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47話・冬のたわいもない日々
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三学期の蹴栄学園は三年卒業シーズンだから、二年は受験勉強に集中する奴や、就職活動を始める奴、ただ遊んでいる奴など様々だ。
卒業後の進路のプリントが配られたが、俺はこれから骨髄移植を受けるので白紙で出した。
聖白蘭病院に入院するのは一週間後。
こんなに急な理由は、実はドナー探しは随分前からしていたようだ。
三学期は二週間の登校でもう休学だ。
卒業後の事なんて、こんな調子じゃ考えられない。
骨髄移植が成功しても失敗しても、どこまでこの身体が持つかは不明だ。
誰にもわからない。
(冷たいがいい風だ。悪くない……)
俺はグラウンドに近い花壇があり、春には桜が満開になる桜道で佇んでいた。
まだ蕾も小さな状態だが、春になれば桜が満開だ。
(……)
その姿を夢想している。
蹴栄学園の二年になり、この桜道から蹴り返された美波のクラッシャー事件から色々あった。
あまり関わり合わないような人間とも知り合え、色々な人間の色々な面を見た。欲望も嫉妬も羨望も――色々な事が有り、色々な経験をした。
かつて好きだった柴崎さんの見方は変わった。
クールな感じだったが、昔より優しく明るくなった柴崎さんは、生徒会書記の治木衣美という三石とも関係があるショートカットの女子とよく喋るようになっていた。どうやら予備校の下田というオネエに紹介された、好きな男とも一応上手く行ってるようだ。様々な人間が柴崎さんを変化させたのは、俺にも言える事だと思う。
美波の話だとその恋愛は結構一方通行な感じがするが、本人が上手く行ってるならそう判断するのが一番と言っている。確かに、柴崎さんは暴走するタイプだから変な不安をコッチから与える必要は無いだろう。
自分全開のマウスーランドでの柴崎さんと一日いれた男なら、たぶんあの普段のクールキャラのギャップにも耐えられるはずだ。
(おそらく、菩薩のような性格の男なのだろう。とりあえず柴崎さんは大丈夫そうだな。三石はメールでドイツ2部でのチームメイトとの写真を送って来た。後は生徒会長か……)
すると、桜道から校庭のグラウンドを見ている俺の背後に誰かがやって来た。
昼休みにこの場所にいるのは美波にはLINEのメッセージで伝えてある。
(美波か……)
振り向くと、セーラー服の首に白のマフラーをしてるサイドポニーを揺らす美波が現れる。その後ろには黒髪ロングの姫カットにショートカットの少年のような少女がいた。
「よ! 京也君」
「こんにちは久遠君。ご機嫌いかが?」
「生徒会書記の治木です。よろしくです」
あぁ……と返事をするが、何故このメンバーが? という疑念を抱いた。
三人の手にはバトミントンのラケットがあり、シャトルも持っている。
その発案者らしい美波は宣言した。
「というわけで、今からバトミントンをします!」
「どうゆうわけだよ? てか、バトミントン? 何で?」
「バトミントンなら男女関係無く出来るでしょ? スマッシュとかしなければ」
「確かにそうだな……つか、何故?」
まぁバトミントンをやりたいからやる! という考えなんだろうな。たそがれてた俺のテンションはそこまで回復してないから、微妙について行けてない。すると、三人の女の子達は俺を挑発して来る。
「何、負けるのが怖いの京也君?」
「あら、久遠君。貴方、案外小さい男ね。大した事がないわ。男には雄大な心が必要なの。女のちょっと痛い事を許せるような雄大な心が」
「久遠さん、やりましょう。お願いします。三石君に写真送りたいです。負けてる写真を」
この野郎!
美波の挑発はわかりやすいが、柴崎さんは好きな男の話を交えてるな。
ちょっと痛いじゃないくて重症だよ貴女は。
何気に治木の奴も結構酷い事言ってるよな。
なら、やるしかない!
