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50話・通り魔事件犯人の逮捕

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『……』

 通り魔の犯人と俺と美波は互いを見据えていた。
 逃げるうえでこのまま川に飛び込んでもいいが、川まで行く間に捕まる可能性が高い。
 とにかくさっきの作戦をまた実行するしかないと思った。

(美波……気付けよ……)

 背後の美波に、親指と小指で電話をかける手の仕草を背中でする。これに気付いてくれればいいが、体力の衰えがある俺と美波の二人がかりでは取り押さえるのはかなり厳しい。警察に頼るしかない。

(俺が奴を引きつけて、スマホを取り出して電話をする時間を稼ぐ。その間、俺はとにかく取っ組み合いで時間を稼げばどうにかなるだろ。どうせ短い余命ならここで尽きてもいいさ……美波を救えるなら!)

 相変わらずこの河川敷の横のメインストリートには人通りも無いようで、誰の助けも求められない。
 動き出す野球帽の男に俺は挑発した。

「来いよ……幼児趣味野郎。俺が地獄に送ってやるぜ。気持ち悪ぃ野郎だぜ全く」

「黙れぇ! イケメンに俺の気持ちがわかるかぁーーーっ!」

(よし……!)

 あらかじめ敵の攻撃をカウンターで合わせる準備をしていたので、上手く膝への蹴りがヒットした。
 地面に倒れる野球帽の男は痛みを超越するように俺に組み付いてくる。

「クソ野郎! 離れろ幼児趣味野郎!」

「お前は俺の好みじゃない。年老いたイケメンは殺す! 滅殺だ! もっと早く会えてれば殺してやってたよぉ! アハハハッ!」

「救いがねーなオッサン」

 突如、その取っ組み合いに美波も加わる。
 手にした太い棒切れで犯人を滅多打ちにする。
 それに加勢するように俺も犯人に攻撃する。

「バカ美波! お前は電話する役目というのが伝わらなかったのか!?」

「自分が犠牲になればいいって考えの人間にムカついてたのよ! 二人いるんだからどちらかが犠牲になる案には賛同出来ないわ!」

 その強い瞳に気圧される。
 確かにそれは俺も間違ってかも知れないが、この状況で細かい事を考えている暇も無いのも確かだ。

「……そうかよ。このまま二人で叩いていてもしょうがない。その茂みの手前にボロいがロープがある。それを使って縛るぞ」

「あっあれね!」

 ふと美波は俺が指差した方向を見た。
 その瞬間太い棒切れで叩いていた手は止まり――。

「ぐおらぁ! やらせてたまるかよーっ! 犯してやるぞ女ぁ!」

「美波! ぐふっ……」

 火事場の馬鹿力のようなパワーのタックルをモロにくらってしまい吹っ飛んだ。
 その間、通り魔殺人の犯人は美波に襲いかかる。

「キャアアッ!」

「パンツ丸見えピョーーーッ! アハハハッ!」

 掴まれた黒いスカートを無理矢理引っ張られ、そのまま破られて脱がされてしまう。
 そのスカートの匂いを嗅ぎ、アハハハッ! とまた笑った。
 立ち上がる俺は二人を追い掛ける。

(身体の節々が痛い……身体がついてこねぇ……)

 白いコートの丈の長さで、後ろからはパンツしかはいてない姿とはわからない美波は、そのあられもない姿のまま犯人からの追跡から逃げる。

「嫌……嫌……!」

「アハハハッ! バイブ見つけたぁー!」

 運悪く、犯人の近くに錆びた鉄パイプが落ちていてそれを拾われる。
 走っても間に合わない距離なので、俺は咄嗟に河川敷の石をブン投げた!

 しかし、石が直撃して振り向く犯人はニィと笑うだけで俺には襲いかからない。
 明確に、美波を犯すコトだけを考えているようだ。

 体力の衰えがある俺は地面に転んでしまい、首のネックレスのリングが小石に当たる。

(こんな時に身体が言う事を聞かねぇ! マジかよ! 美波を助けるのは俺だ! ……? あれはバイクか!?)

 すぐ上のメインストリートにはバイクが通ったようだが、俺の叫びは聴こえてないようだ。
 全ての希望は絶たれた――。

 野球帽の男は美波に狙いを定めて襲い掛かる。地面に倒れている美波は犯人の持つ鉄パイプが振り下ろされるーー瞬間、地面の石に当たり音が鳴る自分のリングネックレスを見た。

「美波! ネックレスだ!」

 その声に反応した美波は、首からリングの付いたネックレスを外した。

「うっ……このぉ!」

「ぐへぁ!?」

 プレゼントで俺があげたネックレスで鉄パイプを防いだ美波は野球帽の男に金的蹴りをかまして後ろに逃げた。うずくまる犯人は股間を抑えたまま奇声を上げている。

「女ぁ……チャチなネックレスで防ぎやがって……子供しか興味は無かったが、必ず殺してやる。殺してやるぞぉ!」

「そのネックレスは美波と俺の絆だ。お前ごとき通り魔風情が、切れるわけがねーっ!」

「うるせぇクソガキがぁ!」

 上手く野球帽の男を俺に誘導出来た。腕を犠牲にしてカウンターを叩き込んでやる。
 一撃をくらう覚悟を持ち、軸足の左足に力を入れつつ右足を後方に動かした。すると、足元近くの草の茂みに何やら大きな球がある。

(……何だ? まさか昔、美波のドッグタグがカラスに盗まれそうになった時に、草むらに隠れていた三石がカラスに蹴ったサッカーボールか! 誰かが川から拾ってここで遊んでたのか。三石……俺に力を貸してくれ!)

