期もたまに話してはくれたけど、確実に線は引いていたし。私がエラーゲットされたという噂があって興味があるだけ。つまりは……失敗少女への憧れ? と、自分で言ってみた」
「成る程ね。線引きをしていたか。武田君も色々と調子の良いヤツだね」
「終わった事はいいんだよ。とりあえず王子が転校して来た設定は受け入れた! お弁当も食べたし、暑いから図書室に避難するわ。王子は女の子達とあまり遊び過ぎちゃダメだよ。キスとか無しね!」
「ハハハ。少しなら遊んでいいんだ。絵空は優しいね。ま、キスはやめとくよ。でも、もしし誰かとしたらどうする? あのクラスだと……廊下側の一番後ろの席の黒髪ロングの女の子とか?」
「……したければすればいいじゃん!」
怒り出す絵空はスタスタと絵空が屋上の出入り口にトマトジュースを飲みながら歩と、少し背の高い黒髪ロングの少女にぶつかってしまう。
『……』
二人の少女はぶつかり、赤い液体が地面に落ちた。絵空が鼻を抑えてると目の前には、あの黒宮聖子がいる。明らかに黒宮は自分が最高で最強であった世界を壊した絵空を「敵」として見ていた。
クラスカースト最下位だった少女と、サクセスガールランキング一位の少女は見つめ合う。
他人の失敗をチャラにした事から発生する魔力を獲得して自分の魔力を上げる事が出来、尚且つ世間からは賞賛される日々を過ごしていた。
快晴中学校のクラス内でも、学年全体でも絵空を見る目は変わっていた。一年一組の窓側の一番後ろが絵空の席である。その斜め前にテニス部エースの武田。武田の後ろの席は近々転校生が来るようで空いている。
「おはよう!」
白の半袖シャツに青のチェック柄のスカート姿の絵空は、リュックサックを背負い元気良く教室に入る。一瞬の間が有り、先にクラスに到着しているクラスメイトも挨拶をする。まだカースト最下位だった絵空について認めて無い人間もいる。
しかし、絵空の一学期とは違う堂々とした態度に周りが気圧されてるのも事実であった。この二学期からの違和感の中で、テニス部の一年エース武田だけは絵空に普通に話しかけている。やや長めの黒髪の武田は軽快に挨拶をしながらクラスに入って来る。
「おはよっす絵空。今日も自信に満ち溢れているな。最近の絵空は教師に指される前に答えるような勝気な所がいい。夏休みに何かあった? もしかして、噂の失敗少女にエラーゲットされたとか?」
「違う、違う。ただネットに頼るんじゃなくて、自分の意思で生きて行こうと思っただけ。失敗少女には……私も会ってみたいかも」
「だよな。失敗少女は快晴市内に出没しているから、会えそうだとも思うんだよ。練習あるから、この快晴中学校の近くに現れると助かるんだけどな~」
「武田君のミスをゲットしてもらうの?」
「おい!」
この光景を、入口側の一番後ろにいる黒宮聖子は気に入らない顔で見つめていた。黒宮は長い黒髪のプライドが高そうな女で、スレンダーで美少女であった。首元にはサクセスガールのサイトロゴである五芒星のペンダントがある。
若い女子に人気である自分の成功を見せ合うサイト「サクセスガール」でグラビア活動をしていて、そのランキング一位にいる。芸能界の仕事をしている黒宮は快晴中学校でもナンバーワンの人気だ。
その黒宮の気に入らない態度に絵空は気付いているが無視していた。二人は同じ小学校でもあり、昔から知ってるだけに話しづらい関係だった。夏休み前はカースト最下位の絵空が、テニス部一年エースの武田と会話してるのが許せないのが目に見えていた。
(今日も黒宮さんの視線が刺さるわ。流石に、サクセスガールの一位様を怒らせるのもどうかと思うけど、私も今までのようにはなりたくないし……武田君の事はあくまで話してるだけと言っても信じてくれないだろうな~)
二学期になってから二週間あまりで、絵空は学年カースト最下位から最上位まで上り詰めたのである。明るい立ち振る舞い、教師への質問、下を向いて歩かないなど一学期の絵空とは別人になっている事に周囲は驚いている。
(夏休みに活動し過ぎた失敗少女という話題が世間を賑わせている。失敗少女にエラーゲットされた影響で別人になったという噂が信じられてるから、もうこのままでいいかな。本当は私が失敗少女なんだけどね!)