「わかったよ。わかった、わかった。昼休みも残り少ないからチャチャっとお前達倒して俺の優勝で終わりだ」
『負けないわ』
ゾワッ……とこの噛み合ってるのかどうか不明な三人の女子達に火が付いた。
そんなこんなで美波と柴崎さん。そして治木とバトミントンをする事になる。
ルールは3ポイント先取で、1ポイント負けの毎回、相手から顔に墨筆で落書きされる? マジかよと思う俺は、
「つか、どこから墨守と筆持って来た?」
「私、書記ですからペンや筆物は大体揃えてます。三石君にも送りました。日本に帰って来たら褒めてくれるそうです」
「そういう問題か……三石は治木のお兄ちゃんだな」
「えへへ」
墨汁と筆は、生徒会書記の治木の私物のようだ。三石がお兄ちゃんと言われて照れてるのが面白い。確かに三石は面倒見がいいからな。お兄ちゃんとも呼べるか。お兄ちゃん好きか?
すると、緑のカーディガンを着ている初老の男がのそのそと現れた。
「いゃあ久遠君じゃないか。マウスーランド以来会ってなかった気がするよ」
「あ……あぁ草生監督。一応、サッカー部を辞める時にお話しましたけどね。確かにこんな風に話すのはお久しぶりですね。マウスーランドではどうも」
サッカー部を辞めてからソーセイ公とは話という話をしてないはずだ。俺も二学期になってから文化祭の準備やら、美波とのデート、それに病院やらでサッカー部が活動してる時間はグラウンドにいる事も無かったからな。三学期はもうサッカー部の関係者じゃないし。
それと、うっかりソーセイ公がカツラというのを話したら、サッカー部でのソーセイ公の威厳も消えてしまいそうで不安だった。
今のサッカー部は、俺の引退試合を見る限り悪くないチームではあるが、去年のエース代表の一年である俺と三石が抜けた穴は大きい。今年の一年はまだ誰もユース代表選手はおらず、世界のサッカーと戦った事も無いしな。
(美波……)
アイコンタクトで美波にソーセイ公のカツラの件を伝えた。
頷いてくれたので、おそらく気付いてくれるだろう。
柴崎さんはイマイチわかってないが、おそらく空気は読むはず。
ソーセイ公がカツラっていうのを知るのは今のメンバーは俺と美波と柴崎さん。治木には知られたくないだろう。何かソーセイ公もバトミントンに混じりたいようだから、柴崎さんが許可していた。
(面倒な事になったな。風は強くないし、ハゲ……じゃなくて激しい運動はしないからカツラは大丈夫だろ。とにかく、早めに俺が勝ってバトミントンは終わらせる)
枯葉が落ちてる桜道の一角で互いのエリアを決め、二手に別れる。
そんなこんなで試合開始だ。俺は一人チームで、敵の初戦メンバーは美波・柴崎さんペアだ。
「くらえ!美少女美波の必殺ファイアーサーブ!」
「俺的に美少女だけど、普通のショットだな。火は出てない」
ストンと柴崎さんに打ち返した。すると黒髪ロングの姫カットの女は闇のオーラを展開していた。何故かラケットを逆手で持ち、地面に深く沈んでラケットを一閃する――。
「ダークネスペイン!」
「何だ!? うおっ!?」
訳の分からない構えと、技名を言い放ってはいるが所詮は普通のショットと思う俺は油断した。闇の痛みと言う名前の技の割にはまるで威力も無く、ヘロヘロショットで反応が遅れた俺は、つい足で羽をリフティングしてから返してしまった。そこを美波に指摘された。
「はいアウト。バトミントンはサッカーではありません。治木ちゃん墨筆ヨロシク!」
「ダークネスペイン……痛い。痛すぎる技名だ」
実は柴崎さんはパンチラしてたのを気付いていない。大人びたレースとかの下着かと思いきや、マウスーランドのマウスーのパンツだ。あんな子供パンツ見たら精神的ダメージがデカイ。ソーセイ公も見たようで鼻血が出ていた。
(闇の深さを知らないエロジジイめ)
そんなこんなで俺は治木から左頬に丸を書かれた。しかも、漢字の丸だ。
「もうダークネスペインは使わせない。そして、何も出来ずに終わらせてやる!」
やはり柴崎さんはどこにいても危険と判断し、美波を中心に攻め立て疲れさせ、隙を突いて柴崎さんを狙ってまず1ポイントゲットだ。
「まずは1ポイントか。さて、シャトルの感覚は掴んだから反撃と行くか」
緩急を加えれば、相手を翻弄出来るのを知る俺は相手をコート内を移動させるようなショットを打ち、2ポイント目を取った。
「さぁこれで終わりだ。この流れのまま勝たせてもらうぜ!」
『させないわよ!』
息が合う二人は粘り強さを見せた。
緩急の使い分けも通じないので、俺は次の作戦を思いつく。
「スマッシュが打てないなら――」
スッ……と敵の陣地の一番前にシャトルを落とした。
サッと枯葉の上に落ちるシャトルで勝者が決まる。
『ドロップショット……』
完全に裏をつかれたような美波と柴崎さんの声で試合は終わる。
先に3ポイント取って美波・柴崎さんペアから勝利した!