 足でボールを浮かし、至近距離から全力のダイレクトボレーが野球帽の男にヒットした!
 そのまま河川敷に倒れ込んだ犯人は顔を抑えているだけで決定的なダメージでは無かった。

(やはり体力が落ちててボールに威力が無い! ガラスの破片か?)

 怒り狂う野球帽の男は右手に落ちていたガラスの破片を持っていた。すぐに美波はこちらに駆け出し、掲げられたガラスの破片に気を取られる俺は、男の左手から放たれた小石に気付かない。それにより視界を失い、男も見失う。

「うっ……石かよ!」

「バカが! 死ねやぁ!」

「京也君!」

 こちらに駆ける美波の叫びも虚しく、河川敷に血が舞う。

『……!』

 流血が地面の小石に流れ落ち、呆気に取られる美波はそのまま転んでしまう。襲われた俺も肩の痛みで座り込んでしまう。そして、犯人は血の付いたガラスの破片を持ったまま動こうとしない。

(何だ? 何が起こってやがる……?)

 何故か後ずさりする犯人はまだ動こうともしない。
 目の前の黒い影を見据えながら、誰かとぶつかった肩を抑えてその人物の声を聞いた。

「僕の学園の生徒に、ケガをさせるのは困るな」

『生徒会長!』

 そう、ガラスの破片に刺される俺の前に、蹴栄学園生徒会長・三浦治人みうらなおとが現れたんだ。





 まさか生徒会長が現れるなんて……。
 と、俺も美波と唖然としてる。
 犯人もズレた野球帽を直しつつ、ガラスの破片を生徒会長に向けた。
 冷たい風が吹き抜け、河川敷の空気が一変する。

「どうしたんだい久遠君に雪村さん。そんな顔つきじゃ犯人に殺されてしまうよ。おそらくこの野球帽の男が一年ほど前からこの近辺の区に現れている小学生連 続殺人犯なんだろう」

「何だガキィ! いきなり出てきやがって! 友達かオイ!」

「ん? 久遠君はナイフで殺そうともしたから友達ではないと思うよ」

「何だこのガキ……変な事を言いやがる」

 その生徒会長の会話を利用し、犯人の男を引きつけつつ美波をその場から逃げるようアイコンタクトをした。これで美波が警察に連絡してくれる。後は俺と生徒会長がどう生き残るか……というか、生徒会長は味方でいいんだよな……? 俺の不安を察したのか生徒会長は肩を切られた傷もそのままに言う。

「その顔つきだと僕が拘置所から脱走したと思ってるね? 拘置所からはとっくに出ていたんだよ。自宅謹慎を最近までしていて、今は河川敷などゴミを捨てられる不法投棄とかを見つける社会奉仕をしてるんだ」

『生徒会長! 後ろ!』

「こんな風にね!」

 顔面に迫るガラスの破片をしゃがんで回避した生徒会長は、そのまま柔道の巴投げで野球帽の男をブン投げた!

 川の浅瀬に落ちる犯人は悶絶していて苦しんでる。鮮やかな生徒会長の巴投げが美しすぎて見とれていた。この人、やっぱ王子だわ。

「さて、立てるかい久遠君?」

「えぇ。何とか。でもまさか殺されそうになった生徒会長に助けられるなんてね。人生色々あるんですね」

「そうだね。けど積もる話もゴミ掃除をしてからだ」

 川に投げられた野球帽の犯人はウインドブレーカーをビショビショにさせながら立ち上がる。まだ美波が呼んでるはずの警察は来ない。近くに人もおらず、案外タフな犯人に生徒会長も溜息をついていた。

「……俺はゴミじゃねぇぞクソガキが! 警察に捕まる前にテメー等二人は必ず殺す……殺してやる!」

「同じ事は何回も言わなくていいよ。ゴミじゃないなら粗大ゴミ? 僕は穏便に済ませようとしてるんだ。死にたいなら別だけど?」

 スッ……と生徒会長は胸ポケットからナイフを取り出したようだ。
 少し歪なナイフで、犯人に対抗する構えを見せた。

 すると、そこに美波が呼んだ警察官が現れ俺達のいる河川敷に駆けつけて来る。
 それを見た生徒会長は一瞬動きが止まる。犯人はその隙を逃さなかった――。

「--しまった!」

「油断したな! 警察官が来るまでの時間で二人共殺せるな!」

 犯人と同時に俺も動き出していた。
 生徒会長の前に出る俺は野球ボールサイズの石を犯人の顔面目掛けて蹴り上げる。直撃した石で仰け反る犯人に対し、サッカーでは一発レッドカード退場プレーでこの戦いに決着をつける。

「レッドカードなんて、クソ食らえだーーーっ!」

 と、ジャンピングスライディングタックルをかました!
 要するにただの飛び蹴りだけどな。
 まぁその辺は気分だ、気分。

 またもや川に落ちる犯人は、今度は立ち上がれず気絶していた。
 そこを駆け付けた警察官に逮捕されて事件は一件落着になる。
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