周囲の反応が面白いので、絵空はこのままでいる事にした。テニス部一年エースの武田との会話も楽しいし、黒宮が何かして来たら来たでいいとも思っていた。
そうして、そんな気の強い絵空の前に、赤い髪の王子のような見た目の転校生が現れたのである。その王子の首元には王冠のネックレスが輝いていて、高貴な人物を思わせる風格があった。
「赤井王子です。ヨロシク!」
その王子風のイケメン具合にクラスの女子は興奮し、男子は劣等感に苛まれた。興奮の炎と嫉妬の炎が渦巻くクラス内で、ただ一人冷静に絵空は考えていた。
(おいー! 一体何を考えて転校生してるの……王子が学校に来たら面倒な事になりそうだよ! もうなってるけど。あぁ、とりあえず昼休みに集合かけないと)
王子の席はテニス部の武田の後ろの席になった。つまり、窓側の一番後ろにいる絵空の右隣である。すぐに武田は反応していた。
「カッコいい赤髪だな王子君。俺はテニス部の武田だ。よろしく。そんで、窓側の茶髪のセミロングの女の子が二学期に覚醒した絵空だ」
「ヨロシクね武田君。そして、隣の君もね」
「武田ブラジャー!」
「……」
武田はネタに走りクラスの笑いを取る。とりあえず絵空は頷いていた。あまり反応するとボロが出そうでもあったからだ。そうして、昼休みになった。
(急がば回れ! 急がば回れ!)
昼休みになり、リュックサックを背負う絵空はダッシュで廊下を駆け抜けて行く。それに反応するように王子も駆けた。クラスメイトの女子はすでにいなくなった王子にポカン……としている。
その二人は、学校の屋上にいた。誰もいない屋上で絵空と王子は壁に寄りかかって座っている。日陰ではあるが、夏の日差しが強くて暑いので屋上には人は来ない。リュックからお昼のお弁当を取り出した。そこには成人男性の弁当箱二つ分があった。
「……疲れた。とりあえず王子が私について来た事は褒めてあげる。だけど何故、転校生としてここに来てるの?」
「それは失敗少女の王子だからだよ。やはり学校への転校生というのは手続きに手間取ってね。ようやく転校生として快晴中学校に来れた」
「王子……だからか。まぁ、いいか。とりあえず王子はお昼どうするの?」
「僕は食べる必要は無い身体だから大丈夫だよ。食べても味を感じられるけど、無理して食べる必要も無い」
「なら私は遠慮なく食べます。血を飲みます」
「トマトジュースじゃないか……それに、弁当箱一つに二合分のご飯がある。もう一つは唐揚げとか野菜炒めとか魚とかのおかず類。家でも思ってたけど、絵空の家族は良く食べる割に痩せてるよね」
「ん? だって失敗少女になるとパワー使うし。家族はたくさん食べてるけど、私は普通だよ」
「絵空が大食いなのは失敗少女になる前からでしょ?」
「む! 細かい事はいいの!」
プンプンしながら絵空はお弁当を食べてトマトジュースを飲む。そして、王子は自分の前の席になる武田について話す。
「ねぇ、絵空。もう武田君の事は吹っ切れたの?」
「うん。吹っ切れた。失敗少女になってから、みんなが言うように私は前向きになれたのかも知れない。夏休み前の私と今の私は違う。もう、私は武田君は好きじゃ無いよ」
「キッパリ言い切ったね。血も出ないほどの鮮やかさだ」
「血が出てもトマトジュースで補充するから。それに、私は恋に恋してただけだった。テニス部一年エースというイケメンを美化し過ぎてる面もあった。自分が特殊な存在になって見ると、世の中が平たく見えたの。どんな人でも、悩みもあれば苦しみもある。そして、失敗もね」
「……まさかここまで変わるとは。まるで悟りを開いてるね絵空は。それに、その顔は他に好きな人でもいるのかな?」
「それは内緒」
あまりにも変わった絵空に武田も興味が出ているのを感じて王子はこの話をした。しかし、最後の質問だけは答えてはくれなかった。青空の流れる雲を見つめながら王子は言う。
「武田君は絵空に興味があると思うよ。わざわざ紹介までしてくれたからね。どうするの? 好きだと言われたら?」
「武田君は失敗少女には興味があるけど、私にはそこまで興味は無いよ。一学期もたまに話してはくれたけど、確実に線は引いていたし。私がエラーゲットされたという噂があって興味があるだけ。つまりは……失敗少女への憧れ? と、自分で言ってみた」
「成る程ね。線引きをしていたか。武田君も色々と調子の良いヤツだね」
「終わった事はいいんだよ。とりあえず王子が転校して来た設定は受け入れた! お弁当も食べたし、暑いから図書室に避難するわ。王子は女の子達とあまり遊び過ぎちゃダメだよ。キスとか無しね!」
「ハハハ。少しなら遊んでいいんだ。絵空は優しいね。ま、キスはやめとくよ。でも、もしし誰かとしたらどうする? あのクラスだと……廊下側の一番後ろの席の黒髪ロングの女の子とか?」
「……したければすればいいじゃん!」
怒り出す絵空はスタスタと絵空が屋上の出入り口にトマトジュースを飲みながら歩と、少し背の高い黒髪ロングの少女にぶつかってしまう。
『……』
二人の少女はぶつかり、赤い液体が地面に落ちた。絵空が鼻を抑えてると目の前には、あの黒宮聖子がいる。明らかに黒宮は自分が最高で最強であった世界を壊した絵空を「敵」として見ていた。
クラスカースト最下位だった少女と、サクセスガールランキング一位の少女は見つめ合う。
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