俺は美波と柴崎さんに普通の○を頬に書く。
しかし、柴崎さんは納得しないので仕方なく漢字で、額に丸と書いてあげた。
(この女を好きになったのは黒歴史だな。美波がいてくれて良かった。うん)
と、美波にも顔に色々書いてくれと言ってる柴崎さんの事は考えないようにした。
次はソーセイ公と治木か? 大丈夫かこのペアで?
特にメンバー変更も無く、デコボココンビで行くようだ。
「私が監督と組みます。治木行きます」
「そうせい、そうせい」
このデコボココンビは迷走していてやりずらかった。
先制して2ポイント取ったが、訳の分からないコンビネーションで2ポイント取られてしまった。
しかし、このラリーもここで終わる。
「これで最後だぜ! つえぁ!」
ソーセイ公の上に上がったシャトルだったが、運悪く逆光がソーセイ公の目を照らしシャトルを見失ってしまう。それを計算していた俺は勝ち誇る。
「俺の勝ちだ」
「まだです!」
「何!?」
治木がソーセイ公をカバーするようにラケットを真上に振り上げた。
凄まじい俊敏性に驚いたが、所詮は付け焼き刃だ。
ショットの威力が弱すぎる。
このカウンターで終わり……。
「終わった……」
治木の放った弱いシャトルは俺の陣地の後方に落ちて、俺は敗北する。
いや、本当はここで勝てたんだ。
しかし、勝てない理由が、シャトルを追えない理由があった。
美波は知らん顔をし、柴崎さんはマウスーランドの時のような顔芸をしながら時が止まってる。
そして治木は今の事件を謝罪してる。
「とうとうバレちまったか。ソーセイ公のカツラ」
治木のソーセイ公をカバーするショットが、ソーセイ公の秘密であるカツラを吹っ飛ばしていたんだ……。そのカツラは木の上にあった。
相変わらず柴崎さんは時が止まっていて、治木はデカイ声で謝罪してる。俺と美波はハハハ……と笑った。
そして、授業の予鈴が鳴ったので、俺達は逃げるように自分達のクラスに引き上げる。
その後、ソーセイ公は木の上にある自分のカツラをサッカー部の連中に取ってもらい、ソーセイ公はソーセイ将軍へと格上げされたようだ。この事を知る柴崎さんは、ソーセイ公に髪の治療をするよう勧めたようだ。もう、手遅れな気がするが。
(アイツ等、確実に悪い意味で言ってるよな。まぁ、もうサッカー部じゃないしいいか。今回の件で良くも悪くもソーセイ公の距離も無くなっただろ。ソーセイ将軍になったなら、全国大会優勝は必須だぜ……)
そう、サッカー部の仲間達の躍進を願った。
年明けの俺は、とりあえず順調に生きている。
骨髄移植の話も今後、受け入れないとならないだろう。
今の体調のままで骨髄移植が成功すれば、夏を超えられる可能性もある。
夏を越えれば、また文化祭だ。
たとえ見学であっても、またみんなの輪の中に入りたい。
そして、骨髄移植を受ける為に入院する三日前に、美波とデートをする事になった。
卒業後の進路のプリントが配られたが、俺はこれから骨髄移植を受けるので白紙で出した。
聖白蘭病院に入院するのは一週間後。
こんなに急な理由は、実はドナー探しは随分前からしていたようだ。
三学期は二週間の登校でもう休学だ。
卒業後の事なんて、こんな調子じゃ考えられない。
骨髄移植が成功しても失敗しても、どこまでこの身体が持つかは不明だ。
誰にもわからない。
(冷たいがいい風だ。悪くない……)
俺はグラウンドに近い花壇があり、春には桜が満開になる桜道で佇んでいた。
まだ蕾も小さな状態だが、春になれば桜が満開だ。
(……)
その姿を夢想している。
蹴栄学園の二年になり、この桜道から蹴り返された美波のクラッシャー事件から色々あった。
あまり関わり合わないような人間とも知り合え、色々な人間の色々な面を見た。欲望も嫉妬も羨望も――色々な事が有り、色々な経験をした。
かつて好きだった柴崎さんの見方は変わった。
クールな感じだったが、昔より優しく明るくなった柴崎さんは、生徒会書記の治木衣美という三石とも関係があるショートカットの女子とよく喋るようになっていた。どうやら予備校の下田というオネエに紹介された、好きな男とも一応上手く行ってるようだ。様々な人間が柴崎さんを変化させたのは、俺にも言える事だと思う。
美波の話だとその恋愛は結構一方通行な感じがするが、本人が上手く行ってるならそう判断するのが一番と言っている。確かに、柴崎さんは暴走するタイプだから変な不安をコッチから与える必要は無いだろう。
自分全開のマウスーランドでの柴崎さんと一日いれた男なら、たぶんあの普段のクールキャラのギャップにも耐えられるはずだ。
(おそらく、菩薩のような性格の男なのだろう。とりあえず柴崎さんは大丈夫そうだな。三石はメールでドイツ2部でのチームメイトとの写真を送って来た。後は生徒会長か……)
すると、桜道から校庭のグラウンドを見ている俺の背後に誰かがやって来た。
昼休みにこの場所にいるのは美波にはLINEのメッセージで伝えてある。
(美波か……)
振り向くと、セーラー服の首に白のマフラーをしてるサイドポニーを揺らす美波が現れる。その後ろには黒髪ロングの姫カットにショートカットの少年のような少女がいた。
「よ! 京也君」
「こんにちは久遠君。ご機嫌いかが?」
「生徒会書記の治木です。よろしくです」
あぁ……と返事をするが、何故このメンバーが? という疑念を抱いた。
三人の手にはバトミントンのラケットがあり、シャトルも持っている。
その発案者らしい美波は宣言した。
「というわけで、今からバトミントンをします!」
「どうゆうわけだよ? てか、バトミントン? 何で?」
「バトミントンなら男女関係無く出来るでしょ? スマッシュとかしなければ」
「確かにそうだな……つか、何故?」
まぁバトミントンをやりたいからやる! という考えなんだろうな。たそがれてた俺のテンションはそこまで回復してないから、微妙について行けてない。すると、三人の女の子達は俺を挑発して来る。
「何、負けるのが怖いの京也君?」
「あら、久遠君。貴方、案外小さい男ね。大した事がないわ。男には雄大な心が必要なの。女のちょっと痛い事を許せるような雄大な心が」
「久遠さん、やりましょう。お願いします。三石君に写真送りたいです。負けてる写真を」
この野郎!
美波の挑発はわかりやすいが、柴崎さんは好きな男の話を交えてるな。
ちょっと痛いじゃないくて重症だよ貴女は。
何気に治木の奴も結構酷い事言ってるよな。
なら、やるしかない!
「わかったよ。わかった、わかった。昼休みも残り少ないからチャチャっとお前達倒して俺の優勝で終わりだ」
『負けないわ』
ゾワッ……とこの噛み合ってるのかどうか不明な三人の女子達に火が付いた。
そんなこんなで美波と柴崎さん。そして治木とバトミントンをする事になる。
ルールは3ポイント先取で、1ポイント負けの毎回、相手から顔に墨筆で落書きされる? マジかよと思う俺は、
「つか、どこから墨守と筆持って来た?」
「私、書記ですからペンや筆物は大体揃えてます。三石君にも送りました。日本に帰って来たら褒めてくれるそうです」
「そういう問題か……三石は治木のお兄ちゃんだな」
「えへへ」
墨汁と筆は、生徒会書記の治木の私物のようだ。三石がお兄ちゃんと言われて照れてるのが面白い。確かに三石は面倒見がいいからな。お兄ちゃんとも呼べるか。お兄ちゃん好きか?
すると、緑のカーディガンを着ている初老の男がのそのそと現れた。
「いゃあ久遠君じゃないか。マウスーランド以来会ってなかった気がするよ」
「あ……あぁ草生監督。一応、サッカー部を辞める時にお話しましたけどね。確かにこんな風に話すのはお久しぶりですね。マウスーランドではどうも」
サッカー部を辞めてからソーセイ公とは話という話をしてないはずだ。俺も二学期になってから文化祭の準備やら、美波とのデート、それに病院やらでサッカー部が活動してる時間はグラウンドにいる事も無かったからな。三学期はもうサッカー部の関係者じゃないし。
それと、うっかりソーセイ公がカツラというのを話したら、サッカー部でのソーセイ公の威厳も消えてしまいそうで不安だった。
今のサッカー部は、俺の引退試合を見る限り悪くないチームではあるが、去年のエース代表の一年である俺と三石が抜けた穴は大きい。今年の一年はまだ誰もユース代表選手はおらず、世界のサッカーと戦った事も無いしな。
(美波……)
アイコンタクトで美波にソーセイ公のカツラの件を伝えた。
頷いてくれたので、おそらく気付いてくれるだろう。
柴崎さんはイマイチわかってないが、おそらく空気は読むはず。
ソーセイ公がカツラっていうのを知るのは今のメンバーは俺と美波と柴崎さん。治木には知られたくないだろう。何かソーセイ公もバトミントンに混じりたいようだから、柴崎さんが許可していた。
(面倒な事になったな。風は強くないし、ハゲ……じゃなくて激しい運動はしないからカツラは大丈夫だろ。とにかく、早めに俺が勝ってバトミントンは終わらせる)
枯葉が落ちてる桜道の一角で互いのエリアを決め、二手に別れる。
そんなこんなで試合開始だ。俺は一人チームで、敵の初戦メンバーは美波・柴崎さんペアだ。
「くらえ!美少女美波の必殺ファイアーサーブ!」
「俺的に美少女だけど、普通のショットだな。火は出てない」
ストンと柴崎さんに打ち返した。すると黒髪ロングの姫カットの女は闇のオーラを展開していた。何故かラケットを逆手で持ち、地面に深く沈んでラケットを一閃する――。
「ダークネスペイン!」
「何だ!? うおっ!?」
訳の分からない構えと、技名を言い放ってはいるが所詮は普通のショットと思う俺は油断した。闇の痛みと言う名前の技の割にはまるで威力も無く、ヘロヘロショットで反応が遅れた俺は、つい足で羽をリフティングしてから返してしまった。そこを美波に指摘された。
「はいアウト。バトミントンはサッカーではありません。治木ちゃん墨筆ヨロシク!」
「ダークネスペイン……痛い。痛すぎる技名だ」
実は柴崎さんはパンチラしてたのを気付いていない。大人びたレースとかの下着かと思いきや、マウスーランドのマウスーのパンツだ。あんな子供パンツ見たら精神的ダメージがデカイ。ソーセイ公も見たようで鼻血が出ていた。
(闇の深さを知らないエロジジイめ)
そんなこんなで俺は治木から左頬に丸を書かれた。しかも、漢字の丸だ。
「もうダークネスペインは使わせない。そして、何も出来ずに終わらせてやる!」
やはり柴崎さんはどこにいても危険と判断し、美波を中心に攻め立て疲れさせ、隙を突いて柴崎さんを狙ってまず1ポイントゲットだ。
「まずは1ポイントか。さて、シャトルの感覚は掴んだから反撃と行くか」
緩急を加えれば、相手を翻弄出来るのを知る俺は相手をコート内を移動させるようなショットを打ち、2ポイント目を取った。
「さぁこれで終わりだ。この流れのまま勝たせてもらうぜ!」
『させないわよ!』
息が合う二人は粘り強さを見せた。
緩急の使い分けも通じないので、俺は次の作戦を思いつく。
「スマッシュが打てないなら――」
スッ……と敵の陣地の一番前にシャトルを落とした。
サッと枯葉の上に落ちるシャトルで勝者が決まる。
『ドロップショット……』
完全に裏をつかれたような美波と柴崎さんの声で試合は終わる。
先に3ポイント取って美波・柴崎さんペアから勝利した!
俺は美波と柴崎さんに普通の○を頬に書く。
しかし、柴崎さんは納得しないので仕方なく漢字で、額に丸と書いてあげた。
(この女を好きになったのは黒歴史だな。美波がいてくれて良かった。うん)
と、美波にも顔に色々書いてくれと言ってる柴崎さんの事は考えないようにした。
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特にメンバー変更も無く、デコボココンビで行くようだ。
「私が監督と組みます。治木行きます」
「そうせい、そうせい」
このデコボココンビは迷走していてやりずらかった。
先制して2ポイント取ったが、訳の分からないコンビネーションで2ポイント取られてしまった。
しかし、このラリーもここで終わる。
「これで最後だぜ! つえぁ!」
ソーセイ公の上に上がったシャトルだったが、運悪く逆光がソーセイ公の目を照らしシャトルを見失ってしまう。それを計算していた俺は勝ち誇る。
「俺の勝ちだ」
「まだです!」
「何!?」
治木がソーセイ公をカバーするようにラケットを真上に振り上げた。
凄まじい俊敏性に驚いたが、所詮は付け焼き刃だ。
ショットの威力が弱すぎる。
このカウンターで終わり……。
「終わった……」
治木の放った弱いシャトルは俺の陣地の後方に落ちて、俺は敗北する。
いや、本当はここで勝てたんだ。
しかし、勝てない理由が、シャトルを追えない理由があった。
美波は知らん顔をし、柴崎さんはマウスーランドの時のような顔芸をしながら時が止まってる。
そして治木は今の事件を謝罪してる。
「とうとうバレちまったか。ソーセイ公のカツラ」
治木のソーセイ公をカバーするショットが、ソーセイ公の秘密であるカツラを吹っ飛ばしていたんだ……。そのカツラは木の上にあった。
相変わらず柴崎さんは時が止まっていて、治木はデカイ声で謝罪してる。俺と美波はハハハ……と笑った。
そして、授業の予鈴が鳴ったので、俺達は逃げるように自分達のクラスに引き上げる。
その後、ソーセイ公は木の上にある自分のカツラをサッカー部の連中に取ってもらい、ソーセイ公はソーセイ将軍へと格上げされたようだ。この事を知る柴崎さんは、ソーセイ公に髪の治療をするよう勧めたようだ。もう、手遅れな気がするが。
(アイツ等、確実に悪い意味で言ってるよな。まぁ、もうサッカー部じゃないしいいか。今回の件で良くも悪くもソーセイ公の距離も無くなっただろ。ソーセイ将軍になったなら、全国大会優勝は必須だぜ……)
そう、サッカー部の仲間達の躍進を願った。
年明けの俺は、とりあえず順調に生きている。
骨髄移植の話も今後、受け入れないとならないだろう。
今の体調のままで骨髄移植が成功すれば、夏を超えられる可能性もある。
夏を越えれば、また文化祭だ。
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